はにわきみこの「解毒生活」

PR

×

カレンダー

プロフィール

haniwakimiko

haniwakimiko

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2005.02.21
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 必死に車を飛ばしたが、教わったバックパッカーズロッジについたときは夕暮れが近かった。一歩足を踏み入れると、そこは学園祭のようなにぎやかさ。受付らしき場所で、人を捜してるんだけど中に入ってもいいか、と聞くとノープロブレムという返事が返ってきた。

 敷地には宿泊施設以外のパブリックスペースがたっぷりある。楽器を手に集まって練習するグループがあったり、輪になって語り合うグループがあったり。ふらふらと歩いていると、日本語で声を掛けられた。

「あなたもここに泊まるの?」

 振り返ると、小麦色に日焼けした女性がいた。髪は金髪に近いほど明るい色に染めていて、短く切ったジーンズからのぞく足はすらりと引き締まっている。素足にビーチサンダルをつっかけている彼女からは、貧乏旅行のキャリアが漂っていた。

「実は人を捜してるの。サーフィン旅行に来てる日本人で、3日前まではスコッツヘッドのホリデーパークにいたんだけど」



 どきんとした。でも普通だったらそういう想像をするよね。わざわざ一人で訪ねてくるんだから、それなりの関係だって。


「ううん、いとこ。急用があるんだけど、テント暮らしだっていうから連絡のつけようがなくて、直接来てみたの」
 相手の顔が急に曇った。

「急用って、家族が病気とか? 身内に不幸があっとか?」
「そんなんじゃないわ。逆よ。いい知らせ。ぜひともそれは私が自分で伝えたかったの」



「そっか。それならいいんだ。 旅暮らしが長くなると、日本の家族が一番心配なんだよね。私もほら、連絡のつけようがない旅の仕方してるから。バックパッカーにはね、親が死んだのを1ヶ月も知らないでいた人ってのもいるんだよ。そういうのって良くないと思わない?

 確かに。龍一はもし自分の身内に何かがあったらどう連絡をつけるつもりでいたんだろう。定期連絡くらいは入れているのかしら。少なくとも1ヶ月よりは短い間隔で。

「ねえ、探してる人の名前なんて言うの? 歳はいくつくらい?」
「新谷龍一。歳は30よ。ここ2~3年は冬になるとオーストラリアでサーフィンしているらしいんだけど」
「リュウイチねえ。少なくともこの3日くらいはそれらしき人は来てないよ。あ、でもヌシに聞けば何かわかるかも」
「ヌシって?」

「この宿に居ついてる人よ。この宿の日本人コミュニティのトップにいる男。彼なら何らかの情報を持ってるかもしれない。彼の『お城』に案内するよ」
 すたすたと歩き出す彼女の後ろにくっつきながら、私はまだ自分が名乗っていないことに気が付いた。

「私、亜南っていうの。あなたの名前を聞いてもいい?」
 彼女はクルリと振り向くとにこっと笑った。


「もちろん」

 敷地内を歩きながら、マイは自分がどんな旅をしてきたのか話してくれた。オーストラリア大陸一周の途中なの。体調を崩したからこの土地でちょっとのんびりしてところ。もうだいぶ調子もいいから、気が済むまで海で遊んだら出発するつもり。

 合宿所のようなロッジの前には、5、6人の若者がいた。中央にいる男性は色あせたグリーンのランニングに、ダボッとしたベージュのショートパンツをはいている。大型のクマを連想させる、堂々とした体型だ。日に焼けたスネと、大きくあいた胸元からは立派な毛皮がのぞいている。その隣には小柄だがボリュームのある胸を強調した女が、ぴったりと寄り添っている。マイはその男に向かって私を紹介した。

「ねえ、このヒト、人を捜してわざわざ日本から来たんだって。何か知らないか、教えてあげて」
「おー、いいぜ」


別にとりゃしないわよ、あんたの毛むくじゃらの彼なんて、と内心あきれる。
 マイはそのままきびすを返し、去っていく。その後ろ姿を見ていると、また心許なさが戻ってきた。 確かに今私は言葉の通じる日本人のグループの中にいるのだが、どこか居心地が悪い。

 彼女はこの場をお城と呼んでいたが、確かにヌシはこの城の王だった。私は謁見を申し込んだ旅人というわけだ。

「シンタニ、リュウイチかあ。少なくともこの宿にはいないね。この辺りにはいいポイントがたくさんあるからなあ。サーフィンのために来てるなら、車であっちこっち移動してるだろうね、いい波を探して。場所は限定できないなあ」

 ヌシの答えは歯切れが悪かった。しかしこの情報に対しての報酬は要求された。
「最近さあ、日本では何がはやってるの? 歌とか、ドラマとか」

 何でそんなことが知りたいのかと思ったら、中にはすでに日本を出てから1年たつ、という強者までいて驚かされた。 旅人がもたらす情報はいつの時代でも新鮮なものなのだ。 仕方なく彼らの質問に答えながら、日本でのニュースを報告する。が、次第に疲れを感じ始めた。これでは私は単なるニュースキャスターではないか。これは会話ではない。観客とステージが近すぎるショウでしかない。

 やがて質問の方向は私個人のことへと移ってきた。いくつ? どこに住んでるの? 仕事は何してるの? その探してる男とはどういう関係?

 この人たちにそんな話をするのはなんだか気が進まない。特にヌシの顔つきが気になる。彼に興味を持たれるのはなんだか不愉快だった。どうしてなのかはわからないけど。
 どう話を変えようかと困っているところへ、マイがふらりと現れた。

「ねえこのヒト、ちょっと借りてっていい? 用事はもう済んだんでしょ?」
 まさに彼女は救世主だった。

「色々教えてくれて本当にありがとう」
 私はお礼を言って立ち上がると、彼女に連れられてこの場から逃げ出した。ヌシの視線が私の後ろ姿を追っていることに気がついたが、どうしようもない。一刻も早く彼の視界から抜けたい、という気持ちでいっぱいだ。
 ヌシの隣にいた彼女がどうしてあんなに鋭い視線をなげてきたのかが納得できた。ヌシという人は、女であれば誰でもそういう目で見てしまうタイプの男なのだ。つまり、彼女にしてみたらどんな女でも敵になりうるというわけだ。

 歩きながらマイは私に聞いた。
「よけいなお世話だった?」
「とんでもない! 助け出してくれてありがとう。実はあの場所にいるのがすっごくつらくなってきたとこだったの。なんでかわからないけど、居心地悪くて」

「そうじゃないかと思った。実は私もあの中にはいたくないクチでね。大勢でつるむのって好きじゃないんだ。言葉が通じるもの同士で集まってるだけなら、わざわざ違う国に出てくる意味なんかないじゃない? 少しだけクロスする関係ならいいけど、ああまでどっぷり仲間意識を作っちゃうと、重いよね」

「マイはこの宿が気に入ってるの?」

「バスターミナルから近くて便利だし、いろんな国から人が集まってるからおもしろいよ。それに、ここの海にはイルカが来るんだ」

「イルカが?」
「そう。ね、時間があるならビーチまで散歩しない?」





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005.02.21 17:39:08


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: