ちほの転び屋さん日記

ちほの転び屋さん日記

2007年05月18日
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先日の日記

けど、故意に被相続人を殺した場合は「相続欠格」になってしまいますので(民法891条1号)、不法でない移転の例としてあげるのは適切ではないでしょね。相続欠格なのにそれがばれないまま相続できたとすれば、それは「不法な」相続なはずですので。

そもそも、刑法学説でいう「不法な」移転というものをどうやって判断するのかは、不法の中身が不明なのでよくわかりません。たとえば、詐欺行為による財産の移転は、民法上は取り消しうるにすぎないし被詐欺者が事後的に承認したとしても、刑法上は詐欺罪が成立する不法な移転と評価されるわけです。また、奪取罪でも、民法上財産の所有権につき取得時効が成立したとしても、刑法上は不法な移転と評価されるわけです。

そうすると、相続についても、民法上は問題のないものだったとしても、刑法上は不法な移転だと評価されることもあるんじゃないでしょうか。もちろん、相続事例の場合は「直接性」で制限できるから別にいいってことかもしれませんが、そのほかの例で、単に他の法律上適法と扱われている、という一事だけから、刑法上も不法な移転ではない、と即断するのはおかしいんじゃないか、ということです(ただし、引用元の「リーガルクエスト刑法各論」では直接性ありとなっていますから、相続事例で強盗罪の成立を否定することはできないはず)。
というよりも、先日の日記にも書いたとおり、強盗罪が成立するから「不法な」移転と評価されるのであって、財産移転だけを独立に取り出して「不法な」移転かどうかを決めてから強盗罪の成否が判断される、というのはなんか順番が逆なようにも思えます。
いずれにしても、ここでいう不法の中身がよく分からないまま、ある事例につき、不法だとか不法じゃないとか言っててもあまり有意義ではないでしょ。

「相続欠格」の問題が生ずるのを回避するためには、たとえば、夫Aが、妻BにBの父Cを相続させるため、(Bと共犯関係なく)Cを殺害した、という事例を想定したほうがいいんでしょうね。ただこの場合には、BがCに財産を得させるための行為が強盗罪になるか、という別の論点もでてきますが。

そもそも、なぜ相続事例で強盗罪を成立させるべきではないんでしょうか。
親殺しが強盗殺人罪になってしまうと、他人を殺すよりも親殺しを重く評価するという尊属殺人罪(刑法旧200条)の復活みたくなるからですか(もちろん、子→親事例だけに限られるわけではありませんが)。もしそうなら、それを理由にすればいいのであって、直接性なんてものでごまかす必要はないでしょう。

もし実行行為性が否定できないのであれば、それにも係わらず強盗殺人罪の成立を否定する理由はどこにあるんでしょうか。

場合によっては、殺害した時点では(2項強盗の既遂とするのではなく)1項強盗罪の未遂とし(ただし殺人が既遂なので強盗殺人罪としては既遂)、実際に財産を取得できた段階で、危険が現実化したということで1項強盗罪の既遂となる、という構成でもいいんじゃないですか。この場合は、因果関係の認定の問題がでてきますが(とはいえ法定刑はどっちでもかわらない)。

死期をさとった父親が全財産を第三者に寄付しようとしているのを知って、自分の相続する財産が失われるのを防ぐために父親を殺した、というような事案でも、強盗殺人罪を否定していいのかどうか。第三者に対する(もらえるはずという期待権を侵害したことを理由とする)強盗罪でも成立させればいいんですか。

なんにしても、相続事例につき一律に強盗罪の成立を否定するのはおかしいんじゃないかと思います。

さて、もうひとつの事例である、経営者交代事例の場合はどうなんでしょう。
1人株主かつ代表取締役Cを唯一の相続人Bが殺害し、自己を代表取締役に就任させた場合には、株式とともに代表取締役としての地位も取得したといえるのかどうか。相続事例と経営者交代事例が交錯する場合の問題。
こういう相続がからまない普通の経営者交代事例の場合には、実行行為性が欠けるとするか因果関係が欠けるとすればいいんでしょうかね。





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最終更新日  2007年05月18日 10時45分14秒 コメントを書く
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