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『辻邦生作品 全六巻――3』昨年から読み継いで、やっと読了した。この巻は、中編『北の岬』がメインで、初期の短編8作「空の王座」「献身」「洪水の終わり」「見知らぬ町にて」「叢林の果て」「夜」「ある告別」「風塵」が収録されている。短編それぞれ硬質で端正なのだが、そのなかの1篇「ある告別」が印象的だった。辻邦生の「時の魔法」ワールドの真髄かなと思う。あるいは始まり?*****中年の書き手がギリシャの旅をしている。旅の始め、ギリシャ行きの船がでるイタリアのブリンディジ港で出会った頑固な老エジプト人。これから古代ギリシャの跡を見ようとする書き手に「古代ギリシャ文明なぞ、ないのだ」「なぜって、文明は当方古代から来たのだから」と否定する書き手は打ちのめされ、旅の疲れもあり、倒れそうになる。そしてギリシャへの船上で元気な若者たち。アテネのパルテノンで、デルフォイのアクロポリスの神殿跡で、文明の墓碑銘の悲しみをたどっているときに、出会う若者たちの華やぎのすがたが輝くように眩しい。ひとことふたこと楽しい会話を交わしただけの人々。若者たちにも老エジプト人にも二度と会えないだろう...。*****「旅愁ですか?」って言ってしまえば「なあんだ」ですが、さすがは辻邦夫たるゆえん、しっかりと答えが...。おそらく大切なことは、最も見事な充実をもって、その《時》を通り過ぎることだ。若さから決定的に、しかも決意をもって、離れることだ。熟した果実がそうであるように、新しいときにみたされるために、若さからきっぱりと遠ざかることだ。ただこのように若さをみたし若さから決定的にはなれることができた人だけが、はじめて若さを永遠の形象としてーーすべての人がそこに来たり、そこをすぎてゆく若さのイデアとしてーー造形することができるにちがいない。まあ、ちょっとわかりにくいですが、時を大切に味わいましょうということで。で、このブログのタイトルがなんで『時の扉』なのか。むかしむかし頃知人に「今、女子大生に人気の作家の」といって貸してくれた『時の扉』当時、読んでもさっぱりわからなかったのでありました本の題名です。画像はネットで、短編「ある告別」の雰囲気があるようで
2024年06月23日
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ちょっと映画鑑賞に凝ってます。それにしても、こんなに見なくても~という1週間でした。 タイトル製作年国丘の上の本屋さん2022年イタリア恋人たちの予感1989年アメリカMr,Mrs,スミス2005年アメリカ夜明けまでバス停で2022年日本ギルバート・グレイプ1993年アメリカディジー・ミラー1974年アメリカ緑の光線1985年フランス暗黒街の二人1973年仏 イタリア銀河鉄道の父2023年日本新旧、さまざま取り交ぜて、自分の感だけで選んで観たのです。どれにも感動してしまい、感想を書いたらきりがない。映像の力恐るべし。きっかけは何気なく見たイタリア映画「丘の上の本屋さん」イタリアの風光明媚な丘の上の古本屋さんが舞台。初老の男性が店主。その店主がアフリカ大陸からの移民の賢い少年に、つぎつぎと本を貸して読書の指南をするのです。まあ、ありふれたストーリー展開といえばそうでもあります。しかしその本の選択が素晴らしい!というかわたしの好み。ディズニーのまんがから始まって、ピノキオ、イソップ物語、『星の王子さま』『ロビンソン・クルーソー』『アンクルトムの小屋』『ドンキホーテ』あげく、メルビルの『白鯨』やらジャック・ロンドンの『白い牙』そして『人間宣言』までも。わかりますねえ。老店主役の俳優レモ・ジローネの表情がじつにいい。アフリカ移民の賢い少年役も可愛い。本好きだからこそ、この映画に感動したのもありますが、読書とはまた違った思念がわいてくるものですね。
2024年06月09日
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『宴のあと』三島由紀夫再読。この小説のモデルは誰某彷彿させるだとか、政治や選挙にはお金がかかるを、描くところもうまいが、一人の熟女「かづ」の恋ゆくえが、生き生きと描かれているのがさすがだ。もう恋は卒業したと思ったのに、なぜ、元外相という外交官肌、野口と結婚したか。「これで身寄りのない私が、立派な野口家のお墓に入れる」とつぶやく「かづ」そしてなぜ、「お墓なんてどうでもいい」と現代の女性を彷彿させるような別れが来たか。そのストーリー展開の端正だげど現実的、流れるような文章が味わい深い。三島由紀夫さんは女性のみかた!?『闇先案内人』大沢在昌『室町無頼』垣根涼介変化に富んでいるが、さらさらっと読んでしまう。
2024年06月02日
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