Der Nakajistil

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2005.07.01
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前回、クラヴィコード日記の第1回を書いたのは約1ヶ月前・・・。その時の公約では、プレクトラムを全部とりつけてから第2回を書く・・・はずだった。
しかし、クラヴィコードとはそもそも何ぞや?という説明が要るのではないか、と気がついた。そこで、今回はまだ工事中のクラヴィコードを使って、そのしくみについてお話したい。

クラヴィコード静止
クラヴィコードのメカニズムはいたって単純である。右写真上部にある細長い木が駒で、そこからこの写真で言えば左側にあるピンまで弦が張られている。通常左側にはフェルトなどでミュートがしてあり、したがってそのままはじいても音が出ないようになっている。
鍵盤は鉄製のピンの上に突き刺さっていて、ここを支点にシーソー状に運動する。鍵盤奥側のほうが比重が大きいので、静止した状態では奥側が沈んでいる。鍵盤奥にある金属片がプレクトラムという爪である。

クラヴィコード打鍵
右の写真は鍵盤を押した状態。鍵盤を押すとテコの要領で奥にあるプレクトラムが弦を突き上げる。弦の左側はミュートされているので音が出ず、右側、すなわちプレクトラムと駒の間のみ振動する。鍵盤から手を離し、プレクトラムが弦を離れるとミュートされて音が止まる。

クラヴィコード突く
右の写真はプレクトラムが弦を押し上げている状態である。プレクトラムが弦に接触している間は指の力が常に弦に影響を及ぼすことになる。つまり、指を振動させてビブラートをかけることもでき、また強く押し込んでピッチベンドさせることも可能である。もちろん、打鍵の強さによって音に強弱を与えることができる。
クラヴィコードはこういったことのできる唯一のアコースティックな鍵盤楽器と言える。J.S.バッハがこの楽器を愛用したというのは、まさにこの点においてであろう。

ゲブンデネ
クラヴィコードやチェンバロは2本の弦が一組となって一つの音に当てられている。

しかし、この写真のような小型の楽器では張れる弦の数も限られている。そこで、右写真のように、高音部においては一組の弦に対して3~4つの鍵盤が当てられている。

1組の弦に対し3鍵の場合、長、短3度の演奏には支障ない。4鍵の場合は短3度に支障が出るが、4鍵は最高音部のみで、おそらく昔はそのあたりで短3度を同時に鳴らすことがなかったのかもしれない。

クルツェオクターヴェ
もうひとつ小型鍵盤楽器の工夫として、“クルツェ・オクターヴェ”というものがある。
これは、鍵盤数の限られる小型楽器にできるだけ広い音域を与えようとする工夫である。
一番低い音域において、おそらく当時使われることの少なかったであろうfis音やgis音を除き、そのかわりにさらに低いc、d、e音をあてがうと言うものである。配列は右の写真のとおりである。
つまり、この音域において、C Durのスケールを弾こうと思えば、通常の鍵盤ではe-fis-gis-f-g-a-h-cと弾く感覚になる。




しかし、それならなぜ廃れてしまったのか・・・。
それは音量が小さすぎるという致命的欠陥を持っているためである。プレクトラムが弦を押す位置は振動の節、つまり一番振幅の小さい部分である。そのためどれだけがんばっても大きな音が出ないのである。どれくらい小さいかと言えば、真夜中に演奏しても苦情など考えられないほどのものである。
長い間、演奏会用のチェンバロ、個人用のクラヴィコードという棲み分けがあったが、ピアノの登場とともに活躍の舞台を降りることとなる。






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Last updated  2005.07.02 01:45:08
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Re:クラヴィコード製作日記 第2回 「クラヴィコードのしくみ」(07/01)  
クラヴィコードは、C.P.E.Bach が「指の力をつけるためにはハープシコードを、音楽を学ぶためにはクラヴィコードを」と言ったらしいです・・・。そこからもわかるように、微妙なニュアンスも表現できる、大変優れた楽器だったんですね☆
クラヴィコードもピアノと同じ様に、色んな木材が使われているのですか? (2005.07.02 13:44:16)

Re[1]:クラヴィコード製作日記 第2回 「クラヴィコードのしくみ」(07/01)  
なっぴちっぴさん
おはようございます。
>そこからもわかるように、微妙なニュアンスも表現できる、大変優れた楽器だったんですね☆

不思議な話ですが、ある知り合いのオルガニストも、「クラヴィコードで自由に音が出せるようになればオルガンでも出せるようになる」と言ってました。素人考えではオルガンってストップ弾けば好きな音が出ると思ってたんですが・・・あの時は「ふーん、なるほど」と言うしかありませんでした。

>クラヴィコードもピアノと同じ様に、色んな木材が使われているのですか?

ある意味ピアノよりいろいろな木材が使われています。写真のとおり、鍵盤も木材ですし、補強も木材です。ただ、僕が作っている楽器には何かしら金属の補強が必要なようです・・・それについては今考えているところです。
(2005.07.02 14:40:26)

Re:クラヴィコード製作日記 第2回 「クラヴィコードのしくみ」(07/01)  
doublejig  さん
いやぁ、本当にこうやって見るとシンプルなのですね。
低音部のェ・オクターヴェ”は時折ボジティヴオルガンなどでも見かけますが、高音部の3~4つの鍵盤で一組の弦を受け持っている、、というのは初めて知りました。これはクラヴィコード特有のやりかた何でしょうか?
 また、ブランスウィック中島さんの作られたこの楽器は何かオリジナルモデルがあるのでしょうか?
 また、わたくのページの写真のクラヴィコードって(チェンバロも含め)何ですけれど、欧州製か南米製か定かではありません、、またお暇なときにご意見うかがえれば嬉しいです。
 なんだか、質問だらけになってしまいました。すみません、、。 (2005.07.04 16:37:12)

Re[1]:クラヴィコード製作日記 第2回 「クラヴィコードのしくみ」(07/01)  
doublejigさん
お返事遅くなりました。
>低音部のェ・オクターヴェ”は時折ボジティヴオルガンなどでも見かけますが、高音部の3~4つの鍵盤で一組の弦を受け持っている、、というのは初めて知りました。これはクラヴィコード特有のやりかた何でしょうか?

打弦位置で音程を変えられるのはクラヴィコードだけなので、おそらくよほど特殊なものでなければクラヴィコード特有の機構だと思います。

doublejigさんの日記のクラヴィコードは写真で見る限り大型のものだと思われますので、1組の弦に1つずつ鍵盤が当てられていると思います。クラヴィコード全盛の時代に南米でクラヴィコードが作られていたとは考えにくいので、おそらくヨーロッパからの輸入品と思われます。
今回作っている楽器はOWS講師でチェンバロ製作マイスターのシュタナート氏の設計によるものです。生徒には各自図面が渡され、まずシュタナート氏が一台作って見せて、それを手本にしながら作ってました。
ちなみに同級生2クラスで50人ほどいましたが、今のところ完成させたのは一人だけのようです。
しかし、彼の作ったものは調弦して2日経つとボディーが歪んでしまったようです。
そのため、僕は今補強策を練っているところです。 (2005.07.05 00:27:52)

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