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2005年11月15日
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カテゴリ: 映画
ヴェラ・ドレイク(Vera Drake)

製作国:イギリス・フランス・ニュージーランド
監督:マイク・リー
出演:イメルダ・スタウントン 

時は戦後の50年代。裕福な家での掃除婦をしているヴェラは愛する夫と子供達と共に、質素なアパートで暮らしている。慈悲深いヴェラは寝たきりの母の介護、近所の貧しい恵まれない人々の手助けをもしている。困った人を見ると、放っておけない性格なのだ。そんな妻を自慢に思っている夫のスタンは弟と共に自動車修理工場を経営している。
弟は結婚してほんの一年だが、贅沢な生活をしたがる妻とはなんとなくしっくりとこず、兄夫婦の家へ何かと訪れている。
質素だが、笑顔の絶えない幸せな家庭に恵まれたヴェラだったが、実は誰にも言えない秘密があった。


veradrake

楽しみにしていたマイク・リー監督の新作がDVDになり、早速借りてみて見ました。

いつものように、イギリス労働者階級の貧しさゆえに降りかかる不幸や災難の中にも、一生懸命生きようとする生命力の魅力を描いた作品です。




ヴェラが掃除婦として働いている家に例えられる 裕福な階級の女性たちと、貧しい女性たち が登場します。
当時のイギリスは法律で堕胎は禁じられていました。
望まない妊娠をして苦しむのは、豊かでも貧乏でもどちらも同じで平等 なのですが、堕胎の事情は天と地との違いがあります。
100フランも払える能力のある裕福な女性は 綺麗で清潔な病院で処置を受けることができますが、貧しい女性はヴェラのような安全かどうかも分からない、原始的な方法にでもすがるしかないのです。
堕胎が禁じられているのは キリスト教の「神から授かった命は失われてはいけない」という教えからきたものでしょうが、そのまま妊娠を続けては生きてはいけない女性はどうすればいいのでしょうか。
堕胎は禁じられているけれど、誰かが手助けしてやらなければ、彼女達は生きていくことはできないのです。
どの時代も  性の犠牲になるのはいつも女性 なのです。
そういった点を考えると、堕胎を助け、「若い娘さんを助けた」というヴェラの気持ちは 責められるべきことなのでしょうか。
日本では 堕胎が法律で禁止されていないため、そのヨーロッパの道徳観は理解しにくいですが、ここブラジルでも堕胎はいまだ「とんでもない事」だと一般では思われています。




それが、彼女の不在により、家族は不安と悲しみで元気がなくなっていきます。
どんなときにも支えあってきた夫婦だったので、夫のスタンは彼女のしたことが分かった後でも、彼女を信じ、家族を支えていこうとします。が、息子にとって母は聖女であり、それが覆されたことに対し、苛立ち、反抗的になります。
きっと彼には母親の行いが善意からだということは分かっていたのです。でも、そうすんなり受け入れるわけにいかないところが、母を世界で一番正しく優しい女性だと信じて疑わない息子ならではの心の葛藤なのでしょう。
夫のスタンの弟は 早く亡くした両親に代わって面倒を見てくれた兄夫婦を慕い、何かと彼らの貧しい家に行こうとします。
それが、妻の癪に障ります。妻は夫を愛しているのに、夫の心は義兄の方に向かっていることに苛立ち、強く嫉妬しています。




 なんと言ってもこの映画の見所は  道徳観 ですね。主人公は貧しくとも、家族の団欒を何よりも大切にし、周りにいる人にも気をかけ助けてやり、さらに困っている人がいると人づてに聞くだけでも助けようとする、奇特な慈悲心を持っている女性。
本人も常にやさしく、いい行いをしようと心がけているのでしょう。 そのいいことをしている、人の助けになっているという満足感が自分をも幸せにしている のです。
人は自分が「正しい」と自覚し、同時に他人からも評価されたとき、満足感を味うことができるし、自信にもつながってくると思うのです。 
しかし、主人公が信じていた「人助け」が、実は人の命をあやめるかもしれないという「悪事」だったということを徐々に知ることによって、彼女の自信も笑顔もだんだんと失われ始めます。 やさしくシンプルがゆえ、無知がゆえに、自分を逆境に陥れてしまう という、この世の悲しい現実。
「知らなかった」おろかさで、破滅の道を歩んでしまう、社会なのですよね。

 そして興味深いのが、主人公は法律を守ることはさほど重要だとは考えていなかったこと。
戦争を経験し、とにかく生きるだけで精一杯だった時代に生きていたんですね。法に触れていることを知りながら、家族にも隠して堕胎の手伝いをしてきたのは「人助け」をしていたという自信があったからこそ。
 それが、警察にばれたとき、まず彼女が考えたのは「重罪を犯してしまった」ということではなく、「家族に知られてしまう」「家族を悲しませてしまう」からの不安と恐怖でした。
それが徐々に人を殺めてしまう「殺人行為」だと知ってからは、罪の呵責にさいなまれ始めたのでした。

やさしく、つつましく、素朴に生きているだけでは、不幸が訪れてしまう厳しい現実。賢くないと、生き延びることはできないものなのですねー。





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最終更新日  2005年11月15日 06時46分36秒
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