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「明日の大臣会見で、私の担当分野に関する質問が出るようです」
連絡を受けた幹部はそうつぶやくと、部下に電話で要点を伝え「明日の朝までに想定回答を用意しておいて」と指示した。
国会では、答弁にそなえるため省庁職員が事前に議員から質問内容を聞き取る慣習がある。「質問取り」と呼ばれるこの動きが、記者会見にも広がっていることをご存じだろうか。
経産省では会見前日になると、担当職員が「ご関心は」と聞き回っている。私たちは幹事社として代表質問をする時を除き質問取りに応じていないが、他社の事情までは知り得ない。
同僚によれば、 質問取りは他省庁や首相官邸、政党の会見でも常態化しつつあるようだ。応じなければ挙手しても指名されない傾向が強まっているという。
ある省庁幹部に不満を漏らすと「優秀な閣僚でもすべての政策に通じることは難しい。やむを得ない面もあるのでは」と釈明した。私は同意できない。
もちろん閣僚も政治家も完璧ではない。知らないこともあるだろう。持ち場によっては担当分野の幅広さに苦労することも分かる。
それでも記者への質問取りは論外だ。事前に質問を把握し、手元の回答を読むだけの会見は、国民から見れば「やらせ」と大差ない。 資料が必要なら自ら想定問答を準備するべきであり、 質問を集めることはカンニングにほかならない。
質問取りは以前から存在していたが、一部の行為だった。感覚的には 2012年末に発足した第2次安倍政権以降に広がり、公然の秘密になったように思う。
私は政治取材の経験が長く、振り出しは小泉純一郎首相の番記者だった。日々のぶら下がり取材で質問取りなどなかったし、内閣官房長官や財務相を歴任した与謝野馨氏などは想定外の質問を楽しんですらいた。
そのやりとりは毎回が真剣勝負であり、取材力や答弁力を磨く場でもあったはずだ。質問取りを経た緊張感なき会見は、互いを高めあう機会も奪っている。
経産相は昨年末、斎藤健氏に交代した。安定した答弁に定評があり、何より経産官僚出身だ。政策理解に問題はない。その斎藤氏は幹部職員への年頭あいさつで「アリバイづくりの仕事は率先してやめよ」と述べた。ぜひ質問取りからやめてみてはどうか。
<経済部>
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<ふなこし・たかし> 2000年入社、政治部、上海支局、中国総局(北京)などを経て、23年5月から現職。通商産業政策を中心に担当。取材時の質問の失敗は数えきれないが、その経験がいまの自分を支えている。
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