2008年06月02日
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カテゴリ: ベトナム
今日のまとめ

1. ベトナム市場は変調をきたしている
2. これはベトナムだけの問題ではなく、グローバルな問題だ
3. 輸入が突然止まる危険がある
4. インフレ退治が待ったなしになる
5. ホットマネーが向かっている投資先は避ける
6. ドル高のシナリオも想定に入れておくこと

 ■新しい頭痛の種

 サブプライム問題は喉元を過ぎた感じで、ゆっくり時間をかけながら傷を癒す段階に入っています。しかし世界の資本市場にとって新しい頭痛の種が生じました。それはベトナムの通貨市場が不穏な動きになっているという事です。先週、ベトナム・ドンの自由市場のレートが17700あたりまで急激にドン安に振れました。公式レートは16060です。これを受けてベトナム政府は一日の為替の値幅制限を一気にこれまでの2倍の2%に拡大しました。ベトナムの通貨市場の変調は未だ先週はじまったばかりですから、これが大きな混乱につながるかどうかは未だ判然としません。しかしこの問題は注意深く観察する必要があります。




 ベトナム市場の変調はともすれば「あれはベトナム固有の問題だ」ないしは「こんな事になったのは全てベトナムの政府や金融当局に責任がある」という風に考えられがちです。でもその認識は間違っています。なぜならベトナムの通貨の健全性が損なわれた背景にはグローバル経済のアンバランス(英語ではアンバランスとは言わず、Macroeconomic imbalancesという言い方をします)という問題が存在するからです。それではグローバル経済のアンバランスとは一体何を指しているのでしょうか?。私の定義ではそれはBRICsに代表されるこんにちのグローバル経済の「勝ち組」と、低成長に苦しむ先進国という「負け組み」の色分けが余りに明快に出来上がってしまって、「勝ち組」の方に世界の投機資金が集まる現象を指します。世界から投資資金が集まると自ずとその国の経済は「金余り」の様相を呈してきますし、それが不動産価格や株価の上昇という形で一層それらの国々に住む人々の金回りを良くし、それが経済成長を一段と後押しするという好循環を生むわけです。この好循環自体は悪いことではないと思いますが、バランスを取りながら手堅く成長する途を選ばず、横着をすると、とんでもない失敗をする危険もどんどん増すのです。


 ■イージー・マネー(あぶく銭)の落とし穴

 それでは具体的にどんな落とし穴があるのでしょうか?。先ず自国通貨のオーバー・バリュエーション(過大評価)という問題があります。海外から投機資金がどんどん入ってくるとその国の通貨が押し上げられます。自国通貨が余り強くなり過ぎると、輸出競争力は段々衰えます。これは通常、貿易収支の数字に顕れるわけですが、それに国際間の資金の移動を加味した数字である経常収支の数字は往々にして海外からの投機資金の流入に助けられて輸出競争力が劣化した後も黒字が続く場合が多いです。これを放置すると或る日突然海外の投資家が「この国の輸出競争力は衰えているぞ」という事に気付くと、急いで投資資金を引いてしまいますから、突然、経常収支も悪化するわけです。経常収支が悪化しはじめると国内に滞留したガイジンの投資資金が出てゆく際、換金に応じる毎に外貨準備が費消されるというパターンになるわけです。外貨準備が底をついてしまえば、換金に応じられなくなるわけですから、海外の投資家は先を争うように出口に殺到するという事が起こるわけです。


 ■輸入にブレーキがかかるとき

 経常赤字が急速に拡大しはじめると、それをすばやく食い止めるのに効果的な方法はひとつしかありません。それは「輸出が振るわないのなら、輸入も絞り込むしかない」ということです。大体、ホットマネーがどんどん飛び込んでくるような国は国内消費の需要も旺盛である場合が殆どです。輸入は国内消費と直結していますから、輸入を押さえ込むには消費を或る程度、殺さないといけなくなるわけです。これには国内の信用成長を抑制したり金利を引き上げるという方法が用いられます。


 ■インフレ

 イージー・マネーのいまひとつの落とし穴はインフレです。海外からの投機資金の流入は国内の資産価格のインフレを招きます。若し、銀行がこのブームに乗ってガードを緩めて杜撰な与信審査でどんどん融資を拡大すれば、政策金利が引き上げられた際に思わぬ不良債権を大量に抱え込むはめに陥るでしょう。また生活必需品や食品のインフレが発生した場合は所得水準の比較的低い国ほどすぐに政情不安やストライキなどに発展します。


 ■コンテージョン(伝染)

 さて、通貨危機が怖い本当の理由は問題が起きてしまった当該国に投資している人だけが損害を蒙るのではなく、多くの場合、比較的健全な国にすら様々な惨禍の火の粉が降りかかるところにあります。例えば上の説明で通貨危機に見舞われた国が「輸入を絞り込むしかない」という判断に達したとします。するとその国と沢山商売している相手国も突然、輸出不振に陥ることは想像に難くないと思います。ここ数年はイントラ・アジア、つまりアジア域内貿易がとても盛んでした。ベトナムもそのメンバーのひとりとしてこのブームに組み込まれていたわけですから、若しベトナムがアジア域内貿易のブームから脱落するようだとベトナムとの貿易相手国も景気が悪くなるわけです。


 ■関係ない国までもが巻き添えを食う?

 しかしもっと怖いのは一見、通貨危機に見舞われた国とは貿易上のつながりが薄く、経済のファンダメンタルズもぜんぜん違う国ですら、とばっちりを受ける可能性があるという事です。例えばタイランドのバーツ危機に端を発したアジア通貨危機ではインドネシアや香港など、タイランドとは殆ど貿易をしていない国までもが巻き添えになりエコノミストを驚かせました。また、経済のファンダメンタルズで言えばシンガポールや香港や韓国のように比較的国民所得の高い国もフィリピンのような比較的所得の低い国と分け隔てなく投機筋の売り崩しのターゲットにされました。




 ■今後のシナリオを模索する

 それでは若しベトナムの問題が深刻化した場合(未だそうと決まったわけではありません。でも細心の注意が必要だと思います)、グローバル・エコノミーのシナリオにどういう影響が出るのでしょうか?。この問題はとても複雑ですから、私にも結論は出ていません。でも思いつくままにチェックすべき項目を列挙すると:

◆ ホットマネーが介入している国や資産(たとえば石油)は資金が突然引くかもしれないので注意を要する
◆ 工業セクターや海運セクターはスローダウンするかもしれない
◆ アジア通貨危機の局面ではドルは基本的には強かったので、今回もこれがドル高要因にならないか注意する必要がある







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最終更新日  2008年06月02日 18時53分00秒


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