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秋(46) 書斎のポーチである。この頃は日中は小春日和の良い天気でガーデン椅子に座って日向ぼっこをする事がある。と言っても、ものの十分程度だ。芝生に生えた雑草が気に成って立ち上がって抜きに行ったり芝刈り機で刈るから、長く続けて椅子に座っている時間が無いのである。陽が眩しいから帽子を被る。麦藁帽子であったりゴルフのキャップであったりと気分次第で選ぶ。芝刈り機も大きいのは面倒なので芝生用の電気バリカンで短く刈り取る。それだと跡が綺麗に観えるから小まめにやれば良いのは分かっているが、未だ藪蚊が近寄って来るので三十分も続ければ良い方である。香取線香を腰にぶら下げれば蚊も近寄らないのだが、其処まで用意するのが面倒で、つい付けずに刈るから痒い思いをする訳だ。ココが横に来て芝刈りをジッと観ている。ココの顔の周りを蚊がブンブン飛びまわっても前脚で追い払う。身体の方は体毛が長いから蚊は射す事が出来ず、ココは痒さというものを知らないのだ。かくして痒みから逃れてボクは椅子に戻り日向ぼっこの続きをする。そして同じ繰り返しをしていると小一時間なぞあっと言う間に過ぎてしまう。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/31
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秋(45) 書斎の外観を庭から眺めた風景である。ススキが穂を出している。秋も深まって絶好のゴルフ日和である。月末に友人とこの前行ったゴルフ場へ亦行く予定になっているから体調を整える為に練習場へでも行こうかと想う。毎回、ボールは精々100球打つ程度だが、身体をほぐすには適量なのだ。それ以上打つと疲れが残ってしまう。若い頃なら200も300も打ったが、今はそうは行かない。我武者羅に打っていた頃は飛距離ばかり気にしていたが、最近では近距離の落とし場を選定しながら打っている。頭の中でコース設定をし、ロング・ホールやミドル・ホールの場合は、先ずドライバーでフェアウェイの中央を目指して打つ。ボールの落下地点が想定した場所から5ヤード以内ならOKで、10ヤード程度ずれると75点、20ヤード程では60点ギリギリ、それ以上ずれるとアウトという事にしている。順調に行けば次のスプーンも同じ採点で観るが、ドライバーよりもスプーンの方が正確で、ミスる事は先ず無い。ロング・コースの場合は再度スプーン(3番ウッド)かクリーク(5番ウッド)で打ち、ミドル・コースの場合はピッチング・ウェッジかジガーで打つ。ホール・グリーンまでの残距離によって打ち方を変える。フル・スイングやハーフ・スイングで調整するのだ。かくしてパー・オンすれば合格で、気持ち良く次の練習に移れる。コンセントレーションが大事という事だ。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/30
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秋(44) 自宅の近所の散歩道である。朝日が林に射しこんんで清々しい光景を見せてくれている。最近はウォ―キングを止めてしまったので薄暗い夜明け前の雰囲気は書斎の窓からしか観ないが、ガラス戸を半分開けて雨戸を開けると朝の餌を食べ終えたココが脱兎の如く庭へ飛び出す。五時過ぎでは未だこんなに暗いのに何処へ行くのだろうかと想うが、何時もの定位置(ガレージの塀の上)へでも行くのだろう。其処から通りを眺めるのがココの一日の始まりなのである。ボクの部屋でボクの起床に合わせて置き、階下で餌を貰い、食べ終えると外へ出る。それだけの事ながら今日も変わらぬ一日が始まった事を見せてくれるのだ。最近では20mほど離れた場所の空き地(この辺りでは唯一残っていた宅地)で建築行為が始まったのでその光景を眺めているのかも知れない。尤も、工事は8時半頃からしか始まらない。寒い中、身体を丸めてジッと眺めながら待っているのだろう。今日も良い天気になりそうだ。朝日が射しこんで来るまで辛抱強く待つ猫の習性には驚くばかりだ。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/29
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秋(43)スタート・ホールの人工衛星写真 ゴルフは単純なスポーツだからこそ長続きがするのかも知れない。失敗をウジウジと悔やんでも始まらない。高が遊びなのだ。されど結果が悪ければ面白くない。プロなら死活問題になるだろう。そういう悔しい想いを抱えたまま消えて行ったプロ・ゴルファーはテレビで活躍するアスリート達の数百倍・数千倍は居るだろう。それを想うとプロの世界は大変なものだと想ってしまう。が、我々は素人なのだ。自分に厳しく律しながらも楽しめれば充分なのだ。自分に厳しく律するとはルールを厳しく守る事である。少しでも甘い接し方をしたのでは自分を偽ってしまう。偽りで良い結果を出したところで自分には嘘は付けないから人生もその様な生き方になってしまうだろう。「まあ良いや」という甘い考えが人生を狂わせる。自分に厳しく他人に優しいプレイヤーは清々しい。しかし本当は他人(仲間)にも厳しい方がもっと清々しい。そういうプレイヤーは上手くなるし、一緒に廻った仲間も上達する。尤も、遊びなのだから楽しい雰囲気も維持しなければならないのは言うまでも無い。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/28
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秋(42) 5番ホールと6番ホールのコース写真である。ティー・グランドから打って、グリーンに乗せるまでのプロセスを分かり易くする為に自分の飛距離も書き込んである。ボールが想い通りに行けば問題無くホール・アウトし、次なる隣接するコースのティー・グランドに立つ訳だが、パーで終了せずボギーやダボ(ダブル・ボギー)なんかに成ると自分が惨めに想えて来るものである。何故失敗したのだろうかとか何故もう少し慎重に打てなかったのだろうかと様々な原因を考えてしまうのだ。しかし、ティー・グランドに立つとそれらの煩悩は綺麗サッパリ忘れて打つ事になる。何時までも悔いを残しては新たな挑戦に影響が出るからだ。其処にゴルフの魅力が隠されているのだろう。広いフェア・ウエイを眺望して今度はどういう攻め方をしようかと考え、その通りに打てた場合なぞ有頂天になってしまう。そして結果が良ければ、矢張りスタートの新たな心境が良い結果を出すのだと言う事を知る。そういう単純なスポーツなのだ。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/27
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秋(41)コースの見取り図人工衛星からの同じホールのコース写真 上の図はゴルフ場に常備してあるコースの見取り図である。何処のゴルフ場にも用意してあって、ほぼ同じスタイルである。是は初めてプレイする際に参考にはなるが、おおざっぱ過ぎて詳細は自分で書き込まなくては分からない。18ホールを一度プレイすればほぼ覚えるから次回からは自分の観たり感じた事を書き込んで資料として利用すれば価値が上がる。ボクは人工衛星からの写真を自分流に編集してコース毎の資料にしている。リアルな風景だけにブラインドやバンカーの位置が見取り図以上に分かる。前回のスコアも書き込めば目安になるから何処でミスをしたか反省材料にも成る。かくしてこのコースを攻略した暁には完全に頭に入っているから次回は不要になる。資料を残して置けば来年にも使える。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/26
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秋(40) 先月に引き続き今月も行ったゴルフ場の人工衛星からの写真である。グーグルアースを利用した。別にコース毎の写真を作成し、プレイをする際に参考にする為に引用ししているのである。コース毎の資料18ホール分を作って綴じている。スコアカードの手帳に一緒に挟んでポケットに入れている訳で、ゴルフ場に常備してある見取り図では正確さに欠け、ブラインドやバンカーが不正確なのもある。ホールグリーンの見通しラインはティーグランドからの眺望だけでは不正確で、ボク独自の参考資料にしている。便利な世の中になったものである。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/25
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秋(39) 午後からのスタートでは食事を終えたばかりで張り切ってはいるが、午前中のリズムが中断されてしまっているのでミスをする確率が意外にも高い。だから慎重にプレイする訳だが、それでも肩に力が入ってしまう。力が入ればボールの落とし所を間違う。飛ばそうと張り切るからだ。ベテランは淡々とマイペースで打つから、良くも悪くも無い普通のプレイでスタートする。無難だからミスが出ない。ミスは次のプレイに負担に成る。つまりスタートからミスるのとミス無く行けるのとでは大きな差が出る訳だ。初心者で無くともスタートはつい頑張ってしまうものだが、それを淡々とプレイ出来る迄に成るには精神的に修業が要る。普通にプレイしている様で案外自重しながら慎重に打っているのである。白鳥が湖面を悠々と静かに泳いでいる様に観えながらも実は水面下では忙しなく足で水を櫂でいる様なものである。見掛けとは違う蔭の努力が要るのである。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/24
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秋(38) 午前中の9ホール目に来るとクラブハウスが観えて来る。クラブハウスで昼食を挟んで休憩し、午後のプレイに備える頃になったのだ。やれやれという気持ちと午後からのコースでスコアを上げたいという闘志がみなぎって来る。日本ではコースは何処もクラブハウスから出て、9ホール終えればクラブハウスに戻る設計が為されているが、本来はクラブハウすからスタート(アウト)して9ホールをプレイしてから食事なり休憩の為に9ホール辺りに在る茶店や食堂へ寄り、そして食堂から出て午後からのコースを廻り、18ホールを終えてクラブハウスに戻る(イン)のが基本である。つまりクラブハウスから出るコースをアウトコース、クラブハウスに向かって戻るコースをインコースというのだ。処が日本ではアウトコースもインコースも夫々クラブハウスを出て戻る形になっているからアウトとインの使い分けの意味が無い。それを不思議とも想わないでプレイしているからボクなんかは気に成って仕方が無い。だからでも無いだろうが、27ホールあるゴルフ場なんかは、アウトコースやインコースの意味を為さない。更にはクラブハウスの大浴場なぞも日本独特のもので、海外ではシャワールームが在るだけである。まあ、日本に居るのだから日本流で良いのだろう。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/23
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秋(37) ホールアウトして次のティーグランドへ行くと前の組が未だグリーンに居るのが観え、終えるまで暫く待った。こちらと同じ三人で廻っている若者グループなのに初心者が一人居てプレイが遅れ気味になるのだった。こちらは親の世代ながら慣れた連中だから直ぐに追いついてしまう。我々の後は老夫婦の二人組だった。前の組が終えるのを待って居ると老夫婦が追いついて来て「忘れ物ですヨ」とボクにスプーン(3番ウッド)のキャップを渡してくれた。数ホール前にキャップを置き忘れたのを知っていたが、ホールアウトしてバックヤードに戻った時にでも問い合わせる積もりで居たのだった。奥さんに礼を言って「夫婦でプレイ出来るなんて良いですネ」と言うと「主人が、やれやれと言うものですから・・・」と笑っていた。「うちなんか、折角道具を買ってやったのに全くしないので今では錆びていますヨ」と返事をしながら、老夫婦が羨ましくも微笑ましく想えたものだった。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/22
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秋(36) 先月来た時はこのコースは初めてだったので状況がよく飲み込めないままプレイしていたが、今回は覚えていた事もあってプレイし易かった。このホールコースで覚えているのは前方のバンカーのある小高い丘にボールを打ち込んだのだった。山越えをしなければグリーンもフラッグも観えず不安な気持ちで打たねばならない処だが、前回は丘の頂上で見通しが良かったから幸いだった。今回は丘の裾のフェアウェイを狙って成功した。矢張りコースを知れば有利という事だ。お蔭でグリーンを楽に捉える事が出来たのは言うまでも無い。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/21
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秋(35) グリーンの綺麗なコースは良いものである。これから秋が深まり冬景色になって行くとコース全体が黄色くなって行きグリーンは色あせて行く。そんな中でもパターをするグリーンは緑のままである。何故ならパターグリーンは芝生の種類が違って冬でも強い西洋芝のベント芝が多く用いられるからだ。日本芝の高麗芝は冬場は黄色く成り易いのだ。芝生の種類は大きく分けると日本芝と西洋芝の二種類に分かれ、フェアウエイは一般に見掛ける高麗芝である。耐隠性・耐湿性にすぐれ踏圧にも耐えるので公園の広場やサッカー場やゴルフ場のフェアウェイなどでよく使われる。ところが、ベント芝は、病害に対する抵抗力が弱い為、農薬の散布を必要とし、この為にゴルフ場による環境破壊へとつながった事があった。今では排水は浄化槽で浄化してから川へ流す様になって周辺の農家への配慮が為されている。かつての様々な公害問題から環境問題が大きく取り扱われる様になって日本の常識となったが、未だまだ徹底しない国が多いのは残念な事である。小説「猫と女と」(20) 女達が白いバスローブを着て頭にバスタオルを巻いて出て来た。彼女等にすれば砕けた半裸に近い姿を私に観られても家族同然の気持ちで恥ずかしくもなく平気なのだ。私にしても観慣れた光景ながら母と娘とが同じバスローブ姿で同時に居るのは初めてだった。「貴方もお湯に入れば?サッパリして気持ち良いわヨ」女は上気した顔で勧めた。「いや、止しておくヨ。・・・しかし、二人並んで同じ格好をしていると親子には観えないな」「フフフ、私が若く観えるって事?舞子ももう立派な大人だし姉妹の様に観えるのネ。あら、美味しそうに飲んでいるわネ、私にも頂戴な」女は私の缶ビールを取って椅子に腰掛けて一口飲んだ。「あー、美味しい!湯あがりに冷えたビールは最高。男の人が美味しそうに飲むのが分かるワ」「私も欲しい!」そう言って舞子も女の手から取ってゴクリと飲んだ。 「二人とも、まるで親父スタイルだな。レモンスカッシュなら絵に成る処だけど・・・」「あら、親父スタイルで悪かったわネ」女が言うと舞子も笑った。「ところで、出産予定日は?ボクも心積もりをしておかないと・・・」「来年の春、三月の末か四月の始めヨ」舞子が言うと女は真面目な顔で「早く春になって欲しいワ」と呟いた。それは切実に孫を欲している保護者の声だった。私は納得して頷くと、ふと確かめてみたくなって女に訊いた。「ところで最近、韓国ドラマに凝っているそうだネ?」「そう、ビデオで沢山観ているわヨ、どうして?」「面白い?」「ええ、面白いわヨ」「ボクは、余り観ないから分からないけど、好きに成れない」「あら、どうして?」「韓国って、何を考えているか分からない国だから」「ふーん、例えば?」女は怪訝な顔をして訊き返した。 「北にやられっ放しのくせに同胞という名の元に曖昧な態度を取っているだろ?戦争状態の相手だヨ?何が融和政策なんだ」「政治問題はよく分からないけど、同じ民族同士でしょ?仲良くしなくちゃ」「理屈はそうだけど、社会体制が全く違うじゃ無いか。それでは国民も考え方が違って当然だ」「じゃ、北は良くって、南が悪いって事?」「いやいや、北がやっている事は目茶苦茶で論外だけど、南も主張がコロコロ変わるから何を考えているか分からないって事さ」「それで嫌いな訳?」「そう。竹島問題もある」「あれは政治的に国民を誘導しているだけの事で、北と中国への対策として日本を利用しているだけの事ヨ」「多分そうだろうけど、日本の在日や二世や日本国籍を取っている朝鮮人までが日本を批判的に言うのが好かない」私は女の表情が強張るのを見逃さなかった。 「政治の話は止しましょ。韓国ドラと関係が無い事じゃ無い?」「ああ、そうだな。しかし韓国人は情念に生き過ぎる。もっと冷静に成れないものかな、客観的にと言うか・・・」「客観的に観て、むしろ韓国ドラマは軽くて肩が凝らないから良いのヨ。それに美男美女が出ているワ」「確かに日本のドラマは暗い。ボクも暗いのは嫌いだけど、好きな理由はそれだけの事?」「どういう意味?」「例えば、デザイン事務所の所長なんか、君の元夫だから言わなかったけど、日本人離れした考え方というか大陸的だから戸惑う事がある」「あの人は変わっているのヨ。もう私には関係が無い人ヨ」「それなら言うけど、韓国人かなと想ったヨ」「あら、知らなかったの?あの人、在日二世ヨ」「あッ!道理で・・・」「だからどうなのヨ?人種差別するの?」私は予想が当たって戸惑った。 「いや、言い方が悪かった、謝るヨ。ただー寸意見の衝突があって殴ってやろうかなと想った事が何度かあったからネ」「仕事の事で?あの人は、仕事となると誰彼と見境なく自分の我を通すから、よく誤解や対立があるのヨ。でも人間的には良い人ヨ。頭の回転も速いから直ぐに打ち解けるけど」女は元夫の肩を持った。舞子の父親だけに離婚したとはいえ悪くも言えないのだろう。「彼との出逢いは?是非知りたいものだ」私は心にわだかまって居る疑問をぶつけてみた。どうせ舞子に韓国人の血が流れていようが、もう受け入れる事に決めた以上、そのわだかまりを払拭したかった。しかし、女が覚悟を決めた顔で話した内容は有触れたものだった。大阪鶴橋の旅館の娘だった女に近所でデザイン事務所を開く男がデイトに誘ったのがきっかけだった。彼が在日二世であった事は舞子を身籠ってから知ったという。 「在日二世だと分かって、どう思った?」「別に・・・、鶴橋にはそういう人が多いから何とも思わなかったワ」「へえ、そういうものかネ。ボクは京都だから差別意識の中で育った様なものだけに違和感を感じる。しかし大学の同級生に韓国人の友達が居て、その頃は何とも感じなかった。結婚してから見方が変わったらしい」「何故?」「さあ、よく分からないが、建築業界で影響を受けた様だ。連中は業界の底辺に居るからだろうか」「まあ、大変な世界ネ」「特に鉄工業者に多いから設計者は彼等を軽く見下している」「じゃあ、貴方も?」「ボクは意識して居ないが相手がそういう目で観て居る。ボクの表情に出ているのかも知れない」「自分では意識していなくても相手は敏感に感じるのよネ」言われてみて私は鉄工業者の社長から訳の分からない中傷を受けたのを想い出していた。(つづく)
2012/10/20
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秋(34) コースによって芝生の色が違っているのは陽当たりの良し悪しのせいだろう。山影になる場所は緑が濃く、日当たりの良い場所は秋の風情の枯葉色に近付いて行く。陽に当たりながらも霜にも影響され黄葉が進むのだ。先月来た時よりフェアウエイ横のラフが刈り取られ、その分芝生の下地が現れて黄色く観える処もあった。ラフが短く刈り採られるとボールは捜し易い。先月はラフが深くボールを探すのに苦労した。ルールではゴルフボールを探す時間は限られている。正確に時間を測った事は無いが五分も探せば普通は見付かるものである。しかしラフが深いと真上から見降ろさないとボールが見えず、斜めから見降ろした程度では見付からない。多分、キャディーでも無理だろう。トーナメントの時は落下地点辺りに待機している専用のキャディーが居るから直ぐにボールの位置を示してくれ、それが当たり前になって居るとキャディー無しでプレイするとボールを探す時間が掛かる。見付からなければロストボール(紛失球)として罰則を受け、新しいボールをその辺りにドロップさせて打つ事になる。勿体無い話である。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/19
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秋(33) スタート台(ティー・グランド)に立てば気持ちを新たにして臨むのは誰でも同じだろうが、前のオナーが良い球を打てばプレッシャーとなり、失敗したのを観れば気が緩むのは人情と言うものだ。しかし、良い方には影響されても決して悪い方の真似はしたくない。それがゴルフの基本である。釣られて同じ様に悪いと誰も同情してくれないし逆に相手に余裕を与えてしまう。そこで良いイメージを心に描く訳である。そうすれば結果は満足が行くものになる。少しでも迷いがあれば失敗する。ゴルフほどメンタルなものは無いという事だ。プロは決して相手に惑わされる事は無い。自分は自分なのである。自分の成功例だけを想い浮かべて黙々と打つ。それが出来れば、結果は驚くほど良く、上位に入る。ゴルフは単独プレイのスポーツだから敵は自分の弱い心にあるのである。如何に自信を持って堂々とプレイが出来るか。そして慢心せず淡々とコースの状況を読み、それに合わせて自分の技量を発揮する。それだけの事ながら、それが出来ればハンディキャップは限り無くゼロに近づく。多くのアマチュア・ゴルファーが夢見るエイジ・シューターを達成するには60歳代で頑張るか、72歳で踏ん張るかのどちらかだろう。50歳代でエイジシューターに成る人はめったに居ないから安心して老人のスポーツとして楽しめば良いのである。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/18
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秋(32) 何時も写真を撮るのはボクなので、仲間が「我々だけじゃ無く、あなたのを撮ってあげよう。写真を撮った事が無いけど、やり方を教えてくれれば出来るから」と言った。「それじゃあ、お願いしようかな。後のモニターの画像を観ながら、このシャッター・ボタンを押すだけだから、簡単そのものですヨ」と手渡した。撮ってくれたのがこの写真である。平常心で打った積もりだったのに写真を観れば、かなり打ち込んでいるのが分かる。もう少し力を抜いてリラックスすれば、もっと良い球筋で飛距離も伸びただろうと想った。案外、自分の事は客観的に観ないと分からないものである。服装だけがリラックスして、シャツをズボンに入れずに居るのがリラックスした積もりだったとすれば何か勘違いしていたのかも知れない。ちなみに、このスイングで球筋は少し左のラフに行き、飛距離は210ヤード程だった。カメラを意識した様だ。一番良かったドライバーは午後からの分のパー5、ロング・ホールで、フェアウエイのど真ん中を250ヤード程飛んだ。楽に3オンしたものの、スコアはバーディー逃しのパーならず、スリーパットのボギーだった。何か調子がおかしかった。原因はジガー打ちが上手く出来過ぎて舞い上がったせいだろうかと反省し、もっと精神修業をして冷静さを増さねばと反省しきり。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/17
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秋(31) 愈々秋も深まって来て、北の国から美しい紅葉の便りが届く様に成って来た。関西はこれからだが、朝晩はすっかり冷え込む。そんな折、友人に誘われてゴルフに出掛けた。高速道路を利用して二時間ぐらいな処だが、未だ紅葉は観られなかった。先月行ったゴルフ場で、よく手入れが行き届き気持ちの良い処である。早速、ジガーを使うと想い通りに行き、作戦は成功した。グリーン手前90ヤード以内から打つとグリーンにのってピタリと止まる。ジガーは20年ほど前に流行ったクラブで、仲間は「良いクラブを持って来ましたネ」と感心していた。相性の良いクラブはスコアを上げてくれる。ところが、今日はそれに気を取られ安心してしまったのか折角のグリーンでは2パットや3パットをしてしまう不始末で悔しい想いをした。ホールの手前僅か1cmの処で止まるケースが4回から5回ほどあったのだ。バーディーに成る予定がパーになったりボギーに成って、中にはダボ(ダブルボギー)に成るのさえあった。原因はジガーにあったのでは無く、完全にボクの不注意に過ぎず、仲間にはその分、負けてしまって最下位だったが、気候に恵まれ気持ちの良いゴルフだった。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/16
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秋(30) 庭先の垣根に自生した野葡萄のオブジェである。小さな実ながら口にするとブドウの味がする。食するには小さすぎて集めるのが大変なので採らずに精々目で楽しむ程度であるが、秋とも成れば自然の恵みが観られ楽しくなって来る。その昔、信州小諸へ行って、自分の設計した別荘の監理ついでに小料理屋で食事した際、気さくな女将と仲良くなり「お客さんだけど特別に飲ませてあげるワ」と自家製の山葡萄酒を振舞ってくれた事があった。実に美味で、山の幸のこういう楽しみ方もあるのだと教えてくれたのだった。ボクは毎日の様にワインを飲んでいるが、その時の山葡萄酒の味は亦違った素朴な味だった。秋になれば想い出す風景である。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/15
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秋(29) 秋も深まって来て朝晩寒く成ると勝手なもので、暑かった夏が恋しく成って来て海浜風景なぞを連想してしまう。今日の窓辺のオブジェは趣味の貝殻の一つを日頃出窓に並べてある他の物と一緒にして撮ったものである。海外の土産ものの貝殻は大きなものや変わった形のものが多い。中でも此のオドロオドロした人手のような貝殻は興味を惹く。自分の設計した建物の説明よりも自然の作品の方が趣があって観る方もその方が目に優しいだろう。夏の想い出の一コマである。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/14
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秋(28) 道頓堀川マンションを御堂筋側の橋から望遠レンズで撮った風景である。豊臣秀吉が造った大阪浪速(なにわ)の町は当時、世界的な大都市であった。運河が縦横に張り巡らされ、日本の町中から唐天竺を越え、イタリーのベニスまで船で行ける大都市であった。それまで大阪を支配していた石山本願寺を攻め落とし其処を大阪城とした秀吉は、琵琶湖の安土城から船で世界と結ぶ構想を持っていた織田信長の夢を大阪で受け継いだのである。当時の海外交易は当然ながら船であり、スペイン、ポルトガル、ベニスの繁栄を日本の為政者も知っていたのである。メジチ家の繁栄に依りイタリーという国家がヨーロッパでも裕福な国として成り立つ理屈は貿易に依る経済基盤があったからであり、日本も黄金の国ジパングとして陽出る国である事を知らしめたかったのであろう。この雑多な運河の風景が当時の浪速の活性化を感じさせるのである。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/13
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秋(27) 道頓堀川マンションの最上階にあるファミリー・タイプのベランダ風景である。普通のマンションよりもゆったりしている。リビング・ルームからベランダを通して通りの向かいの風景を観れば、大阪ミナミの雑多なビル群が目に入る。場所柄、繁華街に在るから、この賃貸マンションに入居する人々は商売人が多く、高い家賃を支払えるだけのステイタスを持っているか、今流行のIT関係で儲けている人々が多い。中には水商売の経営者やファッションモデルも居ると言う。建築家にとって賃貸マンションの入居者がどういう人間でどういう人種であるかという事は、クライアントや周旋屋から間接的な話を聞かされる情報でしか知らないだけに想像するしか無い。直接関わりを持たない以上、興味も無いが、自分の設計した建物に高額所得者でしか入れないマンションというものの存在を一種の社会現象として観ると、分譲マンションであれ賃貸マンションであれ、世の中には様々な人種が居る事を知らされるのである。面白い事に、早い人で数か月で入れ替わるケースが在るという。周旋屋は回転が早いと儲かるから嬉しい悲鳴を上げる。早く入れ替わる入居者は、高額な家賃分を分譲マンションのローン支払いに回した方が資産として残るという事に気が付くのだそうだ。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/12
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秋(26) 最近は千平米を越える大きな敷地の中高層マンション建設が減って、精々500平米から千平米未満の物件が多く成っている。それは一時の住宅難や建設ブームが過ぎ、そういう大きな敷地には超高層マンションばかりが建つ様に成ったからだ。そうでないと売れない時代になったのだろう。しかし、買う側にすれば超高層でなくても良い訳で、その方が割安感がある。ところが建てる側(クライアントとゼネコンと銀行と商社)は超高層でないと商売にならないのだ。一度に多くの億ションや数千万もするマンションを売った方が商としての旨味があるのだ。が、今度はそれだけの敷地を確保するのが難しくなり地上げ屋も昔のような悪辣な業者が介在しては市民の反対運動が起きる。だから大手のクライアントは水面下で秘密裏にそれを進める。つまり、より巧妙になり、考え方によれば悪質で陰湿な地上げ屋が横行する。それも不評が立っては商売にならないから工場跡地とか銀行が管理する土地がそういう敷地に成り易い。それだけに中小業者では資金不足になり矢張り大手のクライアントに偏って行く。かくして買う側の論理よりも売る側の論理で超高層は建って行く訳である。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/11
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秋(25) 大阪京橋に立つマンションのファサードである。前面道路が8m幅程度しかないが、国道の大通りから数mしか入り込んでいないから高さ制限が緩和され高層ビルが建てられた場所だった。眼下に太閤園(明治期の藤田男爵邸)が見降ろせ、反対側の300mほど先には京阪電車の高架軌道が観え、電車が走っているのも観える。ある日、京阪電車に乗っていると工事中のこのビルが観え、仕事でしか行かない場所ながら京橋に親近感を感じたものだった。自分の設計した建物が観える風景というものは建物の出来如何に拘わらず親しみを覚えるのは身贔屓なのだろうか。小説「猫と女と」(19) 後から他の客が同乗して来たので三人は黙ったままだった。途中階で彼等が降りるのを待っていたかの様に女は言った。「ねえ、食事が終わったら、今日は三人仲良く此処に泊まりましょうヨ」「えッ!まさか・・・」何を言い出すのかと私は女を見た。「スイートならゆっくりお話も出来るワ」「幾らスイートでも三人ー緒に泊まるなんて私は厭ヨ、ママ」「ボクも今日は帰るヨ。今日の会議の整理があるんだ。二人で泊まってゆっくりして行けば?」「あら、駄目なの?そうネ・・・。でも、食後に少し付き合ってヨ。部屋で此れからの事を話し合いましょ」顔を合わせたのだから、これ以上話す事も無いと想ったが、女が納得しそうに無く少しは付き合わねば収まらないと考えると承知せざるを得なかった。レストラン階でドアが開くと女が先に出た。レストランの受付から館内電話でフロントへ部屋を予約するらしい。「今日は大層混んでいて、スイートがひとつだけ空いていたワ。久しぶりにゆっくりして行きましょ、舞ちゃん」テーブルに来て高揚した声で女は言った。 食事中、二人の女を見比べていると余程自分が好色漢で物好きな男に想えて来て、友人の中を見渡しても自分ほど変わった男は居ないのでは無いかと想えるのだった。決して自慢する訳ではないが初老になってまで色の道から抜け出せない因果を親譲りのせいにしている自分が疎ましい。想い起こせば親父も初老になっても愛人を囲っていた。朝帰りの父が母と口論するのは日常茶飯事だった。それを反面教師として眺めていた自分だった筈なのに同じ事をしている。但し親父のようなへまはしない積もりで家庭は平和に保っている。女の事で家庭がもめる愚は心底嫌っていた。妻の知らない外で幾ら浮気をしても余計な心配をさせないという不文律が私にはあった。母親の涙が青年だった私の心を曇らせたのだ。それなのに父の葬式の席で母は言った。「散々女遊びをした人やったけど、隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」馬鹿な言葉だと想った。 「二人とも、今日は無口ネ。私ばっかりしゃべっているワ」女は私と舞子の顔を観比べて言った。私にすれば罪人が裁かれている様な気分で憂鬱だった。この先、舞子が子供を産めば益々三人の関係は濃厚になって行くだろう。産まれ出る子供が成長しても成人するまでは父親として気が抜けない。二十歳に成った頃には私は七十代半ばだ。老人の父親を子供はどういう風に観るだろう。男の子か女の子かで人生も変わるだろう。生まれれば認知の問題も出てくる。今から妻の渋い顔が想像できる。「隠し子が居らなんだだけ、せめてもの幸いや」と言った母よりもショックは大きいだろう。が、それこそ案ずるよりも産むが易しかも知れない。あれやこれやと杞憂したところで始まらないのだ。こうなれば覚悟を決めて対処するしか無い。それならせめて生まれ出る子は女であって欲しい。 舞子の様な可愛い女の子なら猫可愛がりしてしまうだろう。食事を終えた頃、女はデザートに手を付けず部屋の鍵を受け取りにフロントへ行った。「舞ちゃん、本当の処、子供の事、何時分かったのだい?」女が居なくなってやっと舞子に訊く事が出来た。「先月頃から様子がおかしかったの」「どんな具合に?」「生理が止まったのと、食べ物の好みが変わった。食欲も増したワ。少し肥ったでしょ?」「いや、気付かなかった。言われなかったら今も分からないぐらいだ。しかし予想もしなかったヨ」「私だって、予想外ヨ。ピルはちゃんと飲んでいたのに・・・」「でも、お母さんは大喜びだ。不倫相手なのに、よくも平気で居られると想ったけど、最初からの計画と言うから・・・実にボクは間抜けだったヨ」「ごめんなさい。でも、私はひと目見た時から貴方を好きになったの」 「有難う。ボクも運命的な出逢いだったと想っている。そこでだけれど、言っておかねばならない事がひとつあるんだ。実はボクはお母さんとも関係していたんだ」思い切ってひと思いに言った。「知ってる。でも、母は母ヨ。勧められて貴方と会う形をとったけど、病気だった母の変わり様を見て最初から貴方に興味があったのと、ココちゃんの新しい飼い主という事とで是非会いたいと想っていたのヨ。母が、やっとお見合いという口実を作ってくれたけど、それまで母も迷っていたのネ。上手く行けば、お見合いで私を結婚させて貴方を失わずに済むけれど、下手をすれば貴方を失う事になるかも知れない」舞子は躊躇せずサラリと言った。既に彼女の心の中では整理がついているのだ。五十を過ぎて身体の衰えを感じ始めた女と三十にも成る娘の強い願望とが重なって女を覚悟させたのだ。 それは母と娘と言うよりも姉妹の対立の様で、歳の離れた姉の恋人を自分のものにする妹の強い執念がそうさせたのだ。女が戻って来て三人はレストランを出た。多分、女は舞子が妊娠した事で安心もし腹を決め、女同士の戦いに終止符を打ったのだ。部屋に入ると女は直ぐにバスルームに入った。舞子も続いた。私は冷蔵庫からビールを取り出し窓から夜景を見ながら飲んだ。そして、今に至るまでの自分の女遍歴をトレースしてみて、今後もこの女癖は治りそうに無いと自覚した。微かにバスルームから女達の甲高い声が漏れ聴こえて来る。ひょっとして相手の身体を洗い合いながら共通の男である私の事を考えているのだろう。私には出産という構図がこれからの生活にしっかりと圧し掛かり逃げる訳にも行かず、仮に舞子に異民族の血が流れていたとしても現実を受け入れるしかないのだ。(10月下旬へつづく)
2012/10/10
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秋(24) 道頓堀川に面したマンションのエントランス床である。ホール側から風除室を観て、床石に天井照明が映っている処である。風除室の御影石はバーナー仕上げで表面を粗くして滑り止めにしてあるから天井照明は映らない。磨きあげられた石床は綺麗だが滑って転倒しては危ないから風除室は多少でも雨水が入り込む可能性があり粗面にしてある訳である。ボクの設計するビルには石を多用している。外壁に張る場合もあるが、三階以上は磁器タイルが多い。その理由は経年劣化で大きな張石が落下して通行人に怪我をさせては詰らないという配慮からである。磁器タイルなら仮に劣化剥離しても小さいから被害は少なく、メンテナンスを定期的に行えば剥落も防げる。張り石の場合は大きいだけに余計な心配なのかも知れないが精々三階止まりである。その代わり内壁や床には石をふんだんに使う。長い目で見ればその方が経済的だからである。小説「猫と女と」(18) 新大阪駅に着いた頃には既に夕闇が迫っていた。浜松から女に電話して予想もつかなかった事を知らされ愕然とし、時間の経過が分からないほど考え込んでしまった。途中の名古屋を覚えていなかった。京都に着いてライトアップされた京都タワーを見上げ、間もなく大阪だとやっと意識出来たのだった。これまで自分のやって来た事の良し悪しは充分分かってやって来た事なのに結果をこういう形で急に示され頭が真っ白になってしまった。この先、女の言うままに動かざるを得ないと悟った。どうあがいても自分のペースで事は進まない事が充分過ぎるほど分かった。こう成る運命だったのだとも想った。自分で選んだ道がこういう結果を生む事を予想出来なかったとは言い切れず何とか成るという安易な気持ちが強かった。長年遊んで来て始めての経験だった。か弱く見えた女が途轍もなく強大な生き物に想えた。 あの小さな身体から出た作戦にものの見事にはめられてしまった。独り考えてどうなるものでも無い事は浜松からの道中で考え抜いた事だった。成るように成れと居直る気持ちで新大阪駅からタクシーでヒルトン・ホテルに向かった。地下鉄に乗った方が着実に早く着けるのに敢えてそうしなかった。満員電車の人混みが煩わしく人々の疲れ切った顔を観たくもなかった。人々に今の自分の悩みを顔色から見透かされるのも嫌だった。時間通りに行かなくても殺される訳でもないのだ。舞子のお腹の子供の事を考えれば女は自分の孫が出来る喜びで私への憎しみなぞ持たないだろう。女として彼女は私から八年近く快楽を得ただけで形として何も得るものは無かった代わりに娘にそれを代理させたという意識があるなのだろう。五十にも成った女が子供を産みたいとは想いもしなかったろうが性の喜びだけはしっかりと捕らえたのだ。 それを持続させるのが無理だと悟って娘に因果を含めたかどうかは別にしても結果的には同じ事をやり遂げた訳だ。軽く考えていた女にしてやられた。ー枚上手の女だった。いや、舞子の方がそ知らぬ顔で更にその上手を行っているのかも知れない。大した母娘だ。身体を張って私を取り込んだ女郎蜘蛛の様なものだ。彼女等から快楽を得た代償として私はこの先、彼女等にコントロールされる事だろう。猫が獲物をもてあそぶ様に彼女等の手の内で好きな様にされるのだ。日頃から庭先で獲物を狙うココを観ていてそう想う。残酷なまでに死に至るまで突っついたり放り投げ、時には噛み、獲物が動かなくなるまで楽しみながら心行くまで狩を堪能するのだ。命の尊厳ぞ持ち合わせない猫は、動かなくなってしまった獲物なぞプイと見捨て、次なる獲物を求めて亦行動を始める。 その飽くなき欲望と執念は単なる狩りの楽しみだけでなく自分のテリトリー内に来る獲物の総ての生死をも支配し自分の世界を構築する喜びに浸り切っている。猫と人間とは違うと言ったところで、やっている事は大して変わらないのだ。ラッシュの後半だったせいか新御堂筋の車はスムーズに流れ始め、約束の時間には梅田に着けた。近年は大阪も欧米並みに街の様相を綺麗な超高層ビル群に建て替えられ、建物から洩れ出る明かりが冷たい大都会の夜の顔を現し始めていた。酒の入っていない頭で観上げるそんな夕闇の街の光景は、これから会う女達を護っているかの様で自分が小さな人間に想えるのだった。「悪い事なぞしていない。むしろ良い事をして来たのだ。その証拠に、女達は喜んでいるでは無いか」自分を励ますように私は独り言を言った。ホテルのロビーに入ると女達が喫茶テーブルで楽しそうにお茶を飲んでいるのが観えた。 「まあ、時間通りだワ。もう少し待たされるかと思った」女は椅子を勧めながら笑顔で迎えた。「今日は時間が無かったから土産は無いヨ」「お土産なんか要らないワ。私達の間で、そんな気を使う事無いのヨ」「そりゃそうだけど・・・」「それよりお腹が空いたワ。上へ食べに行きましょ」女は立ち上がって予約してあるというフランス・レストランに向かった。「先ず、ワインで乾杯しましょ、舞子のお目出度に!」「おいおい、お酒、大丈夫か、舞子?」想わず私は言った。「今日、病院で診てもらって先生に訊いたから大丈夫。一口程度なら構わないそうヨ」と女が横から応えた。「病院へ行く様な何か兆候でもあったの?」すると女が再び笑いかけるように応えた。「生理が長く無かったのヨ。それで検査を受けて二ヶ月目に入った事が分かったの。この子ったら無頓着なんだから。もっと自分の身体を大事にしなくっちゃ」 女が独りではしゃぎ、舞子は逆に口数が少なかった。「それにしても、舞ちゃんの妊娠にも驚いたけど、君が最初からボクと舞ちゃんとの関係を知っていたなんて驚きだ」私は、ようやく核心に触れた。「知らないとでも想っていたの?」女の問いかけに私は答えなかった。「見合いの話にかこつけて貴方に舞子を任せようと思ったのヨ、何から何まで」「何から何まで?」「そうヨ、総てネ」「ママ、止めてヨ!」舞子が抗う様に女を制した。「確かに最初はママに勧められたけど、私が自分で決めた事ヨ」「あら、それなら尚良いじゃない。相思相愛で」「私は蚊帳の外かい?」女は振り返って含み笑いをした。「貴方は今のままで良いのヨ」「まるで私は種馬か・・・」「まあ、嫌らしい事言うのネ。種馬だなんて、ホホホ」其処へエレベーターのドアが開いて会話は途切れた。(10月中旬へつづく)
2012/10/09
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秋(23) この土佐堀川に面したマンションの12階辺りからの夜景は、向かいにリーガ・ロイヤルホテル新館や関電ビル等の超高層ビル群が目前に観え、まるでマンハッタンにいる大都会の様相を感じさせる。是が日本かと想える雰囲気で、大阪も相当変貌したものだと感じさせられたものだった。ボクなんか東京に居た頃を含めて仕事でこそ高い建物からの風景には慣れているが、いざ自分が住むとなると地べたにへばりついている二階建程度の安定した住宅を好んでしまう。建築家なら自分の設計した高層ビルにも率先して住みたくなる気にならねば申し訳ないのだろうが、どうも空中に浮いている気分で落ち着かない。好みの問題だから超高層に住みたい人はそれで良いのだが、ボクは直ぐに庭先に出てガーデニング出来る生活の方が向いている。人それぞれだから何れが良いとか好ましいと言った処で詮無い話ではある。10年ほど前、新宿の超高層マンションに住んでいるブログ仲間の女性がメールをくれて「今風呂から出て裸の状態で貴方の居る西の方向を眺めています。下界からはこちらが観えないので恥ずかしい気はしません」と書いて来て、ドキッとした事があった。ネット恋愛というのはこういうものかと少々辟易とさせられ、優しい言葉でメール会話するのも罪なものだと反省したものだった。小説「猫と女と」(18) 新大阪駅に着いた頃には既に夕闇が迫っていた。浜松から女に電話して予想もつかなかった事を知らされ愕然とし、時間の経過が分からないほど考え込んでしまった。途中の名古屋を覚えていなかった。京都に着いてライトアップされた京都タワーを見上げ、間もなく大阪だとやっと意識出来たのだった。これまで自分のやって来た事の良し悪しは充分分かってやって来た事なのに結果をこういう形で急に示され頭が真っ白になってしまった。この先、女の言うままに動かざるを得ないと悟った。どうあがいても自分のペースで事は進まない事が充分過ぎるほど分かった。こう成る運命だったのだとも想った。自分で選んだ道がこういう結果を生む事を予想出来なかったとは言い切れず何とか成るという安易な気持ちが強かった。長年遊んで来て始めての経験だった。か弱く見えた女が途轍もなく強大な生き物に想えた。 あの小さな身体から出た作戦にものの見事にはめられてしまった。独り考えてどうなるものでも無い事は浜松からの道中で考え抜いた事だった。成るように成れと居直る気持ちで新大阪駅からタクシーでヒルトン・ホテルに向かった。地下鉄に乗った方が着実に早く着けるのに敢えてそうしなかった。満員電車の人混みが煩わしく人々の疲れ切った顔を観たくもなかった。人々に今の自分の悩みを顔色から見透かされるのも嫌だった。時間通りに行かなくても殺される訳でもないのだ。舞子のお腹の子供の事を考えれば女は自分の孫が出来る喜びで私への憎しみなぞ持たないだろう。女として彼女は私から八年近く快楽を得ただけで形として何も得るものは無かった代わりに娘にそれを代理させたという意識があるなのだろう。五十にも成った女が子供を産みたいとは想いもしなかったろうが性の喜びだけはしっかりと捕らえたのだ。 それを持続させるのが無理だと悟って娘に因果を含めたかどうかは別にしても結果的には同じ事をやり遂げた訳だ。軽く考えていた女にしてやられた。ー枚上手の女だった。いや、舞子の方がそ知らぬ顔で更にその上手を行っているのかも知れない。大した母娘だ。身体を張って私を取り込んだ女郎蜘蛛の様なものだ。彼女等から快楽を得た代償として私はこの先、彼女等にコントロールされる事だろう。猫が獲物をもてあそぶ様に彼女等の手の内で好きな様にされるのだ。日頃から庭先で獲物を狙うココを観ていてそう想う。残酷なまでに死に至るまで突っついたり放り投げ、時には噛み、獲物が動かなくなるまで楽しみながら心行くまで狩を堪能するのだ。命の尊厳ぞ持ち合わせない猫は、動かなくなってしまった獲物なぞプイと見捨て、次なる獲物を求めて亦行動を始める。 その飽くなき欲望と執念は単なる狩りの楽しみだけでなく自分のテリトリー内に来る獲物の総ての生死をも支配し自分の世界を構築する喜びに浸り切っている。猫と人間とは違うと言ったところで、やっている事は大して変わらないのだ。ラッシュの後半だったせいか新御堂筋の車はスムーズに流れ始め、約束の時間には梅田に着けた。近年は大阪も欧米並みに街の様相を綺麗な超高層ビル群に建て替えられ、建物から洩れ出る明かりが冷たい大都会の夜の顔を現し始めていた。酒の入っていない頭で観上げるそんな夕闇の街の光景は、これから会う女達を護っているかの様で自分が小さな人間に想えるのだった。「悪い事なぞしていない。むしろ良い事をして来たのだ。その証拠に、女達は喜んでいるでは無いか」自分を励ますように私は独り言を言った。ホテルのロビーに入ると女達が喫茶テーブルで楽しそうにお茶を飲んでいるのが観えた。 「まあ、時間通りだワ。もう少し待たされるかと思った」女は椅子を勧めながら笑顔で迎えた。「今日は時間が無かったから土産は無いヨ」「お土産なんか要らないワ。私達の間で、そんな気を使う事無いのヨ」「そりゃそうだけど・・・」「それよりお腹が空いたワ。上へ食べに行きましょ」女は立ち上がって予約してあるというフランス・レストランに向かった。「先ず、ワインで乾杯しましょ、舞子のお目出度に!」「おいおい、お酒、大丈夫か、舞子?」想わず私は言った。「今日、病院で診てもらって先生に訊いたから大丈夫。一口程度なら構わないそうヨ」と女が横から応えた。「病院へ行く様な何か兆候でもあったの?」すると女が再び笑いかけるように応えた。「生理が長く無かったのヨ。それで検査を受けて二ヶ月目に入った事が分かったの。この子ったら無頓着なんだから。もっと自分の身体を大事にしなくっちゃ」 女が独りではしゃぎ、舞子は逆に口数が少なかった。「それにしても、舞ちゃんの妊娠にも驚いたけど、君が最初からボクと舞ちゃんとの関係を知っていたなんて驚きだ」私は、ようやく核心に触れた。「知らないとでも想っていたの?」女の問いかけに私は答えなかった。「見合いの話にかこつけて貴方に舞子を任せようと思ったのヨ、何から何まで」「何から何まで?」「そうヨ、総てネ」「ママ、止めてヨ!」舞子が抗う様に女を制した。「確かに最初はママに勧められたけど、私が自分で決めた事ヨ」「あら、それなら尚良いじゃない。相思相愛で」「私は蚊帳の外かい?」女は振り返って含み笑いをした。「貴方は今のままで良いのヨ」「まるで私は種馬か・・・」「まあ、嫌らしい事言うのネ。種馬だなんて、ホホホ」其処へエレベーターのドアが開いて会話は途切れた。(10月中旬へつづく)
2012/10/08
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秋(22) 大阪府庁近くの谷町マンションは間口10m程の狭い敷地だった。その代わり奥行きが50m程あり、前後二棟をエキスパンション・ジョイントで連結してある言わばタワーマンションと言うかウオール・マンションである。ウオールと言えば、ニューヨークのウオール街はその昔、ネイティブ・アメリカン(アメリカインデアン)の居留地を壁(ウオール)で取り囲んであった場所から街の名前になった由来がある。証券取引所や銀行があり、風前の灯とは言われながらも未だアメリカが世界経済を牛耳っている。今秋にはアメリカはデフォルトするかもしれないと噂されてはいるが又もや誤魔化しの理論でデフォルトを先送りし乗り切るかも知れない。リーマンショック以来低迷し続けるアメリカだが、その煽りを受け世界不況となり、日本もマンションブームは去った。ボクもその煽りを喰った一人だった。小説「猫と女と」(18) 新大阪駅に着いた頃には既に夕闇が迫っていた。浜松から女に電話して予想もつかなかった事を知らされ愕然とし、時間の経過が分からないほど考え込んでしまった。途中の名古屋を覚えていなかった。京都に着いてライトアップされた京都タワーを見上げ、間もなく大阪だとやっと意識出来たのだった。これまで自分のやって来た事の良し悪しは充分分かってやって来た事なのに結果をこういう形で急に示され頭が真っ白になってしまった。この先、女の言うままに動かざるを得ないと悟った。どうあがいても自分のペースで事は進まない事が充分過ぎるほど分かった。こう成る運命だったのだとも想った。自分で選んだ道がこういう結果を生む事を予想出来なかったとは言い切れず何とか成るという安易な気持ちが強かった。長年遊んで来て始めての経験だった。か弱く見えた女が途轍もなく強大な生き物に想えた。 あの小さな身体から出た作戦にものの見事にはめられてしまった。独り考えてどうなるものでも無い事は浜松からの道中で考え抜いた事だった。成るように成れと居直る気持ちで新大阪駅からタクシーでヒルトン・ホテルに向かった。地下鉄に乗った方が着実に早く着けるのに敢えてそうしなかった。満員電車の人混みが煩わしく人々の疲れ切った顔を観たくもなかった。人々に今の自分の悩みを顔色から見透かされるのも嫌だった。時間通りに行かなくても殺される訳でもないのだ。舞子のお腹の子供の事を考えれば女は自分の孫が出来る喜びで私への憎しみなぞ持たないだろう。女として彼女は私から八年近く快楽を得ただけで形として何も得るものは無かった代わりに娘にそれを代理させたという意識があるなのだろう。五十にも成った女が子供を産みたいとは想いもしなかったろうが性の喜びだけはしっかりと捕らえたのだ。 それを持続させるのが無理だと悟って娘に因果を含めたかどうかは別にしても結果的には同じ事をやり遂げた訳だ。軽く考えていた女にしてやられた。ー枚上手の女だった。いや、舞子の方がそ知らぬ顔で更にその上手を行っているのかも知れない。大した母娘だ。身体を張って私を取り込んだ女郎蜘蛛の様なものだ。彼女等から快楽を得た代償として私はこの先、彼女等にコントロールされる事だろう。猫が獲物をもてあそぶ様に彼女等の手の内で好きな様にされるのだ。日頃から庭先で獲物を狙うココを観ていてそう想う。残酷なまでに死に至るまで突っついたり放り投げ、時には噛み、獲物が動かなくなるまで楽しみながら心行くまで狩を堪能するのだ。命の尊厳ぞ持ち合わせない猫は、動かなくなってしまった獲物なぞプイと見捨て、次なる獲物を求めて亦行動を始める。 その飽くなき欲望と執念は単なる狩りの楽しみだけでなく自分のテリトリー内に来る獲物の総ての生死をも支配し自分の世界を構築する喜びに浸り切っている。猫と人間とは違うと言ったところで、やっている事は大して変わらないのだ。ラッシュの後半だったせいか新御堂筋の車はスムーズに流れ始め、約束の時間には梅田に着けた。近年は大阪も欧米並みに街の様相を綺麗な超高層ビル群に建て替えられ、建物から洩れ出る明かりが冷たい大都会の夜の顔を現し始めていた。酒の入っていない頭で観上げるそんな夕闇の街の光景は、これから会う女達を護っているかの様で自分が小さな人間に想えるのだった。「悪い事なぞしていない。むしろ良い事をして来たのだ。その証拠に、女達は喜んでいるでは無いか」自分を励ますように私は独り言を言った。ホテルのロビーに入ると女達が喫茶テーブルで楽しそうにお茶を飲んでいるのが観えた。 「まあ、時間通りだワ。もう少し待たされるかと思った」女は椅子を勧めながら笑顔で迎えた。「今日は時間が無かったから土産は無いヨ」「お土産なんか要らないワ。私達の間で、そんな気を使う事無いのヨ」「そりゃそうだけど・・・」「それよりお腹が空いたワ。上へ食べに行きましょ」女は立ち上がって予約してあるというフランス・レストランに向かった。「先ず、ワインで乾杯しましょ、舞子のお目出度に!」「おいおい、お酒、大丈夫か、舞子?」想わず私は言った。「今日、病院で診てもらって先生に訊いたから大丈夫。一口程度なら構わないそうヨ」と女が横から応えた。「病院へ行く様な何か兆候でもあったの?」すると女が再び笑いかけるように応えた。「生理が長く無かったのヨ。それで検査を受けて二ヶ月目に入った事が分かったの。この子ったら無頓着なんだから。もっと自分の身体を大事にしなくっちゃ」 女が独りではしゃぎ、舞子は逆に口数が少なかった。「それにしても、舞ちゃんの妊娠にも驚いたけど、君が最初からボクと舞ちゃんとの関係を知っていたなんて驚きだ」私は、ようやく核心に触れた。「知らないとでも想っていたの?」女の問いかけに私は答えなかった。「見合いの話にかこつけて貴方に舞子を任せようと思ったのヨ、何から何まで」「何から何まで?」「そうヨ、総てネ」「ママ、止めてヨ!」舞子が抗う様に女を制した。「確かに最初はママに勧められたけど、私が自分で決めた事ヨ」「あら、それなら尚良いじゃない。相思相愛で」「私は蚊帳の外かい?」女は振り返って含み笑いをした。「貴方は今のままで良いのヨ」「まるで私は種馬か・・・」「まあ、嫌らしい事言うのネ。種馬だなんて、ホホホ」其処へエレベーターのドアが開いて会話は途切れた。(10月中旬へつづく)
2012/10/07
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秋(21) 秋も深まって来ると仕事が一段落した事もあって書斎のデスクから庭を観ている事が多い。紅葉はまだ始まっていないものの芝生に転がっているゴルフボールを観ると次のプレイの日が待ち遠しくなる。今月の月例会は嫌いなコース(待ち組で団子状態になる打ちおろしのミドルホール)が入っているので行かないだけに、中旬に予定している先月行ったゴルフ場でプレイする。其処は伸び伸びとプレイ出来るから良い。そういう暇な状態だから数年前のマンションブームを想い出すのだろう。あの頃は忙しかった。三年間で大小合わせて中高層のマンションを12棟ばかり設計と監理をしたのだった。だから今日から暫くそれ等を想い出しながらアップしてみる。今日のマンションのエントランスは大阪府庁に近い谷町に建つ13階建てマンションである。中国で加工された黒の大理石でインテリアをシックな雰囲気にしてある。最近はオフィス街の谷町にも高層マンションが増えた。場所柄シックにしたのもあるが、他のリゾート風マンションとは少し趣向を変えたものだ。小説「猫と女と」(18) 新大阪駅に着いた頃には既に夕闇が迫っていた。浜松から女に電話して予想もつかなかった事を知らされ愕然とし、時間の経過が分からないほど考え込んでしまった。途中の名古屋を覚えていなかった。京都に着いてライトアップされた京都タワーを見上げ、間もなく大阪だとやっと意識出来たのだった。これまで自分のやって来た事の良し悪しは充分分かってやって来た事なのに結果をこういう形で急に示され頭が真っ白になってしまった。この先、女の言うままに動かざるを得ないと悟った。どうあがいても自分のペースで事は進まない事が充分過ぎるほど分かった。こう成る運命だったのだとも想った。自分で選んだ道がこういう結果を生む事を予想出来なかったとは言い切れず何とか成るという安易な気持ちが強かった。長年遊んで来て始めての経験だった。か弱く見えた女が途轍もなく強大な生き物に想えた。 あの小さな身体から出た作戦にものの見事にはめられてしまった。独り考えてどうなるものでも無い事は浜松からの道中で考え抜いた事だった。成るように成れと居直る気持ちで新大阪駅からタクシーでヒルトン・ホテルに向かった。地下鉄に乗った方が着実に早く着けるのに敢えてそうしなかった。満員電車の人混みが煩わしく人々の疲れ切った顔を観たくもなかった。人々に今の自分の悩みを顔色から見透かされるのも嫌だった。時間通りに行かなくても殺される訳でもないのだ。舞子のお腹の子供の事を考えれば女は自分の孫が出来る喜びで私への憎しみなぞ持たないだろう。女として彼女は私から八年近く快楽を得ただけで形として何も得るものは無かった代わりに娘にそれを代理させたという意識があるなのだろう。五十にも成った女が子供を産みたいとは想いもしなかったろうが性の喜びだけはしっかりと捕らえたのだ。 それを持続させるのが無理だと悟って娘に因果を含めたかどうかは別にしても結果的には同じ事をやり遂げた訳だ。軽く考えていた女にしてやられた。ー枚上手の女だった。いや、舞子の方がそ知らぬ顔で更にその上手を行っているのかも知れない。大した母娘だ。身体を張って私を取り込んだ女郎蜘蛛の様なものだ。彼女等から快楽を得た代償として私はこの先、彼女等にコントロールされる事だろう。猫が獲物をもてあそぶ様に彼女等の手の内で好きな様にされるのだ。日頃から庭先で獲物を狙うココを観ていてそう想う。残酷なまでに死に至るまで突っついたり放り投げ、時には噛み、獲物が動かなくなるまで楽しみながら心行くまで狩を堪能するのだ。命の尊厳ぞ持ち合わせない猫は、動かなくなってしまった獲物なぞプイと見捨て、次なる獲物を求めて亦行動を始める。 その飽くなき欲望と執念は単なる狩りの楽しみだけでなく自分のテリトリー内に来る獲物の総ての生死をも支配し自分の世界を構築する喜びに浸り切っている。猫と人間とは違うと言ったところで、やっている事は大して変わらないのだ。ラッシュの後半だったせいか新御堂筋の車はスムーズに流れ始め、約束の時間には梅田に着けた。近年は大阪も欧米並みに街の様相を綺麗な超高層ビル群に建て替えられ、建物から洩れ出る明かりが冷たい大都会の夜の顔を現し始めていた。酒の入っていない頭で観上げるそんな夕闇の街の光景は、これから会う女達を護っているかの様で自分が小さな人間に想えるのだった。「悪い事なぞしていない。むしろ良い事をして来たのだ。その証拠に、女達は喜んでいるでは無いか」自分を励ますように私は独り言を言った。ホテルのロビーに入ると女達が喫茶テーブルで楽しそうにお茶を飲んでいるのが観えた。 「まあ、時間通りだワ。もう少し待たされるかと思った」女は椅子を勧めながら笑顔で迎えた。「今日は時間が無かったから土産は無いヨ」「お土産なんか要らないワ。私達の間で、そんな気を使う事無いのヨ」「そりゃそうだけど・・・」「それよりお腹が空いたワ。上へ食べに行きましょ」女は立ち上がって予約してあるというフランス・レストランに向かった。「先ず、ワインで乾杯しましょ、舞子のお目出度に!」「おいおい、お酒、大丈夫か、舞子?」想わず私は言った。「今日、病院で診てもらって先生に訊いたから大丈夫。一口程度なら構わないそうヨ」と女が横から応えた。「病院へ行く様な何か兆候でもあったの?」すると女が再び笑いかけるように応えた。「生理が長く無かったのヨ。それで検査を受けて二ヶ月目に入った事が分かったの。この子ったら無頓着なんだから。もっと自分の身体を大事にしなくっちゃ」 女が独りではしゃぎ、舞子は逆に口数が少なかった。「それにしても、舞ちゃんの妊娠にも驚いたけど、君が最初からボクと舞ちゃんとの関係を知っていたなんて驚きだ」私は、ようやく核心に触れた。「知らないとでも想っていたの?」女の問いかけに私は答えなかった。「見合いの話にかこつけて貴方に舞子を任せようと思ったのヨ、何から何まで」「何から何まで?」「そうヨ、総てネ」「ママ、止めてヨ!」舞子が抗う様に女を制した。「確かに最初はママに勧められたけど、私が自分で決めた事ヨ」「あら、それなら尚良いじゃない。相思相愛で」「私は蚊帳の外かい?」女は振り返って含み笑いをした。「貴方は今のままで良いのヨ」「まるで私は種馬か・・・」「まあ、嫌らしい事言うのネ。種馬だなんて、ホホホ」其処へエレベーターのドアが開いて会話は途切れた。(10月中旬へつづく)
2012/10/06
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秋(20) 打ちおろしのミドルホールでは必ず前の組に追いつき、彼等がフェアウエイから消える迄待たねばならない。追いつきの組が重なれば前の組に無線でキャディーに知らせ、ネットの待避所で我々のティーショットを見護らせる方式をこのゴル場はとっている。我々四人のティーショットが終えれば前の組はフェアウエイからグリーンに向かって打つ。我々が其処へ到着した頃には我々の後の組がティーショットを打つ事になるのだが、茶店がある場所だから急がない組の場合は其処で休憩して待つ。団子状態に成るコース設計は下手な設計に成る訳だが、地形の関係でどうしてもそういう場所が生じる場合は苦肉の策としてそういう方法を取るのだろう。ボクは月例会でそのコースを廻るのが決まれば行かない事にしている。のんびりとプレイしたいのに団子状態で待たされたり急がされるのは御免なのだ。小説「猫と女と」(18) 新大阪駅に着いた頃には既に夕闇が迫っていた。浜松から女に電話して予想もつかなかった事を知らされ愕然とし、時間の経過が分からないほど考え込んでしまった。途中の名古屋を覚えていなかった。京都に着いてライトアップされた京都タワーを見上げ、間もなく大阪だとやっと意識出来たのだった。これまで自分のやって来た事の良し悪しは充分分かってやって来た事なのに結果をこういう形で急に示され頭が真っ白になってしまった。この先、女の言うままに動かざるを得ないと悟った。どうあがいても自分のペースで事は進まない事が充分過ぎるほど分かった。こう成る運命だったのだとも想った。自分で選んだ道がこういう結果を生む事を予想出来なかったとは言い切れず何とか成るという安易な気持ちが強かった。長年遊んで来て始めての経験だった。か弱く見えた女が途轍もなく強大な生き物に想えた。 あの小さな身体から出た作戦にものの見事にはめられてしまった。独り考えてどうなるものでも無い事は浜松からの道中で考え抜いた事だった。成るように成れと居直る気持ちで新大阪駅からタクシーでヒルトン・ホテルに向かった。地下鉄に乗った方が着実に早く着けるのに敢えてそうしなかった。満員電車の人混みが煩わしく人々の疲れ切った顔を観たくもなかった。人々に今の自分の悩みを顔色から見透かされるのも嫌だった。時間通りに行かなくても殺される訳でもないのだ。舞子のお腹の子供の事を考えれば女は自分の孫が出来る喜びで私への憎しみなぞ持たないだろう。女として彼女は私から八年近く快楽を得ただけで形として何も得るものは無かった代わりに娘にそれを代理させたという意識があるなのだろう。五十にも成った女が子供を産みたいとは想いもしなかったろうが性の喜びだけはしっかりと捕らえたのだ。 それを持続させるのが無理だと悟って娘に因果を含めたかどうかは別にしても結果的には同じ事をやり遂げた訳だ。軽く考えていた女にしてやられた。ー枚上手の女だった。いや、舞子の方がそ知らぬ顔で更にその上手を行っているのかも知れない。大した母娘だ。身体を張って私を取り込んだ女郎蜘蛛の様なものだ。彼女等から快楽を得た代償として私はこの先、彼女等にコントロールされる事だろう。猫が獲物をもてあそぶ様に彼女等の手の内で好きな様にされるのだ。日頃から庭先で獲物を狙うココを観ていてそう想う。残酷なまでに死に至るまで突っついたり放り投げ、時には噛み、獲物が動かなくなるまで楽しみながら心行くまで狩を堪能するのだ。命の尊厳ぞ持ち合わせない猫は、動かなくなってしまった獲物なぞプイと見捨て、次なる獲物を求めて亦行動を始める。 その飽くなき欲望と執念は単なる狩りの楽しみだけでなく自分のテリトリー内に来る獲物の総ての生死をも支配し自分の世界を構築する喜びに浸り切っている。猫と人間とは違うと言ったところで、やっている事は大して変わらないのだ。ラッシュの後半だったせいか新御堂筋の車はスムーズに流れ始め、約束の時間には梅田に着けた。近年は大阪も欧米並みに街の様相を綺麗な超高層ビル群に建て替えられ、建物から洩れ出る明かりが冷たい大都会の夜の顔を現し始めていた。酒の入っていない頭で観上げるそんな夕闇の街の光景は、これから会う女達を護っているかの様で自分が小さな人間に想えるのだった。「悪い事なぞしていない。むしろ良い事をして来たのだ。その証拠に、女達は喜んでいるでは無いか」自分を励ますように私は独り言を言った。ホテルのロビーに入ると女達が喫茶テーブルで楽しそうにお茶を飲んでいるのが観えた。 「まあ、時間通りだワ。もう少し待たされるかと思った」女は椅子を勧めながら笑顔で迎えた。「今日は時間が無かったから土産は無いヨ」「お土産なんか要らないワ。私達の間で、そんな気を使う事無いのヨ」「そりゃそうだけど・・・」「それよりお腹が空いたワ。上へ食べに行きましょ」女は立ち上がって予約してあるというフランス・レストランに向かった。「先ず、ワインで乾杯しましょ、舞子のお目出度に!」「おいおい、お酒、大丈夫か、舞子?」想わず私は言った。「今日、病院で診てもらって先生に訊いたから大丈夫。一口程度なら構わないそうヨ」と女が横から応えた。「病院へ行く様な何か兆候でもあったの?」すると女が再び笑いかけるように応えた。「生理が長く無かったのヨ。それで検査を受けて二ヶ月目に入った事が分かったの。この子ったら無頓着なんだから。もっと自分の身体を大事にしなくっちゃ」 女が独りではしゃぎ、舞子は逆に口数が少なかった。「それにしても、舞ちゃんの妊娠にも驚いたけど、君が最初からボクと舞ちゃんとの関係を知っていたなんて驚きだ」私は、ようやく核心に触れた。「知らないとでも想っていたの?」女の問いかけに私は答えなかった。「見合いの話にかこつけて貴方に舞子を任せようと思ったのヨ、何から何まで」「何から何まで?」「そうヨ、総てネ」「ママ、止めてヨ!」舞子が抗う様に女を制した。「確かに最初はママに勧められたけど、私が自分で決めた事ヨ」「あら、それなら尚良いじゃない。相思相愛で」「私は蚊帳の外かい?」女は振り返って含み笑いをした。「貴方は今のままで良いのヨ」「まるで私は種馬か・・・」「まあ、嫌らしい事言うのネ。種馬だなんて、ホホホ」其処へエレベーターのドアが開いて会話は途切れた。(10月中旬へつづく)
2012/10/05
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秋(19) ホールアウトして次のグリーンのティーショットを済ませフェアウエイを行くと、前の組のプレイが観えて来た。追いついたのである。彼等が打ち終えるまで数分待たねばならない。大体、15~20分の間隔を置いてスタートしているから前の組がホールアウトした直後にフェアウエイからグリーン目掛けて打つのが理想的である。自分達が遅れている時は前の組が観えず焦り気味になる。何故なら後の組に追いつかれるからで、そうなれば焦りの気持ちが起きて余裕を奪う。余裕の気持ちが無く成ればミスも生じやすい。前の組が観えなくなってグリーンに向かってショットするも、グリーンが見通せない場合も不安がよぎる。大体の方向は分かるものの、ピン(フラッグ)が観えないというのも不安材料に成るからである。矢張り何でも目標が観えないで打つというのは不安なものである。小説「猫と女と」(18) 新大阪駅に着いた頃には既に夕闇が迫っていた。浜松から女に電話して予想もつかなかった事を知らされ愕然とし、時間の経過が分からないほど考え込んでしまった。途中の名古屋を覚えていなかった。京都に着いてライトアップされた京都タワーを見上げ、間もなく大阪だとやっと意識出来たのだった。これまで自分のやって来た事の良し悪しは充分分かってやって来た事なのに結果をこういう形で急に示され頭が真っ白になってしまった。この先、女の言うままに動かざるを得ないと悟った。どうあがいても自分のペースで事は進まない事が充分過ぎるほど分かった。こう成る運命だったのだとも想った。自分で選んだ道がこういう結果を生む事を予想出来なかったとは言い切れず何とか成るという安易な気持ちが強かった。長年遊んで来て始めての経験だった。か弱く見えた女が途轍もなく強大な生き物に想えた。 あの小さな身体から出た作戦にものの見事にはめられてしまった。独り考えてどうなるものでも無い事は浜松からの道中で考え抜いた事だった。成るように成れと居直る気持ちで新大阪駅からタクシーでヒルトン・ホテルに向かった。地下鉄に乗った方が着実に早く着けるのに敢えてそうしなかった。満員電車の人混みが煩わしく人々の疲れ切った顔を観たくもなかった。人々に今の自分の悩みを顔色から見透かされるのも嫌だった。時間通りに行かなくても殺される訳でもないのだ。舞子のお腹の子供の事を考えれば女は自分の孫が出来る喜びで私への憎しみなぞ持たないだろう。女として彼女は私から八年近く快楽を得ただけで形として何も得るものは無かった代わりに娘にそれを代理させたという意識があるなのだろう。五十にも成った女が子供を産みたいとは想いもしなかったろうが性の喜びだけはしっかりと捕らえたのだ。 それを持続させるのが無理だと悟って娘に因果を含めたかどうかは別にしても結果的には同じ事をやり遂げた訳だ。軽く考えていた女にしてやられた。ー枚上手の女だった。いや、舞子の方がそ知らぬ顔で更にその上手を行っているのかも知れない。大した母娘だ。身体を張って私を取り込んだ女郎蜘蛛の様なものだ。彼女等から快楽を得た代償として私はこの先、彼女等にコントロールされる事だろう。猫が獲物をもてあそぶ様に彼女等の手の内で好きな様にされるのだ。日頃から庭先で獲物を狙うココを観ていてそう想う。残酷なまでに死に至るまで突っついたり放り投げ、時には噛み、獲物が動かなくなるまで楽しみながら心行くまで狩を堪能するのだ。命の尊厳ぞ持ち合わせない猫は、動かなくなってしまった獲物なぞプイと見捨て、次なる獲物を求めて亦行動を始める。 その飽くなき欲望と執念は単なる狩りの楽しみだけでなく自分のテリトリー内に来る獲物の総ての生死をも支配し自分の世界を構築する喜びに浸り切っている。猫と人間とは違うと言ったところで、やっている事は大して変わらないのだ。ラッシュの後半だったせいか新御堂筋の車はスムーズに流れ始め、約束の時間には梅田に着けた。近年は大阪も欧米並みに街の様相を綺麗な超高層ビル群に建て替えられ、建物から洩れ出る明かりが冷たい大都会の夜の顔を現し始めていた。酒の入っていない頭で観上げるそんな夕闇の街の光景は、これから会う女達を護っているかの様で自分が小さな人間に想えるのだった。「悪い事なぞしていない。むしろ良い事をして来たのだ。その証拠に、女達は喜んでいるでは無いか」自分を励ますように私は独り言を言った。ホテルのロビーに入ると女達が喫茶テーブルで楽しそうにお茶を飲んでいるのが観えた。 「まあ、時間通りだワ。もう少し待たされるかと思った」女は椅子を勧めながら笑顔で迎えた。「今日は時間が無かったから土産は無いヨ」「お土産なんか要らないワ。私達の間で、そんな気を使う事無いのヨ」「そりゃそうだけど・・・」「それよりお腹が空いたワ。上へ食べに行きましょ」女は立ち上がって予約してあるというフランス・レストランに向かった。「先ず、ワインで乾杯しましょ、舞子のお目出度に!」「おいおい、お酒、大丈夫か、舞子?」想わず私は言った。「今日、病院で診てもらって先生に訊いたから大丈夫。一口程度なら構わないそうヨ」と女が横から応えた。「病院へ行く様な何か兆候でもあったの?」すると女が再び笑いかけるように応えた。「生理が長く無かったのヨ。それで検査を受けて二ヶ月目に入った事が分かったの。この子ったら無頓着なんだから。もっと自分の身体を大事にしなくっちゃ」 女が独りではしゃぎ、舞子は逆に口数が少なかった。「それにしても、舞ちゃんの妊娠にも驚いたけど、君が最初からボクと舞ちゃんとの関係を知っていたなんて驚きだ」私は、ようやく核心に触れた。「知らないとでも想っていたの?」女の問いかけに私は答えなかった。「見合いの話にかこつけて貴方に舞子を任せようと思ったのヨ、何から何まで」「何から何まで?」「そうヨ、総てネ」「ママ、止めてヨ!」舞子が抗う様に女を制した。「確かに最初はママに勧められたけど、私が自分で決めた事ヨ」「あら、それなら尚良いじゃない。相思相愛で」「私は蚊帳の外かい?」女は振り返って含み笑いをした。「貴方は今のままで良いのヨ」「まるで私は種馬か・・・」「まあ、嫌らしい事言うのネ。種馬だなんて、ホホホ」其処へエレベーターのドアが開いて会話は途切れた。(10月中旬へつづく)
2012/10/04
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秋(18) さて、バンカー手前からピッチング・ウエッジでグリーン目指して打ったボールが果たしてグリーンに乗ったかどうか観えない場合、先に乗せた仲間が「ナイス・オン!」と教えてくれるものである。しかし、その声が挙がらなかったという事はグーンに乗ら無かったか、グリーン周りのカラー付近に落ちたのだろう。カラー周りなら吉とせねばならない。悪くてもホールまで20~30ヤードあったとしてもワンパットで入れる可能性が残っているからだ。長いパターはプロでも難しい。が、入らないとは限らない。それを願ってグリーンに向かって歩いて行く。その時の一抹の不安はゴルをやる者の一種の贅沢な悩みである。仕事の世界では味わえない悩みが自由時間を楽しませてくれるのである。パーを願ってパターを握りしめ、やおらグリーンに向かって歩いて行く気持ちは不安と自信の織成す大人の遊びである。小説「猫と女と」(18) 新大阪駅に着いた頃には既に夕闇が迫っていた。浜松から女に電話して予想もつかなかった事を知らされ愕然とし、時間の経過が分からないほど考え込んでしまった。途中の名古屋を覚えていなかった。京都に着いてライトアップされた京都タワーを見上げ、間もなく大阪だとやっと意識出来たのだった。これまで自分のやって来た事の良し悪しは充分分かってやって来た事なのに結果をこういう形で急に示され頭が真っ白になってしまった。この先、女の言うままに動かざるを得ないと悟った。どうあがいても自分のペースで事は進まない事が充分過ぎるほど分かった。こう成る運命だったのだとも想った。自分で選んだ道がこういう結果を生む事を予想出来なかったとは言い切れず何とか成るという安易な気持ちが強かった。長年遊んで来て始めての経験だった。か弱く見えた女が途轍もなく強大な生き物に想えた。 あの小さな身体から出た作戦にものの見事にはめられてしまった。独り考えてどうなるものでも無い事は浜松からの道中で考え抜いた事だった。成るように成れと居直る気持ちで新大阪駅からタクシーでヒルトン・ホテルに向かった。地下鉄に乗った方が着実に早く着けるのに敢えてそうしなかった。満員電車の人混みが煩わしく人々の疲れ切った顔を観たくもなかった。人々に今の自分の悩みを顔色から見透かされるのも嫌だった。時間通りに行かなくても殺される訳でもないのだ。舞子のお腹の子供の事を考えれば女は自分の孫が出来る喜びで私への憎しみなぞ持たないだろう。女として彼女は私から八年近く快楽を得ただけで形として何も得るものは無かった代わりに娘にそれを代理させたという意識があるなのだろう。五十にも成った女が子供を産みたいとは想いもしなかったろうが性の喜びだけはしっかりと捕らえたのだ。 それを持続させるのが無理だと悟って娘に因果を含めたかどうかは別にしても結果的には同じ事をやり遂げた訳だ。軽く考えていた女にしてやられた。ー枚上手の女だった。いや、舞子の方がそ知らぬ顔で更にその上手を行っているのかも知れない。大した母娘だ。身体を張って私を取り込んだ女郎蜘蛛の様なものだ。彼女等から快楽を得た代償として私はこの先、彼女等にコントロールされる事だろう。猫が獲物をもてあそぶ様に彼女等の手の内で好きな様にされるのだ。日頃から庭先で獲物を狙うココを観ていてそう想う。残酷なまでに死に至るまで突っついたり放り投げ、時には噛み、獲物が動かなくなるまで楽しみながら心行くまで狩を堪能するのだ。命の尊厳ぞ持ち合わせない猫は、動かなくなってしまった獲物なぞプイと見捨て、次なる獲物を求めて亦行動を始める。 その飽くなき欲望と執念は単なる狩りの楽しみだけでなく自分のテリトリー内に来る獲物の総ての生死をも支配し自分の世界を構築する喜びに浸り切っている。猫と人間とは違うと言ったところで、やっている事は大して変わらないのだ。ラッシュの後半だったせいか新御堂筋の車はスムーズに流れ始め、約束の時間には梅田に着けた。近年は大阪も欧米並みに街の様相を綺麗な超高層ビル群に建て替えられ、建物から洩れ出る明かりが冷たい大都会の夜の顔を現し始めていた。酒の入っていない頭で観上げるそんな夕闇の街の光景は、これから会う女達を護っているかの様で自分が小さな人間に想えるのだった。「悪い事なぞしていない。むしろ良い事をして来たのだ。その証拠に、女達は喜んでいるでは無いか」自分を励ますように私は独り言を言った。ホテルのロビーに入ると女達が喫茶テーブルで楽しそうにお茶を飲んでいるのが観えた。 「まあ、時間通りだワ。もう少し待たされるかと思った」女は椅子を勧めながら笑顔で迎えた。「今日は時間が無かったから土産は無いヨ」「お土産なんか要らないワ。私達の間で、そんな気を使う事無いのヨ」「そりゃそうだけど・・・」「それよりお腹が空いたワ。上へ食べに行きましょ」女は立ち上がって予約してあるというフランス・レストランに向かった。「先ず、ワインで乾杯しましょ、舞子のお目出度に!」「おいおい、お酒、大丈夫か、舞子?」想わず私は言った。「今日、病院で診てもらって先生に訊いたから大丈夫。一口程度なら構わないそうヨ」と女が横から応えた。「病院へ行く様な何か兆候でもあったの?」すると女が再び笑いかけるように応えた。「生理が長く無かったのヨ。それで検査を受けて二ヶ月目に入った事が分かったの。この子ったら無頓着なんだから。もっと自分の身体を大事にしなくっちゃ」 女が独りではしゃぎ、舞子は逆に口数が少なかった。「それにしても、舞ちゃんの妊娠にも驚いたけど、君が最初からボクと舞ちゃんとの関係を知っていたなんて驚きだ」私は、ようやく核心に触れた。「知らないとでも想っていたの?」女の問いかけに私は答えなかった。「見合いの話にかこつけて貴方に舞子を任せようと思ったのヨ、何から何まで」「何から何まで?」「そうヨ、総てネ」「ママ、止めてヨ!」舞子が抗う様に女を制した。「確かに最初はママに勧められたけど、私が自分で決めた事ヨ」「あら、それなら尚良いじゃない。相思相愛で」「私は蚊帳の外かい?」女は振り返って含み笑いをした。「貴方は今のままで良いのヨ」「まるで私は種馬か・・・」「まあ、嫌らしい事言うのネ。種馬だなんて、ホホホ」其処へエレベーターのドアが開いて会話は途切れた。(10月中旬へつづく)
2012/10/03
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秋(17) 何処のゴルフ場にも一般的にグリーン手前にはバンカーが在る。言わば砂場である。グリーンに乗せる積もりがショートしてバンカーに入るケースが誰もが一度は有るものである。しかし、幸いにもその手前や横のラフや刈り取った芝生の上にボールを発見した時はホッとする。バンカー嫌いな人には大助かりである。つまり砂の苦手な人が多いという事だが、それ程苦手で無い人もバンカーにボールが入っているよりも芝生の上に在る方が簡単に打てるという気に成れるものである。バンカーは難しいという間違った思い込みがあるのだ。誰もがそう想い込まされている。が、寧ろプロは、グリーン横のバンカーにボールが入れば確実にグリーンを捕えたと考える。其処から打てばホールに入るか、入らなくてもホール近くにボールを落とせるからである。ものは考え様である。要は良い方に考えればバンカーは決して妨害する場所では無くホールの目安位置に成るからである。小説「猫と女と」(18) 新大阪駅に着いた頃には既に夕闇が迫っていた。浜松から女に電話して予想もつかなかった事を知らされ愕然とし、時間の経過が分からないほど考え込んでしまった。途中の名古屋を覚えていなかった。京都に着いてライトアップされた京都タワーを見上げ、間もなく大阪だとやっと意識出来たのだった。これまで自分のやって来た事の良し悪しは充分分かってやって来た事なのに結果をこういう形で急に示され頭が真っ白になってしまった。この先、女の言うままに動かざるを得ないと悟った。どうあがいても自分のペースで事は進まない事が充分過ぎるほど分かった。こう成る運命だったのだとも想った。自分で選んだ道がこういう結果を生む事を予想出来なかったとは言い切れず何とか成るという安易な気持ちが強かった。長年遊んで来て始めての経験だった。か弱く見えた女が途轍もなく強大な生き物に想えた。 あの小さな身体から出た作戦にものの見事にはめられてしまった。独り考えてどうなるものでも無い事は浜松からの道中で考え抜いた事だった。成るように成れと居直る気持ちで新大阪駅からタクシーでヒルトン・ホテルに向かった。地下鉄に乗った方が着実に早く着けるのに敢えてそうしなかった。満員電車の人混みが煩わしく人々の疲れ切った顔を観たくもなかった。人々に今の自分の悩みを顔色から見透かされるのも嫌だった。時間通りに行かなくても殺される訳でもないのだ。舞子のお腹の子供の事を考えれば女は自分の孫が出来る喜びで私への憎しみなぞ持たないだろう。女として彼女は私から八年近く快楽を得ただけで形として何も得るものは無かった代わりに娘にそれを代理させたという意識があるなのだろう。五十にも成った女が子供を産みたいとは想いもしなかったろうが性の喜びだけはしっかりと捕らえたのだ。 それを持続させるのが無理だと悟って娘に因果を含めたかどうかは別にしても結果的には同じ事をやり遂げた訳だ。軽く考えていた女にしてやられた。ー枚上手の女だった。いや、舞子の方がそ知らぬ顔で更にその上手を行っているのかも知れない。大した母娘だ。身体を張って私を取り込んだ女郎蜘蛛の様なものだ。彼女等から快楽を得た代償として私はこの先、彼女等にコントロールされる事だろう。猫が獲物をもてあそぶ様に彼女等の手の内で好きな様にされるのだ。日頃から庭先で獲物を狙うココを観ていてそう想う。残酷なまでに死に至るまで突っついたり放り投げ、時には噛み、獲物が動かなくなるまで楽しみながら心行くまで狩を堪能するのだ。命の尊厳ぞ持ち合わせない猫は、動かなくなってしまった獲物なぞプイと見捨て、次なる獲物を求めて亦行動を始める。 その飽くなき欲望と執念は単なる狩りの楽しみだけでなく自分のテリトリー内に来る獲物の総ての生死をも支配し自分の世界を構築する喜びに浸り切っている。猫と人間とは違うと言ったところで、やっている事は大して変わらないのだ。ラッシュの後半だったせいか新御堂筋の車はスムーズに流れ始め、約束の時間には梅田に着けた。近年は大阪も欧米並みに街の様相を綺麗な超高層ビル群に建て替えられ、建物から洩れ出る明かりが冷たい大都会の夜の顔を現し始めていた。酒の入っていない頭で観上げるそんな夕闇の街の光景は、これから会う女達を護っているかの様で自分が小さな人間に想えるのだった。「悪い事なぞしていない。むしろ良い事をして来たのだ。その証拠に、女達は喜んでいるでは無いか」自分を励ますように私は独り言を言った。ホテルのロビーに入ると女達が喫茶テーブルで楽しそうにお茶を飲んでいるのが観えた。 「まあ、時間通りだワ。もう少し待たされるかと思った」女は椅子を勧めながら笑顔で迎えた。「今日は時間が無かったから土産は無いヨ」「お土産なんか要らないワ。私達の間で、そんな気を使う事無いのヨ」「そりゃそうだけど・・・」「それよりお腹が空いたワ。上へ食べに行きましょ」女は立ち上がって予約してあるというフランス・レストランに向かった。「先ず、ワインで乾杯しましょ、舞子のお目出度に!」「おいおい、お酒、大丈夫か、舞子?」想わず私は言った。「今日、病院で診てもらって先生に訊いたから大丈夫。一口程度なら構わないそうヨ」と女が横から応えた。「病院へ行く様な何か兆候でもあったの?」すると女が再び笑いかけるように応えた。「生理が長く無かったのヨ。それで検査を受けて二ヶ月目に入った事が分かったの。この子ったら無頓着なんだから。もっと自分の身体を大事にしなくっちゃ」 女が独りではしゃぎ、舞子は逆に口数が少なかった。「それにしても、舞ちゃんの妊娠にも驚いたけど、君が最初からボクと舞ちゃんとの関係を知っていたなんて驚きだ」私は、ようやく核心に触れた。「知らないとでも想っていたの?」女の問いかけに私は答えなかった。「見合いの話にかこつけて貴方に舞子を任せようと思ったのヨ、何から何まで」「何から何まで?」「そうヨ、総てネ」「ママ、止めてヨ!」舞子が抗う様に女を制した。「確かに最初はママに勧められたけど、私が自分で決めた事ヨ」「あら、それなら尚良いじゃない。相思相愛で」「私は蚊帳の外かい?」女は振り返って含み笑いをした。「貴方は今のままで良いのヨ」「まるで私は種馬か・・・」「まあ、嫌らしい事言うのネ。種馬だなんて、ホホホ」其処へエレベーターのドアが開いて会話は途切れた。(10月中旬へつづく)
2012/10/02
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秋(16) キャディーバッグには14本のクラブが入って居る。それは競技で14本まで持っても良い事になっているからだが、何も14本も持たなくても半分の7本でも良い訳だ。昔は数本だけで廻ったそうだが、ある時期から本数制限が為される様になった。公平を期する為だが、14本になった経緯はキャディーが運ぶ限度に近い線が出されたのだろう。必ず要るクラブは、パター、ピッチングウエッジ、サンドウエッジ、ドライバー(1番ウッド)、スプーン(3番ウッド)、5番アイアン、7番アイアン、9番アイアンの8本だろう。それ以外はアマチュアには有れば便利だという程度だろう。ボクは練習では14本全部使うが、実際のグリーンでは全部使う事は稀である。一番よく使うのは勿論パターで、次いでドライバー、スプーン、ピッチングウエッジ、サンドウエッジという処だ。このほかにジガーというクラブが有って是はピッチングウエッジの代わりをしてくれる。グリーン周りのライ(芝生)の状態(急の昇りや芝生の生え方)が悪い場合に有れば便利なクラブである。先日、庭でピッチングの練習をしているとジガーが有るのを想い出し使ってみると実に使い易く、3番アイアンを除いて代わりにバッグに収めた。次回からは之を使おうと想っている。小説「猫と女と」(18) 新大阪駅に着いた頃には既に夕闇が迫っていた。浜松から女に電話して予想もつかなかった事を知らされ愕然とし、時間の経過が分からないほど考え込んでしまった。途中の名古屋を覚えていなかった。京都に着いてライトアップされた京都タワーを見上げ、間もなく大阪だとやっと意識出来たのだった。これまで自分のやって来た事の良し悪しは充分分かってやって来た事なのに結果をこういう形で急に示され頭が真っ白になってしまった。この先、女の言うままに動かざるを得ないと悟った。どうあがいても自分のペースで事は進まない事が充分過ぎるほど分かった。こう成る運命だったのだとも想った。自分で選んだ道がこういう結果を生む事を予想出来なかったとは言い切れず何とか成るという安易な気持ちが強かった。長年遊んで来て始めての経験だった。か弱く見えた女が途轍もなく強大な生き物に想えた。 あの小さな身体から出た作戦にものの見事にはめられてしまった。独り考えてどうなるものでも無い事は浜松からの道中で考え抜いた事だった。成るように成れと居直る気持ちで新大阪駅からタクシーでヒルトン・ホテルに向かった。地下鉄に乗った方が着実に早く着けるのに敢えてそうしなかった。満員電車の人混みが煩わしく人々の疲れ切った顔を観たくもなかった。人々に今の自分の悩みを顔色から見透かされるのも嫌だった。時間通りに行かなくても殺される訳でもないのだ。舞子のお腹の子供の事を考えれば女は自分の孫が出来る喜びで私への憎しみなぞ持たないだろう。女として彼女は私から八年近く快楽を得ただけで形として何も得るものは無かった代わりに娘にそれを代理させたという意識があるなのだろう。五十にも成った女が子供を産みたいとは想いもしなかったろうが性の喜びだけはしっかりと捕らえたのだ。 それを持続させるのが無理だと悟って娘に因果を含めたかどうかは別にしても結果的には同じ事をやり遂げた訳だ。軽く考えていた女にしてやられた。ー枚上手の女だった。いや、舞子の方がそ知らぬ顔で更にその上手を行っているのかも知れない。大した母娘だ。身体を張って私を取り込んだ女郎蜘蛛の様なものだ。彼女等から快楽を得た代償として私はこの先、彼女等にコントロールされる事だろう。猫が獲物をもてあそぶ様に彼女等の手の内で好きな様にされるのだ。日頃から庭先で獲物を狙うココを観ていてそう想う。残酷なまでに死に至るまで突っついたり放り投げ、時には噛み、獲物が動かなくなるまで楽しみながら心行くまで狩を堪能するのだ。命の尊厳ぞ持ち合わせない猫は、動かなくなってしまった獲物なぞプイと見捨て、次なる獲物を求めて亦行動を始める。 その飽くなき欲望と執念は単なる狩りの楽しみだけでなく自分のテリトリー内に来る獲物の総ての生死をも支配し自分の世界を構築する喜びに浸り切っている。猫と人間とは違うと言ったところで、やっている事は大して変わらないのだ。ラッシュの後半だったせいか新御堂筋の車はスムーズに流れ始め、約束の時間には梅田に着けた。近年は大阪も欧米並みに街の様相を綺麗な超高層ビル群に建て替えられ、建物から洩れ出る明かりが冷たい大都会の夜の顔を現し始めていた。酒の入っていない頭で観上げるそんな夕闇の街の光景は、これから会う女達を護っているかの様で自分が小さな人間に想えるのだった。「悪い事なぞしていない。むしろ良い事をして来たのだ。その証拠に、女達は喜んでいるでは無いか」自分を励ますように私は独り言を言った。ホテルのロビーに入ると女達が喫茶テーブルで楽しそうにお茶を飲んでいるのが観えた。 「まあ、時間通りだワ。もう少し待たされるかと思った」女は椅子を勧めながら笑顔で迎えた。「今日は時間が無かったから土産は無いヨ」「お土産なんか要らないワ。私達の間で、そんな気を使う事無いのヨ」「そりゃそうだけど・・・」「それよりお腹が空いたワ。上へ食べに行きましょ」女は立ち上がって予約してあるというフランス・レストランに向かった。「先ず、ワインで乾杯しましょ、舞子のお目出度に!」「おいおい、お酒、大丈夫か、舞子?」想わず私は言った。「今日、病院で診てもらって先生に訊いたから大丈夫。一口程度なら構わないそうヨ」と女が横から応えた。「病院へ行く様な何か兆候でもあったの?」すると女が再び笑いかけるように応えた。「生理が長く無かったのヨ。それで検査を受けて二ヶ月目に入った事が分かったの。この子ったら無頓着なんだから。もっと自分の身体を大事にしなくっちゃ」 女が独りではしゃぎ、舞子は逆に口数が少なかった。「それにしても、舞ちゃんの妊娠にも驚いたけど、君が最初からボクと舞ちゃんとの関係を知っていたなんて驚きだ」私は、ようやく核心に触れた。「知らないとでも想っていたの?」女の問いかけに私は答えなかった。「見合いの話にかこつけて貴方に舞子を任せようと思ったのヨ、何から何まで」「何から何まで?」「そうヨ、総てネ」「ママ、止めてヨ!」舞子が抗う様に女を制した。「確かに最初はママに勧められたけど、私が自分で決めた事ヨ」「あら、それなら尚良いじゃない。相思相愛で」「私は蚊帳の外かい?」女は振り返って含み笑いをした。「貴方は今のままで良いのヨ」「まるで私は種馬か・・・」「まあ、嫌らしい事言うのネ。種馬だなんて、ホホホ」其処へエレベーターのドアが開いて会話は途切れた。(10月中旬へつづく)
2012/10/01
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