2004年06月15日
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カテゴリ: 小説『Atomic City』
今から二百年後。。
2207年

日本。。

カイ.β.クライン 遺伝子操作と人工授精により アトミックシティー遺伝大学病院にて2180年7月7日誕生 性別(男)
認識番号 β・0590777

たぐいまれな身体能力と筋力 IQをそなえている
成長の過程で 養母の教育方針 養父の虐待で従順性に欠ける部位あり
政府遺伝教育プランCより2199年 ”削除”   


2199年

100m  10.2秒
200m  19.97秒
1000m  129.67秒 
握力 右  78.7kg
   左  82.0kg
背筋力   246kg

視力 右3.0   
   左3.0

身長 178.5cm
体重 68.7kg


学位


専門課程 取得学科
人類学  A
植物学  S
考古学  A
機械工学 S

応用力学 S
倫理学  S
地学   A
芸術学  A
生物学  S 

IQ・217

優秀ではあるがプランCへの不適合性のため
記憶変更処置後 ”削除”する


          序章

男は 長い階段を見上げていた。
300m続いているこの階段を何度往復したことか。。 

雪が少しではあるが降りはじめ 男の顔で水滴へと変わった。
おぼつかない足取りで階段を登ると 目に飛び込んできたのは 
輝かんばかりのクリスマスのイルミネーションで飾られた家。
暖かみのある光 家族の居る家 全てが完璧に幸せを演出している。 
男の瞳には 悲しみと 憎しみとが入り交じりあふれんばかりの涙が込み上げてきた。
「うぅぅぅ.....うぁぁああああああ~!」
彼は 押し殺しながら うめき 髪をつかみ 顔を歪ませ
後から後からこぼれ落ちる涙が まるで堰を切ったかのように止まらなくなっていたのだ。。
彼の膝は 曲がり 階段にスネがぶつかる。。くの字になった腰で 夜の雪空に 泣きわめきながら叫んでいた。
彼は 今日というクリスマスの日 ぬくもりも愛する人も家庭をも失っていたのだ。
おそらく彼のすべてであったろう 最も大切なものを。。。

雪は強くなり 悲しみも憎しみも 愛さえも真っ白に変えてしまうだろう。。そして記憶さえも。。



          軍事法廷

2207年12月21日

「被告カイ.β.クライン 無罪! 2207年12月21日12時00分被告の釈放を認める。」軍裁判長は カイ.βにそう告げた。
「電子パネルにサインをしなさい!」
軍副裁判官の女性が甲高い声で命令をした。
カイ.βは 心のなかで思った。『俺は軍人じゃない...』

サインをする手が小刻みに揺れる。いや震えているのだ。
虚脱感が彼を覆っていたはずなのに どこからか怒りに似た
感情が湧いてくる。
でもそんな気持ちも数秒しかもたなかった。
カイ.β.クライン...彼は 疲れきっていたのだ。


彼の上官が軍裁判官に敬礼をし 証人となった下士官に挨拶をした。
「オーウェン.ナタベ大佐 あなたの指揮からカイ.β.クライン大尉を解任します。これは軍裁判局の決定であり変更は出来ません。」軍裁判官が少し丁寧な口調で言った。
「電子パネルに サインを御願いします。」 
今度は 女性副裁判官でなく記録係が小声でささやいた。

筋肉質の大佐の指がパネルに字を描く。。
OHUEN NATABE...

パネルが点滅する...

裁判は終わった... 


ナタベ大佐は かつての部下を見ようとはしなかった。
カイ.βにとってその行為は 少しだけ開放感を与えた。
なぜなら 大佐との出会ったときから その強い眼差しと
軍隊ならではの規律を誇示するような声に嫌気を感じていたからだ。
大佐にとってこの法廷は ”不愉快な場所なんだろうな””そして自分のおかした罪 彼の隊に入ったきっかけ”を大佐は
どう思っているんだろう?そんな考えが頭をよぎる。
カイ.βにとって軍とは すでに無意味であったがこれからの
生き方を変えてしまうに十分な所でもあった。


裁判場は広く 天井の壁面には 天秤と軍旗が画かれカイ.βを威圧しているように思えた。
所員と警備官に囲まれ裁判場の表に出ると長い廊下が左右に別れ 更に天井は高くなっているようだ。

証言をした下士官のフレッドが少し間をおいて出てきて
無表情で彼に敬礼 すぐに左の廊下に歩き出した。
彼の足音が広く高い大理石の壁に響き渡るのをカイ.βは しばらく聴いていた。
すぐに 白髪まじりの警備官とともにタグチ少尉と大佐が現れ
無視するかのようにフレッドと同じ左の廊下に歩き出す。
タグチ少尉は すこし歩くと一瞬振り返りニヤッと笑いながら
「カイ.β.クライン!受け取れ!」と叫んだ。
タグチ少尉は 10歩程行った所から小さなカードを投げた。

カイ.βの右胸に勢いよく当たり手の中に落ちてから
カードは 彼の認識を始める。
ライトが彼の瞳を照らし 体内チップを確認。

タグチ少尉 彼の前歯は まだ砕けたままだったが
満面の笑みでこう言った。
「むいてないですよ。あんたには!」

カイ.βは 腹の出た所員に促され 3人の警備官とともに右の廊下へ歩き出す。
5人の足音と 遠くでこだまする2人の軍人の足音が不思議と
彼には 心地よく思えるのだった。




ゲイトの外に 誰かが立っている。
カイ.βには それが誰なのか分かっていた。。。

        文 Kaizu
        小説『Atomic City』より


        著作権は Kaizuに属します。





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最終更新日  2004年07月28日 17時22分31秒
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