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2009.09.03
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カテゴリ: BL小説

『優しくて冷たい果実(後編)』たけうちりうと

あ~おいしかった。じゃないわ、おもしろかった。満腹満足。幸せ~。もう感想なんてどうでもいい。よいお話だったわ。
老舗料亭乗っ取りの陰謀も片付いて、若き亭主と板前のほんわかラブ。年下だけど雇用主だから上手に出てリードしている亭主が健気。命令口調でも受なんだがね。

惜しむらくは、この主人公の通草(あけび)くんが、落ち着き払っていてとても20歳とは思えないところだ。実はその落ち着きぶりは天然のフリーズ体質だったりするんだけど、それにしても人のあしらい方がお見事。誰に対してもこういう対応ができればなあと架空の20歳の日本料理店亭主を尊敬してしまう。

先に読んだユーレイ刑事のお話もそうだったけど、これもタイトルが抽象的すぎるよ。隠喩がストレートに通じるほど熟練した読者相手に書いているわけじゃないのに。返す返すも惜しいなあ。そしてなんでかパレット文庫だし。

BLとしては半端で脇役のほうが気になってしまうストーリーだけど、じいちゃんの孤独に気付き、50年以上前の男同士の友情以上の想いを、すべてを受け入れてくれているであろう女性を触媒にして、70代にして同居という形で叶えるなんて、なんて気の長い! そしてプライドゆえに左前になっていく老舗料亭を自分の代でやめようと決心するあたりで、不覚にも落涙しそうになった。だめだ。20歳の主人公より70代の老人の気持ちのほうがよくわかる。

料理の数々については敢えて書かない。だって自宅で再現不可だもん。書いているうちにきっと、あらゆる手段を使って高級料亭予約しそうになっちゃうもん。残念ながら5代目が亭主を務める創作和風フレンチなどというのはもうさんざん食べてきたのでどうでもよくて、せっかく若いのに食通をうならせる腕前をもつ板長がいるのに、彼にじいちゃんが亭主を勤めていた「十和田」の料理を作らせないのはなんとももったいない。

対価とのバランスにもよるが、フレンチのテイストが入った和食って所詮カジュアルだからさ、どうせなら庶民の手のとどかない和の世界の手間のかかりかたを読みたかった。「TOWADA」のほうの、カップルで選ぶプリフィクスとか、和の老舗はやっちゃいけないよ。
ああ~ちゃんとした格式の高い料亭でゆっくりご飯食べたくなった。フレンチなんてどんなグランメゾンでも予算さえ折り合えばいけるけど、格上の料亭なんてそもそも一見さんは入れないからほとんどマスコミに露出しないし、すごいもの出しているのは知っているけどそこで食べてるえらい人たちは箸もつけなかったりするんだよ(怒)。秘書になっておそばに侍って、せめて残りを折り詰めにしてもらって帰ってきたい。なんという庶民な考え(笑)。

たけうちさんの作品を読むと、印象的な台詞や修辞が多くてついマークしてしまう。ディテールが凝っていて、その感覚が自分の好みとマッチングする作家さんは、BLではたけうちさんぐらいだ。入院中、病院の不味い食事に文句ばかり言っていた祖父に対して想い人の「弟分」が言う「生きていてこそのうまい不味いだからな」とか、3種類の塩を舐めて産地を当てる料理評論家のおじさんとか、もうしびれるほどかっこいい。この作品をこれだけもちあげるのは私だけかもしれないな。



えーっと、小説としては、たけうちさんの作品にはよくある、「エピソードを消化しきれずケツまくって逃げる」ラストだった。もっとページがあればいいのに。いや、こういうのは最初のプロットの段階で、要素を盛り込みすぎた結果なのかな。料理シーンを削りたくなくて書きすぎたゆえに肝心のストーリーがビシッと決まらないというか。でも料理(食べること)に関心のなさそうな作家さんが多そうなBL界だからこそ、たけうちさん、もうひとふんばりしてほしい。





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Last updated  2009.09.03 07:42:32
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