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三国干渉について、怖(お)めず臆(おく)せず
《彼れ三国なる者は果して何の口実を以て干渉を試みたるか》(「遼東還地の亊局に対する私議」:『陸羯南全集 第5巻』(みすず書房)、 p. 98 )
と異議を唱えたのが陸羯南(くが・かつなん)だった。
《日く、永久の所領は東洋の平和に利あらずと、斯(かく)の如きのみ。辞甚(はなは)だ巧にして理甚だ昧(く)らし。然(しか)りと雖(いえ)ども国際の事は時にカを以て裁すべく、唯だ理を以て争ふべからず。我れ今ま忍びて其の所謂(いわゆ)る忠告を容(い)れたるは、内に於(おい)て生霊の艱(かん)を慮(おもんぱか)り外に向ひて友邦の誼(よしみ)を重ずるのみ》(同)
国際場裡は、未だ野蛮であり、まさに無理が通れば道理が引っ込む「力」の世界なのだ。
《然(しか)りと雖ども面目は汚されたり。戦勝の結果は其の一半を失へり。君民は耐え難きの遺憾を抱きて此の局を終へたり。三国たる者記臆せざるべからず》(同)
身命を賭(と)して手に入れた領土を、鳶(とんび)に油揚げをさらわれるかの如く奪われたことは絶対に忘れない、否、忘れてはならない(今に見ていろ)ということだ。
《夫(そ)れ名誉の念は義務の行と時に相ひ一致する無きこと人間世界の常なり。今ま帝国は友邦の忠言を容れて割取の土地を還附せり。是(こ)れ名誉の念を抑えて義務を友邦に尽すと言ふ。所謂る友邦なる三国は我れの尽せる此の義務に対して何の報酬をか与へんとする》(同)
<名誉>と<義務>は、本来、相一致すべきものである。が、今回の三国による干渉においては、日本が名誉を捨て義務だけを行使する歪(いびつ)なものとなってしまったのは、まさに痛恨の極みである。
《吾輩は信ず、三国既(すで)に我れに忠言を呈(てい)して之を容れしめたる以上は、彼れ亦(ま)た別に尽すべきの義務を新に負はざるべからざるを。己(おの)れの欲せざる所之を人に施(ほどこ)す勿(なか)れ。既に之を人に施す、乃(すなわ)ち己れ亦た欲せざる所を忍ぶの義務を生ず。我れ忍びて三国に聴けり。独り三国は我れに聴く無からんや。我れ今日一歩を彼れに譲る所以(ゆえん)のものは、他日彼れをして我れに一歩を譲らしめんが為めのみ》(同、 pp. 98f )
<己れの欲せざる所之を人に施す勿れ>という孔子道徳は、日本人にはよく理解できても、国際的にはただの「戯言(たわごと)」にしか聞こえないだろう。他国人も、同じ人間なのだから、日本人と同じ道徳観を有しているに違いないなどと考えるとすれば、それはお人好しに過ぎる。
《若(も)し彼れ三国が今日我れを譲歩せしめ、而(しか)して他日我れに譲歩するを予期せずとせば、是れ三国なるものは暴国なり、友邦に非(あらざ)るなり。今日の譲歩に狎(な)れて益〻(ますます)我れの進路に容喙(ようかい)せんと欲せば、三国たる者は是れ飽く無きの貪婪(どんらん)国のみ。吾輩は斯の如き国々を以て永く友邦と為すの寛裕を有せず。三国たる者将来に於て如何に我が今回の譲歩に報ひんとするか。我れは忍びて彼れに聴けり。独り彼れは我れに対して此の友誼に答ふるを期せざらんや》(同、 p. 99 )
が、期待するだけ無駄である。
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