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2011年02月26日
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カテゴリ: 加藤周一
「丁丑公論」の「緒言」は次のように始まる。


 近来日本の景況を察するに、文明の虚説に欺かれて抵抗の精神は次第に衰頽するがごとし。いやしくも憂国の士はこれを救ふの術を求めざる可らず。抵抗の法一様ならず、或いは文を以ってし、或いは武を以ってし、又或いは金を以ってする者あり。今、西郷は政府に抗するに武力を用ひたる者にて、余輩の考えとは少し趣を殊にする所あれども、結局その精神に至りては間然とすべきものなし」。


つまり、日本社会において「権力の偏重」が起きれば、必ず「抵抗の精神」が起きるのだ、このチェックアンドバランスが大切だと福澤はいっているわけです。
福澤は西郷の武力による抵抗の仕方には異論があったようなのですが、それについてはここでは解説しません。

ここで注意したいのは、暴力による抵抗の是非の一般理論でも、その1877年当時における歴史的な意味でもない。むしろ福澤をして「抵抗の精神」の必要を痛感せしむるに至った当時の状況そのものである。

「近来日本の景況を察するに、文明の虚説に欺かれて抵抗の精神は次第に衰頽するがごとし。」
この一句、今もし「文明」の語に換えるに「グローバリゼーション」の一語を以ってすれば、そのまま140年後の今日にも通用するだろう、と私には思われる。

現在の日本の状況は、小選挙区制施行より引かれた二大政党制の弊害いよいよ大きくなり、一方の政党である自民党の質問内容を見れば、基本政策はまた同じ。小沢一郎が四面楚歌の中に立ったのは、そういう状況のなかにおいてであった。渡辺治が民主党政権直後に分析したように、民主党には三つの立場がある。グローバリゼーションの推進を掲げる前原等のいまや民主党主流派、従来の自民党体質である地方利益を代表する小沢一郎の派閥、そして小泉政権の被害を背負った庶民の立場を代表して前回衆議院選挙で当選した新人議員たち。米国と利益を同じにする民主党主流派の議会内反対勢力を潰そうとするならば、先ずは米国の利益とは違う方向に行く小沢一郎を敲くに越したことはないだろう。ここを敲けば、新人議員の多くは機能不全に陥るか、こちらに寝返ざるを得ない。小沢一郎が反対勢力としての機能を失えば、政府の専制に対抗できるのは、おそらく共産党、社会党のみといって過言ではないだろう。ここを孤立化させれば、社会党は与党との提携を求める傾向がある。孤立化した共産党の「抵抗」は怖るべき者ではないだろう。

1877年に妥当した議論は、2011年にも通用するだろう。すなわち「政府の専制咎むべからず」しかし「これを放頓すれば際限あることなし」。ゆえに「抵抗」が必要だということである。議会制民主主義のわが国では国会内「抵抗」勢力の問題は重要である。しかし、問題はそれだけでない。

保守党政府の政策の内容は、国民の大多数の利益を反映していない。



もしそうであるならば、軍備拡張止むことなく、世界で一番危険な沖縄の基地を沖縄内でたらいまわしにするどころか、日米共同いよいよ増し、アジアの緊張を高めることは、おそらく平和を脅かし、国民の利益に反することだろう。また、グローバリゼーションの掛け声の下に進められてきた産業のあり方は、あきらかにこの国を住みにくくさせる。平均賃金は下がり、リストラの合法は野放し、住むに家なき人は若年層に広がり、TPPを待つまでもなくさらに食物の安全、医療保険、年金、自治財政の破壊は進んでいる。われわれはこれらの推進を巧妙な世論操作の元に注意をそらされてきた。他方、国の進路を定める政治上の決定は、いよいよ与党・大企業・官僚機構の上層部に集中する。一般大衆の「参加」の意識は、薄れざるをえない。しかも企業の中では、目的のわからぬ機械の、歯車のひとつとしてしか自分を感じることができない。人はパンのみにて生くるものに非ず。これでは自分自身に対して誇りを持つことはできないだろう。

国民の利益は必ずしも国民がはっきり意識するものではない。多数の利益と多数の意見との間には、くいちがいがある。そのくいちがいを狭めることが、世論の操作に抵抗することだろう。

その担い手は、大企業の内よりも、小企業の従業員や小売商、婦人層、あるいは派遣社員などの非正規労働者などから起こるとすれば起こるであろう。そのような抵抗の組織ほど、今日、日本の民主主義を救うために大切なものはない。一人ひとりの個人が、大衆の意見に従うばかりではなく、大衆の利益全体を見極めることが、急務の中の急務となる。

それこそが福澤の言う「一身独立して一国独立する」ということの中味だろう。

1877年に「丁丑公論」を作った福澤諭吉は、薩長土政府の専制に対する抵抗の精神を説いた。当時の日本は、議会もなく、強大な産業もなかった。140年後の今日、もし福澤をして世にあらしめたならば、何というであろうか。おそらく「官」に対する抵抗ばかりでなく、今や「官」と一体化した与党と大企業との専制に対する抵抗をといたことだろう。また抵抗の必要を、憲政の常道、武士の意地として強調するばかりだけでなく、内政外政両面にわたって今日の権力がゆるがせにしてきた日本国民の重大な利益の擁護を、当面の急務としたことであろう。

「丁丑公論」の福澤は、西郷が権力を握っても、軍国主義の危険はなかったろう、と論じた。そのとき日本の武装は、到底「征韓」の用に堪えるものではなかった。しかし現在、もし福澤が「公論」を書けば、専制に対する充分な抵抗の組織されぬ限り、反対政府側からではなく、政府側から、軍国主義の復活の怖れも大きいと論じたかもしれない。



‥‥‥以上の論文は、実は加藤周一氏の 「丁丑公論私記」(1970) の剽窃である。しかし、そのままの書き写したのではなく、2011年現在の情勢にあわせて変えた部分がある。よって、文章の責任は、私にあるのである。

なぜ、このようなことをしたのか。

大きく変えたところは二点。
「公明党の言論弾圧事件」を「小沢一郎の政治とカネの問題」に摩り替えた。

この一句、今もし「文明」の語に換えるに「グローバリゼーション」の一語を以ってすれば、そのまま140年後の今日にも通用するだろう、と私には思われる。
と、書いたところ、じつは「グローバリゼーション」のところには「GNP 」の文字が入っていた。

あとは、その変えた部分に従って現代状況の部分を変えただけで、文の構成そのものはほぼ加藤周一氏そのままである。ただし、そのまま写すにはブログとしてはあまりにも長い論文なので、三分の二ほど省略した。よって、公明党言論弾弾圧事件や現代情勢の部分は氏の論文のほうがはるかに詳しい。

なぜこのようなことをしたのか。

そのような大幅な変更があったにも拘らず、1970年当時の論文がそのまま現代にも通じるということを証明したかったからに他ならない。それが証明できたならば、当然、1970年におきたことは、1877年にも起き、2011年にもおきたことを証明するだろう。また、それぞれの年代での「抵抗の精神」のあり方が、まったく変化せずに、われわれに求められていることも、証明するだろうと思われたからである。



原文は 加藤周一自選集4(1967-1971) より採った。





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最終更新日  2011年02月26日 22時25分09秒
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