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2021年01月21日
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テーマ: ニュース(96532)
カテゴリ: ニュース
新型コロナウイルスに対する日本政府の取り組み姿勢は、世界の標準に比べてどうなのか。思想家の内田樹氏は、1月8日の「週刊金曜日」に、次のように書いている;




 武漢の新型コロナウイルス感染のニュースが入ってきたのが1月。ダイヤモンドプリンセス号での感染者発見が2月。それから後、年末に至るまで、パンデミックは世界に拡大し、収束の気配がない。

 このような事態を去年の暮れに私はもちろん「展望」していなかった。けれども、考えてみると、人獣共通感染症の蔓延はかなり蓋然性の高い出来事なのだった。2002年のSARS、2009年の新型インフルエンザ、2012年のMERSと10年間に3回アウトブレイクが起きている。だから、遠からず4回目が来ることは高い確率で予測されていたはずである。でも、どこの国もそのための十分な備えをしていなかった。私たちはそのことにもう少し驚いてよいと思う。

 感染症専用病棟、人工呼吸器、防護服、検査キット、マスクなどの備蓄が十分だったのは中国くらいである(どこのメーカーも「世界の工場」中国にアウトソースしていたのである)。必要なものを、必要な時に、必要な量だけ供給して在庫を限りなくゼロに近づける「ジャスト・イン・タイム生産方式」の信奉者たちにとって、いつ来るかわからない感染症のために医療資源を備蓄することは全く非合理なふるまいに思えたのである。医療品の戦略的備蓄と「在庫ゼロ」とどちらが合理的であるのか今ごろになってわかっても死んだ人間は帰ってこない。アメリカは感染初期には医療資源の不足で苦しんだ。イタリアも早く医療崩壊したが、EUの盟邦はイタリアへの医療品の輸出を禁止した(イタリアを救ったのは中国だった)。日本も感染初期にはほとんど何の備えもなかった。それは他の国とそれほど変わらないから日本政府を責めることはできない。

 けれども、「その後」がよくなかった。五輪開催のために感染症のリスクを過小評価し、感染規模を把握するための組織的な検査システムの設計を怠り、医療機関への支援を渋り、感染拡大期に国民に不要不急の移動を推奨した。それでも死者数がアメリカの100分の1にとどまっているのは(SARSの時に国内で感染者が一人も出なかったのと同様に)、理由不明の「天祐」という他ない。

◆悲観的未来を考えない

 2年前にこんな文章を書いた。キーワードを伏字にしてあるが、とりあえず読んで欲しい。

===

 わが国の指導層の人々は****がどういう「最悪の事態」をもたらすのか、その被害を最小化するためには今ここで何を始めればよいのかについては何も考えていません。 悲観的な未来について考えると思考が停止するからです。 (略)それよりは無根拠に多幸症的な妄想に耽っている方が「まだまし」だと判断している。

 楽観的でいられる限りは、統計データを都合よく解釈したり、リスクを低く見積もったり、嘘をついたり、他人に罪をなすりつけたりする「知恵」だけはよく働くからです。そうやって適当な嘘や言い逃れを思いつく限りは、しばらくはおのれ一人については地位を保全できるし、自己利益を確保できる。でも、悲観的な未来を予測し、それを口にしたとたんに、これまでの失敗や無作為について責任を問われ、採るべき対策の起案を求められる。そんな責任を取りたくないし、そんなタスクを課せられたくない。だから、悲観的なことは考えないことにする。早めに失敗を認めて、被害がシステム全体には及ばないように気づかった人間がむしろ責任を問われる。非難の十字砲火を浴び、謝罪や釈明を求められ、けじめをつけろと脅される。それが日本社会のルールです。システム全体にとっては「よいこと」をしたのに、個人的には何一つ「よいこと」がない。だったら、失敗なんか認めず、「すべて絶好調です」と嘘を言い続けて、責任を先送りした方が「まだまし」だということになる。(略)

 どんな世の中にもそういう利己的な人間は一定数存在します。これをゼロにすることはできません。けれども「そういう人間」ばかりが統治機構の要路を占めるというシステムはあきらかに病んでいます。その意味で現代日本社会は深く病んでいます。

===

 これはアンソロジー『人口減少社会の未来学』(文芸春秋)の序論として書いたものの一部である。伏字にした****は「人口減少」である。

 だが、****を「新型コロナウイルス」に置き換えても、ほぼそのまま文意が通る。ぜひもう一度頭から読み直して頂きたい。****には「赤字国債」でも「北方領土」でも「日韓関係」でも何でも代入することができる。だから、今パンデミックで起きているのと同じような政治の機能不全は他のどのようなリスクファクターによってもほぼ同型的に反復されることが知れる。 われわれが今罹患しているのはウイルスがもたらす病ではなく、統治機構の機能不全がもたらす病なのである。

 だから、私の描く2021年の展望もまったく楽観的なものになりそうもない。

 パンデミックは収束の見通しが立たない。アメリカの感染者数は2000万人を超え、死者は35万人に達した。第二次世界大戦の死者数29万人を超える。ロンドンは変異したウイルスの感染が広がり、再びロックダウンに踏み切った。各国で開発が進んでいるワクチンが「ゲーム・チェンジャー」になる可能性はあるが、接種体制が整うまでには長い時間がかかるだろう。先進国から順に「鎖国解除」が進んでも、クロスボーダーで人と商品が超高速で行き交うあの「グローバル資本主義」の世界はもう戻ってこない。

◆五輪中止のシナリオ

 東京五輪も中止される。今でも開催できないことはみんなわかっている。けれども、ここで傷の浅いうちに撤収しようと提言する人間は失敗の全責任をおしつけられるリスクがある。だから誰も言い出さない。「すべて順調です」と嘘と知りながら言い続けて、ある日いきなり天変地異のようにして「五輪中止」のニュースが外から到来して、全員が被害者のような顔をする・・・というシナリオがもうできている。

 丸山真男(まるやままさお)が大日本帝国戦争指導部を手厳しく批判した通り、「ここで『現実』というものは常に作り出されつつあるもの或は作り出され行くものと考えられないで、作り出されてしまったこと、いな、さらにはっきりいえばどこからか起こって来たものと考えられていることである」(『現代政治の思想と行動』未来社)。

 自分の発意で始めたことなら止めることもできる。けれども、日本ではすべて巨大イベントは「いつのまにか、どこからか起って来たもの」なので、誰もその成否について責任を問われることがない。成功したら「私の力です」と手柄顔をするタイプの人間は、失敗する時にはいちはやく姿を消している。そういう「ろくでもない人間」が世の中に一定数いることは仕方がない。でも、そういう人間たちばかりが統治機構の要路を占め、莫大な税金をドブに捨てるように使っているのを見ると、日本社会の病はほんとうに深いと思う。

 それ以外の国際関係についての未来予測については私の手に余る。わかるのは日本が国際社会でリーダーシップを執ったり、日本の掲げるヴィジョンに列国首脳が耳を傾けるというような場面は絶対に来ないだろうということくらいである。2021年も日本の衰運はまだ続く。
<うちだ たつる・思想家>


2021年1月8日 「週刊金曜日」 1311号 32ページ 「凱風快晴ときどき曇り-現代日本社会の深い病」から引用

 「いつ来るかわからない感染症のために医療資源を備蓄することは全く非合理なふるまいに思えた」というのは、これまでの世界の常識だったが、この記事が指摘するように、過去の10年間に3回も未経験の感染症が発生したことを考えれば、今後も新しい感染症が次々と発生する危険があることを予め想定して、対応策をいつも準備しておくという方針を確立する必要があると思います。それでも、アメリカや中国は「後手」ではあったが、なんとか病院新設やPCR検査の拡充で対応して、中国はほぼ抑え込みに成功したと言えるのではないでしょうか。ところが、日本の場合は、オリンピック開催に支障がないようにする目的で感染の実態を過小に評価する必要があると、誰が考えたか知りませんが、いまだに十分にPCR検査を実施できておらず、したがって感染の実態把握もかなり曖昧で、無症状の感染者が今日もウイルスを町中に町散らしていると考えるのが妥当で、当分収束の目途は立ちません。それにしても、この記事はいろいろ面白いことを指摘しています。”成功したら「私の力です」と手柄顔をするタイプの人間は、失敗する時にはいちはやく姿を消している。” 思えば、リオデジャネイロで原発事故は「アンダー・コントロールだ」と前首相は明言したのであったが、今はその汚染水をこれ以上貯めておけないから海に流したいなどと言い出して、地元漁協と対立してるし、感染症が拡大する一方で五輪開催は怪しいとなったら、病気を理由にさっさと辞任している。私たちは、次の選挙ではもう少し誠意のある政治家を選ぶべきではないかと思います。





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最終更新日  2021年01月21日 01時00分05秒
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