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2026.09.04
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カテゴリ: Novel
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・瀬尾まいこの『ありか』は、26歳のシングルマザー・美空と、5歳の娘・ひかりを中心に、血縁だけでは説明できない家族の形と、「自分がいていい場所」を描いた長編小説。2025年4月刊行、368ページ。瀬尾まいこ自身が「これまでの人生を全部込めたと言い切れる」と語る作品でもある。

・美空は4年前に離婚し、工場で働きながらひかりを育てている。母親との関係には長年苦しんできた一方、自分と娘との生活には確かな幸福を感じている。その母娘を支えるのが、元夫の弟である颯斗だ。兄と美空が離婚した後も、颯斗はひかりの叔父として二人を気にかけ、日常的に手を差し伸べる。同性を好きになる彼自身もまた、過去の葛藤や生きづらさを抱えている。物語は、ひかりが小学校へ進むまでの一年間を軸に進む。美空は、母親との関係、娘への愛情、仕事、そして颯斗との奇妙だが温かなつながりの中で、「家族とは何なのか」を少しずつ考えるようになる。

やがて、ひかりの成長や颯斗の事情、美空自身の過去が重なり合い、彼女はこれまで「仕方なく受け入れてきた人生」から、自分自身で居場所を選ぶ人生へと踏み出していく。

・本書の中心にあるのは、非常に素朴な問いだ。 血がつながっていることと、大切にされることは同じなのか。 美空には母親がいる。しかし、その母親との関係は安心できるものではない。一方、血のつながりという意味では「家族」から外れていくはずの颯斗が、美空とひかりにとって大きな支えになっている。ここで瀬尾まいこは、「理想的な家族」を描こうとはしない。むしろ、 家族という制度と、家族という実感は別物だ ということを静かに描く。家族だから愛するのではない。愛情を持って接し、時間を共有し、相手の存在を気にかける。その積み重ねによって、あとから「家族」と呼べる関係が生まれていく。

・本書でもっとも鋭い部分の一つが、親子関係への視線だ。美空は母親に対して複雑な感情を抱えている。そして自分が母親になったことで、かえって母への疑問が深くなる。「親になれば、親から受けた恩が分かる」と一般には考えられがちだ。しかし美空にとっては逆だった。 自分が親になったからこそ、「なぜこの人は私にこんなことをしたのか」と分からなくなる。 これは本書の重要な逆説だ。親子だから許さなければならない。育ててもらったのだから感謝しなければならない。そうした「家族だから」という道徳そのものを、作品は静かに問い直している。

・颯斗は、この作品を単なる「母と娘の物語」にしない重要な人物だ。彼は美空の元義弟であり、ひかりにとって叔父。しかし同時に、彼自身が社会の中で自分の居場所を探している人物でもある。美空とひかりを支える彼もまた、誰かに支えられる必要がある。ここに本書の面白さがある。 「支える人」と「支えられる人」は固定されていない。 今日はこちらが誰かを助け、明日は自分が誰かに助けられる。人間関係とは、そういう不安定な相互扶助によって成立している。家族を「役割」で考えると、この関係は説明しにくい。しかし「気にかける」という一点から見ると、非常に自然に見えてくる。

・「ありか」とは、文字通りには 人や物が存在する場所、居場所 を意味する。このタイトルは、本書全体の核心を象徴している。美空が探しているのは、単なる住所ではない。 「私はどこにいていいのか」 という人生の居場所だ。母親の娘として生きてきた過去。ひかりの母として生きる現在。そして一人の人間として、これから何を選ぶのか。物語が進むにつれ、美空は「自分のありか」を他人に決めてもらうのではなく、自分自身で選び取ろうとする。

・『ありか』は、「家族とは誰か」という小説であると同時に、「自分はどこにいていいのか」という小説だ。 血縁。結婚。親子。会社。社会。人間はさまざまな関係の中に置かれる。しかし、その関係が自分の居場所になるとは限らない。だから最後に必要なのは、誰かから与えられた「居場所」ではなく、自分が大切にしたい人たちと、自分自身の手でつくっていく「ありか」なのだ。30代・40代という、人生の役割が急速に増えていく時期に読むと、この物語は「家族小説」から静かな人生論へと姿を変える。 幸せは、遠くにあるものではない。すでに誰かとの間にあるものを、見つけられるかどうか。 『ありか』という題名には、その小さな発見への祈りが込められている。

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Last updated  2026.09.04 00:00:09
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