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教育現場への政治圧力が増していく様子は、ホラー映画よりおぞましい。 内心や言論、学問の自由といった民主主義の基盤が壊されていく危機的状況について、斉加さんに聞いた。
(北川成史)
映画は、2017年にMBSで放送され、優れた番組を表彰するギャラクシー賞大賞を得たドキュメンタリーを基に、追加取材を重ねて完成させた。
第一次安倍晋三政権下の06年、教育基本法が改正され、「愛国心」が戦後初めて盛り込まれたころからの教科書の変容や学校、教師への影響を描く。
試写の感想を伝えると、斉加さんは答えた。「小さな変化を20年近くまとめて眺めると、大きな変化に至っている。取材しながら、教育への政治介入の怖さを再認識した」
ドキュメンタリー番組を作るきっかけは17年、小学校の道徳教科書の検定だった。 パン屋を題材にした教科書が、国や郷土への愛着が足りないと指摘され、舞台を和菓子屋に変えた。
「笑えるような出来事に検定制度の問題が凝縮しているのでは」。斉加さんは番組の素材を探す中、1本のニュースを見つけた。
12年2月、下野していた安倍氏が松井一郎大阪府知事(当時)とともに、保守色の強い教科書を推奨する日本教育再生機構が大阪市で開いたシンポジウムに登壇。松井氏らの教育基本条例案に賛同したという短い内容だったが、編集前の映像を見直し、安倍氏の発言の数々に衝撃を覚えた。
「教育に政治家がタッチしてはいけないものではない」。 日本人のアイデンティティーを備えた国民を「つくる」とも言った。
斉加さんはシンポジウムを「政治主導で教育行政に影響力を及ぼす出発点」ととらえ、映画で象徴的な場面に据えた。事実、安倍氏は同年12月に首相に返り咲くと、教育への政治関与の仕組みを築いていく。
政府の統一見解に基づく記述をするように教科書検定基準を変更。 教育委員会制度に手を加え、教育行政で首長権限を強めた。 戦前・戦中の教育の基本方針「教育勅語」について、閣議決定で教材利用を認めた。
安倍路線を継承した菅義偉政権下でも、政治圧力が深化して現れた。昨年、「従軍慰安婦」と「強制連行」の記述について、教科書会社7社が「慰安婦」「動員」などと訂正した。
政府は昨年4月、「従軍慰安婦」や「強制連行」の表現を適切でないとする答弁書を閣議決定した。文部科学省は翌月、教科書会社に対し異例の説明会を開催し、この「統一見解」を伝達。7社が訂正申請した。
「学術的知見に基づかない政府見解で教科書が書き換えられるようになるとは」。長年、教育を取材してきた斉加さんの予想を超える速さで事態は進んだ。
「映画の公開発表はロシアがウクライナに侵攻した2月24日だった。偶然の重なりに深い意味があると感じる」。斉加さんはそうかみしめ、問い掛ける。
「ロシアは侵攻を『特別軍事作戦』と言い換え、ウクライナからの残虐行為の訴えをフェイク(偽物)と主張する。『慰安婦』や『動員』と言い換えるのと、どう違うのか」。 そして「加害の歴史に目を向けないのは、子どもの学習権を奪っているのではないか」。
<さいか・ひさよ> 1987年、毎日放送入社。報道記者などを経て、2015年からドキュメンタリー担当ディレクター。担当番組に日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞を受賞した「なぜペンをとるのか-沖縄の新聞記者たち」など。著書「何が記者を殺すのか大阪発ドキュメンタリーの現場から」(集英社新書)が15日に発売。
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