真理を求めて

真理を求めて

2004.07.02
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評価というのは事実ではない。事実に対する自分の見方という主観を語るのであるから、基本的には解釈である。だから、ある意味ではどのように評価しようと、それは評価する人間の自由だ。自分の主観にのみ基づく評価であろうと、好き・嫌いという好みをそのまま語った印象評価であろうと、評価である限りでは何を言おうと自由だ。それが言論の自由というものだろう。

しかし、評価を公にするということは、それに共感して欲しいと言うことがあるだろう。そうすると、自分だけが思っている主観的な評価ではなく、そこに何らかの客観性を持たせて、他人も同じように感じるという部分を持たせた方が、評価としては効果的だ。

そういう客観性を持った評価は、自分がそう評価した根拠である事実を指摘して、それがあるから自分はこう評価するのだという語り方をしなければならないだろう。その評価によって何らかの利害関係が生じるような評価は、特にこの客観性を持たせることを考えなければならない。学校での教員の評価なども、教員個人の資質に依存した主観的な評価ではなく、誰が見ても妥当だと思えるような客観的な評価が求められるのは、その評価が生徒にとっては大きな利害を生むものになるからだろう。

さて、いま田中宇さんというジャーナリストの評価を巡って掲示板でやりとりをしている。評価一般に関しては、僕は上のように考えるので、誰が田中さんをどう評価しようと、それは解釈である限りでは、なんとでも言えるものだと思っている。どう評価しようとかまわない。僕の評価は田中さんの論理性を高く評価するというものだ。

僕は田中さんを高く評価するが、そうでない人がいても少しも不思議ではない。デリケートな問題を論じていれば、異論があるのは当然で、異論を持っている人間は高く評価したくないと言う者もいるだろう。そういった評価が、説得性のあるものだったら、僕の評価にも影響を与えるだろうけれど、説得性がないと思えば、僕の評価が変わることはない。

その説得性は、上に書いた一般論でも指摘しているが、具体的な指摘を根拠にした言い方によるものが説得性があると僕は感じている。具体的な指摘が何もなく、単に印象を語っているだけであれば、その印象を始めから持っているものなら共感するだろうが、そうでない人間は全く共感できない。単に見解の相違だと思うだけだ。

注目している部分の違いが評価に表れていると思うのだが、それを具体的に語らなければ、意見として受け止めることも出来ない。もし実りある対話をしたいと考えるのなら、自分がどうしてそのような見解(評価)を持ったかを具体的に語らなければならないと思う。

僕はこういう考え方を持っているので、なぜ田中さんを高く評価するかというのを、田中さんの文章を具体的に引用して、どの部分が僕にそう思わせたのかを具体的に語ろうと思う。田中さんの文章を見て、僕と同じように感じてくれる人がいたら、僕の語ることに少しは客観性があるということになるだろう。

田中さんは「田中宇の国際ニュース解説」というメールマガジンを出しているが、その2004年6月19日のもので、 「ネオコンは中道派の別働隊だった?」

まずこの冒頭の文章を僕は評価する。

「ネオコンが開戦事由をでっち上げて挙行したイラク戦争は、アメリカの世界的な信用を傷つけた。米軍がイラクに縛りつけられたことにより、アメリカは軍事的な世界覇権をも失い、それに反比例する形でロシア、中国、北朝鮮、イランなど、アメリカが仮想敵とみなしてきた国々が力をつけている。ネオコンが提唱した単独覇権主義の戦略は完全に破綻し、今やこの戦略を続けるほど、アメリカは軍事力と威信を浪費する体制ができている。」

と田中さんは語っているのだが、米軍の威信の失墜を、単に印象として語るのではなく、イラク戦争によって偏りを見せた軍事力の使い方が、他の所にどのような影響を与えた結果として威信が失墜したかを論理的なつながりで語っている。この論理性を僕は高く評価するのだ。

アメリカのこのような失敗の原因を作ったのは、ネオコンと呼ばれるグループだが、それに対して田中さんは「アメリカを自滅させるようなことをしたのに、ネオコンはほとんど誰も辞めさせられていない」という疑問を提出している。もしも正義の人だったら、このことに怒りを燃やして、道徳的な憤慨を語ることだろう。しかし、田中さんは、この疑問に対して合理的な解答を見つけるべく事実を検討するという姿勢を持つ。これこそがジャーナリストとしての姿勢だと僕は思う。ここでも僕が田中さんをジャーナリストとして高く評価する根拠を一つ語ることが出来る。

田中さんは、ビルダーバーグ会議(毎年1回、アメリカ、カナダとヨーロッパ諸国で影響力を持つ約120人が集まり、政治経済や環境問題なども含む多様な国際問題について討議する完全非公開の会合)というものに、ネオコンが招かれていることを指摘して、ネオコンの失敗は最初から予測されたものとして展開されているのではないかと推測している。

このような推測は、一見すると「陰謀説」のように見える。わざわざ失敗をして混乱させるというのは、合理的に考える人間からは「陰謀」のようにしか見えない。しかし、そこに合理性を発見できれば、このように考えるのは必ずしも「陰謀説」と呼ばれるように、「根拠のないものをすべて陰謀に結びつける」というような考え方ではないことを感じるだろう。

日本の真珠湾攻撃はアメリカの「陰謀」であるということがよく語られる。これは、何も根拠がないのであれば「陰謀説」であるが、様々の事実が解明されて、その論理的解釈をつなげていくと、「陰謀」であったという方が「事実」ではないかと思える可能性が高くなっている。アメリカという国は、真珠湾以前にも、「アラモの砦」などで陰謀を図っているという歴史がある。「陰謀説」であるか、正しい推論から導いた「陰謀」だという結論かは、その推論を見て評価しなければならない。「陰謀」のようなことを語っているという印象で、直ちに「陰謀説」だと解釈するのは単純な思い込みであるように僕は感じる。

「陰謀」のように見える根拠として田中さんは次のような指摘をしている。

「ネオコンの単独覇権主義が失敗したのだから、もはやネオコンは「用済み」にされてもいいはずなのに、事態は逆だ。昨年に引き続き今年の会議でも3人のネオコンが呼ばれたということは、むしろネオコンがアメリカをイラク戦争に引きずり込んで失敗させたことは、ビルダーバーグ会議で事前に予測された展開だったのではないかと思える。

(私のような在野のウォッチャーでさえ、イラク戦争は泥沼化すると開戦前から指摘できたのだから、ネオコンにやらせたらイラクは泥沼化するとビルダーバーグの人々は予測していたはずだ)」

イラクで戦争をしたら泥沼化すると言っていたのは、田中さんだけではない。論理的な判断が出来る人はほとんどすべてがそう語っていた。だから、田中さんが、「ビルダーバーグの人々は予測していたはずだ」と語ることには根拠がある。そして、予測していてその通りに失敗したにもかかわらず、ネオコンが排除されないと言うことは、ネオコンは、その失敗を実際に遂行するという「陰謀」を行ったと解釈も出来るという主張を田中さんはここでしているのだろうと僕は感じる。



「ネオコンはビルダーバーグ会議の意を受けてアメリカの政権中枢に送り込まれ、計画通りにアメリカをイラク戦争の泥沼に引きずり込んだ可能性がある。ネオコンと中道派は対立しているように振る舞ってきたが、実は両者は役割分担していただけではないか、ということだ。そう考えると、イラクが泥沼化してもネオコンがほとんど誰も政権の座から外されていないことも納得できる。 」

という文章だけを単独で取り上げて論じたら、これは「陰謀説」を語っているようにしか見えないだろう。しかし、上の結論を導き出す事実の指摘と論理の構成を、全体像としてつかむなら、この主張は、「根拠のない陰謀説」ではなくて、「根拠のある陰謀説」であることが分かる。これが分かるかどうかで、田中さんをどう評価するかが決まってくるだろう。

「陰謀」というのは、目的がはっきり分かるとなぜ陰謀が企てられるかというのも納得できる。「アラモの砦」も「真珠湾」も、強大な軍事力でただ叩くだけでは、世論というものがその正当性を信じてくれない可能性がある。「相手が悪いんだ」という世論を興せば、どんな残酷な叩き方をしても、ある意味では認められてしまうと言うことがあるだろう。アメリカ先住民や日本人に加えられたその後の残虐な戦闘は、「アラモの砦」や「真珠湾」があったからこそ行えたのではないかと思える。その目的があれば、陰謀を図るのも理解できる。

この目的を田中さんはどうとらえているか。それは次のような意見で語られている。

「ネオコンや中道派、ビルダーバーグなどがそろって同じ策略を行ってきたのだとすれば、彼らの目指すものは何なのか。私が見るところでは、それは「世界を多極的なシステムに転換する」ことだったのではないかと思われる。」



それでは、いままでの事実上単独覇権主義だった状況を、そのまま続けることはやがて破綻すると思ったために、その路線を変えるためにわざわざネオコンが、それを早めるようなやり方を担ったんだろうか。これは、普通に考えるとかなり無理がある「陰謀説」になる。もっといい方法もあったのではないかと感じるからだ。それでもなお、そのような主張に見えるようなことを語るのは、何か理由があるのだろうか。

多極的なシステムを作ることは、アメリカの中道派にとっては経済的に重要なことだったらしい。それは、アメリカ以外にも、経済的に活性化する拠点を作って、アメリカの経済の発展をより大きくする効果があると思われるからだ。アメリカ一国だけが繁栄すればいいと言うのは、論理的に成り立たないのだ。全体の底上げが出来なければアメリカでさえもやがては衰退する。日本のプロ野球を見ていると、巨人だけが繁栄するという形がいま破綻するのを見るような気がするので、アメリカの中道派のこの考えは正しいと僕は思う。

そして、そのためにこそこの陰謀が企てられたと田中さんは考えているようだ。次の部分を引用しよう。

「ネオコンは、人権重視の単独覇権主義というタカ派の方針を踏襲したふりをしつつ、実際は人権を無視し、国際協調を壊して身勝手な外交を展開することによって、タカ派のふりをしてタカ派の作戦を潰したのだと思われる。イラク占領の泥沼化を機にアメリカは威信を失い、中道派が目指してきた多極型の世界が生まれつつある。」

このことを直接証明できる事実を田中さんはまだ提出していない。それはまだ見つかっていないので、これは「仮説」の段階にあると言っていいだろう。しかし、そういった事実は、これからどのようなものに注目していけば見えてくるのかを田中さんは語っている。

長くなったので一部をコメントの方に移す。





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最終更新日  2004.07.02 09:40:33
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