はっぴぃーマニア

はっぴぃーマニア

<第四話>

ことわざ物語

第一話
袖すり合うも多生の縁
第二話
馬の耳に念仏
第三話
転ばぬ先の杖
第四話
天は自ら助くる者を助く
第五話
前車の轍を踏む
第六話
雀百まで 踊り忘れず
第七話
見て捨てる神あれば拾う神あり
第八話
知らぬが仏
第九話
グランプリ (競馬~第十話へつづく~)
ひょうたんからコマ
第十話
あの日のように (競馬~第十一話へつづく~)
人間万事塞翁が馬
第十一話
足長おじさん ~第1章~(競馬)
塵も積もれば山となる
足長おじさん ~第2章~(競馬)
足長おじさん ~第3章~(競馬)
足長おじさん ~最終章~(競馬)
足長おじさん ~あとがき~(競馬)

<第四話>初めての雪


むかしむかし、ある南の島に「聖治」という青年がいました。
聖治は高校卒業と同時に故郷の島を離れ、住み込みで大工修行をしていました。
暖かい島とは違ってそこは冬がとても寒く、雪のたくさん降る所でした。
修行は五年間。それが終わったら、島に帰る事になっていました。

聖治には帰りを待っている人がいました。
学生時代の頃から付き合っていて、結婚の約束もしていました。
名前は「ひな子」といい、島で小学校の教師をしていました。
ひな子の為にも早く一人前の職人になりたいと思って、毎日手を抜く事も無く丁寧に仕事をしていました。

棟梁(とうりょう)の所で、他のお弟子さん達と共に生活をしていましたが、一番よく働き、勉強もしていました。
そんな生活も残す所あと半年・・・・・

ある日の事でした。
家の修理を頼まれて何日かその家へ通い、今日が最後という日にその家のお爺さんが聖治を呼びました。
お爺さんはずっと寝たきりでした。
「お爺さん、具合はどうですか?」
聖治が声を掛けると、お爺さんはうん、うんと笑って頷きました。
「兄さん、すまんがぁ、あれを持って来てくれんかぁ」
聖治は何かと思ってお爺さんの指差す方を見ると、そこには金の仏像がありました。
とても綺麗で見るからに高そうな代物でした
。聖治はその仏像をゆっくりとお爺さんの所へ持って行きました。
「わしは、毎日この仏像を磨いてきたぁ。とても綺麗な顔をしていて、いつもわしの独り言を聞いてくれておった。」
お爺さんは笑いながら話し続けました。
「わしは、もうそんなに長くない。わしが死んだ後、この仏像一人ぼっちになってしまう。家の者はそんな物要らないと言うし・・・兄さん、すまんがぁこれを貰ってくれんかのぅ。」
聖治は、こんな綺麗な仏像を自分の様な者が頂いてもいいものかと思いましたが、ありがたく貰って帰りました。

毎晩磨き、綺麗な顔を眺めているだけで心が落ち着きました。
そして、寝る前には手を合わせて明日の無事を祈りました。

外は深々と雪が降っていました。
「ひな子が、一度は雪が見てみたい。っていつも言ってたなぁ。ここではこんなに沢山雪が降るのにぃ・・・」
窓の外を見ながら、ひな子の事を思い出していました。

しばらく立ったある日の事でした。
棟梁の奥さんが弟子の部屋を掃除している時、聖治の部屋で仏像を見つけました
「何だい?これはぁ」
奥さんはなめ回すようにその仏像を見ました。
そして、
「これは凄いじゃないかぁ、金だよ!金!どうしたんだろうねぇ、聖治はこんな物をどこで、手に入れたんだろうねぇ」
奥さんは、掃除はそっちのけで仏像を持って自分の部屋に持って行き、夕方仕事を終えて帰って来た聖治を部屋に呼びました。
「あんた、あの仏像どうしたんだい?」
聖治はびっくりしましたが、お爺さんに貰った事を話しました。
すると奥さんは
「あんたには、あんな物必要ないよ!持ってたって仕方ない。修行の身だろう?だからあれは私が預かっておくからねっ!」
そう言って行ってしまいました。
聖治はお世話になっている手前、言い返す事もできず黙ってそれに従いました。

その日の晩は物凄い吹雪で、窓が壊れそうな位の風が吹き付け、聖治はなかなか寝付けませんでした。

次の日の朝、昨日の夜の事が嘘のように、すっかりいい天気になっていました。
聖治はほっとしながら仕事場に向かうと、そこは昨日の仕事場とは違う光景になっていました。
昨晩の吹雪で作業した所が風で倒され、雪の重みでつぶされてメチャメチャになっていました。

聖治はその場に座り込んでしまい、しばらく黙ったままでした。
しかし、このままこうしていても仕方がないので少しずつ直し出しました。
自分の持ち場が遅れていては皆に迷惑がかかると思い一生懸命直しました。
他の仲間たちは自分の作業場所ではないのをいい事に手伝いもしませんでした。
今まで何日もかけてやってきた所をすぐにやり直すなんて事は出来ませんが、聖治は黙々と続けました。

昼飯も食べず晩飯も食べず、辺りはすっかり暗くなり、身体も冷えてきました。
それでも聖治はひたすら仕事をしました。
しかし、夜が更けてくると雪も降り出し、寒さから思うように手も動かなくなってきました。
聖治の身体はすっかり冷え込んでしまい感覚も無くなり気を失いそうになりながらも続けていましたが、ついにその場に倒れてしまいました。

気が付くと、そこは自分の部屋の布団の中でした。
「大丈夫かぁ?お前あの寒い中、現場で倒れていたんだぞぉ」
横には棟梁が座っていました。
「お前、無理にも程があるぞぉ!心配したじゃないかぁ。まぁ、今日はゆっくり休みなさい。しかし、お前どうやって一人で直したんだぁ、驚いたよぉ」
棟梁はそう言って、部屋を出て行きました。
聖治は意味が分からないまま又眠りに入りました。

その日の夕方聖治は目を覚まし、昨日やり残した所が気になり見に行きました。
すると、きれいに出来上がっているではありませんか!
聖治は弟子仲間に聞きました。
「俺の現場、手伝ってくれたのかい?」
「何言ってんだよぉ。お前が全部一晩でやったんじゃないかぁ。昨日寒い中でずっと居たから頭おかしくなったのかぁ?」
皆にそう言われましたが、聖治にはどうしても心当たりがありませんでした。

不思議な事もあるもんだと思いながら、部屋に帰るとあの仏像が置いてありました。
聖治は奥さんの所へ行き、
「奥さん、あの仏像返してくれるんですか?」
そう尋ねると、奥さんが、
「あの仏像を預かってから毎晩夢に出てくるんだよぉ。あんたの所に返してくれぇ、返してくれぇってあの仏像が言うんだよ。私だんだん恐くなってきてねぇ・・それに本当は質屋に入れようと思ってたんだけど、そんなことしたら仏像さん怒りそうだからもうあんたに返そうと思ってね。すまなかったねぇ」

その日の晩、今度は聖治の夢に仏像が出てきました。
「すみません、どうか私をあのお爺さんの所へ連れて行ってもらいたいんです。お爺さん、『今は一人ぼっちで、誰も会いに来てくれない』と、寂しがっているんです。お願いします。」

次の日、朝から聖治は昨日の夢の事を考えていました。
とりあえずお爺さんに会うだけ会ってみようと家を訪ねてみると、お爺さんはもう亡くなっていました。
お墓の場所を聞き行ってみると、薄暗い場所で枯葉も沢山落ちていて寂しそうな所にひっそりとありました。

聖治はすぐにお墓の周りを掃除し始めました。
「俺の夢で仏像が言ってた事は本当だったんだ。」
そう思い仏像を取りに帰り、墓石の横に置いてそっとお爺さんと仏像に手を合わせました・・・・

月日は流れ、サクラ咲く春がやって来ました。
約束の五年間が終わり、聖治は島に帰りました。

そして、その年の十二月、めでたく二人は結婚しました。
その日の夜は、二人にとって忘れられない出来事がありました。
それは・・・
初めて島に雪が降ったのです・・・静かな、静かな雪の降る夜でした・・・・

ことわざ辞典
天は自ら助くる者を助く「てんはみずからたすくるものをたすく」
神様は、人に頼らないで自分の力で努力する者を助け、力を貸してくれる。と言う意味です。
聖治の頑張っている姿を、神様はきっと見ていたんでしょうね。


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