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夫が突然、逝ってしまった。残された妻、敏子は59歳。まだ老いてはいないと思う。だが、この先、身体も精神も衰えていく不安を、いったいどうしたらいい。しかも、真面目だった亡夫に愛人だなんて。成人した息子と娘は遺産相続で勝手を言って相談もできない。「平凡な主婦」が直面せざるを得なくなったリアルな現実。もう「妻」でも「母」でもない彼女に、未知なる第二の人生の幕が開く。第5回婦人公論文芸賞受賞。 <感想> ★★★★☆桐野作品の魅力と言えば、なんといってもギラギラした女性キャラです。自分の欲望に対してストレートに行動する女性は身近にいると困っちまいますが、小説の主人公としては魅力的です(汗)さて、映画化もされた本書ですが、主人公は59歳の専業主婦。 従来の桐野作品のキャラクターとかけ離れているせいもあってイマイチ手が出ませんでした。 本書から桐野作品を手に取る読者層を想定するなら、相容れないものがあまりにも多いような気がしたからです。 案の定、夫に先立たれたばかりの主人公は「夫に従い老いては子に従い」というキャラです。 しかし、生前の夫の不貞や自分勝手な子供達、それをきっかけに視点が変わるようになると本来彼女が持っている逞しさが発揮されるようになります。 徐々に肝っ玉の据わったオンナに変貌していく過程がスリリングです。 さすがに、従来の桐野作品に出てきたギラギラ女までには至りませんが、世間に疎かった専業主婦の主人公が、短期間で「なんでも来い!」と開き直る女性に変貌を遂げるさまに、男性にないシタタカさを垣間見たような気がしました。 団塊世代の方にはもちろん、桐野作品はワイルドすぎて・・とお感じの方にもオススメできる一冊です。
2007.08.31
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疱瘡を病み、姿崩れても、なお凛として正しさを失わぬ女、岩。娘・岩を不憫に思うと共に、お家断絶を憂う父・民谷又左衛門。そして、その民谷家へ婿入りすることになった、ついぞ笑ったことなぞない生真面目な浪人・伊右衛門―。渦巻く数々の陰惨な事件の果てに明らかになる、全てを飲み込むほどの情念とは―!?愛と憎、美と醜、正気と狂気、此岸と彼岸の間に滲む江戸の闇を切り取り、お岩と伊右衛門の物語を、怪しく美しく蘇らせる。四世鶴屋南北『東海道四谷怪談』に並ぶ、著者渾身の傑作怪談。 <感想> ★★★★☆恥ずかしながら京極作品初チャレンジです。京極作品と言えばホラー。 ジャパニーズホラーの古典と言えば四谷怪談。まさに究極のホラーという先入観がありましたが、日本人なら誰もが知っていると思われるストーリーを独自の視点で描き、夫婦の愛情をベースにした時代小説に仕上げています。 この作品の魅力をいくつかあげるとすれば、悪役、脇役にいたるまでキャラが立っている点です。 従来の画一的なイメージしかなかった「お岩さん」に対してもしっかりしたキャラクターを与えることによって、武家の娘である民谷岩という女性が見事に立ち上がってきます。もう一点挙げるなら、ラスト近くの描写です。光と影、明と暗。 映像(特に最近の時代劇)で、しばしば効果的に使われる技法ですが、それを文章で的確に描写するテクニックは秀逸としかいいようがありません。ホラーは苦手だけど時代小説がお好きな方なら充分に楽しめる作品です。未読の方はご一読をオススメいたします。
2007.08.29
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「こうしてねぇ、あんたんチのおとうさんもねぇ、揉んだことあるとよぉ」と、自分の胸を揉みほぐしつつ語る伯母。ガリガリで饐えた臭いのするいとこと同じバーで働く、あたし十九歳…。ここは博多の中心地、「ドブ川」こと那珂川ぞいで凭れあうように暮らす三世代の女たちを描いた表題作を含む、芥川賞作家のデビュー作。 <感想> ★★★☆☆本書は大道珠貴さんのデビュー作である表題作の他二作が収められた短編集です。 『しょっぱいドライブ』で芥川賞を受賞した大道さんですが、作品によってアタリハズレのあるというのが正直なところです。さて、まずは表題作の『裸』。 北九州の街を舞台にした女性三代の物語ですが、ちょっとナマナマしいかなぁ~という感じです。 純文学のデビュー作としてはこれぐらいのインパクトが必要だとは思いますが・・二作目の『スッポン』は、九州から埼玉に出てきた女の子の物語。初期の角田光代さんに似た感じで、個人的には一番好きです。 三作目の『ゆううつな苺』は、父の死によって母子家庭になってしまった女子中学生が主人公です。 少女の不安定な状態や、彼女を取巻く環境をユーモアたっぷりに描いています。すべての方にオススメはしませんが、大道さんの味のある文章がお好きな方なら楽しめると思います。
2007.08.29
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むかしむかしあるところに、私たちが家族だった頃がある―。母と兄、そして父も、私をおいていなくなった。孤独な日常を送っていたとうこのもとに、ある日転がりこんできた従妹の瑠璃。母とともに別居する双子の兄・陸は時々とうこになりかわって暮らすことで、不安定な母の気持ちを落ち着かせていた。近所の廃屋にカフェを作るためにやってきた夫婦や、とうこの祖母。それぞれが大きな喪失を抱えながら、ゆっくり立ち上がっていく、少女とひと夏の物語。 <感想> ★★★★☆大島真寿美さんは、今回初チャレンジ。リンク先の方の感想を拝見して気になっていた作家さんです。さて、喪失をテーマにした本書は、両親の離婚により母親と双子の兄、そして父を亡くした20歳の主人公のひと夏を淡々とした筆致で描いた作品です。 特に大きな事件が起きるわけでもない展開を退屈とするか否かで評価が分かれると思いますが、とても静かな物語は心にポッカリ穴があいてしまった登場人物達の体温がじんわりと伝わってきます。一時間半ぐらいで読めてしまいますが、再読するとこの作品の良さがさらにわかると思います。初夏にはじまる物語は、主人公が秋の入り口に立つ場面で終わります。夕方のちょっとひんやりした冷たい風が、私の腕に触っていった。 半袖のTシャツだと、夜はそろそろ寒いのかもしれない。 もうまもなく秋がやって来るのだろう。今の季節(晩夏)に読むと、更に心に沁みます。
2007.08.24
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失恋で心に深い傷を負った「わたし」。夏休みの間だけ大学の友人から部屋を借りて一人暮らしをはじめるが、心の穴は埋められない。そんなときに再会した高校時代の友達キクちゃんと、彼女の父、兄弟と触れ合いながら、わたしの心は次第に癒やされていく。恋に悩み迷う少女時代の終わりを瑞々しい感性で描く。 <感想> ★★★★☆本書は04年に出た島本理生さんの三作目です。四作目は、多くの読者を獲得した『ナラタージュ』になるわけですが、設定や主人公のキャラクターが似かよっているせいか『ナラタージュ』の原点に位置づけられる作品だと思います。失恋した主人公が、廻りの人と接することで、少しづつ再生してゆく物語・・などと書くと、ありきたりな恋愛モノを想像しがちですが、40代のオッサンをナットクさせる老練な文章と、的確な描写力にはいつもながら、度肝を抜かれます。 どん底にいる主人公が、かつてのクラスメイトであるキクちゃんとその家族に巡り合う設定を、小説のウソと決めつけてしまうのは簡単なことですが、失恋に関わらずどん底まで墜ちると、そこには予め用意されていたかのように手を差し伸べてくれる誰かがいると言うのもある意味で真理だろうと思います。気がついていませんでしたが、文庫が五月に出ていたようです。島本ファンで未読の方、あ~自分は今どん底にいるかもぉ~~という方に強くオススメいたします。
2007.08.24
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“人っていやね…人は去って行くからね”。20歳の知寿と71歳の吟子さんが暮らした春夏秋冬。第136回芥川賞受賞作。 <感想> ★★★★☆ご存知の通り本書は、一月に発表された第136回芥川賞受賞作です。芥川賞といえば受賞作のほとんどが短編ですが、この作品はちょっと長めの中篇というところです。親戚のおばあさんと暮らすようになった、ちょっとクセのある主人公。この二人のやり取りが中心になる展開は、特に事件が起きるわけでもなく淡々としていますが、少しづつ自立していく主人公の微妙な心の変化が丁寧に描かれています。 この点を退屈だとする読者レビューも多いようですが、この二人のやりとりがたまらなく好きです。 「あたし、今のうちに、むなしさを使い切りたい。 老人になったときにむなしくならないように」「知寿ちゃん、若いうちにそんなの使い切ったらだめよ。 楽しいのばっかりとっておいたら、歳をとったとき、死ぬのがいやになるよ」「芥川賞=純文学=難解」というイメージを抱きがちですが、本書に関して言うなら、面白くて読みやすい作品と言えます。 ただ、あえて言うなら芥川賞作品に共通する独特のキレが弱いような気がします。まぁ~なにはともあれ、一読の価値はある芥川賞作品です。
2007.08.17
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「恋しくて恋しくて、その分憎くて憎くて、誰かを殺さなければとてもこの気持ち、収まらないと思った」―切なすぎる結末が、最高の感動をよぶ物語。第55回日本推理作家協会賞を受賞し、「2003年版このミステリーがすごい!第6位」にもランクインをした珠玉の連作ミステリー、待望の文庫化。<感想> ★★★★☆光原百合さんは、今回初めて読みました。本書には、03年のこのミス6位になった表題作を含めた4作が収められています。 いずれも数年前に流行った癒し系のミステリーで、花をテーマにした短編集です。 ひとことで言うなら加納朋子さんに限りなく近い作風です。 まずは、朝顔が出てくる表題作。 十八歳の主人公と年上の女性の物語です。この二人の関係がミステリーとしての核になるわけですが、とてもせつない青春小説を読んでいる気にさせられます。 ラストの十八の夏がもうすぐ終わる。 という一行は定番と言えば定番ですが、シビれちまいます。金木犀が核になっている『ささやかな奇跡』は、父子家庭を取巻く人々の話で心が温かくなる一編です。『兄貴の純情』では、ヘリオトロープが出てきます。夏目漱石の『三四郎』にも出てくるヘリオトローブですが、ヘリオは太陽、トローブは向くという意味だそうです。 紫色の可憐な花です。葉に毒があると知られている夾竹桃が鍵になっている『イノセント・デイズ』は唯一、ミステリーらしいミステリーです。 プロットもしっかりしているし、ミステリーとしてかなり練れているように思います。 80頁の短編ですが、ぜひ、長編で読んでみたいと思わせる一作です。 あとがきに、”人生も満更悪くない”と思っていただけたとしたら、これ以上の幸せはありません。とかかれていますが、本書の特性をもっとも的確に現していると思います。 ミステリーが好きな方も、そうでない方でも満足できる一冊です。
2007.08.13
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ちょっと前からつけたいなぁ~と思っていたETC車載機を車に取り付けました。 ご存知の方も多いと思いますが、ETCというは高速道路の料金所をノンストップで通過できるアレです。導入当時は、ノンストップで料金所を通過できるというメリットだけでしたが、最近は割引率も高くなってきました。 週末の夜、都内から自宅まで帰ってくると4割引きぐらいになります。ちなみに千葉県南部地域在住者しか使わないアクアラインは、常時3000円が2300円になります。 首都高も一部ですが区間料金が適用されるようです。 車載機もピンきりですが、特にこだわりがないなら「ETC車載機リース制度助成」を利用すれば、セットアップ込み無料で入手することが出来ます。(送料500円は自己負担となります。)取り付けは自分でしなくてはなりませんが、特に車に詳しくない私でもホームセンターで売っているヒューズ電源を使って15分ぐらいで取り付けることができました。イロイロなところが窓口になっていますが、カード会員になるのが条件になっている場合が多いようです。 私が申し込んだのは7dream.com経由。 ネット会員になるだけの負担なのでオススメです。これで、お盆はお出かけ・・・!!と言いたいところですが、来週も通常営業のため毎日お仕事なのでした(泣)
2007.08.11
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自称青年実業家のヨコケンこと横山健司は、仕込んだパーティーで三田総一郎と出会う。財閥の御曹司かと思いきや、単なる商社のダメ社員だったミタゾウとヨコケンは、わけありの現金強奪をもくろむが、謎の美女クロチェに邪魔されてしまう。それぞれの思惑を抱えて手を組んだ3人は、美術詐欺のアガリ、10億円をターゲットに完全犯罪を目指す!が…!?直木賞作家が放つ、痛快クライム・ノベルの傑作。 <感想> ★★★★☆本書は、ジャンルにこだわらないエンターテイメント作家である奥田英朗さんのクライム・ノベルです。 間の抜けた面々が犯罪に挑むという設定は、ともすれば収容のつかないドタバタに終わってしまう作品が多いのも事実ですが、キャラ設定がしっかりしている奥田作品には独特の味があります。 『最悪』でもそうでしたが、憎めないながらも、アンダーグラウンドすれすれの世界に生息している人物や、社会からドロップアウトしかかっているキャラクターをどう捕らえるかで、作品にのめり込めるか否かが分かれますが、私も含めてすんなり受け入れてしまう読者が多いのではないかと思います。 『最悪』の秀逸さには及びませんが、面白いエンターテイメントがないかなぁ~とお思いの方にオススメします。
2007.08.11
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昭和25年7月2日未明、鹿苑寺金閣は焼失した。放火犯人、同寺徒弟・林養賢21歳。 はたして狂気のなせる業か?絢爛の美に殉じたのか?<感想> ★★★★☆水上勉の作品はそこそこ読んでいますが、この作品は未読でした。先日、三島由紀夫の『金閣寺』を読んで、この事件に興味を持ったからというのが単純な動機です。さて、『金閣寺』が実際の事件をモチーフにした観念的な作品とするなら、後に事件を犯す、林養賢と自身のエピソードからはじまり、彼の墓をつきとめるところで終わっている本書は限りなくノンフィクションに近い作品と言えると思います。貧乏寺の嫡男として生まれ、吃音というハンデを負わされた林養賢の生い立ち。 結核に冒された男のもとに嫁ぎ、養賢を産み育てながらも、夫の死後は村を追われ、養賢の起こした事件の直後に鉄道自殺を遂げる母。 そして、養賢が育った寒村と、きらびやかかな都である京都との対比は、松本清張と並び社会派ミステリーの雄と称される著者の力量がいかんなく発揮されています。前段で書いたように、同じ事件を扱いながらも、まったく体裁のちがう『金閣寺』と比較するのは意味のないことですが、20年にわたる取材で得られた事実をもとにした本書から『金閣寺』はあくまで三島由紀夫の創作であるという水上勉のアンチテーゼを感じ取ったのは私だけでしょうか?
2007.08.11
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逃げるのに理由なんていらない。川端康成文学賞作家、糸山秋子初の書き下ろし長編小説。 <感想> ★★★★☆噂に違わず面白い作品でした。躁転して精神病院に入院している女性主人公が、同じ病院に入院している男性患者を強引に連れ出して逃亡するという筋立てです。 この手の作品はシュールな展開を予想しますが、ロードムービー的な展開は読みやすくて充分楽しめる内容になっています。 今まで、私が読んできた絲山作品と比較すると異質で、主人公が九州弁を駆使するせいか大道珠貴さんと共通する部分が多いような気がしました。抱えているストレスが限界に達してしまい、精神的に病んでしまう登場人物たちは客観的に見ればかなり深刻な立場におかれていますが、自分が境界線上に立っていると考えている人は多いのではないかと思います。 それを踏まえるならキャラクターに自己投影することもそれほど難しくはありません。 『イッツ・オンリー・トーク』と比較すると格段に読みやすいので、一冊目の絲山作品としてもオススメできます。
2007.08.02
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一日一合の酒と一冊の本があれば、それが最高の贅沢。そんな父が、夏の終わりに脳の出血により入院した。混濁してゆく意識、肺炎の併発、その後在宅看護に切り替えたのはもう秋も深まる頃だった。秋の静けさの中に消えてゆこうとする父。無数の記憶によって甦らせようとする私。父と過ごした最後の日々…。自らの父の死を正面から見据えた、沢木文学の到達点。 <感想> ★★★★☆本書は、ノンフィクションライターとして不動の地位を築いている沢木耕太郎さんが、父親の死とその前後における自らの心境を描いた作品です。 戦後復興の波に乗ることができず、生涯定職を持つことなく真摯に家族を支えた、文字通り「無名」の父親。 そんな父親から作者はどのような影響を受けたのか? 生涯「無名」であることを望んだ父の真意はどこにあるのか?数年前まで、この手の作品を読むと遺された息子の立場で読んでいましたが、気がつけば父親の立場に立って読んでいました。 父親は息子に何を遺してやれるのか?自分がどのように死んでいくのか?そんなことを考えた一冊でした。
2007.08.02
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