『頭ぐしゃぐしゃ』の彼方に・・・

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chang-wei

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April 6, 2005
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カテゴリ: カテゴリ未分類
先月行われた格闘技のとある試合に出場した、某選手の気持ちはこんなだったのではないかと勝手に思い、ためしに以下の戯文を、2日に分けてお届けしてみたいと思います。

まあ、読んでみりゃ、誰の試合がモチーフだかわかるんだろうけどね(笑)。




ゴングが鳴り、第1ラウンドが終了した。
ツノダは肩をいからせて青コーナーに戻った。
スタミナは、昨日までに積んできた過酷なトレーニングのおかげで、まだまだ大丈夫だ。
ただ何か、気持ちの内側がささくれだって、小さなとげが心臓をつつくような苛立ちを、ツノダは感じていた。
こんなふうに妙にイライラした気分は、引退以前の現役時代にはなかったことだった。


この一戦は、一度引退し、後進の指導にあたっていたツノダの、電撃的な現役復帰試合でもある。
アカツキはハワイ出身、もと大相撲の横綱である。現役時代の栄光はとうに消え失せ、B-1に移ってから6戦していまだに勝ち星がない。
ツノダは、自分の復帰戦の舞台に、アカツキの7戦目にあたるアジアトーナメントでの対決を強く望み、果たしてその対戦は今日実現の運びとなったのだ。

突然の復帰に、ファンやB-1関係者はおろか、ツノダの所属ジムの会長でさえ、信じられないという顔をした。
「お前はアホか」と会長は云った。
「40過ぎのおっさんが、何をいちびったことぬかしとんねん? 体力的に、トップクラスに通じんのは、お前が一番わかっとる筈やないか。頭冷やしてよう考えんかいボケ!」
口汚くののしるように云ったが、会長はツノダの身体を気遣うつもりで放った言葉なのだった。
「いちびってんのと違います。今の若い選手の、特にアカツキのふがいない姿見て、ワテ、ごっつ腹立ってしようがおまへんねん。今度のトーナメントでワテの生き様、奴の目に焼きつけて、性根叩き直したろ思てるんです!この試合に命かけてもええんや!」
ツノダは会長を説得しようと、目に涙さえ浮かべて懸命に食い下がった。
「よっしゃ、お前の気持ちはようわかった」会長は、ツノダの気持ちを受け止めることにした。
もはやこの男の決意はてこでも動くまい。それは、奴の眼の奥に赤く光る炎が物語っている。


「わかりました。ほなどうするか、3ヶ月トレーニング積んだあとのワテを見て決めてもらいまひょ。そんでもし試合に出て良ければ、ゴーサイン出してもらえまへんか? アカンようならワテも男や、きっぱりとあきらめまっさ」
熱っぽく啖呵を切ったツノダは、そのあと通常の5倍ものトレーニングを重ね、ついに会長への予告どおり、リングに上がって3ラウンドの激戦に耐えられる肉体を作り上げたのだった。
ただし、スポーツ紙による下馬評は、ツノダ圧倒的不利と伝えられた。「アカツキを早く勝たせるためのかませ犬」と酷評する新聞さえあった。
今はそれでもいいとツノダは思っていた。「だが当日は見とけ!」と。

(このワシの思いを、どうしてアカツキはわかろうとせんのや、老いぼれのワシを叩きのめしてでも這い上がろうっちゅう心意気がない男に、B-1のリングに上がる資格などないわ!)

アカツキは、風貌や体格に似合わず、優しい男なのだ。その優しさが仇となって、彼自身の足を引っ張っている。
ツノダはそう思っている。それが、アカツキが泥沼の連敗から抜け出せない、最大の原因なのだと。

第1ラウンド、試合はアカツキがその巨体を利して攻めた。いや、攻めているように見えた。
ツノダの身長178センチ、体重106キロに対して、アカツキは205センチ、186キロである。
肥満体型のアカツキと、筋肉のよろいを身にまとったツノダとの対決は、さながら巨大なタコが、餌のイセエビと格闘している様を彷彿とさせた。
だが、決定打が出ない。アカツキはとどめの右アッパーを出してこなかった。
ツノダの肉体にダメージはなかった。フワフワとした、つかみどころのない攻撃だった。
ラウンド終了のゴングが鳴り、赤コーナーへ戻る直前、アカツキはツノダに向かって一言ささやいた。
「大丈夫すか、無理しないでツノダさん」
そう、このアカツキの、気配りを込めた一言が、ツノダを苛立たせていたのだった。話は再び冒頭に戻る。

「無理なんぞ全くしてないわい、無理せなあかんのはお前のほうやないかい!」
セコンドで、胸のうちで叫ぶ言葉が、おさえきれずに口をついて出る。ツノダは罵声を吐くと、赤いタオルをマットに叩きつけた。
「ツノダ、そう興奮すな、身体がもたんぞ」会長がツノダの肩をポーンと叩いた。
「会長、2ラウンド、勝負かけさしてもらいますわ!」
「おう、もう好きにせえ、試合に出さすゆうことと、お前が云うとることの無茶区茶さは同じやからな、ただし死んだらあかんで、生きて帰ってこい!」
「そんな会長、出征兵士やあるまいし・・・」セコンドに立った後輩のコジローがつぶやいた。
「ほな行こう!」ツノダは勢いよく椅子から立ち上がった。

<つづく>





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最終更新日  April 6, 2005 07:24:00 PM


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コメント新着

野鳥大好き @ Re:ちょいと試みに・・・(11/21) あのな…、解ったよん。
chang-wei @ Re[1]:やれやれ・・・(11/20) 野鳥大好きさん >やれやれ…でしたね。あ…
chang-wei @ Re[1]:やれやれ・・・(11/20) setattiさん >私のPCも時々おかしくなる…
野鳥大好き @ Re:やれやれ・・・(11/20) やれやれ…でしたね。あはは、赤ちゃんなん…
setatti @ Re:やれやれ・・・(11/20) 私のPCも時々おかしくなるから困ってるん…

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