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「菅義偉(すがよしひで)新内閣は、明らかに長期政権を狙っています」
安倍晋三前首相の突然の辞任によって総裁任期残り1年のワンポイントとも言われ、留任閣僚も多く「居抜き内閣」と郷楡(やゆ)されているのになぜ。
「新内閣で私の目にとまったのは留任した面々でもなければ新入閣の数人でもないんです。それは、上川陽子(かわかみようこ)法相と小此木八郎(おこのぎはちろう)国家公安委員長の2人です。ああ、菅さんはそこまでやるのかと背筋がぞくっとしました」
この2人の入閣の報は地味だ。しかし、そこには隠された菅氏の狙いがあるということだ。
じつはこの上川、小此木両氏は、まったく同じ大臣職で2017年の安倍政権で入閣していた。上川氏は岸田派ながら「菅氏に近い。菅派と言ってもいいくらい」(岸田派幹部)とされ、もう1人の小此木氏は、菅氏がその父の小此木彦三郎氏の秘書だったこともあり、これもまた菅氏に近い。小此木氏は今回の総裁選挙でも菅陣営の中心的役割を果たした。
2人が安倍改造内閣で入閣した17年には、菅氏が官房長官として安倍政権の維持と危機管理のために、信頼する2人を法務、警察トップに据えた菅人事と、霞ヶ関や自民党内で囁かれていた。前出官僚OBは法務、警察を押さえる重要性についてこう言う。
「権力を安定させるためには検察(法務省)と警察(国家公安委)をきちんと押さえておくことが大事なんです。また、検察と警察には常にたくさんの情報が入ってきますが、それらはありとあらゆる危機管理の場面でも使えます。安倍政権下では検察庁人事を使った官邸が、検察との駆け引きに失敗しましたが、菅さんは上川さんを送り込んで再びやるつもりでしょう。また、菅さんが一生懸命やっているインバウンド(海外からの観光客)で、ビザなど出入国の管轄は法務省。上川法相のもとビザの緩和などインバウンド政策を進めるはずです。いずれにしても、政権が法務、警察とバランスを取るということはとんでもなく強い権力になるということです」
かつて、上川、小此木両氏はその役割を十分に果たした。その2人を再び同職に復活させたその背景には・・・。
「菅氏が権力維持に本気だということ。総裁残り任期の来年9月までで終わるどころか、さらに権力を掌握し長期政権を目指している証拠なのです」(前出官僚OB)上川法相は、就任後早速「検察官の定年規定を改める検察庁法改正案」について、来年1月召集の通常国会に再提出する方針を示唆した。改正案は今年の通常国会に提出されたが、官邸の思うがままの検察庁コントロールにつながると世論の猛批判を浴び、結局廃案となった。しかしこれを再提出するという。どんな中身になるかなど上川氏は明らかにしていないが「再提出の可能性を示しただけでそれは早々の牽制になる」(自民党政務調査会担当幹部)のである。
◆内閣人事局を継続
菅氏はこれまで権力維持のために、官房長官就任から2年後に内閣人事局を作ってフルに機能させてきた。就任直後の12年12月に私は菅氏にまず何をやりたいかを聞いたところ、即座にこんな答えが返ってきた。
「内閣人事局をやるつもりだ」
私は政策を訊ねたつもりだったが、菅氏は官僚幹部約600人の人事を官邸で牛耳る内閣人事局制度を最優先に挙げたのだった。
菅氏はこうも付け加えた。
「官僚の人事を握れば官邸主導をやれる。霞ヶ関の縦割りや既得権は簡単には壊せない。安倍政権の政策を実行し政権を守るためには官僚をグリップしておかなければならない」
過度に官僚の人事を握るということは、逆にこれに怯える官僚たちが官邸に忖度する弊害が生まれる。モリカケ事件やその後の公文書の破棄などは、そうやって官邸に忖度した結果だ。
だが、そうした批判に対しても菅氏は総裁選のテレビ討論会やインタビューなどで「制度は見直さない」、「言うことを聞かない場合は異動させる」などと明言。一歩も引くつもりはない。
◆河野行革相の意味
河野太郎氏を行政改革担当相に任命したことも官僚を締める手段の一つである。河野氏は、歯に衣着せぬ発言や批判覚悟の思い切った政治行動で知られる。
じつは菅氏との信頼関係は厚い。「菅さんと河野さんは、神奈川で当選同期。菅さんは昔から『同期では河野太郎は総理候補』と話していた。何事にも遠慮せずに切り込んでいく河野さんを、菅内閣の1T目1番地の、官僚政治の打破、縦割り行政の打破の担当である行革相にしたということは、官僚にどんどん注文を付けるし、人事も引き続き人事局で握っているわけだから官僚は怖いはずだ」(菅氏に近い自民党無派閥議員)
長く安倍一強政権で権力の中枢にいた面々は、安倍氏がいなくなっても引き続き権力を握りたいという狙いがあった。据わりがいいのが菅氏ということだったのだ。だから早々に菅氏を支持した。
「菅氏を推薦した5派閥、麻生派、細田派、竹下派、二階派、石原派の狙いはまさにそこ。新内閣と言っても、麻生太郎副総理兼財務相、細田派からは西村康稔経済再生担当相や萩生田光一文科相、竹下派は茂木敏充外相らはみんな留任。そして、二階派はどうしても入閣させたい平沢勝栄氏を押し込んだ。菅氏も、自分を推して首相にしてくれた以上、彼らを留任させるしかなかったという側面はある」(自民党ベテラン議員)
自民党4役もそうだ。
菅氏を早々に支持し、首相への流れを作った二階俊博氏はもちろん幹事長留任。そのほかの下村博文政調会長は細田派、佐藤勉総務会長は麻生派、山口泰明選対委員長は竹下派など推してくれた派閥に均等に当てたが、足元の自民党の若手議員からでさえ「明らかに派閥均衡。菅さんの政策的な志向や選挙態勢を考えた人選ではない」と皮肉が聞こえる。
ところが、菅氏は一見この窮屈に見える環境などまったく意に介していないということなのだ。留任がやたら目立つ変わり映えのしない組閣と思いきや、そこでは目立たぬように再び法務、警察を押さえ込み、再び官僚人事を握り、河野氏の行動力なども前面に出して権力集中と掌握をはかる-。その実像は、長期の独裁政権を目指す以外の何物でもない。
菅政権が目指すこの国の形や外交など、国家観についてのメッセージはまだ不十分だ。臨時国会での所信表明や国会論戦でチェックしなければならない。
携帯電話料金の値下げや地方銀行の再編、中小企業の再編、カジノを含む統合型リゾート(IR)推進やインバウンド、外国人労働者受け入れ問題など個々の政策は注目されるが、一方で精力的に会合を持っている有識者などは新自由主義者が多く、格差などを生んだ小泉政権の再来が危惧される。
また、政権基盤を強化するためには、菅首相自らの手で解散を打ち勝利することが不可欠。内閣支持率の高いうちの解散ならば年内という線も十分にある。
じつは極めて強固な内閣。野党には腰を据えた論戦や政局対応が求められる。
<すずき てつお・ジャーナリスト>
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