ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

Mar 23, 2011
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ポケーっと、曇り空を見ながら書いている


「地震の経験は余りないけど、山津波がなー」

今朝は地震が多い。地震の後、母がポツリとつぶやいた。

「六甲は、山津波が何度もあったわ」

「芦屋の辺りは何度も流されたけど、お爺ちゃんの建てた家だけはガラスも割れへんかった」

私が「六甲のジーちゃん」と呼んでいた母方の祖父は、腕のいい大工だった。


母の話によると、ジーちゃんが普請したのは、大丸デパートの社長の家だったらしい。

他の家が壊滅的被害を受けたのに、ジーちゃんの建てた家だけが無傷だったそうだ。

「そやから神戸製鋼の副社長さん達からも、いろいろ頼まれたんや」


ストラディバリウスの家

ある年、ジーちゃんは家の修理を頼まれて、その家に寝泊まりしていた。

「ここはキツネも出よるで」「夜、一人でチビリチビリと呑むのにいいんや」



その辻久子さんのために、ご両親は家を売って名器、ストラディバリウスを買ったそうだ。

その家の普請をしたからかどうかは定かでないが、コツコツと修理していた。


無口だった

ある棟上げ式の後、ジーちゃんの姿が見えなくなった。

いくら探しても見つからず、警察に届けようかという騒ぎになったらしい。

翌日、別に何事もなかったかのように、ふらりと現れたそうだ。

一升瓶を2本、敷地内にあった蔵に持ち込んで、一人で呑んでいたそうだ。


ほれぼれする男っぷりだった

間違いなく美男子だった。

年老いても、その面影は残っていた。そして優しかった。


「何てことするの! お爺ちゃんの大切な大工道具なのに!」

私は小学生の頃、とんでもない悪戯好きだった。

ジーちゃんのカンナやノコギリの歯をボロボロにしてしまったのだ。




ジーちゃんは、歯の欠けたカンナで近くにあった板を削った。

薄い紙のようになった削りかすが、綺麗な長方形になって床に落ちた。

「ノコも問題あらへん」

角材をスパッと斬り、つるっとした切り口を私に見せた。


血まみれで走りだした

同じ地区に、カズという悪ガキがいた。



腕力では敵わない。ベソをかきながら逃げ出した。

でもどうにも腹の虫が治まらない。手頃な角材を持って待ち伏せした。

出合い頭に、思い切り一発振り下ろした。

頭から血が噴水のように噴き出した。


「〇〇ちゃんがやった」「〇〇ちゃんがやった」

家に駆け込んだ私を追って近所の子供が集まって来た。

いつもはカズに虐められてる連中だ。


たまたまその日は、ジーちゃんが遊びに来ていた。

ひょいと表を見たジーちゃん、カズに駆け寄るなり抱き上げて走り出した。

すぐに医者に連れて行き、ぐっしょり血で濡れた衣服で帰って来た。

「20針ほど縫ったけど、もう大丈夫や」

私を叱ることなく、そのまま着替えて、何事も無かったかのように美味しそうに酒を飲んでいた。


後日談だが、カズのやつ、ペコペコしながら私の前に現れた。

それ以来、自然とカズは私の子分になった。

虐めることはあっても、やられることのなかったカズには、とんでもないショックだったらしい。


女房運は無かった

最初の奥さん(私の母の母)は、母を生んですぐに死んだ。

二番目の奥さんは、車の少ない当時では珍しい、交通事故で死んだ。

三番目の奥さんだけは、余生を全うした。


仕事が出来て、見るからにカッコ良く、無口で、金銭欲が全く無く、そして面倒見がいい。

皮肉屋で、誰一人褒めることの無かった私の父も、ジーちゃんについては例外中の例外だった。

「居るか居ないか分からへんこともあるけど、あれだけの人はいいひん」と言っていた。


「お爺ちゃんでも、今度の津波にはなー」

天才的な閃きで家を建てる人だった。それも、お施主さんの予算内でピタリと納めた。

「そうだね。いくらジーちゃんでも、今回のような津波には勝てないだろうね」


ジーちゃんが亡くなって30年以上になる。

瓦礫となった家々の映像を見で、ふと思い出した遥か昔のあれこれだった。


※ ジーちゃんは


やがてその少年は、棟梁の娘と結婚する。

その二人の間で、二番目に生まれたのが私の母だ。
ジーちゃんのお墓は故郷、福井県の敦賀にある。
去年、初めて私は、母を連れて行ってみた。

ジーちゃんの父親の墓もあった。
苔むした墓石には「大工 義平の墓」とだけ彫ってあった。
その傍らで、ジーちゃんも眠っている。





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Last updated  Mar 29, 2011 09:13:06 AM
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聖書預言@ Re:ネットを再開するぞーっ! と思ったとたん(04/28) 神の御子イエス・キリストを信じる者は永…
KURADON @ Re:ネットを再開するぞーっ! と思ったとたん(04/28) わあっ❗️ いきなり KURADONさん とでた!…
マリア4415 @ Re:会おうね。関西の人、中国地方の人(08/05) はじめまして。突然お邪魔して申し訳ない…
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のりのり@ よかった 久しぶりにのぞいてみたら、ご隠居さん本…
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秦野の隠居@ Re[3]:秦野の隠居です(04/28) パパイヤさん ----- 後ほどご連絡させて頂…
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第二章 協力出版と懸賞募集の甘い罠


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第四章 本にする原稿をまとめよう


第五章 自分の本を売ってみよう


第六章 安く本を作る方法を考えよう


第七章 物書き稼業と編集者稼業の裏表


第八章 昨今の出版業界のお寒い事情


第九章 いまどきの本屋さんと物流事情


第十章 出版業界こぼれ話


【出版後記】


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第二章 山里「コンタ」発見


第三章 知らないってことは


第四章 竹の子で仲間を釣り上げる


第五章 森の天使の小さな落し物


第六章 小悪魔『チビクロ』参上


第七章 チビクロ砦とチビクロ王国


第八章 まったくもう、田舎暮しってヤツは


第九章 チビクロ、チビコゲへ変身中


第十章 隠れビーチで日向ぼっこ


第十一章 チビクロ、何処へ行こうか


第十二章 何で、お前まで行ってしまうの


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