ほっそりと尖った月の端は薄い剃刀の刃でそこを撫でたようにどこまでも細く細く伸びている。
そして尖った月以外は油絵のような闇が広がる。
まだ帰路を急ぐ人々がざわめいているのに太陽も星もその存在が最初から無いかのようだ。
太陽や星たちの上から幾重にも塗り重ねられた闇の色。
月だけをくっきりと浮かび上がらせてわたしの頭上が完成されている。
小さな声をあげてそれらを見遣る。
誰かにこの一瞬の景色を伝えたい。
居室にいるばぁばを呼ぼうか。
帰宅したばかりの子ども達を呼ぼうか。
それとも携帯電話で呼び出してあの人にわたしと同じ空を見つけてもらおうか。
だがこの類いの感動は家事に忙殺されがちだ。
わたしの意識はすぐに寝室へと移る。
敷布を整え、洗いざらしのシーツを広げる。
羽毛布団と毛布の端をきっちりと重ねる。
特に足元は念入りに整える。
今晩も冷えそうだ。
連休前のそわそわした時間。
うきうきした時間。
整えたばかりの寝具に飛び込んで数秒間だけ静止する。
わたしの気持ちはあの月だけが知っている。
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