July's July

July's July

2015.10.01
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 今回の仕事で松橋さんというご老人に仲良くしていただいた。一言お礼を申し上げておきたい。同郷の男たちはどの人もキャラが際立っていて興味深い人たちばかりだったが、その中でも強烈なキャラとして目立っていたのが松橋さんだった。仕事の初日にアイスクリームを20個ばかり買ってきて女の人たちに配っていたという話が仲間内で話題になっていた。まったく人見知りすることのない人で、全然知らない人でも昔からの友人のように人懐こく話しかけてくる人だった。僕も一瞬にして昔からの知り合いのような感覚で親しくなった。この人は男に対してもそうなのだが、女に対しても全く変わらない。知らない女性でも普通に躊躇することもなく話しかけていた。中でも全然言葉の通じないペルー人の女性たちにまで平然と話しかけていたのには、こちらもはずかしいやらあきれてしまうやらだった。しかし最初は全然相手にされていなかったのに最後近くになるとペルー人の女性たちも僕たちを見ると身振りや目であいさつを交わしてくれるようになっていた。松橋さんと一緒にいたおかげで僕も女性に話しかけやすい環境の中にいた。実はミス工場としょっちゅう休憩室で顔を合わせていたのだが、周りはオジサンおばさんばかりで何となく若い子に話しかけるのは気が引ける雰囲気だったし、管理者のT女子、僕たちは彼女をデビ婦人と呼んでいたが、その人が、ここのおとこたちが若い子に手を出させないように監視しているみたいに目を光らせていた。

 松橋さんは夜食として会社からいただいたパンと牛乳を毎日デビ婦人にプレゼントしていた。デビ婦人は最初松橋さんに会ったとき愛嬌のある顔だわねと言っていた。まったくその通りで若かった頃はとてもハンサムボーイだったに違いない。どの女性に対しても分け隔てなく優しいし、一生懸命尽くす人だった。デビ婦人も最初はおちゃらけた軽い人だと思って全然相手にしていなかったのだが、毎日プレゼントをもらっておまけに愛してますと言われ続けているうちに、ほろっと来るようになっていた。

 ある日そのことを松橋さんに話していると、突然真面目な顔になって、「女って怖いものだよ」と僕に言った。いつ話したのかは知らないけど、なんでもデビ婦人からセックスのお誘いを受けたそうだ。もうおばあさんに近い年なのにちょっと色気があってまだ現役らしいのだ。松橋さんは、ばあさんとなんかできるかよと平然と言い捨てた。毎日プレゼントして愛してますと言っていたのにである。まったく津軽人の典型を見ているような気がした。お茶らけている一方で、実は極めて冷めた目で物事を見ている人格が存在するのだ。たぶん太宰も津軽人のこういう気質を受け継いでいたんだろうなと思った。

 そんなこんなでなかなかミス工場に話しかけられずにいたのだが、ある日休憩室に彼女が入ってきたときに、僕と松橋さんは一緒に並んで休憩していたのだが、そのとき松橋さんが彼女にも聞こえるような声で「おっ、きれいな人だな。おめばにらんでいたよ。気あるんでね、話しかけてみれば。おめもいい男だもな。」と僕に言った。それで僕も「えー、ほんと。じゃあ、はなしかけてみるかな。」と冗談っぽく松橋さんに返答した。たぶん彼女に聞こえていたかもしれない。その場にいた若い女の子たちが笑いながらひそひそと話し合っていた。

 初日から大酒のみで落ち着きがなく誰かれなく話しかけるので仲間内からはうるさい人と敬遠されていたが、僕は松橋さんが大好きだった。最終日僕たちはバスで観光して帰る予定だったが、松橋さんは室蘭のいとこを訪ねるということで電車で帰る予定だった。僕は一緒にバスで観光しようと何度も言ったのだが、めったに会えないからということでやはり別々に帰ることになった。 

 みんなを明るくして元気にしてくれた松橋さんにもう一度会いたい。彼がいたおかげで僕たちはとてもハッピイだった。僕も何とかミス工場に話しかけることができたわけだし。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2015.10.01 06:40:50


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: