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2026.05.14
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カテゴリ: 日々のこと

財布の中身に余裕があったころ、銭湯の回数券を買った。あのときの自分は、きっと少し軽かった。お金にも気持ちにも、まだ「余裕」があったのだと思う。使う未来の自分に向けて、ささやかな贈り物をしていたのかもしれない。

それから時間が経って、状況は変わった。数字は以前より慎重になり、支出は細かくなった。お金を使うという行為そのものに、わずかな緊張が混じるようになった。レジで立ち止まる一瞬が増え、何かを減らすことばかりが上手くなっていく。

そんな中で、引き出しの奥から銭湯の回数券が出てくる。少しだけ時間が止まる。これは「使うべきかどうか」を迷うものなのか、それともすでに答えが出ているものなのか。



回数券は不思議な存在だ。買った瞬間に支払いは終わっているのに、使う瞬間にはもう一度、心が試される。今の自分にとっては、それが余計に重く感じられる。節約を意識するほど、「使うこと」が慎重な行為に変わっていくからだ。



でも本来、これは新しい出費ではない。すでに未来の自分に渡してしまったお金だ。使うことは減らすことではなく、むしろ回収することに近い。どこかに預けていた体験を、取り戻しに行くようなものだ。

銭湯はたぶん、数字を増やす場所ではない。湯気の中で思考の輪郭がゆるみ、張りつめていたものが少しずつほどけていく場所だ。節約で固くなった心には、その緩みが必要になる瞬間がある。

回数券は過去の自分の判断の痕跡であり、同時に今の自分への小さな招待状でもある。使わないまま残しておくことは、慎重さではなく、ただの未完了になることもある。

湯船に浸かるという行為は、派手な贅沢ではない。ただ一度、数字から意識を引き離すだけの時間だ。その時間をすでに支払っているのなら、あとは受け取るだけでいい。

財布の中身が少なかったとしても、回数券の価値は減っていない。ただ、使われるのを待っているだけだ。



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最終更新日  2026.05.14 07:00:11
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