
実は各方面にご心配をかけないようにということで黙っていたのですが、去年の暮れに私の右手が麻痺状態になるという事件がありました。クリスマスディナーが終った夜、パソコンの前で肘掛椅子に座ってうたた寝をしてしまい腕の神経を変な風に圧迫してしまったのが原因なんですが、、、。よく腕枕したり、妙な寝相で腕がしびれることがありますが、あれのものすごくひどい状態です。まあ、布団に移ってちゃんと寝れば明日の朝には良くなるだろうと、たかをくくっていたんですが、それがとんでもないことに、、、。翌朝起きてみると、少しも良くなってません。手のひらは、幽霊のように垂れてまったく力が入らず、箸どころかスプーンすら持てない。パソコンのマウスをクリックする指が1ミリも上がりません。例えば、ピアノを弾くとして手のひらを下に向けて鍵盤を押す時に指を上げますよね!あの動作が完全にできない、指もパッと開かないわけです。当然包丁どころか鍋だって持てるはずがありません。
麻痺はほぼ手首から先に限られていて、同じ側の顔面の麻痺などという脳梗塞的な症状はないのですが、さすがにこれは大きい病院行くしかないなということで、習志野第一病院に行って診察受けました。私の親父は52歳で脳梗塞で亡くなっているんです。ちょうど私もその時51歳と11カ月でしたから、内心少しビビってました。
ベテランの外科の先生は、膝蓋腱反射(膝を叩くと足がぴょんと上がる反応)を調べるような、小さなプラスティックハンマーのようなもので私の腕のあちこちを軽くたたいて、指の反応を見るような診察をしてくれました。結果は、「かなり太い神経が圧迫されて、麻痺してるだけですな。神経が切れてしまったり、壊死しているわけではないから、いずれは回復しますが、こういうのって結構時間がかかることがあるんですよ。早くて、一月。長ければ数カ月。場合によってはリハビリが必要なこともありますよ。まあ、うちは良いリハビリの先生もいるからその時は頑張りましょう。」とのこと、、、マジですか!?数か月?えーーーー、仕事どうするんだよ!!!
幸いクリスマスディナーは終わっていたのが、何よりでしたが、毎年暮れはフォアグラテリーヌやスモークサーモンの販売があります。そのサーモンを5キロ余りスライスしたり、フォアグラテリーヌも5本も仕込まねばなりません。なのに、右手は全く使用不能というわけです。若いころから数々の修羅場をくぐってきたんですが、今回はもう無理かなとも思いましたよ。マダムも「皆さんにわけを話して今年はテリーヌとサーモンは勘弁してもらおうよ。」なんて言い出すくらいでしたからね、、、。
それでも、右手が取れて無くなっちゃったわけじゃないから、やれるところまでやってみようということで、まずは、練習のために自家製ハムを切ってみたんです。氷温庫に入っているので、-5℃前後ですからやや凍っているのでかたいです。左手で右手を開かせて右手に何とか刃渡り40センチの大きな牛刀を持たせます。幸い少しですけど握力は残っていたんです。たぶん普段の半分もないでしょうが、、握れても開けない感じです。それでやってみると、感覚としては別人の手に手を副えて切り方を教えているような妙な感じでしたが、切れたんです!たぶんその時、脳はかなりの成功報酬物質を分泌したでしょうね「よっしゃ!絶対にやって見せるぞ!」という気になりましたからね!ところがサーモンを切るのが難しい!マダムが「私手先の器用さには自信あるからやってみる」と言って切ってみたんですが、一切れもきれいに切れません。「こんなに難しいことをすいすいやってたんだね、、、。」と唖然とする始末。まあ、自分でやるしかないわけです。
右手に何とかナイフを持たせ、ナイフの微妙なコントロールは右手に担当させ、その右手に左手を副えて何とか5キロのサーモンを切りました。日ごろの修行の成果ですね。やればできるもんです。フォアグラテリーヌは、フォアグラを縦に裂いて中から太い血管を取り出す作業がかなりデリケートなんですが、これは左手がやってくれました。若いころから楽器をやったりして、左手もたぶん普通よりは器用なんでしょう。そうして何とか乗り切ったわけなんです。正月休み中も、平目の昆布〆を薄造りにしたりして、リハビリしてましたね。特殊なやり方で生牡蠣だってあけてました。一歩間違えば大怪我なやり方なんですが、、、。リハビリは真剣勝負です。
正月明けても、少しずつ回復はしているのですが、なかなか麻痺は良くならず、、、、往生しました。細かい物をつまみ上げたり、字を書いたり、楽器を弾いたり出来るようになったのはなんだかんだ、3月に入る頃でした。2月いっぱいは違和感ありましたね。
それで、怪我の功名なんですが、麻痺した右手が回復に向かう時に普段よりも一層集中して、ナイフを使うようになっていたんですね。4月になって生ハムが来てから、切っていると「あれ!なんだか前より上手になってんじゃねぇ!」と思ったんです。以前より力を使わずにハムをより薄く切れるようになりました。
しかし一時は、料理人生命もアウトか?と思ってしまったくらいひどい麻痺でしたからね。今じゃ笑い話ですが、大事件だったんですよ。というわけで、中村雅信52歳、転んでもただでは起きない親父です。
技の生ハムを食べてみてくださいね!美味いですよ!
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