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さしずめ〈筆(ふで)を投(とう)じて戎軒(じゅうけん)を事(こと)とす〉の心境だろうか。
戎軒とは戦車のこと、あるいは戦(いくさ)のこと。
唐詩選にある有名な「述懐(じゅっかい)」を、細川護熙氏はかつて自著に引いて、「天下を争う戦いに、筆を投げ捨てて乗り出した」という訳を添えた。
▼政界を退き、詩、書、画、陶芸を心の友として過ごしてきた元首相が一転、
東京都知事選に立候補する。
それを、やはり首相経験者の小泉純一郎氏が応援する。
掲げる旗印は「脱原発」。
驚きの展開である。
政権放り投げ 細川首相辞任
▼エネルギーや原発政策は国策であり、首長選にそぐわないという議論はある。
しかし、都知事選で光を当てることの意味は大きい。 福島の事故の後に行われた一昨年の衆院選でも去年の参院選でも原発の扱いをめぐる
論戦はかすんでいた。
▼都は並の自治体とは違う。
最大の電力消費地であり、エネルギー問題の当事者にほかならない。 立地の危険を地方に引き受けてもらって傍観しているわけにはいかない。
今回、都民はわがこととして熟考するまたとない機会を得る。
▼都民だけの問題でもない。
私たちの日本は未来の子孫に何を残すのか。
世代を超える難題が永田町の政党政治は苦手だ。
民主主義にはデモも住民投票も必要だし、地方政治も一翼を担う。
首都という大舞台での論争なら、全国民の注目が集まろう。
▼先の「述懐」は〈功名(こうめい) 誰(たれ)か復(ま)た論(ろん)ぜんや〉と結ばれる。
手柄を立てて有名になりたいなどと、だれが思うだろうか、と。 勝敗はともかく、候補者同士の無私の論戦を切に望む。
by asahi.com