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Mar 24, 2005
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カテゴリ: カテゴリ未分類
ハトが路上を歩く姿は

のように思えるのだが
よくよくみれば、
なかなかに気を配っていて
決してつかまえられたりは
しない。でもいつもよちよちふうに
歩いている。   みなわ ひとし
フーアーユー

「おう、骨壷ね」

まるでビールでも飲むような一気飲み。
「骨壷?」
とけげんそうな喜一さん。
「ほら、この甕、骨壷に似ているでしょ。
通のひとたちは、そう呼んでいるんですよ、ね、
風祭さん」
ちょっと酔っ払った小野さんが、
風祭さんの肩に手をかけた。
その途端、風祭さんが、
荒々しく、小野さんの手を払いのけたの。
「ボクは、キミをトモダチとは思っていない」

いったいどうなってるの?
小野さんが、口をきゅっと結んで
何事もなかったように、おでんを
小皿によそい始めた。
喜一さんが、黙って風祭さんのカップに

「ボクはスキにやります」
風祭さんは、邪険に自分のカップを
喜一さんの手からもぎとったの。
いったい何が、どうしたの。
「風祭さん、おでん、召し上がる?」
小皿に入れてあげようとすると、
「ボク、勝手にやりますから」
と、とりつくしまもないの。
おいしい酒も台無しになるような
奇妙な沈黙が流れたわ。
それでも喜一さんと小野さんは、
なんでもないように静かに飲み続けていたわ。

桃子ちゃんが、ちょっと心配
そうに風祭さんを見つめていた。

風祭さんは、突然立ち上がると
隅っこのいすを三脚運んできて
並べるとごろりと横になった。
桃子ちゃんが、そのそばにだまって、
カップと、おでんの小皿を
おいてあげてた。
風祭さんは、足をぶらぶらさせて
目を閉じている。

「ねえ、どうしたの」
小さな声で喜一さんに問うと、
「多分クスリを飲まなくなったんだ」
喜一さんの暗い顔。
小野さんが、私のほうを見て、
首をふった。
「飲みましょう」
小野さんが、カップを
ぐいぐい口にもっていく。
「目、開けてる」
桃子ちゃんが、私の耳元で
ささやくように言う。
どすん、と音がして、
風祭さんが椅子から落っこちたみたい。
「ボク、スキにやりますから」
言いながら、竹のひしゃくを
とりあげたかと思うと、
甕のほうにぐらりと体がかたむいて、
そのまま小野さんのほうに倒れこんだ。

甕が床に落ちて中の芳醇な
液体が無残に流れてしまったの。
ああ、あっ、まあ、えーっ
声ならぬ声。

小野さんが、風祭さんの重い体を
支えるように立て直した。
「風祭さん、ぼく送っていくから。
帰ろう」
小野さんが意を決したように言った。
風祭さんの目がきっとなって、
「ボクは帰らない。
ボクはジユウです。
キミは、ボクじゃない」
と、桃子ちゃんと私の間に割って入るように
座り込んだ。
「そう、その通り。
人間は自由なんだから」
桃子ちゃんの顔がピンク色に
なっていたわ。
「桃子、まさか」
と喜一さんが、桃子ちゃんの
コップを取り上げた。
「あー、飲んでる。
高校生なんだよ」
と桃子ちゃんをにらんだ。
「いいんだよー」
桃子ちゃんは、すっかりいい気持ちで
喜一さんからコップを取り返した。
「きみから、なんとか言って」
喜一さんが私を見る。
「何がキミだ」
風祭さんが、喜一さんの胸倉を
いきなりつかんだ。
「キミは、なんでもわかった顔して。
鼻持ちならない。
そうだ。ボクはキミと絶交する」
風祭さんのひげには、卵の黄身が
こびりついていた。
「そうね。喜一さん、
少し若年寄みたいなとこあるわ。
でも、絶交はないでしょ」
風祭さんを鎮めたくて言ったけど、
かえってそれが、火に油を注ぐ
ことになってしまった。
「レモンさん、彼をかばうこと
ないですよ。彼はね、優しさを
装った偽善者ですよ。
ボクはミヌイテいます」
風祭さん、憎憎しげに喜一さんを
見つめた。
喜一さんは、こぶしを握りしめるように
しながら、目を閉じた。
小野さんが、ケータイで、タクシーを
呼んでいる。
桃子ちゃんが、ぐいぐい飲んでいる。
私のこころは、どうしたらいいのか、
うろうろしているばかりだ。

痩せた小野さんが、渾身の力を
振り絞るように
風祭さんを引き連れて
出て行った。
「ボクはボクで、
キミじゃない」
風祭さんのわめくような声が
聞こえてきた。

台所で片づけをしていると、
桃子ちゃんがふらふらと
入ってきた。
「大丈夫?」
振り向いて話しかけると
ピンクにそまった頬に
涙が流れていく。
「どうしていいか、わからなかった。
苦しくて苦しくて。
風祭さん、
いつもあんなに優しいのに」
思わず桃子ちゃんを抱きしめると
私の目頭も熱くなって、止まらない。

ネットカフェの片隅に
喜一さんがぽつんと座り込んでいた。
「いつも春なんだ。
クスリを飲まなくなって
どうにもとまらなくなって
ここに来るんだ。
けど、彼が、ボクに言ったこと
本当だ。彼は、どんなときも
真実しか話さない」
誰に言うともなく、
喜一さんが話し続ける。
「もう、病院に入るころに
なったんだ。
どうしてやることもできない。
あんないいやつ、なのに」
「帰ろう」
桃子ちゃんが、喜一さんの腕を
優しくゆさぶった。     楠田レモン







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最終更新日  Mar 24, 2005 02:04:54 AM
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