フォーカスチェンジ・フラッシュ

フォーカスチェンジ・フラッシュ

2013.01.30
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その体験と、学びとを


みきちゃん(仮名)は、
おとなしいけれど、
そのまなざしのなかに、
深い思いをたたえている。

そんな感じのする子です。

いつも、黙々と稽古をし、
けっして、手抜きをしない
誠実さをもっていました。


横浜市青葉区小中高生ミュージカル
有志による小公演。

リハーサルも終え、あとは本番を
待つだけの、2日前のことです。

演出さんのもとに、
一本の電話が入りました。


みきちゃんの家からでした。

通っている学校の運動会が、
雨で順延になり、本番と
重なってしまうというのです。


その可能性については、
実は、出演申し込みの際に、
ちらっと聴いてはいました。

が、最近は、そんなときも、
理由を話して申告すれば、
学校のほうでも配慮して
くれるようになりました。

だから、おおきな問題には
していなかったのです。


さっそく、連絡をとるように
手配しようとすると、電話の
向こうの声がくもりました。

そうではなく、
みきちゃんのお父さんが、

「学生は、学業が優先。
 学校行事のほうに出るべき」

と、ゆずらないというのです。


みきちゃんは、泣きました。

公演時間や距離を考えると、
運動会が終わってから
駆けつけても、間に合わない
ことははっきりしていました。


せっかく稽古を重ねてきたのに、
出られないくやしさ。

何よりも、いっしょに
舞台をつくってきた仲間たち
にたいする、申しわけなさ。

みきちゃんのなかでは、
さまざまな思いが、
うずまいていたことでしょう。


けれども、私たちスタッフが、
家族の問題にまで
踏みこむことはできません。

話を聴くかぎり、お父さんの
意志が固いことも
伝わってきていましたから。


「代役を立てよう」

演出さんは、決心しました。

夜のうちに電話で、依頼を
まわし、すべての手はずを
ととのえました。

「間に合ったら、もちろん、
 みきちゃんにやってもらう」
と、約束して。


本番当日。
舞台がはじまりました。

私は、客席の一番うしろで、
記録用のビデオカメラを
まわしていました。


集団演技の場面。
みきちゃんの姿はありません。

直前の稽古では、みきちゃん
の欠けた部分を、ほかの子が、
埋めるように、修正され、
舞台上の違和感はありません。


そして、いよいよ、
みきちゃんの歌の場面。

代役のさくやちゃんの姿を
予想していた私は、
あれっと思いました。

登場してきた役者さんが、
どう目をこらしても、
みきちゃんに見えるのです。


私は思わず、カメラを
ズームアップさせ、
確認してしまいました。

まちがいありません。

みきちゃんです!

みきちゃんが、間に合って、
いま、舞台の上で、自分に
とって、今回一番大切な
シーンを演じているのです!


あとで聴いたところによれば、
みきちゃんが、息せき切って、
舞台裏に駆けこんできたとき、
舞台はすでにはじまっていました。

けれども、集団演技の場面を
パスして、着替えをすれば、
後半のこの場面には、ぎりぎり
間に合う時間だったのです。


演出さんがGOを出しました。

みきちゃんは、
大急ぎで着替えをし、
何事もなかったかのように、
この場面をつとめたのです。


「よかったですねえ。
 よく間に合いましたねえ」

しみじみと言う私に、
演出さんは、「気づかないの?」
というような表情を見せました。

「みきちゃんの出場する競技が
 終わったら、早退させて
 くれたんだよ」


だれが?

…そう、お父さんでした。

お父さんが許可しなければ、
運動会を抜けることだって、
できなかったはずですから。


直接、確認したわけでは
ありませんが、この2日間、
娘の反応を見るなかで、

お父さんなりに感じる
何かがあったのでしょう。

その結果として
「早退」という配慮を
してくれたのでしょう。


だれも、まちがってはいないし、
だれも、悪くはないのです。

それぞれが、それぞれの
信じるところにしたがって、
考え、行動したのです。


その結果として、
みきちゃんは、自分で自分の
行動を選ぶことの意味を学び、

また、自分を支えてくれる
仲間の存在に、あらためて
気づいたことでしょう。


仲間たちも、みきちゃんを
支えることで、よりいっそう、
きずなを深めることが
できたでしょう。

また、どんなアクシデントに
たいしても、対応していける
強さやしなやかさを
身につけたかもしれません。


そして、
みきちゃんのお父さんも…。

そんな、みきちゃんと
仲間たちの関係に、何かを
感じてくれるにちがいない。


舞台が終わり、
いつもと変わらず、明るく
笑いあっている子どもたちを、

そしてその輪のなかに、
溶けこんでいるみきちゃんを
見ながら、そんな気持ちが、
静かにこみあげてきたのです。


舞台という、ひとつのドラマの
内がわにも、外がわにも、
たくさんのドラマがありました。

おそらく、みきちゃんだけで
なく、一人ひとりの子どもが、
その胸のうちに、さまざまな
ドラマをかかえているでしょう。


その体験と、学びとを、
大切に重ねていってほしい。

そっと祈らずにはいられない
私なのです…。


●追記

2011年をもって、私は、
この子どもたちのミュージカルの
活動から離れることになりました。

貴重な10年間の体験でした。


--かめおかゆみこ発行
   「今日のフォーカスチェンジ」
   第2050号(2009年6月9日発行)より


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Last updated  2013.01.30 12:23:04
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ぱんちゃん@ Re:達人の出番です!(12/07) 心配り。心痛い!なかなかできない。心配…
ぱんちゃん@ Re:こころが動かないときは(12/07) 三秒でもよい。二日坊主の私はいつも片身…
黒澤まちこ@ Re:「あなたが採用決定者です」(10/04) そうなんです。みんなが幸せなら私は幸せ…
くろさわまちこ@ Re:からだの問題だけではありません。(10/04) 上手く言えませんが、そんな感じ。私のな…
みゆ@ Re:「今にして思えば…」 本当にそうですよね 過去をふりかえるより…

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