2005/02/15
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カテゴリ: 下町人情物語
探し物をしていて、懐かしいものを見つけてしまいました。16歳の頃の淡い恋心を歌った曲です。私が作詞して、曲は昔のバンドのメンバーが作ったもので、コンテストに応募して入賞し、何とNHKFMラジオで流れたんです。1回だけ。

部活のために朝早いバスに乗って通学していた私は、ある日、そのバス停でこの下町にはそぐわない、フェルメールの「天文学者」みたいな高校生と出会います。整った目鼻立ちに銀縁の目がね、肌は透き通るような白さです。普通の学生服なのに、それをシャープに着こなして、まるでオートクチュールに身を包んだ貴公子のようでした。

数日は、朝、そのバスに乗るのが楽しみで、だからどうするわけでもないのですが、「今日も会えた」日には一日が楽しく過ごせたものでした。「きれいな人だな」と、思ったのは私だけではなかったようで、その時間のバスが、やけに女子高生が並んで混むようになりました。

しまいには、30メートルくらい並ぶようになってしまい、バスに乗れないほど混んできたので、しかたなく、もう少し早い時間のバスに切り替えました。すると、なんとそこには、別の見目麗しい高校生がいるではありませんか。この町はいったいどうなってしまったのだ。モデル事務所でも出来たのか、ジャニーズの出張所か。そして、このバスも混んでいました。

あるとき、その二人が兄弟であることが判明。私はどちらかいうと、弟の方がタイプでした。テレビ映画で見たカーレースものの主人公にちょっと似ていたので、その人の名をとって「フェビアン」と心の中で呼んでいました。

告白するほどの勇気はないので、フェビアンの横顔をよくノートにスケッチしていました。日記にも時々登場。学校で友達に話したら、私にもそんな奥手な一面があったのかと驚かれました。しかし冬のある日、突然の急展開を迎えます。

こんなことは初めてでした。帰りのバスも一緒になったのです。外は、小雪が降り出していました。私はそのとき、「ライ麦畑でつかまえて」の文庫を読んでいたのですが、斜め前に背筋を伸ばしてまっすぐ前を見つめたまま座っている彼の横顔が気になって、同じところを何度も読んで、すっかり目が泳いでしまっていました。

いよいよバス停について、一番後ろに座っていた私は、扉の方に向かおうとすると、彼が私のすぐ前に立ち上がりました。こんなに背中が近くにあるのは初めてだったので、ものすごくドキドキしたのを覚えています。

フェビアンは先にバスを降りました。私は雪が降っているのに、ちょっと躊躇して、かばんから傘を出す間に、おばあさんが降りていきました。ようやく傘を取りだして、バスを降りた瞬間、その時だけ時間が止まったような気がしました。彼の笑顔を初めて見たのです。そしてその笑顔は、すぐ後ろを歩いているおばあさんに向けられていました。



彼はひょっとしたら、すぐ後ろに歩いているはずの私に何か言いたいことがあったのではないかと、あとになって後悔し、朝のバスも時間をいろいろ変えて乗りましたが、それ以来、一度も会えなくなってしまいました。

それから4年後、私は偶然バイト先でフェビアンのお兄さんに再会します。ちょっとだけ話をして、彼らが短い間、私の住む下町に暮らしていたこと、その後すぐに引越してしまったことを聞きました。

いつかまた、ダンスの競技会か何かで、フェビアンに偶然会えないかな、なんて、その懐かしい曲を聞いて思ったりしました。

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Last updated  2005/02/15 11:59:43 AM
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