空腹ラッコの雑記帳

空腹ラッコの雑記帳

2018/02/07
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カテゴリ: 音楽
映画 "FAKE" (2016年) に関するいわゆるネタばれを含み、特に「衝撃の12分」に関しても言及しています。また、ストーリーをなぞったりエピソードを網羅する内容ではありません。この映画の内容に触れたくない方、あらすじをご存じない方は、以下の記述をお読みにならないことを、強くおすすめいたします。



Wikipedia などでは完成したことになっている交響曲第「2」番。一方N氏はピアノスケッチ段階で頓挫したと自著で語っています。
映画ではこの第「2」番にまつわる資料が現れるときき、さすがに関心を持っていました。
演奏時間はなんと 110分。どんなボリュームになるのだろう。ロ短調ミサ曲(バッハ)の演奏時間が平均2時間くらいかと思い、持っているポケットスコアをみると350ページありました。さて、思わせぶりにS氏が持ち出した超大曲の指示書は。クリアーフォルダに楽々収まる全く厚みが感じられない紙数枚。例の香ばしさが漂う時間軸に沿ったチャートがここでも顔を出します。印象深かったのは異様な整い方です。訂正が一切ない。芸術作品の構想段階を書き留めたものが、このように「固まった」状態になるでしょうか。(これの10倍くらい詳しいものを作ったとも言っていましたが、その過程で加筆訂正された形跡も見あたらないのが不思議です)

この指示書なるものはNR誌の取材でも持ち出されていました(音が伝わらん で済まされていましたが)。従ってS氏が「昨日発見した」と大事件のように指示書を披露するのは、取材のさらに前、すなわち実質1年3ヶ月の撮影最初期です。映画では1時間20分経過後でしたが。

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ここで映画を離れますが、こんな状態の「曲」を賞賛した人がおられるらしい。ことあるごとに日本人のクラシック受容のありかたを批判し、最高級の欧風生活抜きにクラシック音楽の享受はできないとのたまうお方。この方が「美しい、人間を超えた宇宙だ」なる賛辞をこの「曲」に寄せた、との書き込みをS氏全盛期に見かけました。ねつ造ではないかと思いつつ、同じ表現に複数の箇所で出会ったため、実在の可能性も感じていました。
今回の遭遇で改めて真偽をを知りたく、今はほとんど抹消されている当時の情報を漁ると、どうやら2013年六本木ミッドタウンで開催された「HIROSHIMAの世界展」のパネルないしリーフレット内に、このセレブ評論家殿によるメッセージがあるとの情報がわずかに残っていました。
一瞬ですが、この展覧会を逃したことを後悔しました。
上記の可能性を前提とした疑問ですが、最上級の文化を享受してご自身の素養を高めてこられたこの先生は、何から人間を超えた宇宙を感じ取られたのでしょうか。もしかして映画に出てきたチャート?だとすればどのあたりに超人的境地を認められたのでしょうか。「大ロマン」と「マーラー」が同時に響くように上下に書かれているところでしょうか、「ヴェーベルン12音」に続いて「ベルク」への転換が指示されている(念のために書きますがすべて文字)ところでしょうか、それともマーカーの色?
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4.鍵盤と豆乳とタバコ

このパートで最初に確認したいのは、自伝(私の云うところの台本)「交響曲第一番」の真偽に関するS氏の認識。現在絶版になっていますが、S氏は「音楽修行については偽、その他については真実」と出版社の質問に回答しています。従って、自伝中縷々語られる艱難辛苦について真実だと明言しています。
そのことは承知していましたから、映画で語られた「シンセサイザーを捨てた理由」は噴飯物でした。NR誌取材で「(引っ越し前の)部屋が狭かったから」と説明しましたが、自伝の描写は大違い。指の酷使が招いた腱鞘炎から左手の指がピアノを弾けなくなり、鍵盤を見るのに耐えられず売り払ったことになっていました。その後自作の旋律を音化する必要があったので買い直したという記述もありますが、わざわざ自伝に明記したこのエピソードが本当なら、黙っている必要は全くありません。

次に病歴と飲食嗜好品の矛盾。喫煙しコーヒーをためらいなく飲む姿に「ああ、やっぱり」と幻滅しました。自伝中執拗に描いていた闘病録の中に過敏性(大)腸症候群があったことをお忘れなのでしょうか。「一生症状とつきあうことになる」という医師の診断まで添えていたのに。この病気を説明した大多数のサイトでは、注意事項として、喫煙とカフェインの摂取は控えるよう忠告しています。
同じ理由で豆乳1リットル飲みも笑えませんでした。成分無調整豆乳が消化器の弱い人にそのような影響を及ぼすか、確たる助言には接していませんが、私は同じメーカーの豆乳飲料でときどきピンチになります。映画のような暴飲は弱い消化器に悩む人の振る舞いと思えません。
コーヒーについてはかのNHKスペシャルにも自宅内で飲もうとする場面があり、歩行もままならない体調との食い違いが気になりました。放映当時不審なものを感じた人はいなかったのでしょうか。

続いて、小道具としてのタバコについて。
終盤の12分はM氏の提案に応えたものですが、その提案中に「(できあがるまで)タバコをやめる」というM氏の言葉があります。頻繁に取り上げられていますが、S氏に与える圧力を考えたものにはごく少数しか接していません。
撮影期間中M氏とS氏は時々ベランダでタバコを共にしていました.時に信頼関係を会話で確認しつつ、回数を重ねる喫煙タイム。同じ釜ならぬ同じ場所でタバコを共にする仲となった2人は徐々に打ち解けてゆきました(少なくとも表面上は)。タバコをやめるという宣言は、その関係を絶つという宣告でもあったのです。終盤の12分はS氏をそこまで追い詰めた故の産物だった、私はそう感じています。





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最終更新日  2018/03/05 06:17:46 AM


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