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2005.02.17
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 その部屋はわたしを凍えさせる。だから、わたしは不器用に扉を閉めてしまった。扉が噛み合って耳障りな音が響いたけれど、その音がどのくらい続いたのかさえわからなかった。暗い部屋、音のない部屋。窓はなく、わたしが通った3つの扉は閉じている。男の人の匂いが乾いた部屋に僅かに匂っていた。

 暗闇は少しずつわたしを受け入れるのだけれど、部屋の中にはわたし以外の人はいない。少なくとも、わたしは見ることができない。本当は、暗闇に彼がいるはずだけれど。わたしは部屋の中にいる誰かに向かって声をかけようとして、喉が乾いているのを感じる。ぎこちなく、開いた唇を閉ざす。唇は柔らかく、わたしは乾いていない。本当は喉は乾いていず、すらすらと喋ることができる。暗闇はわたしを狂わせようとしているのだろうか。

 わたしは手のひらを目の前にかざす。影が黒の中に白く浮かび上がるはずなのに、なにも見えない。かろうじて、わたしの息が手首を撫でる。それだけがわたしの手を教える。全ては闇に溶けている。

 珍しい人だね。

 わたしは声が響いた方へ顔を向けた。わたしが頭の中で作り出した声じゃなかった。わたしの聞いたことのない、男の人の声だ。彼なんだろう。

 これまで僕が会った人たちは、だいたいはすぐになにか言ったから。なにがいるかわからない部屋で、ただ黙っているのは辛いよ。

 わたしはなにを答えていいかわからずに、扉に背中を押し付けて部屋の奥を見つめる。なにも見えないけれど、彼の周りの闇が動いているような気がする。気のせいかもしれない。世界の闇はわたしによって動くのだから。

 人間は視覚に頼るところが大きいからね。ライトの光の色を変えるだけで、料理が美味しく感じたり不味く感じたりする。もちろん明るすぎるのも駄目だけれどね。なにをするにも、それに応じた明るさというものがある。

 この暗闇は、どんなことにふさわしいんですか?



 わたしは自分がこの部屋で伝票計算をしたり、走り高跳びに挑んだり、薔薇の模様を刺繍するところを想像してみる。確かに、この部屋でそうしたことをやるのは難しいだろう。

 ただ、どんなに暗くても話すことはできる。逆にいえば、話すことしかできない。だけど、見えないとしても僕はここにいる。それが電話とは違うところだね。それなのに、僕はどこにもいないようだ。電話でしばらく黙ったとしても、相手が本当はいなかったとは思わないだろう? 電話では沈黙にも意味がある。この部屋で相手が黙ってしまえば、本当は自分は一人で喋ってたんじゃないかと思えてしまうんだね。

 そう、でしょうね。

 わたしは彼の言ったようにすぐにもなっていくのを感じる。明るいところでは世界を見ることができるけれど、この暗闇の中では世界を確かめることができない。だから、たやすく自分を見失う。闇はいつのまにかわたしの中にしのび込んで、わたしと世界の関係を奪ってゆく。わたしは自分がここにいることさえも忘れてしまいそうになる。わたしは小さく笑った。

 だから、ここを僕と話す場所というよりは、自分の暗い部分を自分へと語りかける場所と思った方がいい。これは誰にでも言うんだけれどね。王様の耳はロバの耳、って知ってる?

 王様がロバの耳を持っているのを美容師が知ったけれど、誰に言うわけにもいかないから、それをどこかの穴に話すんですよね。だけど、その穴が美容師の言葉を国中に聞こえるように大きく叫んで。ハッピーエンドだったと思いますけど。

 その話だね。きみは暗闇に向かって話したいことを話す。暗闇からなにか言葉が返ってくるかもしれないし、ただ暗闇に消えていくかもしれない。それで少しは楽になるならまた来ればいいし、つまらないなら来なくていい。きみの友人は一回で来なくなったしね。

 朝倉は流行ってるから来ただけみたいですから。それで、問題児のわたしのところに回ってきたんです。クラスの女の子のみんなが納得して。

 そこで彼は小さく笑った。わたしも笑おうとしたけれど、形にはならなかった。この部屋では、誰もわたしが笑っていないことに気づかない。それはとても悲しいことなのかもしれない。とても楽しいことなのかもしれない。まだ、よくわからない。

 それから少し話をして、わたしはその部屋を出た。テレビのニュースで話題になっていることをたわいもなく話しただけだった。彼は自分のことを話さず、わたしも自分のことを話さなかった。ただ、わたしが部屋を出ようとした時に彼は一言だけ、彼自身に関係しているように思えることを言った。僕を見ようとしないでね、と。わたしは暗闇に向かって頷くと、今度はゆっくりと静かに扉を閉ざした
…『暗い部屋』(2)へ続く…





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Last updated  2005.02.17 21:13:27
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ひみ@喉

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Comments

ゆう@ とうとう出ちゃったね うわさは本当だったよ。 <small> <a hre…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 最後まで、楽しく読ませていただきました…
ミーシャ3216 @ ひみとさんへ 抱かれちゃうんだ・・。
ミーシャ3216 @ Re:『かなりあ』(11)(06/07) う。。どうなるのでしょうか・・(//・_・/…
ミーシャ3216 @ うん・・。 >とりあえず、わたしはでたらめだった。…

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