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May 24, 2024
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カテゴリ: 書評

内戦下、無人の高層ビルで生きる

作家 村上 政彦

アグアルーザ「忘却についての一般論」

本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザの『忘却についての一般論』です。

作者は、アフリカ大陸・アンゴラ共和国の小説家ですが、アンゴラといってもピンとこない方が多いのでは? 私も本を読むまでは、国名を知っている程度でした。

アンゴラは、 400 年にわたるポルトガル支配の後、 1975 年に独立を果たしました。しかしその後も国内の政治勢力の主導権争いが起こり、 27 年もの内戦が続いた。長い紛争で国も人も疲弊する。本作は、その時代を一つの物語にしています。

登場人物の女性ルドヴィカ(ルド)は、良心を事故で失い、姉のオデッテの家で暮らしていた。やがて姉は偶然に出会った男性オルランドから求婚され、首都ルアンダの豪奢な建物〈羨望館〉の、最上階の部屋へ妹と引っ越す。

「客間と屋上テラスは古式蒼然とした錬鉄製の急な螺旋階段でつながっていた。屋上からは街のほとんどを見渡すことができた。湾、島、そして更に向こうには波で編んだレースの合間に砂浜の首飾りが打ち捨てられていた。オルランドは屋上に庭園を造っていた。あずまやからはブーケンビリアが荒いレンガ造りの床に届かんばかりに咲き誇り、薫り高い紫色の影をつくっていた。ザクロの木が一本と、たくさんのバナナの木が植えてある一角もあった」

オルランドは義妹ルドにジャーマン・シェパードの子犬を贈る。彼女はかわいがるが、この犬がパートナーになる。

内戦が始まった。〈羨望館〉の住人は、次々に安全な国外へ逃れ、オデッテは夫に自分たちもアンゴラを離れようと言う。反対していたオルランドもリスボン行きを決める。翌日の夜、姉夫婦は国外へ逃れる知人の送別会に出かける。だが深夜になっても帰らない。

翌日、ポルトガル軍を名乗る男から電話があり、「ブツを渡してくれれば、オデッテさんを解放する」と。ルドには何のことかわからない。混乱しているところへ、 3 人の暴漢が現れ、部屋へ侵入しようとしていた。彼女は義兄の隠していたピストルをドアにめがけて撃つ。ルドは身を守るために人を殺した。ここは安全ではない。

オルランドはテラスに小さなプールを造ろうとしており、「セメントの袋や、砂、煉瓦」などが置いてあった。彼女は意を決してドアを開け、廊下に壁を造り始めた。建物のほかの場所と、自分の住居を隔てるために。壁は出来上がった。その日からだった、ルドが 27 年にわたって自分を閉じ込めたのは――。

このコラムでは、これまでも様々な海外文学を紹介してきましたが、アンゴラ文学は初めてです。

世界は広い。まだまだ面白い作品があります。

【参考文献】

『忘却についての一般論』木下眞穂訳 水平社

【ぶら~り文学の旅㉑海外編】聖教新聞 2023.3 8






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Last updated  May 24, 2024 04:34:56 PMコメント(0) | コメントを書く
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