真理を求めて

真理を求めて

2004.07.04
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民主主義制度の一つの特徴である「多数決原理」について、僕の尊敬する板倉さんは、最後の奴隷制というような表現を使っていた。多数決というのは形式的には、何か物事を決定するときに、それが意見が分かれるようなときは、多数の意見に従う決定をするということを意味する。いくつかの選択肢から、何か一つを決定するときに、もっとも賛成した人間が多いものを選ぶというのが、民主主義的な多数決の考え方だ。

そして、その多数決で決定したことがある種の「拘束力」を持つと考えるのが「多数決原理」である。たとえ多数決で反対意見に投票したものでも、多数決で決定したことに対しては従わなければならないと言うものが多数決「原理」なのである。たとえ反対であっても、その意志に反して決定を押しつけるというのを、板倉さんは「奴隷制」だととらえた。

板倉さんの「奴隷制」だという考え方に違和感を感じる人もいるだろう。「みんなで決定したものはみんなで従う」ということは、民主主義の時代に生きている人はほとんど疑いを持っていない考え方だからではないかと僕には感じる。しかし、板倉さんのようにこの考えに疑問を提出する人もいる。そして、前に紹介した牧さんもこの「多数決原理」に違和感を持っている人だ。

この「多数決原理」がいかなる場合でも間違っていると、牧さんが主張しているのではない。これは板倉さんも同じだ。「多数決原理」が正しい場合もあるだろう。「多数決原理」で物事を進めなければ困る場合もあるだろう。しかし、ある場合には「多数決原理」が事態を阻害し、失敗をもたらすこともある。その失敗を正しく認識して、「多数決原理」が通用しない場合・条件をつかむことによって、物事をもっと深く・正しく認識したいと考えるわけだ。

そんなことを牧さんの「運動論いろは」から学びたいと思う。ここでは、

「反対のことは せず させず」

と語って、「多数決原理」を否定している。それは次のような失敗を教訓としている。

運動において「多数決原理」に従うのは、少数派にとってはひどい押しつけと感じるものになる。しかしそれでもなお決定に従わせようとすると、「そんなこと一緒にやらされるくらいなら、俺たちは別の組織を作って、俺たちの思うように運動をする、ということに必ずなる」と牧さんは主張している。「多数決原理」は運動を分裂させてしまう方向に働く。

牧さんは、運動を遂行するときに限っては、「多数決原理」はその運動の阻害になり、運動を分裂に導くだけだと主張する。だからこそ、運動においては「多数決原理」は間違いだという主張になる。運動を進める人間は、その運動に賛成する人間だけでいいというのなら、どんどん分裂しても多数決原理を押しつけていけばいいだろう。しかし、そうして運動がどんどん小さくなっていけば、運動は大衆的支持を失い、その目標が実現されることはなくなるだろう。運動は、大衆的支持を得るという手段を用いて展開しなければならない。この大衆的支持を得るには、「多数決原理」を押しつけてはならないのである。



「そもそも多数を取ったからといって、その意見なり方針なりが運動を成功させるかどうかはわかりゃしない。多数を取ったって、その方針が正しいかどうかは、その方針に従って運動をやってみた結果、すなわち実験の結果が出なきゃわかりゃしません。その実験をやる前には、少数意見も多数意見も両方とも等しい価値しか持っていない。」

つまり、方針というのは「仮説」に過ぎないんだから、反対する人がいて当然だと考えるわけだ。それは解釈に過ぎないんだから、観点が違う人は違う解釈をするに決まっている。正しさが証明されて「真理」になるのであれば、それを理解できないのは、理解できない方が悪いと言うことになるが、「真理」になる前であれば、どう解釈しようとそれは自由である。

なお逆に、結果が出て運動が失敗したにもかかわらず、今度はその結果を解釈して、「仮説」である方針の間違いを認めない人間もいる。方針が間違っていたのではなく、妨害するヤツがいたとか、情勢が悪かったとか解釈をするヤツがいるが、こういうヤツは、方針を立てるときにそれを見抜けなかった自らの不明が証明されたと言うことが分かっていないのである。運動においては、結果は解釈してはいけない。解釈するのは方針という「仮説」である。

反対する権利を持っている人に対して、方針が正しいかどうかの実験をやらせるというのは非常にまずいと牧さんは主張している。これは頷ける指摘だ。反対しているのだから、運動の成功に疑いを持って動かなければならないことになる。こういう人間が、成功に向かって熱心に活動をするとは思えない。熱心さがなくても成功がもたらされるほど、簡単なものが運動としてなされることがあるだろうか。「本気にならずに(なれずに)やってうまくいくほど運動というものは甘かありません。」と牧さんは書いている。

こういう風に論理的に考えて(解釈して)も、運動において「多数決原理」を押しつけることは、失敗をもたらすとしか思えない。牧さんは、このことを次のように語っている。

「--よく、運動がうまく進まない、うまくいかないのは、日本に近代が確立していないためだ。近代的な個=市民が確立していないからだといった議論がなされたりします。そういう議論に対しては私は「冗談じゃない」と。「運動がうまくいかないのは、運動が参加者個々の自主性を抑圧し、ひどい押しつけをしているからなんだ」と言うんです。」

僕もそう思う。僕はそれほど多くの運動に参加したわけではないけれど、運動というのは、崩壊した社会主義の国の国民はこのように感じただろうというような、主体性の抑圧を感じながら活動する種類の運動ばかりだった。そういう意味では、古い時代の左翼運動は僕は嫌いだ。「多数決原理」という奴隷制がそこにはあるからだ。

牧さんの言葉に僕が共感するのは、僕が、運動における「多数決原理」を、牧さんと同じように認識しているからだからだと思う。そういう経験があるから、牧さんが言うことがよく分かる。

しかし、牧さんは、「多数決原理」に反対するからといって、「押しつけ」にすべて反対するのではない。「多数決原理」がもたらす「押しつけ」は、「押しつけ」の中での特殊なものなのだ。「多数決原理」も、「運動における」という条件を付けた場合に間違いになるという認識だが、「押しつけ」についても、どんな条件の時に間違いになるかという発想でとらえている。こんな感じだ。

「押しつけといってもいろいろあります。で、押しつけられた当人、教育・授業においては生徒--その生徒が押しつけだと感じないようなことはどんどん押しつけちゃってかまわない。そういう押しつけはかまわない。効率もいい。しかし、生徒が「これは押しつけだ」と感じるような押しつけはやっちゃーならん。これが原則です。」

実に明快な論理だ。相手の主体性というものが判断の基準であり、主体性を抑圧するような押しつけはやらない、しかし主体性の制限だと感じないような押しつけなら、本人が押しつけだと感じないのだから押しつけてもいいという考えだ。教師というのは、自分の考えが、どの種類の「押しつけ」になっているかという判断を直ちに行うセンスを磨かなければならないだろう。それが教師の資質の一つだと思う。



この「押しつけ」を排除するためにも、運動においては「多数決原理」はやめようと牧さんは提案する。しかしそうすると、いつでも「そんなことやって運動が成り立つものか」という反論に会うことになる。日本の古い運動の中で過ごした人には、決めたことを押しつけないと人は動かないと思っている人が多い。

しかし、決められたことに対して行動しない人間の方が多いと言うことは、実は多数決の結果の方が間違いだという認識をしなければいけないんじゃないかと思う。嫌々賛成する人が多くなる多数決などは、主体性を持った人が、自分の意見を選んで決定した多数決ではないのである。人に行動を押しつけるのではなく、多数決の方を否定すべきだという方が論理的だろう。

牧さんは、六価クロム禍公害反対運動の例を挙げて、この「多数決原理」を否定した運動の成功例を語っている。この成功例を理解した人は、運動において「多数決原理」を否定する方が正しいという確信を持つことだろう。しかし、文章があまりにも長くなってしまったので、この具体例は今度紹介することにしよう。





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最終更新日  2004.07.04 07:35:32
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