LUNATIC

LUNATIC

2007.01.21
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カテゴリ: 小説
 最初にその人からのメッセージを聞いたのは、いつもとかわらない「ただの土曜日」の朝のことだった。
 若い時代を過ぎてしまえば、週末だからといって、特別なにがあるわけでもない。定期的に来るただの休日。少しゆっくり眠って、いつもより手をかけて朝食を作るのも、いつもとなんらかわらない。
 コーヒーをドリップする。いつもならインスタントなのだけど、週末だけは別だ。
 私は、部屋に香ばしいヨーロピアンコーヒーの匂いが広がっていくのを充分に確認してから、部屋を出て、玄関脇の充電台に置いてあった携帯電話を手にとった。
 夜中に携帯にかかってる電話にろくなものはない。
 退屈な事務員に、仕事の電話が退社後に入ることはない。だから、夜中にかかってくる電話といえば、たいていは、結婚した友人が涙ながらに語る旦那の愚痴。『結婚なんてするものじゃないわ』と、いうなかばイヤミなそのセリフ。最後は結局「それも幸せなのよね」的結論を勝手に出して、おそらく電話を切ったあとにはスヤスヤと眠るのだろう。まったく、その後私が眠れなくなることなんて思いついてもいないのだろう。
 だから、私は、眠るときには携帯の電源を切っておく。そして、玄関の脇にある充電台にのせるのだ。電源は、出掛けにいれればいい。
 私は携帯の電源を入れながら、コーヒーの香りの充満した部屋に戻った。サーバーに落ちたコーヒーをカップにいれ、留守電とメールをチェックする。
 すると、携帯電話の液晶画面の端に、留守電が一件入っているというマークが出た。

 そう思いながら、フライパンを火にかけ、卵をひとつ落とした。
 そして、留守電再生のボタンを押し、携帯を肩ではさむ。
 ピーっという音のあとに再生が始まる。
 すると、予想に反して、電話から聞こえてきたのは、まったく聞き覚えのない、女の人のかすれた声だった。

「大石の家内ですー。あんたさーあ。うちの旦那がずーいぶんっとおせわになったみたいでーぇ、まったく、冗談じゃないわよ。よーっくお礼しなきゃねーぇ。連絡くださいよ。電話してきなさいよ。ねぇ、わ・かっ・た・あ?」

 メッセージは、そこで切れていた。

『大石』という名前には聞き覚えがあった。
「確か、半年ほど前に、本店から派遣されてきた若作りの中年男性……」
 私は自分も中年であることを思い出し、ちょっとおかしくなった。
『自分が中年になっても、中年男性は中年男性のまま、良いイメージにはならないものなのね』
 と、そこまで考えたところで、香ばしいを通り越した匂いが漂っていることに気付いた。



 声に出してそう言って、私はあわてて火を消した。
 目玉焼きは、端が少し黒くコゲていた。まったく、せっかくの週末が台無しだ。
 それでも、焼きなおすのもめんどくさくて、私はその目玉焼きを白い大きなプレートにうつした。ルッコラのサラダと、小ぶりのブリオッシュをふたつ、同じプレートに盛り、テーブルにつく。
 コゲが目障りで、私はまず、そこから食べ始めた。

「苦いなぁ もう」



「大石さん、ねぇ……」

 大石といえば、その男しかいない。小中高校の同級生にもいない。そして、確かにその男には、仕事の用事があったときに、一度、携帯から携帯へ電話をしている。
 しかし、それだけだ。男と女の関係どころか、個人的な話をしたこともない。結婚してるかどうすら知らない。

「なんなのかしらね、まったく」

 私は、ため息をつき、今度はコゲをキレイよけて卵を食べた。
 コゲがないにもかかわらず、卵はやっぱりコゲ臭かった。





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Last updated  2008.06.23 05:24:28
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