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国防総省勤務の後、エルズバーグさんは軍関連の戦略研究などを行うランド研究所に戻った。自著『世界滅亡マシンー核戦争計画者の告白』によると、自身の研究室に保管されていた大量の公文書、約1万5千ページをコピーした。その中には約7千ページの「ペンタゴン・ペーパーズ」も含まれていたが、残りは自身も関わった米国の核戦争計画をめぐるものが大半を占め、いわば「もうひとつのベンタゴン・ペーパーズ」だった。
◇ ◆ ◇
スパイ罪など12の罪で起訴され裁判が進められる中、後年に公表するつもりでコピーを兄に預けていた。当局の追跡を逃れるため、公文書は何度も場所を変えながら大切に保管されていたが、最後は埋められた崖から暴風雨で流されて行方不明となった。それでも、エルズバーグさんはあきらめなかった。手元に残った文書やメモ、その後に公開された公文書などをもとに『世界滅亡マシン』を著し、核戦略の実態を明らかにした。
たとえば-米国は大陸間弾道ミサイル(ICBM)をいつでも発射できる即応態勢をとっている。米政府はその目的について、
(1)ソ連のICBMによる第一撃を抑止すること
(2)抑止が崩れてソ連の第一撃が始まった場合に、ソ連のICBMが米国のICBM基地に着弾する前に米国のICBMを発射して報復すること、
と説明してきた。
しかし、これは「意図的な偽り」でしかないとエルズバーグさんは述べる。 本当の目的は、米国が先に第一撃を実行した後に、即座にソ連のICBM基地を破壊し、相手からの報復による米国の被害をできるだけ限定することだった。 数億人の民間人を死に至らしめる冷戦時代の核戦争計画がいかに秘密裏に進められたのか。そして、今日までどのような核の危険が続いているのかを明らかにしたのである。
「人類の歴史の中で、これほどまでに倫理にもとる(中略)政策はあったためしがない」。権力内部にいた者(インサイダー)の、良心からの叫びのような言葉だ。
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「ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露した時、生涯を牢獄(ろうごく)で過ごすこともありうると覚悟した。起訴されたものの、彼を貶(おとし)めようとする政府の不正行為が明らかになり、投獄は免れた。それでも命がけの内部告発だったのは違いない。 著書『国家機密と良心』の中で彼は、機密情報漏洩による危害よりもむしろ、明らかにした場合の公共の利益と恩恵の方が勝っていることがあると指摘している。
そのエルズバーグさんが、92歳で6月16日に他界した。彼と同じスケールの挑戦を誰しもができるものではない。だが、「良心」に基づくインサイダーの決断は社会や世界を動かせる。このことを彼の遺訓として受けとめていきたい。
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