アメリカとロシアの政府高官が1月10日にジュネーブでウクライナ情勢をテーマにした協議を始めた。アメリカはウェンディ・シャーマン国務副長官、ロシアはセルゲイ・リャブコフ外務次官が中心だ。
ロシア側の要求は安全保障上に関係している。アメリカがNATOを東へこれ以上拡大させず、モスクワを攻撃するシステムをロシアの隣国に配備せず、ロシアとの国境近くで軍事演習を行わず、NATOの艦船や航空機をロシアへ近づけず、定期的な軍同士の話し合いを実施、ヨーロッパへ中距離核ミサイルを配備しないといったことを保証する文書を作成するように求めている。
すでにアメリカ/NATOは、ドイツが1941年6月に「バルバロッサ作戦」を始める直前とほぼ同じ場所までロシアへ近づいている。今の状態が「レッドライン」であり、それを踏み越えるなとウラジミル・プーチン露大統領は警告したのだ。
これに対し、EUの外務安全保障政策上級代表を務めるジョセップ・ボレルは自分たちの行うことにロシアは口をはさむなと発言、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は1月7日に「ロシアのさらなる侵略に対する強力な報復を準備している」と主張した。ふたりはプーチン大統領に対して唾を吐きかけたと言える。
ウクライナはアメリカの対ロシア戦略で重要な場所にあり、そこへアメリカ/NATO軍を配備できれば、いつでもロシアに止めを刺せる。ロシアの西側に支配地を築くことは19世紀以来、アングロ・サクソンの戦略だ。
カザフスタンの混乱は、こうしたアングロ・サクソンの戦略に対抗するロシアの手を縛ることになる。この混乱は外国勢力が仕掛けたクーデターだったことが明確になってきたが、もしクーデターが成功していたならば、ロシアだけでなく中国も厳しい状況に陥っていただろう。ロシアと中国に接する戦略的に重要な場所にあるカザフスタンはウランやレア・アースの産出国であり、ロシアの宇宙開発でも重要。カザフスタンでクーデターを成功させ、ウクライナを完全に制圧するというプランをアメリカは立てていた可能性がある。
しかし、クーデターは失敗した。1月6日にはカザフスタンの安全保障会議で議長を務めていたカリム・マシモフが解任され、反逆罪で逮捕されたと伝えられている。未確認情報として、ヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領の甥も反逆罪で拘束されたという。
2014年にあったウクライナのクーデターでは治安部隊の隊員がネオ・ナチの戦闘員に惨殺されたが、今回も17名以上の隊員が殺されている。首を切り落とされた人もいるようだ。
カザフスタンではCSTO(集団安全保障条約)の平和維持部隊が速やかに派遣された。重要な施設を警備しているようだが、カザフスタンの治安部隊を支えるというメッセージにもなっている。逆に、国外から侵入したジハード戦闘員に対しては脅威だ。アメリカ政府も動揺しているだろう。