映画の内容とか原題とかとの関係は考えないとして、タイトルそのものとしては、『女と男のいる舗道』はなかなかの良いタイトルですね。でもやはりこの映画のタイトルは『VIVRE SA VIE』です。「自分の人生を生きる」とか訳されるけれど、「与えられた自らの生を生きる」といった感じです。フランス語の VIE(とか英語 LIFE、独語 LEBEN )を含むタイトルの直訳は難しいですね。生活、人生、生涯、生命等々の意味すべてを合わせた日本語単語ってないんですね。
かつて監督のゴダールは「好きな映画作家を3人挙げて下さい」というインタビューで、「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ」と答えています。今でもそう答えるかどうかはわかりませんが、少なくとも昔は溝口健二が好きだったようです。その溝口健二の1948年の作品に『夜の女たち』というのがあります。ここでは戦後の貧困が原因ですが、もともと堅気の女性が貧困ゆえに娼婦(夜の女)になっていくという物語。病気の小さな子供を抱え、戦死した夫の実家では邪険にされるし、事務員をする会社社長の二号さんになり、やがて街娼となっていく。彼女の場合も与えられた境遇・条件の中で、でもその与えられた「自分の生を生きて」いくしかないわけです。細部を大胆に無視すれば、ゴダールのこの『女と男のいる舗道』と同じだとも言えます。1962年当時にゴダールが溝口のこの作品を観ていたかどうかはわかりませんが、観ていたにせよ観ていなかったにせよ、この『VIVRE SA VIE』はゴダール版「夜の女たち」であり、ゴダールのミゾグチに対するオマージュ的作品になっていると思います。