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過去日記です。3日程、平均睡眠時間が3時間弱のまま、美容院に行きました。いつも、シャンプーの後のマッサージが楽しみなのです。あ~至福の時~と思っていたら。(い、痛ぁ~~~!!)肩胛骨の辺りが、めっさ痛い!!しかもなんか、ゴキュゴキュ音がしてる!(怖っ)すると、マッサージのお兄さん。「おぉ~~。分かります?リンパ腺、すんごい腫れてますよ~!」←変な感心の仕方。り、リンパ腺??そういえば、朝からずっと、顎の下が腫れて痛かったな。「仕事の疲れが、相当たまってますね!」し、仕事の疲れ・・・・??あはは。。。。「え、えぇ、デスクワークなものですから。。。パソコンとか、使いっぱなしで、もぉ・・・・うふふ。」(冷汗)はい、妄想小説ばっか書いて、とは言えませんでした。いえ、まぁ、仕事関係の疲れってのも、もちろんあるけど、メインは・・・ねぇ。(恥)どなたか、同じようなお馬鹿体験ある人、いないかしらん。。。(今日は、小説の方も更新しますよv)
2005/09/30
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「あん・・・ロマちゃんっ・・・・気持ちいい~~。」そんな甘えた声で、体を少し揺らしながら、彼はベッドの上で満足そうに目を閉じている。私は彼の髪を、丁寧にブラッシングしている。金色でサラサラの綺麗な髪。でも・・・。「・・・・イシュカ、あのね。」「なぁに?ロマちゃん。」「しっぽ、出てる。」「!!」彼は真っ赤になって、パッとお尻に手をあて、ごにょごにょした。お尻からはみ出ていた「しっぽ」は、何とか消えたみたい。どうやったんだろう?イシュカはまだ赤い顔で、きまりが悪そうに私の顔をうかがっている。「それって、恥ずかしいことなの?」「えと・・・・・・気持ちいいとね、出ちゃうの・・・・しっぽ。」“しっぽ”は消えたけど、今度は子犬みたいなベロがはみ出た。しかも、ちょっと上目づかい+ほんのり潤んだ瞳。くぅぅ!犯罪的に可愛い!!「も~~しっぽでもツノでも、はみ出ていいのに~~☆」「ツノは、ないよぅ。」私は不覚にも、彼を抱きしめて頭をぐりぐり撫でてしまった。彼が「くふん」と小さくのどを鳴らした。私の家は、イギリスの片田舎。彼が我が家へやってきたのは、2年前。職業:夢想家、趣味:妄想な、私のお父さんに連れられて・・・「いいかぁ、ロマ!!この世に何頭、馬がいると思う?!年に何十万・・・いや、何百万って、生まれ続けてるんだぞ!!」はぁ・・・。「って事はだ!!その中に一頭ぐらい、言葉を話す馬だっているはずだ!!」いや、そこは飛躍しすぎでしょう。「そこで、特別に譲り受けたのが、こいつだ!!!」・ ・・・・つまり、またダマされて買っちゃったのね・・・・。何の変哲もない、敢えて言えば毛づやが少しいいかな位の、見た目フツウな子馬の名前は「イシュカ」に決まった。で。もちろん・・・・・お父さんが大枚ハタいて買った「話す子馬」は寡黙な奴だった。「・・・しゃべらんな~~。」当然です。「でもな、霊気が足らないと口が利けないって、あの婆さんも言ってたし。」そう言うと、お父さんは突然ペットボトルを取り出した。ぐびぐび。。。「・・・ちょっと!子馬に"アルカリイオン水"飲ませてどうするのよ!!」「違う!スイスの"アルプス天然水"だ!なんかこう、霊気がこもってそうじゃないか。わっはっは。」ついていけない・・・・。がっくり。そんなお父さんが飛行機事故で亡くなったのが、1年前。どうしようもない人だったけど・・・私のたった一人の家族だった。子馬に毎日「アルプス天然水」飲ませたりして、ほんと馬鹿な人だったけど。・ ・・・・・・・。お葬式が済んで、人気のない広い家に、たった一人。毎日リビングで、寂しくてテレビつけて、むなしくて、泣いていた。そうしたら、ある日突然、背後に気配がして・・・「ロマ・・・・ロマちゃん・・・・。」後ろから抱きしめられた。「泣かないで・・・・。」ぎょぎょ!!若い男の手!!!「は・・・っ、離して、この変質者っ!不法侵入!!婦女暴行!!!」「ロマちゃん、僕だよ?」私の顔をぐいと持ち上げ、のぞき込む男。「・・・・どちら様?」年は18くらい。金髪に、淡い空色の瞳。変質者のくせに、かっこいい。ちょっとむかついた。「分からないの?イシュカだよ!」・ ・・・・!!変質者な上に、妄想狂だわ、こいつ!それとも、若いくせに現実と向き合えない、虚言癖かしら?!「何言ってんの!イシュカは、うちの子馬の名前!!」「だから~。お父さんが言ったでしょ。話す子馬だって。」絶句。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~*作者よりお知らせにも書きましたが、穴埋め企画の小説です。これからしばらく、お付き合い下さいませ。なお、明日(金)は物理的に更新不可能のため、続きは土曜に掲載予定です。では、どうぞイシュカとロマのことも、宜しくお願いいたします。(ぺこり)
2005/09/29
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本日のレティシアとグストーの会話 (一部、検閲により削除)「・・・グストー・・・vv」「おい、皆様の見ている前だぞ。」「・・・・!ま、まぁ・・・・私・・・これは・・・(///)」「ふっ。」「そ、そう、私、作者から読者様への伝言を預かっておりますの。読ませて頂きますね。」これから数日、『天黒』は休載致します。(ストック切れました。)ある程度原稿がたまり、推敲を重ねた上で再開致します。この物語は大切にしたいので、いい加減な文は載せたくないのです。何卒、ご了承下さいませ。「ふむ。奴の無計画ぶりが手に取るように分かるな。」「本当に。ですから私、あの者に申しましたの。あなたも芸人なら、この間をもたせてご覧なさいと。」「・・・・芸人・・・・なのか?」「そうしたら、こんな原稿を寄こしましたわ。」『愛すべき魔性たち』「・・・新しい連載か。」「こんな時のために、"軽い感じで読めるもの"を用意してあったと。」「ほう・・・まぁ、退屈しのぎにはなるかな。」その頃、地球のどこかでの会話。「ロ・・・ロマちゃん!いよいよ、僕たちの出番みたいっ。」「ちょっと、騒がないでよ・・・余計お馬鹿に見えるわよ。第一印象は大事だって、言ったでしょ!」「うわぁ、楽しみだなぁっ!!」「全然、聞いてない・・・・(怒)」「というわけで、早速今日から、連載開始ですっ。よろしくね!!」 イシュカ&ロマよりさっそくココをクリック!!
2005/09/29
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静まり返った礼拝所の床に、わずかに血痕の残る十字架が見捨てられたまま在った。緩慢とした動きでレティシアが腕を伸ばし、拾い上げようとしたのを、グストーは憐れむように笑った。「そんなもので、救いが得られると思うのか。」「・・・・。」顔を背けたレティシアを引き寄せ、再び体を重ねる。「覚えておけ。神の光などより、よほど確かなものだ・・・。」先刻とはうって変わって優しく情熱的なグストーに、レティシアの肌が上気し、やがて波打ち始める。巧みな愛撫が、彼女の喘ぎを繰り返し生み出しては満たした。この男には決して逆らえないということを、グストーは体で教え込んだ。4章.力の器あの日から、この国のすべてが新たに意味づけられた。フライハルト神の非存在を確信する1人の男へ捧げられた、巨大な箱庭。男はレティシアを征服し尽くし、望み通りフライハルトを手に入れたのだ。彼女に神の教えを説いた厳粛な声も、時折、弟子に向けた愛情深い穏やかなまなざしも、すべて偽りであった。「神などいない」司祭である男は、レティシアによくそう言って聞かせた。言われる度にレティシアは、そんな恐ろしい事を口にしないでと懇願した。人に聞かれでもすれば、教会での審問のすえ、処刑は免れまい。だが彼は、神も教会も恐れはしなかった。ただ地上の法と己の信念にのみ忠実な・・・。お前は器だ、とグストーは語った。僧形をとり大陸を巡り歩いて見出した、彼の「目的」を実現するための器だと。「せいぜい、己の不運を嘆くんだな。」そう悪びれもせず言うグストーを、なお深く愛したことに彼女は気づいた。彼は、横暴な支配者ではなかった。レティシアの求めに、グストーは呼応する。彼の意志がレティシアの理想となり、現実を形作っていく。無形の力。受ける器。不可思議なまでに共鳴する想い。彼は女王の影となり、共にフライハルトを造り替えようとしていた。二人の関係がわずか半年で断ち切れなければ、この国の現在もずっと変わっていたに違いない。再び1793年4年ぶりの逢瀬を終え、グストーが礼拝所から出ると、目の前に黒獅子の騎士が立ちはだかっていた。「相変わらず、か。」「貴様、また陛下に・・・。」アルブレヒトの灰色の眼が、怒りで歪む。「お前には与えられないものを、与えてやっただけだ。」グストーが不敵に微笑んだ。「・・・・この国から出て行け、グストー・・・!」「立場を、わきまえたらどうだ。」グストーの手にした錫杖がわずかに傾くと、身に沈むような金属音がした。「お前の主はレティシア。あの女の主が、俺だ。」アルブレヒトが剣を抜こうとしたとき、レティシアの悲鳴がした。「やめて!アルブレヒト!!」蒼白になった女王が、アルブレヒトとグストーの間にその身を入れる。彼女が必死で男を庇うのを、アルブレヒトは滑稽だと感じた。こんな、こんな悪魔に魅入られた男のために!「陛下・・・・あの者のことは、どうなさるおつもりです。」アルブレヒトが吐いた、グストーへの報復の言葉・・・レティシアは、ついに何も答えなかった。
2005/09/28
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今日、雪山で遭難した。関東のど真ん中で。いや、正確には、雪山に遭難したような目に遭い、遭難しちゃったら、するだろな~って事をやった。ということです。昼間乗った、JRの電車。人影はまばら・・・。ゴーーーーッ。「さ、寒っ!!!!」9月も終わりに、なぜクーラーがっ??!外気は21度の予想。どんより曇った空。肌寒い位。どう考えたってクーラー要らない。。。ええ、こごえました。1時間我慢すれば、着くから・・・皇帝ペンギンのオスだって、じっと耐えるじゃん!!と、自分に言い聞かせてみる。(でもね~~ペンギンだって、力尽きて死ぬ奴もいるのよね。。。)←心の声うん、やめよう、やせ我慢。30分後、乗換駅のキヨスクで、3年ぶりぐらいに「スニッカーズ」購入。やっぱり、遭難したらチョコですよ。。。。モグモグ。。。あぁ、私の美容と健康が・・・・(笑)クーラー、憎し!!人間の適温て18度と言われるけれど。真夏の暑さに慣れた後の18度は、寒い。冬の寒さに慣れた後の18度は、温かい。感覚ってのは、そもそも主観的なもの。私達は、確かに「違う18度」を感じている。だから私は、関東のど真ん中で遭難したりもする。電車を降りたら、赤トンボが居てくれて、少し安心して嬉しくなった。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~小説は、今日はお休みです。(推敲できてません。涙。)次回の『天黒』は、水曜の深夜くらいの予定です。(おじぎ)
2005/09/27
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「私は・・・夫を持つ身でありながら、ある尊い御方に許されぬ想いを抱いております・・・」レティシアが罪の告白を始めたのを、グストーは目を閉じ、表情を変えず静かに聞いている。「その御方は、神に仕える身であり・・・私の師であり、私の前に知の世界を拓いて下さいました・・・。しかし私は、あの方がくださる以上のものを望んでしまう・・・。夫よりも、あの御方のお側にいたいと願ってしまうのです。」断頭台に立つ思いで口にした告白に対し、グストーの答えは彼女の予想に反するものであった。「敬虔なキリスト者である貴女が、聖職につく者を慕うのは当然です。信心深い魂が夫より神を求める事と、世俗的な劣情とを、貴女は取り違えておられる。」違う、とレティシアは、改めてグストーへの裏切りを悔いた。やはり師には、自分の生々しい欲望など、考えも及ばぬことなのだ。「いいえ、いいえ・・・・違うのです。私は・・・っ!」「では、貴女は一体、何を願ったのです。」レティシアは、窓辺で本を読むグストーの姿を思い起こしていた。さわさわと明るい風に髪を吹かれ、魂の余分な起伏を排したような、穏やかな視線を書物に落とし、時折うるさそうに前髪をかき上げる。男性を感じさせる、程良く肉の付いた長い指、あの指でページをめくるのを、好ましいと思っていた。あの指に触れたい。あの指に口づけをしたい。あの指で・・・・・・・・。「私は・・・あの御方の手に、触れたいと・・・」指、とは言えなかった。あまりに肉感的すぎる。この期に及んでも、彼女はグストーに蔑まれることを恐れていた。「手に、触れたいと思いました。」そう言って、伏せていた目をふと上げた瞬間、驚愕が彼女の呼吸を止めた。レティシアの、文字通り目と鼻の先で、心底を見透かすようなグストーの深い双眸が、蝋燭の明かりに揺れていた。背に強い圧力を感じ、彼女はグストーの胸に抱き寄せられた。これは、何なのだ・・・?あまりの混乱に、レティシアは自分が抱きしめられたとは気づかなかった。彼女は男の肩にあごを乗せる形で、完全に固定されている。グストーの顔は見えない。だが、その呼吸は不気味に静かだ。「それから・・・?」無感動なグストーの声が直接頭蓋に響いたのは、二人の顔がぴったりと寄せられているせいだ。「それから、何を願ったのです。」「あ・・・・っ・・・あの御方の手に・・・口づけを、したいと・・・・」レティシアの背に回されたグストーの指先が、じくりと彼女を締め付けた。再び繰り返される、責め。「それだけでは、ないはずだ。」レティシアの体が激しく震えた。「・・・・っ!」男から逃れようと試みた足掻(あが)きは、あまりに弱々しい抵抗。グストーの腕にまた少し力が入り、背に食い込む指の感触と耳元で刻まれる規則正しい呼吸音が、レティシアを追いつめていく。背骨を伝わる得体の知れぬしびれに、彼女の思考が浸食されていく。「あぁっ・・・・お願いです!もう、許して・・・・っ!!」心を千々にかき乱され、レティシアは泣き出した。だが、一層きつく抱きしめられ、肺を押しつぶされそうな圧迫の中で、グストーの冷徹な声は、さらに罪の告白を迫る。「それから、何を願った?」「わ・・・私は・・・・!」遂に、彼女は屈した。「あの御方に・・・・あの御方に、だ・・抱かれ・・たいと・・・・っ!!」背中に固い衝撃が走る。彼女は礼拝所の冷たい石床に押し倒されて、その涙に濡れた顔を、グストーが無表情に見下ろしていた。「い・・・っ、いや・・・こんな・・・!!」こんなことが、あるはずない。これは悪夢だ。必死に否定しようとするレティシアの目の前に、男の首から下がる十字架が揺れていた。グストーは組み伏せた女の、そのドレスの裾から手を差し入れ、下衣を乱暴に解いていく。「こんな・・・っ!神様が、見ておいでなのに!!」レティシアが泣きながら抗おうとすると、グストーは彼女の右手をとり、首から掛けた信仰の証(あかし)を握らせた。「神、か・・・・」固く握りしめられたレティシアの右手を掴み、力任せに引く。十字架の鎖が、引きちぎられた。音を立てて金具が飛び散り、右手に走った鋭い痛みにレティシアが声を上げる。男は血を流す女の手に軽く接吻をくれてやると、彼女の顔に唇を近づけ、にぃと笑った。「俺がお前と一緒に、地獄へ堕ちてやろう。」見下ろす瞳が、闇を帯びて輝いた。
2005/09/26
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3章.レティシアの罪あれは1789年 1月王宮の裏手にある古い礼拝所を、レティシアはグストーのために改装させた。この聖なる場所ならば、人々・・・二人の行き過ぎた親密さに疑念を抱く人々の咎めを受けず、ゆっくり語り合うことが出きるとレティシアは考えていた。何より、近ごろ彼女にぴったり張り付いては、グストーとの対話を邪魔しようとするアルブレヒトを、遠ざけられる。「陛下、少しは周囲の目にお気づき下さい。」アルブレヒトは、しばしば彼女に苦言を呈した。グストーを宮廷に招き入れて以来、女王は始終この僧侶を側に置き、事あるごとに彼の意見を求めるのであった。女王がグストーに籠絡されていると噂する声まで聞こえてくる。しかし若干17のレティシアには、至上と思い込んだ男と自分との関係を、客観的に捉えることなど出来はしなかった。「皆は・・・皆は、あの御方が平民出身だから、気に入らないのでしょう?!」「陛下、それは・・・」「これ以上おかしな勘繰りはやめて!あの御方は私の師で、この宮廷でただ一人の精神(こころ)の友。恥じる事なんて何も無いのに!!」ただ一人、と言ってしまって、彼女はアルブレヒトから思わず視線を逃がした。アルブレヒトは確かに優秀で、最も気心の知れた相手でもあるが、彼は所詮フライハルトの「内側」の人間であった。彼女の前に「世界」を差し出したのは、他でもないグストーである。傷ついた様子も見せない代わり、それ以上口を開こうともせず、沈黙のうちに彼女を見つめるアルブレヒトに、レティシアは誓いをたてた。「大丈夫・・・あなたが心配するような事は、決して・・・。思い出して、アルブレヒト。あなたとの約束は、一度も破ったこと無いもの。そうでしょう?」「破らずに済んだのは、陛下の勝手を私がお止めしたからです。」「アル・・・・っ!」眉間にしわを寄せて不服なそぶりをするレティシアを、アルブレヒトは心底、守ってやりたいと思う。廷臣の中には、彼を非難する者もいた。このような事態を招いたのは、まだ青い"黒獅子の騎士"の力不足だと・・・・。アルブレヒトには、長年かけてレティシアと築き上げた信頼の自負がある。だが、こうして自分から離れ、ひたむきに新たな世界を求めるレティシアの姿を見ると、日ごろ不感気味な彼の心がやけに痛んだ。自分では、もう彼女を貫く支えにはなれないのか。アルブレヒトへの誓いに偽りの気持ちは微塵もなかったが、やはりレティシアは「恥じる事は何も無い」などという嘘で、己の気持ちを糊塗(こと)していたのであった。グストーと共に過ごすほど、彼への想いに不純物が混ざっていくことが、彼女を恐れさせていた。今では、エグモントに触れられただけで悪寒が走る。エグモントもまた、妻の良からぬ評判に余計態度を硬化させていた。世継ぎのためだけの行為。夫の冷めた欲望を受けるたびに、レティシアの中でグストーへの想いが臨界を越そうとしていた。彼女は敬虔なカトリック信者であり、聖職者に対して卑しい感情を持つことが罪であるのは、十分過ぎるほど感じている。今さらグストーと離れることはできない。このまま罪を隠して師弟を続けることもできない。レティシアは思いあまって、罪を告白しようと決意した。グストーは司祭の身分であり、信者の告白を受ける資格を持っている。本人の前ですべてを話し、戒められれば心の整理もつくであろう、と。あの日、彼女は秘かに、グストーを礼拝所へと呼び寄せた。ギッ・・・と重い木の擦れる音がして、閂(かんぬき)がかけられた。礼拝所の大扉に、自らかけた閂に手を添え、ようやく身を支えるようにしてレティシアは立っていた。罪から逃げ出さぬように、彼女は自ら退路を断った。仄暗いろうそくの明かりの、その光源へと目をやると、グストーが静かな、無感動な瞳で見つめ返してくる。全身の血が逆流して、体が浮き上がるような緊張が、彼女を襲う。「・・・・神の御前で、告白したいことがございます・・・。」「聞きましょう。」師の声は穏やかであった。これから語る罪の告白を聞いて、この穏やかさが再び自分に向けられる事など、あるだろうか。無垢な弟子を演じてきた自分の、汚らわしい情念を知って、なお・・・?侮蔑と拒絶を恐れ、レティシアの心が再び揺れる。だが、罪は断ち切らねば。レティシアはグストーの足元にひざまずき、胸の前で十字を切ると顔を上げた。彼の肩越しに視界に入ったキリストの像は、薄暗い闇にその頭部を呑み込まれて、見えない。
2005/09/25
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*第二部 2章『独白』の後で、お読み下さいね!本日の、レティシアとグストーの会話。(一部非公開)「・・・今日は、なぜか静かですわ・・・。」「回想シーンの途中で2000HITになったので、我々しか居ないようですな。」「では、読者様への感謝の祈りも、落ち着いて出来ますわね。(祈)あの・・・グストー様・・・・。」「何でしょう?」「このような事、うかがっては失礼かも知れませんが・・・・変わったお名前ですのね。」「実は、作者が適当に付けたようです。得体の知れない不気味な響き、とかいう理由で。」「適当、とは、あの者のやりそうな事ですわね。でも不気味だなんて、グストー様は、こんなにご立派な御方ですのに。」「ふふ・・・しかし、偶然とは粋なものです。実は、スペイン語に似た響きの言葉があるのですよ。」「まぁ・・・どのような?」「gusto・・・≪喜び≫。」「喜び・・・!それなら、本当にぴったりですわ!グストー様は、私に知の喜びを教えて下さいました。どうか、これからも貴方の弟子をお導き下さい。」「陛下がそれをお望みならば。では、おしゃべりはこの位にして、『人間不平等起源論』の第二部、続きから。」「はい・・・・・。(////)」「あぁ、そうそう。gustoには喜びから転じて、もう一つの意味があるのですよ。」「・・・・?」「・・・いや、やめておきましょう。93頁でしたね。」「何でしょう?言いかけられては気になります。」「書物に集中なさい。そもそもルソーの両義性の思考とは・・・・」gusto・・・喜び・・・転じて、エクスタシー。
2005/09/24
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生まれて初めての口づけは、15の年。城下のノイ・フリューゲル大聖堂で、私達は国民の歓呼を受けた。この身へと背負わされた重責に、頭の中が真っ白になって、その後のことは覚えていない。夫となったプロイセン人、エグモントは3つ年上。国政や妻よりも狩猟にばかり興味を示し、聖書もろくに読めないような人だった。あげく、「カトリックは罪人の集まりだ」などと言って、周囲を困惑させる。私の孤独を慰めてくれるのは、学問と、アルブレヒトや宰相のクロイツァー達。クロイツァーは、亡き父上の信頼篤かった好人物で、忙しい身ながら親代わりとして何かと私を気遣い、温かく接してくれた。アルブレヒトは・・・彼は私の友であり、兄であり、秘かな憧れの人で、私の理想を集めて命を吹き込んだような、素晴らしいひと。私の狭い世界の中で、彼はいつも頂点に君臨していた。2章.独白婚礼から2年が過ぎ、いっこうに懐妊の気配がなくて気落ちしている私に、「フランス使節の中に面白い者がおります」と教えてくれたのは、クロイツァーだった。グストー・イグレシアス。聖グストーと呼ばれ、スペインの出身というふれ込みだが、本名ではないようだった。もちろん、教会の聖人認定を受けたわけではない。貧しい者たちが、彼を慕ってそう呼ぶそうだ。グストーは司祭の身分でありながら、いつも修道僧のようなボロボロの衣をまとい、たまに裸足で歩いていた。第一印象は、小汚い男。私のアルブレヒトとは大違い。でも実際は、驚くほど博識で、物静かで、優しい尊敬すべき人物だった。彼は幾度か、城下でも「奇蹟」を行ってみせた。「あなたが聖グストーと呼ばれる理由が、分かりました。病を治す、聖人。」「奇蹟など起こせません。私が施しているのは、草本学を使った治療です。」「この国の民にとっては十分"奇蹟"ですわ。満足な治療を施す術が、この国にはないのですから。」「ですが陛下、私の治療も、結局は対処療法でしかない。」「・・・この国の貧しさを、根本から救わなければ・・・。そう仰るのですね。」私がただ漠然と抱いていた疑問を、彼は次々と明確な形で開示し、私の関心を政治世界へ導いた。彼との対話で、この国に何が足りないか、はっきりと見えた。問題の「分析」と、解決のための「方法論」!あぁ、彼こそ、この18世紀の偉大なる「合理主義精神」の持ち主だった。反乱を防ぐための、無秩序で場当たり的な「ほどこし」が政治ではないと、彼は教えてくれた。私はフランス大使に頼み込んで彼を譲り受け、彼は私の師となり、私は彼の弟子となって、充実した時を共に過ごした。医学、法学、哲学、文学、幾何学、光学・・・多岐に渡る知識を、彼は惜しみなく伝えてくれた。特に熱心だったのは、フランスの啓蒙思想。ルソー、ヴォルテール、モンテスキュー・・・。あれは革命前夜の1788年、政治的末期症状に喘ぐフランスに宿った叡知のきらめきを、私は夢中で吸収した。「陛下は、二つの喜びをご存じか?」「・・・・天と地の喜び、ですか?」「いいえ、一つは肉体の喜び、すなわち身体の快楽。そして、もう一つが精神の喜び、知ることの快楽です。知の喜びを好んで求める者は少ないが、陛下はどうやら、その稀な御方らしい。」だが、その言葉を素直に喜べなかった。私には、精神の喜びしかない。夫との営みは、いまだに苦痛でしかなく・・・・私はいつの間にか、グストーに・・・聖職者である清らかなひとに、すべてを教えてほしいと、願い始めていた。
2005/09/23
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第二部 1章.聖者の帰還約束の時間まで、幾度も気が遠のいて倒れそうになった。礼拝所の扉を開けて、あの男の姿を目にしたときは、時が戻ったかのように錯覚した。木の、重い閂(かんぬき)をかけた。私は。あの日も。こうして。レティシアの姿をみとめると、男はまぶかに被っていたフードを外し、祭壇近くの石床にひざまずいて帰還の挨拶を済ませた。レティシアは無言でその手をとり、立ち上がらせた。男の様子は、4年前とほとんど変わらないように見えた。年の頃は28,9であろうか。巡礼者風の姿をとってはいるが、その顔に隠者のようなかげりは微塵も感じられない。硬質な茶褐色の髪は首筋を隠す程度に切られ、毛束が無造作に四方八方へと散っている。ややエラの張った精悍な骨格に、すっと通った鼻梁と形の良い眉が乗り、髪と同色の瞳は、人並みはずれた明敏さと強い意志の力を宿していた。薄めの唇は、いま口角がわずかに上がり、不遜な笑みを形作っている。決して容姿端麗とは言えないが、整いすぎず、崩れすぎずの精妙なる均衡の上に成り立った相貌は、危うい魅力で女達を惹きつけるだろう。放浪に放浪を重ね、諸国を己の器量ひとつで渡り歩いてきた男は、かつてこの国でその身を休め、そして去った。レティシアはまだ、これが夢かうつつか判然としない様子で、しばらくは懸命に男の言葉を待った。だがやがて、自分の過ちに気づいた。求める者に、恩寵は来たり・・・・それが、彼の課したルールだ。「・・・グストー・・・」グストーと呼ばれた男は、レティシアのその声に、ふてぶてしい程の確信を抱いた。「今は、ジュール・バリエ。フランス人だ。」レティシアは、うつむいて首を横に振った。「相変わらず・・・本当のあなたは、どこにもいないのね。」「そうでもないさ・・・・。」男は女王の腕を掴み、勢いよく引き寄せた。足元がふらついて、男の体に完全に寄りかかる形になったレティシアの耳元に、あの懐かしい熱い息がかかり、彼女は自分が欲したのが誰か、気づいてしまった。「レティシア・・・。お前と交わした約束を、覚えているな。」彼女の呼吸が、期待に乱れる。本当に、取り戻せるのであろうか。「すっかり、忘れてしまったか?」男の問いかけに、激しくかぶりを振った。忘れるはずもない、無数に反芻した、虚(うつ)ろな希望の言葉だ。「・・・次に・・・・っ」男の唇が、微笑みに歪んだ。「・・・・次に戻るときは、この国で・・・共に、生きてくださると・・・!」最後は、嗚咽(おえつ)へと変わった。男の手がレティシアの頭を力強く撫で、法衣をまとう胸元に押しあてた。
2005/09/22
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1793年 秋夢見が悪かった。時計を見ると、朝の5時。イルゼ達が起こしに来るまで、あと1時間はある。隣でユベールが、安らかな寝息をたてていた。鼻先をつついても反応がない。上掛けの中に手を差し入れて、そっと彼の肌に触れてみる。男性とは思えない、なめらかな肌。まだ若い。19の誕生日を祝ったのは、つい二週間前だったか。首筋から胸へ、背中へと手を滑らせると、もぞもぞ体を動かして小さく鳴いたので、つい笑ってしまった。・・・・・夢見が悪かったのは、きっとクロイツァー宰相のせいだろう。いつも温和な人なのに、昨日はただ一言「お世継ぎを」と言われた。クロイツァーの要求は当然だ。むしろ、よく今まで待ってくれた。エグモントは子をくれなかったのだから・・・。もちろん、王位継承者の父親にふさわしい人物との結婚が先になる。できれば大国の諸侯、オーストリアかプロイセン・・・スペインもいい。・ ・・・・・ ・・・・・・ユベールは、だめだ。ユベールでは、だめだ。どんなに愛していても。目が覚めると、隣でレティシアが背中を向けていた。後ろから抱きしめて、やわらかい頬にキスしようとすると、彼女の涙がひやりと触れた。こんな朝から、一体何が悲しいのだろう。気持ちが落ち着くようにと背中や顔をなでてあげたら、余計に泣かれて困ってしまった。こんな時、アルブレヒトなら上手に慰められるのだろうか。レティシアの感情、孤独、苦悩・・・・「理解したい」欲求と「理解していない」現実の深い溝を少しでも埋めて、彼女の力になりたい。なのに彼女は、自分に優しくするなと言う。もう、よいのだと。「レティシア様・・・・」ユベールが抱き寄せようとするのを、レティシアは拒絶した。「そうやって、ご自分から壁を作って・・・っ」力ずくでレティシアの顔を正面に向かせ、ユベールは強引に唇を奪う。彼女の抵抗が、ユベールの加える愛撫に緩んでいく。「ユベール・・・っ」レティシアの声が、細くかすれた。吸い寄せられように彼の首筋に口づけすると、わずかに汗の味がした。昨夜の余韻が残る体は、何もかも忘れてこの陶酔に身を任せたがっている。もし、この篤実な人に生涯日陰の身に甘んじてくれと頼むなら、きっと頷いてくれるだろう。だが、これほど純粋に慕ってくれる相手に、自分はそれを望むのか・・・?ノックの音が、きっかり5回、廊下側でなく、内通路の扉から響いた。黒獅子の部屋と通じる、緊急用の扉。許可を待たず、アルブレヒトが足早に入り、ベッドから離れた位置でレティシアに目くばせする。名残惜しそうにユベールから体を引き離した彼女が、ガウンを羽織って移動すると、アルブレヒトの口が彼女の耳元に限りなく近寄り、何かを囁いた。レティシアの表情が一変し、顔色を失ったので、ユベールは彼女が倒れるのではないかと思った。彼女は、本当に?と幾度も聞き返し、なぜ今になって、と吐き捨てた。何かに駆り立てられたように落ちつきをなくしたレティシアは、アルブレヒトと小声で言葉を交わしている。珍しく二人は言い争っているようだった。所在なく、ユベールがシャツのボタンをはめていた時、彼の手は止まった。「会ってはならない!!」吼えるような男の怒声が部屋に鳴り響いた。叫んだのは、アルブレヒトだ。黒獅子の騎士は、仕えるべき女王の両腕を血が通わなくなるほど強く掴み、怒りに見開かれた眼で「会うな」と叫んだのだ。一瞬、レティシアはたじろいで、17年自分を支えてきた男の顔を打たれたように見つめた。だが彼女はその手を振りほどき、侍女達を呼んで入浴と着替えを手伝わせる。アルブレヒトは、その間もまだレティシアに言葉をかけたが、彼女が耳を貸す様子はない。しばらく女主人を遠目から見つめた後、アルブレヒトはユベールを一瞥し、廊下へ通じる扉に消えた。アルブレヒトの引きとめる手を、レティシアは振り払った。その時、すべてが決していたのだと、ユベールが思い知るのに、そう時間は必要なかった。予想通り、女王はあの礼拝所を密会の場所に指定してきた。すべてが動き始めた場所、そして、時間が止まった場所。今度の身分は、オーストリア大使の随行員。どのみち女王は、対面を避けられはしない。あの小賢しい番犬がどれだけ吠えようと、無駄なことだ。男は、薄汚れ、すその破れた灰色の長衣の上にマントをはおり、手に持った錫杖で、礼拝所へ続く小道に繁茂した緑をうち払った。 第一部 了
2005/09/21
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8章.動き始める世界フランス軍のベルギー占拠といった、「革命の輸出」方針に危機感を抱いたイギリスを中心に、ロシア、プロイセン、オーストリア、オランダなどの列強は、この年の夏までに対仏大同盟へ続々と参加し、対フランス包囲網を形成する。しかしフランスと国境を接していない小国フライハルトは、この同盟に参加することもなく、騎士フォルクマールとボルク将軍を、対仏戦線の視察に送るにとどまった。ユベールは是非この視察に参加したいと意気込んだが、レティシアに一蹴された。夏のある一日、レティシアは供も連れず、王家の墓にたたずんでいた。夫の命日に、彼女は必ず一人でこの場所へやってくる。墓碑を見つめる彼女の顔には、何の感傷も感慨も浮かんではいない。あれから4年、毎年ただ機械的に花を供え、目を閉じる。すべてが静かな儀式であった。「エグモント・・・・私は、ひどい妻ね・・・・・。」1768-1789の文字を、手でなぞる。「私を、恨んでいる・・・・?」どんな理由を付けても、自分の犯した罪を神はお許しにならないと彼女は思う。その罪に、怯えた頃もあった。1789。この数字を、彼女は決して忘れまい。すべてが生まれ変わった年、罪が始まった年、そして、半身を失った年。1789。あの年の夢を、レティシアは今でも見続ける。夜が彼女に、繰り返し再生させる情景・・・。あれは、年明け間もなくであった。ギッ・・・と重い木の擦れる音がして、閂(かんぬき)がかけられた。礼拝所の大扉に自らかけた閂に手を添え、ようやく身を支えるようにして彼女は立っていた。仄暗いろうそくの明かりの、その光源へと目をやると、司祭が静かな、無感動な瞳で見つめ返してくる。全身の血が逆流して、体が浮き上がるような緊張が、彼女を襲う。「・・・・神の御前で、告白したいことがございます・・・。」「聞きましょう。」司祭の声は穏やかであった。これから語る罪の告白を聞いて、この穏やかさが再び自分に向けられる事など、あるだろうか。侮蔑と拒絶を恐れ、レティシアの心が再び揺れる。だが、罪は断ち切らねば。レティシアは司祭の足元にひざまずき、胸の前で十字を切ると顔を上げた。司祭の肩越しに視界に入ったキリストの像は、薄暗い闇にその頭部を呑み込まれて、見えない。「レティシア様っ!」はずんだ若々しい声が、墓参りから戻った彼女を中庭で出迎えた。「・・・・ユベール・・・・。」水浴びでもしたのか、ボタンもとめず羽織った薄手のシャツは濡れて、髪からも水滴がしたたっている。まつげに留まった雫が、強い日差しに乱反射して、きらきらと、まぶしい。「ひどいんです、ロイの奴が・・・・うわっ!!」ユベールは再び、中庭の噴水に突き落とされ、今度はその水しぶきがレティシアまで濡らした。「・・・・。」そう言えば、ロイとかいう友人が遊びに来るのだと、朝から随分はしゃいでいたのを彼女は思い出した。侍女のイルゼが、あわてて大ぶりなバスタオルを持って飛んでくる。一瞬、レティシアの顔色をうかがったユベールとロイは、彼女が本気で怒ってはいないと確認して、また無邪気にじゃれ合っている。「陛下・・・中にお入りになって、お召し替えを・・・。」「本当に・・・っ。この1年半で少しは成長したと思っていたら、てんで子供っぽいことを・・・!」「でも、陛下・・・。」気心の知れたイルゼが女王の横顔に、にっこりと微笑む。「男の方って、ああいう所が可愛らしいと思います。」「まぁ・・・あなたまで?」あきれたと言いつつ、レティシアは自室に戻る階段の途中で、今日は水風呂も良いかも知れぬと、口元をほころばせた。
2005/09/20
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【レティシア様の☆犠牲祭について語っちゃおう!】皆様、ご機嫌いかがでしょうか?特別講師のレティシアです。本職は、フライハルトの女王をやっております。今日は私が「プチ☆コラム拡大版」を担当させていただきますね。(にっこり)・・・・助手のユベールが見当たりませんが、先にお話を進めましょう。今日のお題は、「犠牲祭とギリシャ的な時間感覚」です。『天空の黒~』1章で、ちらりと登場しました「アイオーン信仰」。「年の瀬の祭り」の起源と言われていますが、これは古代ギリシャの、「時」にまつわるお祭りです。クリスマスっていつか、皆様ご存じですよね?そう、12月25日。冬至の日。でも実は、西暦325年のニカイア公会議までは、「1月6日」がイエス様の生誕日とされていたんです。なぜ1月6日か・・・一説では、キリスト教自体が、今からお話しする「アイオーン信仰」に由来しているため、と言われています。古代ギリシャでは、時間が永遠に続くことを願って、春分の日(3月25日)にお祭りをしていました。時を生み出す「永遠の女神カーラ」に、生贄を捧げるのです。古代ギリシャには、「カーラは1月6日にアイオーンを生む」という伝説がありました。そこで、カーラの息子アイオーンに見立てた若者を、春分の日に生贄として殺し、女神に「もう一度やり直して、息子を生みたい」と思わせ、"時間を戻させる"のです。これを毎年繰り返すことで、時間は永遠に続いていく。つまり、同じ時間がぐるぐる巡っている。という事ですね。え?どうして春分の日か?3月25日に、十月十日(とつきとおか)を足してみて下さい・・・。それが答え・・・でしょうか。(/////)ともあれ、キリスト教の、「過去→現在→未来」といった直線的な時間感覚と違って、ギリシャでは「時は巡る」ものだったのです。皆様のお国、日本の感覚と、少し似ているでしょうか。仏教でも「輪廻転生(りんねてんせい)」という言葉がありますが、仏教が伝わる以前から、日本には「時の循環」「生まれ変わり」という世界観があったそうですわ。キリスト教では、死んだ後は天国に行くだけで、「生まれ変わる」という考え方は、ありませんもの。でも、このお祭り、かなり残酷なものだったそうです。生贄に選ばれた(優秀な)若者は、お酒を飲まされ、槍で刺され、去勢・・・され(まぁ、私としたことが、はしたない言葉を使ってしまいました)、最後は木に吊されるのです。あぁ、(優秀な)若者がもったいない・・・!!私が教育して、ぜひとも我が右腕に・・・そして共にフライハルトを・・・。(うっとり)・・・・・・・・・・・・ハッ。失礼いたしました。さて、ここまで残酷に殺されては、女神様も、生み直さなきゃ納得できません。女神様がアイオーンを生み直す日、言い換えれば、時間が戻った日、それが1月6日。古代の暦では、冬至(12月25日)から1月6日までが「うるう日」、「暦に存在しない日」として扱われ、この間は、神様の目が届かない、"何でもあり"な日だったそうですわ。ですから、私の国フライハルトの「年の瀬の祭り」(12月31日)も、きっとこれが起源なのでしょう。女神様と生贄の(優秀な)若者には可哀想ですが、そのおかげで私はユベールと出会い、今は幸せな日々・・・・。(/////)ギリシャの人々と女神様に、感謝です。(微笑)あら、ユベール、今まで何を・・・・・そんなに震えてどうしたの?「・・・・・生贄の話・・・・怖いです・・・。」まぁ・・・・私の可愛い人vvvvあなたが生贄にされたり、去・・・されたり、するはずないでしょう?浮気をしたら別だけれど。(にっこり)「・・・そうですか!大丈夫。浮気なんて、絶対ありえませんから!」そうでしょう?第一、生贄にふさわしい(優秀な)若者といえば、私のアルブレヒトに決まっているもの!ね、だから、あなたは心配しないでね?「・・・・・・(涙)」
2005/09/19
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1793年 2月中旬ユベールが王宮に移り住んでから、じき1年が過ぎようとしていた。「こう立て続けに重大事が起こりますと、我々も安穏とはしていられませんな。」レティシアのサロンで、老齢にさしかかった一人の英国人が、彼女に体を寄せて耳打ちをする。「カムデン殿、我々とは、誰の事です?」「はは・・・陛下には胸中、算段ありとお見受け致しますが。」レティシアは、まさか、という風に扇を振ってみせた。この年の1月、ヨーロッパ諸国を震撼させる、二つの出来事が起こった。一つは、フランス国王ルイ16世の処刑であり、もう一つはロシア、プロイセンによる第二次ポーランド分割である。かつてヨーロッパ第二の巨大な国土と脆弱な支配体制を持ったポーランドは、20年前の分割に続き、今度も広汎な領土を喰いちぎられた。フランス革命の波及と、隣国プロイセンの野心に対する恐れは、フライハルトを初めとする小国家群に共通のものと言えるだろう。サロンに流れていたピアノの音色が止み、女王の側へ褐色の青年がやって来た。「ユベール・・・何か一曲、ワルツでも弾いて差し上げたら?カムデン殿、貴殿のお相手を務めたがる御婦人方を、放っておいてはいけませんわ。」女王は、これ以上会話を続ける気はないらしい。(相変わらず、食えん女だ・・・・。)カムデンは、3年ほど前にもフライハルトに英国使節として来訪し、この女王に興味を持った。以来、幾人もの美丈夫を送り込んでは女王との繋がりを持とうと務めたが、一向になびく気配がないと思えば、このような若者を囲っていたとは。(まったく、変わったご趣味だ。おかしな者ばかり側に置きたがる・・・。)カムデンは、ユベールを新種の昆虫でも見るような目で観察した。この青年と初めて対面した時は、不覚にも女王の計算にはまってしまった。外国からの客人をもてなすとき、女王は彼に、好んで白を着せる。濃い褐色の肌と見事な対比をなし、この男の美しさが最も引き立つ色だ。"この若者は我々に、神秘的なものに対峙したときの畏敬の念めいた感情さえ起こさせる"・・・ある外交官は本国への報告書に、そう記したそうだ。(女王の愛人・・・。確かに美しくはあるが・・・・・。)彼は、レティシアを皆が評するような公明正大なだけの君主とは思っていない。だからこそ、この一帯にある実に300もの小国家群の中で、彼女の動向に関心を持ったのだ。3年前の出来事。エグモント殿下の死・・・あれは、本当に事故であったのか?「ねぇ、アルブレヒト。ユベールは良くやっていると思わないこと?」執務室に引き上げたレティシアは、本に目を通している振りをしながら、忠臣の反応をうかがった。「えぇ、何事にも熱心で、前向きに取り組んでいるようです。」こういう褒め方をする時は、相手を認めているのだと、女王は知っている。「のみ込みも早いし、真面目なの。時々、私との約束を忘れて法律の本を読みふけっていたり。でも、怒る事なんて出来ないわ。・・・ちゃんと叱った方が良かったかしら?」「"しつけは子犬のうちに"と申します。」「そうねぇ・・・。」そんな諺(ことわざ)あったかしらと思いつつ、レティシアは本を閉じて、執務机に向かった。実際、宮廷内でのユベールの評判は、当初より遙かに良かった。彼は女王の寵愛を振りかざすような真似をせず、政治的な駆け引きからは身を遠ざけ、法学と用兵学に情熱を傾けていた。彼の最初の理解者は、やはり女性達であった。立ち居振る舞いの優雅で、一つ一つの所作が絵になる男である。ダンスには天性の才能を示し、若い娘はもちろん、年輩の貴婦人方もこぞってパートナーをつとめたがった。言葉を交わしてみれば、常に謙虚で愛想がよい。相手から好意を示されると、知らず知らず好意をいだき返してしまう・・・人間とは、そういう生き物だ。ユベールのあの性質は、不遇であった少年時代に身についた処世術かも知れない・・・と考えてから、こんな裏読みをするとは、彼に嫉妬しているのだろうかと、アルブレヒトは苦笑した。今日の執務は全て終えたというのに、女王は熱心に書き物をしている。おおかた、便箋いっぱいに恋人への讃辞を書き綴っているのだろう。「毎日会うのだから、恋文など必要ないでしょうに。」「み、見たの??」レティシアが少女のように顔を赤らめて、手紙を隠そうとする。「見てはいませんが、分かります。」「・・・最近、ちょっと意地悪じゃない?」レティシアは手紙の続きをあきらめて、アルブレヒトの隣に座り直し、今度生まれた子猫にどんな名前がよいかと、幾つも候補を挙げてみせた。愛されている自信が、彼女の横顔を穏やかなものにしている。その傍らで、アルブレヒトは灰色の瞳を細めた。この平穏な日々が、ずっと続いてくれればいい・・・そう切に願った。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~* 作者のコメントご愛読有り難うございます。この物語は、次回の「プチ☆コラム拡大版」と、本編2回分で、第一部の終了となります。書き足りない部分は多々ありますが、物語を最後まで完結させるために、話を先へ進めていきたいと思います。(恐らく、三部構成になるかと。)第二部では、レティシアの過去が語られ、物語の主人公達も出揃う予定です。今後とも、『天空の黒~』(略して、てんくろ)を、どうぞ宜しくお願いいたします。(深々)
2005/09/18
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7章.女王の恋人ユベールは女王の部屋近くに一室をあてがわれ、そこで寝起きをしている。レティシアは、人目のある場所で彼と必要以上に接することはなかった。日中はあくまで女王と臣下の一人であり続け、彼女のユベールに対する想いと熱情は、二人きりで過ごす夜に注がれる。「・・・レティシア様・・・・っ。」耐えきれなくなるのは、大抵ユベールが先であった。「ん・・・だめよ、ユベール・・・ねぇ・・・・。」レティシアは、本心では愛おしくてならないのに、わざと意地の悪い事をしては、ユベールの焦れる様に酔っている。だが、彼女の口づけは、ユベールの脳髄を溶かすほど甘い。とはいえユベールも、溺れてばかりはいられなかった。「あなたを、愛玩動物にする気はないの。」レティシアの宣言と共に、大量の家庭教師が送り込まれた。フランスでもフライハルトでも、何かと不安定な生活を送ってきたユベールは、同じ年頃の貴族の子息に比べ、学問、実務経験共に不足している。レティシアは彼の聡明さに目をかけ、ゆくゆくは高位にと考えているようだが、馴れ合いを嫌う彼女は、本人のためにも、まず地力を付けることを優先させた。周囲に、自分の能力を認めさせてみろ、というのである。「はぁ・・・。」学問は嫌いでないユベールだが、毎日出される課題を前に、げんなりしている。「よぉ!ユベール。どうした、しょげた顔してさ!」気分転換に、図書室へ課題を持ち込もうとした所を、レオンハルトに捕まった。「課題?ンなもん、誰かに押しつけちまえば?人生、要領だぜっ。」「・・・・・。(この人、本当にアルブレヒトさんの弟だろうか。)」「今お前が何考えたか、分かる気するケドな・・・。で、もうここの暮らしには慣れたのか?」「えぇ、皆さん、親切にして下さいますし・・・。」それに、ここには自分を露骨に嫌う者がいなくて安心したとユベールが言うと、レオは吹き出した。「あ、あの・・・?」「いや・・・すまん、だってお前、"あの"兄貴を連れて宮廷中練り歩いといて・・・」「・・・・・っ!」ユベールはようやく、アルブレヒトが女王を離れ、自分と数日を過ごした意図に気づいた。あのとき黒獅子の騎士は、無言のうちに、ユベールが女王の完全な庇護の下にあることを宮廷人たちに知らしめたのだ。「レオさん、すみませんっ。僕、もう行きますから!」ユベールはレオを置いて、図書室へ真っ直ぐ向かった。レティシアの気遣いが、ありがたくもあり、苦しくもあった。ジークムント公の寵臣達に"罪の刻印"を刻まれたことを、多くの者達は噂で知っているだろう。そのような自分をレティシアが、こうも"あからさま"に庇っては、彼女の立場が悪くなりかねない。ユベールに出来ることは一つだけである。彼女が求める通り、自分の力を証明してみせること・・・。「女王のお気に入り」にふさわしい人間であると、周囲に認めさせることだけだ。約束の時間から既に1時間が過ぎているというのに、一向に姿を表さない恋人を、レティシアは少し恨めしく思いながら待っていた。今日は、オーストリアからピアノが届いた。この国にはこれまで、ピアノの前身であるチェンバロしかなかったが、ユベールがピアノをたしなむと聞いて、レティシアは、わざわざスタインのピアノを取り寄せたのである。スタインは、かのモーツアルトも愛用する、名器中の名器だ。ユベールの驚く顔を想像すると、レティシアはもう一時でも待つことなどできそうになかった。図書室に入るのを見たと聞き、レティシアはいそいそと恋人のもとへ向かう。自身、幾度通ったか知れぬこの部屋の扉を開け、ユベールの姿を探したレティシアは、逆光を浴びて窓辺に座る男のシルエットに、視界が歪むようなめまいを感じた。(あ・・・・っ!)夕暮れ近い外界から吹き込む風に髪をそよがせ、うつむきがちに書物に視線を落とす・・・左手は気だるげに前髪をかき上げ、ゆっくりとページをめくる、あの指・・・・。(違う・・・・この人は・・・・違うのに・・・!)「・・・ユベール・・・・!」レティシアの呼び声が、こわばった。「レティシア様?どうなさったんですか?」彼女のただならぬ様子に、ユベールが不安げな顔で立ち上がる。(そう・・・違う。あの人は、こんな表情は決して・・・・。)脳裏に浮かんだ造影との違いを、彼女は必死でたどろうとする。「ユベール・・・お願い・・・抱きしめて・・・」寝室の外で、このような要求を受けるのは、ユベールにとって初めてだった。レティシアの体がユベールの腕に収められ、強く抱かれると、彼女はようやく安堵して、甘えるような仕草で彼の背を指でなぞった。
2005/09/17
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本日の、ユベールとレティシアの会話。(一部抜粋)「レティシア様、おめでとうございます。(だきゅ☆)お祝いに、今年最初の鈴蘭を贈ります。」(←どこかで聞いたセリフ。。。)「ユベール・・・きれいvvv・・・でも、何のお祝い?」「1000 HIT のお祝いですよ。嬉しいですね!」「まぁ・・・とうとう4ケタ!読者の皆様には、感謝してもしきれないくらい。。。でもね、それなら私よりユベール、貴方のおかげよ。ファンレター(?)は、みんな貴方あてですもの。」「そ、そうですか・・・・?」←真っ赤「尾張名古屋は城でもつ、天空の黒はユベールでもつ、と昔の人もそう言ったわ。ところで、私、ずっと気になっていたのだけれど・・・。」「はい。」「貴方のセリフがクサいのは、フランス育ちのせい?」「・・・・・えっ?」「フライハルト人は、もっとこう・・・無骨な感じなのよ。例えば、私のアルブレヒトのように・・・。無言の内の、包容力というか・・・(うっとり)。」「レティシア様・・・・(涙)」「まぁ、ごめんなさい。ほら、泣かないで、私の可愛い人・・・・vvv」その後、二人はひとしきりイチャイチャしていたという。その頃のアルブレヒト。「・・・・・・。」 ←ぽつーん。
2005/09/16
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6章.黒獅子の騎士ユベールが眠る寝室から扉一枚隔てた通路で、声を潜めた囁きが交わされる。まだ夜は深い。午前3時を回った頃であろう。暗がりの中、雲間から出た月が、男の銀色の髪を一瞬照らし出した。「・・・だから暫くは、あの人に付いてあげてほしいの。」「分かりました。私の代わりは、フォルクマールを寄こします。その後の人選ですが・・・」「レオはどうかしら?」「・・・・。」「いいわ。あなたに任せます。ともかく、彼を傷つけることは私への反逆であると、皆が察するように行動なさい。」「御意・・・。」翌朝の朝食を、ユベールはレティシアと共にとった。「ねぇ、ユベール。王宮の中を散策してみてはどう?それと、宮廷内の事は何でもアルブレヒトにお聞きなさいね。」散策の案内役は、アルブレヒトが買って出た。ユベールは彼と共に、宮殿内をくまなく歩き回ることになった。女王の執務室、重臣達が集う大会議場、謁見所、人々の社交場となるサロン、レティシアと出会った大広間・・・彼女ご自慢の図書室に、城下が見渡せるテラス。テオドールたち"近衛"の詰め所の隣に、アルブレヒトの個室がある。表に出ると、正面はフランス式のシンメトリーを成す庭園で、今年は早咲きな薔薇が美しい。「礼拝所もあるんですね。」中庭から離宮を抜け、裏手の林にさしかかった時、ユベールは木々の合間に見え隠れする古い石造りの建物と、十字架に目を留めた。「ええ。ですが、今では誰も使いません。」アルブレヒトは馬丁達を呼び、ユベールに贈る上等な乗り馬を見つくろわせた。それからの数日間、アルブレヒトはやはりユベールと共歩きした。宮廷内の習慣、作法から年中行事、流行の遊び、王家と貴族達の人間関係まで、ユベールに必要な知識を、彼は流暢なフランス語で解説する。ただ一つ、レティシアの亡き夫、エグモント殿下については、貝のように口をつぐんで語らない。死別して二年、レティシアが気鬱に取り付かれている事は、ユベールも伝え聞いていた。気がかりながら、結局アルブレヒトからは、何も聞き出すことができなかった。ユベールの行く先々で、出会う人々は恭順な態度を示したが、それは彼に対してではなく、彼に随伴する、この几帳面で感情を表に出さない、30そこそこの男に向けられているらしい。並みの貴族や軍属の者達はもちろん、宰相のクロイツァーまでもが、アルブレヒトに対しては特別な敬意を表した。人々は彼を、何か聞き慣れぬ名称で呼ぶこともあった。アルブレヒトのことを、女王の近衛隊長くらいに思っていたユベールだが、そう尋ねると彼は珍しく誇らしげに襟元の徽章へ手をやり、こう答えた。「私は、陛下から"リッター"に任ぜられております。」「リッター・・・?確か・・・騎士(シュバリエ)のことですね。」「・・・リッターはリッター、我が国独自の制度です。何でもフランス語に翻訳して考える癖はやめていただきたい。」よほど誇りを傷つけてしまったか、いちゃもん的な怒り方をされ、ユベールはその後、"リッター・フォン・シュヴァルツェム・レーヴェ"、すなわち(「あえて貴殿にも理解できる言い方をすれば」と、しつこく念押しされたが)、"黒獅子の騎士"に選ばれることの誉れを、延々と聞かされるはめになった。要約すると、代々王家では、王と王位継承者が各々の騎士を持つ。王には8名の騎士が仕えるが、8名の頂点に立つ"黒獅子の騎士"(「つまり私です」とアルブレヒトは付け足した)は、武芸や学問のみならず、芸術への造詣、人格、品位、どれをとっても一流以上の才覚を備えた者だけが叙任される、この国で"最も名誉ある"(この点も彼は強調した)役職なのだ。アルブレヒトは15の歳に、まだ5つだったレティシアの騎士として叙任され、彼女が女王となった5年前、"黒獅子"の称号を戴いた。「私の命が続く限り、陛下との契約が断ち切れることはありません。」アルブレヒトは、口の端にうっすらと笑みを浮かべた。近代的軍制に馴染んだユベールは、目の前で「中世の遺物」が呼吸していることに驚いた。一般的に、王の周りに侍る近衛は、見目麗しい良家の子息や寵臣の血縁者が就く役職であって、華やかではあるが、実力と忠節を伴うとは限らない。過去、幾人の王達が近衛に裏切られ、その座を失ったことであろうか。いや、中世の騎士の場合であっても、主君との契約関係は「奉仕と報酬」によって成立しており、騎士は主君に契約の遵守を要求する。騎士に与えられる報酬は、働きに見合った領地や金銭などであり、彼らの献身と犠牲は、無償で得られるものではない。だがアルブレヒトは、平然とこう言い放つ。「たとえ、陛下が王位を継承されなかった場合でも、いったん契約した上は、あの御方の守護として生涯を捧げる・・・それがフライハルトのリッターです。」亡き王の一人娘であるレティシアが、王の位に就かぬ・・・それは彼女が王族内での権力闘争に敗北を喫し、幽閉、あるいは追放されるという意味だ。それに付き従う者の運命は、火を見るより明らかであろう。なるほど、契約の神聖性を重視した、まさに個対個の「騎士制度」は、確かにフライハルト特有のものに違いない。アルブレヒトが捧げる犠牲の代償として、彼はレティシアの愛情と、国民からの尊敬と、至高の栄誉のみを得て、満足する。人々は、アルブレヒトの無償の献身に、畏敬の念と称賛を惜しみなく与える。その姿に、かつて異教の神々に捧げられたという若者達の犠牲死が重なって見え、ユベールはこの国の奇怪な一面を知った気がした。
2005/09/15
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王宮の二階、豪奢な飾り扉のその奥で、彼女は一人、ユベールを待っていた。ユベールが通されたのは、レティシアの寝室である。「陛下。こちらが、フーベルト=フォン=ローレンツ殿です。」「ご苦労でした。」アルブレヒトは女王にユベールを引きあわせると、そのまま部屋を去った。レティシアは窓辺に立ち、しばし無言でユベールを見つめていた。ユベールの瞳に映るレティシアのまなざし、レティシアの唇・・・彼を惹きつけてやまない、その全てが、あと数歩の距離で、彼の訪(おとな)いを静かに待っていた。あの祭りの日から既に4ヶ月・・・ユベールはとうとう巡り会った想い人の前にひざまずき、万感の思いで頭(こうべ)を垂れた。「フーベルト・・・・フォン・・・ローレンツ。」レティシアは、噛みしめるように、その名を呼んだ。「あなたが、ローレンツ侯爵の・・・」だがユベールにとって、それはもはや捨てた名であった。「いいえ・・・私は、ユベールです。いかなる名字も、持ちません。」レティシアが、ゆっくりとユベールのもとへ歩み寄り、自ら床にひざをついて、彼の頬に手を添えた。「ユベール・・・つらい思いを、させてしまいましたね。」レティシアは、彼の身に起こった事を何もかも知っていた。「この国を、許して下さい・・・。愚かにもあなたを傷つけた償いは、必ず私がいたします。だから、どうか、この国を見捨てないで・・・。」レティシアの瞳から、ひとすじの涙がこぼれた。ユベールは、あの時彼らに感じた怒りが、この瞬間だけはどこか彼方へ昇華されたような、不可思議な気持ちに満たされていた。あの憎悪、あの嫉妬、あの狂気が、それぞれの思惑などはるかに越えて、今この二人を巡り合わせたのではなかったか。ユベールは、レティシアの涙をぬぐい、彼女の額に唇をあてた。じんわりとした熱が、ユベールの体へ伝わる。夜ごと夢にかいだ、あの香りがした。「陛下・・・人の世とは、不思議なものでございます。あのような者達でさえ・・・私と陛下の運命(さだめ)の輪を結ぶ、確かな鎖でありました。」レティシアが顔を上げると、ユベールの澄んだ金色の瞳に出会った。「ユベール・・・。」「陛下・・・。」「私の側にいてほしい・・・。」「はい・・・。」「側にいて・・・私のあなたを呼ぶ声に、いつでも応えてほしい・・・。」「お約束いたします・・・。」レティシアには分からなかった。なぜこの男は、これほど美しく微笑むのだろう。「ユベール・・・私は待ちました・・・ずっとずっと、あなたを・・・!」レティシアは愛しい男の胸にすがり、顔をうずめると、頬をすり寄せた。ユベールが抱く彼女の肩は、わずかに震えていた。これは、どういう事だろう。あの夜、自分が出会ったひとは、こんな風では決してなかった。彼女は月の女神のように超然として、私を導き、思うまま奪い尽くしたのではなかったか。目の前のこのひと・・・はかなげで・・・・燭台のつくる光と闇の狭間に、今にも淡く溶け去ってしまいそうな・・・このひとは、まるで別人だ・・・。ユベールは、これが恋慕に苦しむ女の姿だと知るほど、まだ男ではなかった。ただ言い尽くせぬほどの熱い想いが、心の奥底からわき上がったというだけだ。だが、レティシアが満たされるには、それで充分だった。ユベールの両腕が彼女を包み込み、きつくきつく抱いた。髪をなで、額を合わせて、目を閉じた。沈黙の中で、二人の呼吸だけが静かに時を感じさせた。ユベールの唇が優しく動き、愛の言葉を紡いだとき、レティシアはあまりの幸福に声を押し殺して泣いた。幾度もの口づけが交わされた後、ユベールの右手がレティシアの背に回り、二人を隔てるものを一つ一つ取り除いていった。その夜、レティシアは初めて覚える深い安らぎの中で、ユベールと共に無垢な眠りについた。
2005/09/14
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5章.契り"もう一度、あの場所で。十(とお)の夜を、お待ちしています。"アルブレヒトの勧めに従って出した、一通の手紙。差出人の名も記さず、ただそれだけの手紙を、彼女はアルブレヒトに託した。よもやその手紙が家人の手によって焼かれ、ユベール本人に渡っていないなど、レティシアは知るよしもない。「・・・来ては、いない・・・ようね・・・。」待とうと決めた十日は、幾日も前に過ぎていた。王宮の別棟で、レティシアはゆっくりと、その事実を受けとめた。その頃、宮殿の正門前で、ちょっとした騒ぎが起こっていた。埃にまみれ、ちぐはぐな服装には血のりがべったりと付き、名も名乗らずに、女王に会わせろという男。余程意識が朦朧としていたのか、門番に突き飛ばされて道に倒れ込むと、そのまま動かなくなってしまった。「こ、こんな所で行き倒れるな!寝覚めの悪い・・・っ。」もう一人の衛士と、教会がよいか、いや、共同墓地が手っ取り早いなどと話していると、宮殿から身なりの良い軍装の男達が、慌てた様子で飛び出してきた。中でもひときわ大柄な男が、行き倒れた若者の息を確認して、呟いた。「まったく、何という無茶な。」ユベールは、この日ようやく、アルブレヒトの肩に担ぎ上げられ宮殿の門をくぐった。「意外と、しぶとい。」ユベールの頭をぐりぐり撫でて、くったくなく笑うこの男は、レオンハルトというらしい。「回復は早かったよな。傷の割には。」「はい・・・お陰様で。」ユベールは、居心地の良いベッドの上で、半身を起こして温かいミルクをすすっている。「レオ、調子に乗るな。いずれ、お前が仕える相手になるかもしれないぞ。」赤髪の男、テオドールが、レオンハルトの気易い態度をたしなめる。「そのときゃ、その時さ。しかし、このガキがねぇ・・・。陛下のご趣味も、よく分からんな。」「レオ!!まったく、そんなだからお前は叙任を受けられなかったんだっ。部外者は出ろ、出ろ!」この二週間ほど、王宮の客間を利用したユベールの病室には、侍女の他に常時2,3人程の男達が詰め、また入れ替わり立ち替わり、レオンハルトのような「見物人」がやってきた。ユベールの身近に控える男達は、話の様子からすると女王の近衛のようである。そこへ、病室の扉を開けて、銀髪に漆黒の装いをした男が入ってきた。「アルブレヒト様っ!お戻りでしたか!」テオドールが弾(はじ)かれたように立ち上がり、挨拶の礼をとる。「レオ、ここはお前の居場所ではない。」アルブレヒトは、厄介者でも見るような目つきで、この闖入者に退出を求めた。「はっ、相変わらず兄貴はお堅いねぇ・・・。じゃぁなっ、ユベール。」すかさず、アルブレヒトが訂正する。「フーベルト殿、だ。」本名で呼ばれ、ユベールは一瞬ぎくりとした。フーベルト・・・フライハルト人としての、本当の名。フランスで過ごしてきた彼は、そこでユベールと呼ばれ、ロイのような親しい者達は、今でも彼をそう呼んでくれた。フーベルト=フォン=ローレンツ・・・侯爵家の跡取りとしての名前。あの日、自分が恥辱の底に陥れてしまった名前であった。「はい、はい、はい。フーベルト様、今度カードのお相手を致しますよっ。」ユベールに手を振りながら、レオはテオドールに部屋から押し出された。「・・・。お許しを。不肖の弟です。」アルブレヒトが、相変わらず感情の乏しい厳粛な面もちで謝罪する。「いいえ。彼のおかげで、気持ちが明るくなりました。」ユベールは微笑んだ。実際、テオドールやレオ達の篤いもてなしを受けていると、あの日の凶事がただの夢のようにも思えた。ローレンツ家の領地から王城まで、馬でたっぷり二日の距離を、ユベールはろくな手当てもせずに駆けてきた。城に着いたときは、傷から高熱を発して意識を失った。今、アルブレヒトから具合を尋ねられ、もうほとんど痛まぬと伝えたユベールは、ずっと心にかかっていた事を口にした。「・・・陛下へのお目通りは、いつ、かなうのでしょうか。」ユベールはまだ、レティシアとの対面を果たしていない。彼が意識を取り戻した時、レティシアはバイエルン公国との会談のため国境地帯へと向かった後だった。だが、近衛の長であるらしい彼がここに居るということは、女王も戻ったに違いない。ユベールの食い入るような期待のまなざしを受け、アルブレヒトが「ふっ」と表情も変えずに息を吐いたので、ユベールは彼が笑ったのか溜め息をついたのか、よく分からなかった。「陛下は、今宵にでもと、お望みです。」~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~★プチ・コラム2 「ユベールの本名??」■
2005/09/13
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4章.凶刃「異教徒」「黒い肌の悪魔」「貴族のナリをした奴隷の子」うんざりする程に聞き覚えのある罵詈雑言を、いまユベールは受けている。3月も半ばという日。ローレンツ侯爵家のお膝元である、ザンクトブルグの街。白昼、礼拝に来た教会の前で、ユベールとロイは7,8人の男達に突然からまれた。なぜ、こういった連中は、判を押したように同じことを言うのだろう、とユベールは常々思う。彼は、今さら傷つくほど恵まれた環境で育ちはしなかった。傷つきはしない。ただ静かな怒りが、腹の底へと沈潜していくだけだ。「ユベール、構うな。もう行こう。」男達をにらみつけて動かないユベールの袖を、ロイが引っ張る。普段ならば本人以上に"いきり立つ"ロイであったが、今日は相手が悪すぎた。「あいつら、ジークムント公の寵臣だ。」先王の弟であるジークムント公は、レティシアの代になっても一勢力を形成しており、彼の配下は、徒党を組んでは何かと傍若無人な振る舞いを繰り返して来た。それを心中苦々しく思うレティシアでさえ、公を完全に抑えるだけの確かな権力地盤は持たないのである。ジークムント公の領地は、遠方にある。ローレンツ家の直轄地であるこの街に、道すがら立ち寄っただけの彼らと行き合わせたのは、不幸な偶然としか言いようがない。ロイは、ユベールを連れて上手くやり過ごすつもりであったが、今日の彼らは、いやに執念深かった。いやがらせ、というのではない。彼らからは憎しみめいたものが感じられ、ロイは真顔になって友に危険を伝えようとした。「ユベール・・・・!」だが次の瞬間、ロイは3人の男達に体の自由を奪われていた。「逃げられると思うな。その服の下に、魔物の徴(しるし)があるんだろう?」野次馬達が何事かと遠巻きに見ているその前で、ユベールを数人がかりで押さえ込むと、一人がナイフを取り出し、彼の上着を切り裂いた。さらに一度、もう二度・・・三度・・・・・。「見ろ!悪魔の血が流れた肌だ!」無残に切り刻まれた服の合間からのぞく彼の黒い肌を見て、ナイフの男が勝ち誇ったように叫んだ。「さぁ、街の連中にも見せてやれ。汚らわしい、人間の出来損ないの姿をな!」ユベールの上着は剥ぎ取られ、むき出しとなった上半身が強く地面に押しつけられる。彼らはユベールの背を足で踏みつけ、謝罪を迫った。汚れた身でこの街を、教会を、フライハルトを冒涜した事を認めろと。この圧倒的に不利な状況で、何故そうも彼が、かたくなだったのかは当人にも分からない。ただ一瞬、彼らの罵声が父親の声に似て聞こえた。「謝罪などしない!この身に一点のくもりも無いことを、天はご存じだ!私はっ・・・私は、悪魔なんかじゃない・・・・・・・フライハルト人だ!・・・私は、フライハルト人だ!!」ユベールの絞り出すような訴えは、皮肉にも彼らの狂気をさらに駆り立ててしまった。「この男に、"罪の刻印"を刻め!!」群衆の間から、くぐもった悲鳴が上がった。「誰か、助けて差し上げないの?!あの御方は・・・!!」若い女の声が街人達に救いを求めたが、彼らの大半は、これを当然の仕儀と考えているようだった。ユベールの背にナイフの切っ先が当てられ、肉の裂ける痛みが走る。真一文字に描かれた赤い線から、熱い血がほとばしる。声をあげまいと耐えるユベールに、さらに刃(やいば)が振り上げられる。「何の罪だ!!ただそいつの肌が黒い、それだけで罪だと言うのか!!!」ロイの叫びが、ユベールの耳に届いた。ユベールは、「よせ」とロイに返したかったが、続いて上がった怒声に殴られたような衝撃を受け、喉が詰まり声にならなかった。「しらばっくれるな!この男は、女王を穢(けが)した!!」誰かが、逆上のあまり「祭り」の禁忌に背いて、そう言い放った。「祭り」の日に起こったことは、名前も身分も伏せねばならぬ。その掟を破ったのは、あの日レティシアを取り巻いていた男の一人であった。「こいつが、この国を穢した・・・!!」ユベールの背に、憎悪の刃が突き立てられた。その後、どう切り抜けたのか。混濁した意識から覚めたユベールは、自分がロイの上着を羽織り、王城へと続く道で馬を走らせていることに気づいた。もう屋敷には戻るまいと、ユベールは決意した。父親の領地、父親の領民の前で、あの屈辱的な姿をさらしたのだ。ローレンツ家の名誉を地に落とし、今さら父親に顔向けなど出来るはずもなかった。父は彼に、人として何も与えてはくれなかった。彼もまた人として、父に何も返しはしなかった。ユベールにとって、その事だけが悔やまれた。だが、それと引き替えで己のとるべき道を知ったことに、もし許されるならば感謝すら捧げただろう。ユベールの脳裏には、もはや、ただ一つのことしかなかった。この先、国を出るにしても、その前に・・・もう一度、必ず、あのひと・・・"女王レティシア"に会うのだと。
2005/09/12
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3章.想う心明けて1792年 春イギリスやプロイセンといった強権国と比べて、フライハルト始め小国の国主というのは、民にとって身近で親しみ深い存在であった。この国の場合、王より地方領主といった方が、実態に近いかも知れない。レティシアは、アルブレヒトほか数名の供回りだけを連れ、よく城下や近隣の農村地帯へ視察に出かけた。このような時、彼女は馬車を使わず自ら馬を駆って、行く先々の長に何も告げずに、ふらりと現れる。「勝手に人気取りをして、こちらはいい迷惑だ。」そう冷や汗をかいて陰口をたたく者は数多くいたが、民衆は、おや、また来ましたねといった風に歓迎した。「民に交われ」それが、彼女の師の教えであった。レティシアの治世になって、各地で救貧院や孤児院、穀倉庫が設けられた。クロイツァー宰相は、十分効果をあげていると言ったが、彼女は根本的な改革が進まない事に、自分の力不足を感じている。(やはり、私ひとりでは・・・・。)自分を導き、支え、力を与えてくれる・・・そんな男が側に欲しいと、レティシアは昔日(せきじつ)に思いをはせた。「じょおぉさまっ」視察からの帰り道、ぬかるんだ農道で馬を進めていると、まだ口のよく回らぬ幼い少女が、馬上の彼女に花束を差し出した。「ありがとう。」レティシアは馬から降りて、小さな野の花で作られた花束を受け取った。薄汚れて、痩せた少女。去年は天候不順で、麦の実りが悪かった。彼女はポケットから焼き菓子を取り出し、少女の口に含ませてやる。無心に菓子をほおばるこの娘が、無事成長できる保証はどこにもない。レティシアは花束を解き、その一本一本を供回りの者に配った。「この国は、貧しい。私達の役目を忘れないで。」受け取った花をアルブレヒトが胸にさすと、周囲の者達もそれに倣(なら)った。宮廷で、城下で、村々で、人々の中に"あの者"の姿を探している自分を、レティシアは持て余し始めていた。あれから早3ヶ月。彼は、まだ来ない。ロイは、友人の焦燥に駆られた様子に呆れ、ユベールの部屋に備え付けられた上物のソファに、我が物顔で寝ころんだ。「あ、あいたた・・・っ。」今日も馬車にゆられ過ぎて、腰と尻がひどく痛む。協力しているのだから、馬車ぐらい最新式のものに変えて欲しい。何でも車軸に工夫があって、揺れが少なく格段に快適であると聞いた。ロイは、少し意地の悪い気分であった。「もう、あきらめろよ!大体、祭りの日に始まる恋なんて、ロクな結果になりゃしな・・・ぶふぅ」クッションで絞め殺されそうになって、彼は慌てて発言を撤回すると誓った。それほど素晴らしいヒトかと聞かれ、ユベールは、熱に浮かされたようにつぶやく。「あのひとがエーゲ海の白い泡から生まれたと聞いても、僕は信じる・・・。」「よく分からんが、とにかく重症だな。」三ヶ月の間、ユベールはロイと共に、めぼしい貴族の館を様子見していた。無論、あの人を探すために。彼は自分の想う相手が、女王と呼ばれる人間だとは、まだ気づいていない。この国に来て以来、宮廷に出入りすることは父親から禁じられていた。「年の瀬の祭り」に参加したことも、家の者には秘密であった。本来ならば、もうずっと以前に、ローレンツ家の跡取り息子として女王に挨拶を済ませておくべきなのだが、いまだに父親は、ユベールの容貌を恥じているのだ。名誉を重んずる父は、「まだ行儀見習い中だから」と言いつつ、実は、あれが東方の異教徒に生ませた子よと、周囲からの嘲(あざけ)りを受けたくないのであった。自分の目の黒いうちに、この由緒正しきローレンツ侯爵家が辱めを受けるのは耐え難い、そう父親は思う。午前中いっぱいの謁見と、宰相との会食、以前からの懸案であった農地開拓についての会議の他に、今日はポーランドの客人が連れてきた戯作者の相手をしなければならなかった。レティシアの疲労と情緒不安定は臨界を越え、とうとう深夜、アルブレヒトに苛立ちをぶつけてしまった。「あの人はなぜ、会いに来ないの?・・・・もう、待てない!!」彼女が生(なま)の感情を見せられる相手は、いつでもこの男しかいない。「陛下・・・・。」泣き伏すレティシアを、どう慰めるべきかと、アルブレヒトは考えを巡らせる。彼は、あの若者の正体を知っていた。あの容貌である。調べるのは造作なかった。だが、彼の身元を明かして呼び出すことは、レティシア自身が禁じているのだ。"国主が望む"ことの恐ろしさを心得ている彼女は、あくまで彼が自らの意志で来ることを願っている。主人の失意を見かね、アルブレヒトは一つの提案をした。ローレンツ侯爵は、いま怒り心頭である。あれほど息子には、宮廷に顔を出すなと言い付けたものを。去年の「祭り」の日、悪友にそそのかされて、のこのこ出かけたらしいと下男から聞き及び、彼は息子を厳しく戒めるつもりである。その頃ユベールに届いた一通の手紙は、父親の手で焼き捨てられた。
2005/09/10
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中庭を通り過ぎ、王宮の別館へと踏み入ると、そこは格好の逢瀬の場だ。一定の距離を保って、後を追われているのを確かめながら、彼女は館の奥へ奥へと若者をいざなう。途中、何組もの男女が睦み合い、背徳の喜びに震えている様に出くわした。だが彼女は、その様子に目もくれず、館の最も奥まった静謐な一室で、一夜限りの恋人を迎え入れた。抱き合うより先に、どちらからともなく、唇が重なる。乾いた口づけだった。彼女は男の背に片腕をまわし、もう一方の手で彼の額から頬へ、唇へ、首すじへ、造型を確かめるかのように、そっとなぞった。近くで見ると、やはり若い。彼女より2つ3つ、年下であろう。求めに応じて、もう一度唇が合わさる。今度は長く、さらに優しく・・・。男の両腕がしっかりと彼女の腰を抱き寄せた。互いの息がかかり、顔が紅潮する。「・・・っ」先に進むことをためらう彼を、女は小首をかしげ見上げる。彼はとまどいを見抜かれた気がして恥じ入ったが、そのような自分の様子を彼女はむしろ喜んでいるのだと思い当たった。彼女は男の手をとり、頬に寄せて感触を楽しむ。額からまぶたにかけて、優しい接吻で埋め尽くしていく。しばらく、指先の感覚を愛おしむように、彼女は男の体を探っていた。耳元で、幾度目かの熱を帯びた溜め息が聞こえた。彼女はもう少し、情熱に身を任せる前の昂揚を楽しんでいたかったが、切なげな視線を投げかけられて、すべてを許すことにした。とうに日が沈み彼女が微睡(まどろ)んでいる様を、ユベールは何をするでもなく、ただじっと見つめ、微笑んでいた。二人の、ベッドの上に投げだされた体を、満月には少し欠けた月が、蒼白く濡らしていた。レティシアが差しのべた手を、彼は少しはにかんだ表情で、そっと握り返す。その少年らしい純真さに心を打たれ、彼女は男のまぶたに、今宵一番の優しい口づけを贈った。ユベールはそれを、恋の成就と受け取ったようだ。「・・・どうか、お名前をお聞かせ下さい。再会を約束していただくまで、お帰しするわけにはいきません。」そして、ためらいがちに付け加えた。「・・・たとえ貴女が、他の誰かのものであろうと、私は貴女ひとりと決めました。」彼女、レティシアは、この完璧なフランス語で捧げられた愛の誓いに、すっかり困惑してしまった。この男は自分が誰と契ったのか、気づいていなかったのか?この宮廷に出入りを許されながら、彼女の顔を知らぬ者がいるだろうか。それも、祭りの掟を破って名を名乗れとは、いよいよこの男はフライハルトの人間でないらしい。「掟に背いてはなりません。その戒めと引きかえに、私達は結ばれることができたのでしょう。」「・・・???」この時代、ヨーロッパ諸国の宮廷内では公用語としてフランス語を用いており、フライハルトでも貴族同士はフランス語で会話する事が多い。今、レティシアが口にしたフライハルトの母語、後の世にドイツ語の南部方言として残る言葉を、やはり、彼は理解できていないようだ。ただ、自分の望みが拒絶された事は察した。諦めきれずに幾度も口づけを寄こしては、想いを伝えようとする若者を気の毒に思い、レティシアは彼の黒髪をなでながら、今度はフランス語で話しかけた。「今宵結ばれた相手の素性を、尋ねることは許されないのです。でも、お互いを探すのは自由。探し出して、また出会えばいいの。」レティシアの手をとって恭(うやうや)しく唇をあてる恋人に、彼女は砂を噛むような日々から救われる一縷の望みをかけたいと思い始めていた。★プチ・コラム★1.「年の瀬の祭り」は実在する。■~~~~~~~~~~~~~~*お知らせ*次の回から、スマホでご覧の方は「パソコン版で見る」モードに切り替えをお願いいたします。(背景色の関係で、台詞の部分が表示されません。)現在、少しずつスマホ対応に切り替え工事中です。お手数ですが、どうぞ宜しくお願いします。* 筆者のコメント*ユベールは、(なんとか)無事に、レティシア様と結ばれたようです。今回、「描写」をどうすべきか、かなり悩みました。楽天ということ、特に年齢制限を設けないことを考慮して、今回のような感じに・・・。「これでもヤヴァイでしょ。」「この程度でいい。」「ギリギリを狙え!」(笑)など、ご意見ありましたら、コメントをいただきたく。。。匿名で構いませんので。小説初心者としては、許容ラインと読者様のご希望を知りたいのです。宜しければ、ご協力下さい。(深礼)
2005/09/09
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(過去日記 再び)この日、1ヶ月半ぶりに、塾へバイトに行きました。夏休みは、論文書くという大義名分で、夏期講習を全休した私。。。しばらくぶりの生徒達は、もぉ、しゃべるしゃべる。(個別指導です。)全然、授業進みません。(苦笑)さて、一夏越えると、色んな事が変わってたりする。(少女が、大人の女に変わっていたり??)え~、私の生徒の話でいうと、「自転車ですっ転んで骨折」一名、「強風で倒れたバックネットに直撃され、ひどい打撲」一名。(↑頭か首に当たっていたら、死んでたよ、と医者に言われたそうな。)しかも、この二人は「姉弟」です。(汗)親御さんのご苦労は、大変なものかと。骨折の方は、腕にボルトが6本入ってるんだって!でも、骨折自体より、病院での痛み止め注射(7カ所も打たれた!)の方が痛くって、ちょっと泣けたの。。。。と、普段クールな彼は、しょんぼり言いました。(中2)そうか~、痛かったよね、我慢して偉かったね~~。心の中で、「なでなで」をしてあげよう。(本当にやると、セクハラだよね??)私みたいな不活発な人間は、夏を越えたからって、何が変わるわけでもないけど、、、元気な中高生にとっては、色んな事に遭遇したり、凝縮された時間だったんだなぁと、改めて思った次第。
2005/09/08
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2章.秘め事夕刻になり、彼女がアルブレヒトを伴って大広間へ向かったとき、そこには既に多くの男女が参集し、宴を楽しんでいた。会場は、今年の趣向であるギリシアの森を再現し、実物の木々や花々が持ち込まれ、細部にいたるまで丁寧に飾り付けられていた。広間の中央には、泉に見立てた簡易式の噴水が、この日のために設けられている。(これは後で、予算オーバーですと宰相のクロイツァーに怒られた。)その噴水に浅く腰掛けた彼女は、ひとり祭りに酔えずにいる。それでも慕い寄ってくる男性達に、優美な、だが陶器のような冷たさを秘めた微笑を投げ返した。気の利いた会話や、ジョークや即興詩が彼女の周囲を飛び交う。だが彼らのうち誰一人、彼女の「特別な好意」を受けられそうになかった。それも仕方あるまい。2年前、あの喪失の年に、彼女の心も死んでしまった。あれ以来、感覚は遠のき、美しい色彩も感じず、何もかも別世界の出来事のように、よそよそしく思える。もはや手の届かない男の面影だけが、夜毎に彼女の胸を焦がし続けた。ここにいるのは、見知った貴族ばかり。心動かされる出来事など、今さら起こるはずもなかった。突然、いつもの発作的な深い孤独感に襲われ、彼女は涙を見られまいと、最も信頼する忠実なアルブレヒトの肩に顔を寄せた。(いっそ、今夜はこの男にすがってみようか・・・・。)彼女の体温のわずかな変化に気付いたアルブレヒトが、ぎこちなく体を寄せた。これは、アルブレヒトの優しさと忠節からくる献身であって、それ以上ではないのだと。彼女がそう感じたのは、正しいのかも知れない。いたたまれず、部屋に引き返そうと思い始めたとき、彼女は視線を感じて顔を上げた。周囲がざわつきはじめ、彼らの関心が同じ方向に注がれていることに気づく。楽団が竪琴やら笛やらを奏でているその横で、一人の若者が彼女を真っ直ぐに見つめ、打たれたように立ちつくしていた。「おい、あれは何者だ・・・?」「初めて見る顔だな。それにしても・・・」人々のざわめきに、感嘆と嘲笑が入り交じる。若者はそれ程までに美しく、そして"異形"であった。神話に語られる鹿を思い起こさせるような、ほっそりとした肢体は瑞々(きらきら)しく濃い褐色で、一目で東方の血を受けた者と分かる。艶やかな髪は、宵闇の色。なめらかな曲線で構成された、中性的で端正な顔は混血特有の柔和な趣をたたえ、いまだ少年らしい清冽さを残している。しかし、なにより人々を驚嘆させたのは、その瞳であった。黒豹のようだ、と彼女は、どこでだったか見知った絵画の中の獣を思った。形のよい、大きな黄金色の瞳。広間の大窓から差し込む斜光・・・その光に揺れる黄金の双眸に見つめられ、肌が粟だつ。まるで異教の神人にでも魅入られてしまったような。彼女は青年の瞳から目をそらさぬように立ち上がると、ゆっくりと後ずさりし、反転して、宮殿の離れへ通じる通路へと歩み入った。
2005/09/07
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「年の瀬の祭り」は、フライハルト建国以前からこの地方に伝わる習慣である。12月31日から元日にかけては「うるう日」、つまり「暦に存在しない日」として扱われ、あらゆる国民が地上の枷(かせ)から解き放たれる。身分も、立場も、天地の法もすべて、この日ばかりは人々の心から消え失せ、一夜限りの恋を愉しむことが許された。フライハルト地方を含む一帯で、冬至である12月25日から、1月6日にかけての期間に特殊な風習があるのは、はるかギリシア時代のアイオーン信仰の名残とも言われる。ともあれ、フライハルトの宮廷では、この日、貴族達を招いた饗宴の開催が慣例となっていた。そして長い気鬱に悩まされた女王は、今日初めて、自らこの宴に参加するつもりである。「やっぱり・・・この衣装は、ちょっと・・・。」「今さら、なに言ってる。出会いの場では、一にも二にも目立つこと!男は目立って、目立って、目立ちまくってナンボだ!!」会場となる大広間に続く通路で、ロイは渋る友人の腕を掴んで強引に歩き出した。「ユベール。俺が選んでやった衣装が気に入らないってのか?」「そうじゃないけど、恥ずかしいよ。」ユベールの均整のとれた、まだ少年のしなやかさが残る褐色の肢体は、古代風の金と藍の刺繍で縁取りされた真白い衣が優雅な波を作って、かろうじて腰から膝上まで覆われている。その他は、左腕に異教を思わせる唐草模様の腕輪と、膝までとどく編み上げ靴をまとっているだけだった。「黒いプロメテウス、といった風情だな。矢筒も用意しておいて、よかった。」うんうん、と芝居がかって頷いてみせるロイに、ユベールは無駄な抵抗を試みる。「第一、君だってやっぱり、あの可愛らしい婚約者に悪いじゃないか。」「あのな、お前はこの国に来て日が浅いからそう言うが、俺達の間では当然の事なんだって。何度も言ったろ。彼女は彼女で楽しんでる。」「そんな・・・。」ユベールは、ふだん朴訥として人畜無害に見えるこの国の人々が、行きずりの相手と愉しむなどという背徳的習慣を持つことを、いまだ理解できずにいる。フライハルトきっての名族に生まれながら、彼は少年時代をフランスで過ごしてきた。フランス人であった母親は、何代か前にイラン周辺の東方人の血を受けていたらしい。何の因果か、母方の先祖返りを起こして生まれた彼は、黒い肌を父親に厭(いと)われ、母子そろって実家に送り返されてしまった。その母が亡くなったこと、父親が老齢に達しても他の子を生まなかったことで、ようやく後継として呼び寄せられたのは、わずか半年前である。「大体、フランスの宮廷では、こういうのが日常茶飯事だったんだろ?それに比べれば、俺達の方が、よっぽどマトモだ。違うか?」ロイのもっともな意見に、ユベールは諦めてうなずくしかなかった。
2005/09/06
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俺がお前と一緒に 地獄へ堕ちてやろう 見下ろす瞳が、闇を帯びて輝いた。あの日、この国のすべてが、新たに意味づけられたのだ。「フライハルト」神の非存在を確信する一人の男へと捧げられた、巨大な箱庭。1章.年の瀬の祭り1791年 フライハルト 12月31日 年の瀬の祭り「どう?似合っているかしら。」アルブレヒトは、女主人の問いかけに視線で同意してみせた。王宮の一室で、レティシアは今宵の祭りの衣装合わせをしている。18世紀ヨーロッパ。プロイセンとオーストリアという大国に挟まれた、いまだ統一されない小国家群の中に、「フライハルト」がある。地味は豊かだが、これという産業ももたない、大国の野心からさえ取り残されたような国。先王の後を継いで女王となったレティシアは、2年前に夫であるプロイセン貴族、エグモント・フォン・バルトを亡くした。狩り好きのエグモント殿下が「猟銃を暴発させ」、わずか3年の結婚生活は終わりを迎えた。1789年、隣国フランスでは革命の旗の下、王政が死へと歩み始めた年であった。あれから二年。女王レティシアは二十歳を迎え、今宵、特別な意味を持つ祭りに参加しようと決めた。そのための衣装合わせである。かつて宮廷画家が、彼女を「現代に甦ったヘレネー」と表現したのは、決してお世辞ではない。今、優雅なひだをたっぷりと寄せたギリシア風の衣を身にまとい、腰まで届くプラチナブロンドの髪を、編み込みや宝飾類で贅沢に仕上げた彼女は、まさに絵画から抜け出た神話の住人のように見えた。生身を感じさせない程の、透き通って清浄な肌。宮廷人の誰もが憧れる、深みをもった碧眼は、まなざしに高い知性を秘め、彼女の高潔さを物語っている。だが、今日の彼女はいつにも増して物憂げで、伏せがちなまつげが瞳に陰を落としていた。「陛下、ご無理をなさらずとも・・・。」アルブレヒトが主人を気遣う。一瞬、彼女が窓から差し込む日の光に眩しそうな仕草をしたのを見逃さず、彼はさりげなく移動して、主人を自分の陰に入れた。6フィート(約186cn)を超す長身と、厚い胸板、静かで統制のとれた機敏な動作は、彼が優秀な武人であることを思わせる。逆光を受けて輝く銀髪と、感情を殺したような厳格な容貌の中で、灰色の瞳が今は穏やかな光をたたえている。陛下と呼ばれた女は、彼の気遣いに微笑みで返した。「気晴らしが必要だと、言ったのはあなたよ。それに・・・」今日は、名前や身分を口にしてはだめでしょう?と。見上げるような体躯の男を、彼女は子犬でも叱るように優しく、たしなめた。
2005/09/06
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