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文科省の担当課長のインタビューは、2ヵ月待たされた。検定にかかわる教科書調査官の経験者には取材を拒まれた。
スクリーンに登場する教科書の変質にさらされた人たちの証言は重い。
歴史教科書の慰安婦の記述を巡り右派勢力から攻撃され、倒産に追い込まれた出版社の元社員や執筆した研究者は、当時の異様な空気を振り返る。 ベテラン編集者は教科書づくりで広がる政治への忖度を明かす。
斉加さんは圧力をかける側の保守系の人々にも焦点を当てた。ネットの影響で同一意見の仲間で固まる傾向があるだけに「メディアは、いろいろな意見を伝える使命をいっそう負っている」と考えるからだ。
率直な質問は時に、滑稽な光景を描き出していく。
保守系教科書を執筆し、「ちゃんとした日本人をつくる」のが目標だという学者に 理想の日本人像を問うと、虚を突かれた様子で「左翼ではない」。
教育再生を掲げる元首長は、慰安婦を記述した教科書の採択校に抗議はがきを何枚も送りつけたが、教科書をよく読んでなかった。
斉加さんは「自分は正しいと強固に信じる一方、言葉の軽さが混在していた」と奇妙なギャップを指摘する。だが、矛盾は省みられず、攻撃は繰り返された。
慰安婦を題材にした中学教諭の授業に、吉村洋文大阪市長(当時)はSNSで非難を浴びせた。大学教授の研究は、自民党の杉田水脈衆院議員が「反日」とやり玉に挙げた。 より広範で、露骨になる政治圧力 を作品は取り上げている。
映画化案が持ち上がった当初、消極的だった斉加さんだが、ある出来事で「ギアが入った」という。
20年10月に勃発した日本学術会議の新会員任命拒否問題だ。 科学者の代表機関の人事にまで、政府は手を突っ込んできた。
「『政治が学問を意のままにしてはいけない』というのは、人類が20世紀に戦争を繰り返し、多くの犠牲を払って手にした普遍的価値。手放していいのか」
映画の途中、改正前の教育基本法の前文が映し出される。憲法がうたう世界平和への貢献について「理想の実現は、根本において教育の力にまつべきもの」という部分は改正で削られ、「公共の精神」や「伝統を継承」が入った。
「戦前・戦中の『忠君愛国』といった教育が子どもを不幸にした反省から、戦後教育は出発したはず」。 だが、国内総生産が頭打ちとなった1990年代後半を境とし、日本の存在感の低下に抗うかのように、愛国が強調され、教科書で戦争加害の記述が減った。
政治とメディアの関係も危惧する。斉加さん自身、橋下徹大阪市長(当時)らの教育改革を批判的に報じた際、SNSで激しく非難された。「メディアと戦うかっこいい政治家」のイメージ戦略が蔓延している。
パフォーマンスに長けた政治家が人気を集めるため、権力の監視を忘れ、すり寄るメディアもある。MBSも元日特番で、松井氏ら日本維新の会の幹部ら3人を同時出演させ、政治的中立性が問題視された。
「教育と報道は民主主義社会の土台をつくる大切な役割を果たしてきた」。その未来が危うい。
「切羽詰まる思いで作った」。斉加さんは作品について、こうも言い表す。
「正解もカタルシス(精神の解放)もない映画だ」
進行中の事態にどう向き合うか。斉加さんも自らに問いながら望む。「映画をきっかけに多くの人が考え、語り出してほしい」
【デスクメモ】
ゼレンスキー大統領が米議会でロシアの侵攻を「真珠湾攻撃」になぞらえたとき、彼を英雄視していた日本の右派勢力は一転、憤慨した。大東亜戦争は正義の戦争で、ロシアとは違うというのだ。世界がとうてい賛同しないこんな底の浅い歴史観で、日本の教育がゆがめられつつある。(歩)
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