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2011年09月21日
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「新世界より」(下)貴志裕介 講談社
物語は後半になって、さらにスピードアップする。そして主人公たちの命を懸けた冒険があって、大きな悲劇があって、切ない真相があって、意外な(私にとっては想定内の)真相があって、静かな余韻を持って終る、つまりはエンタメなSF大叙事詩であった。

一応、この一千ページを超える小説の一番最後のセンテンスを書き記す。

この手記は、当初の予定通り、原本と複写二部をタイムカプセルに入れ、地中深く埋めることにする。そのほかに、ミノシロモドキにスキャンさせて、千年後に初めて公開できるような手段を講じるつもりだ。

わたしたちは、はたして変わることができたのだろうか。今から千年後に、あなたが、これを読んでいるとしたら、その答を知っていることだろう。
願わくば、その答えがイエスでありますように。

           245年12月1日。 渡辺早季

蛇足かもしれないが、最後に全人学級の壁には貼られていた標語を、ここに記しておきたい。

想像力こそが、すべてを変える。



ここにある「想像力」とは、本来は「呪力(超能力)をコントロールする力」ということを意味しているだろう。しかし、作者が言いたかったことは、おそらく別のことである。つまり「私がここまでの世界を想像力ひとつで作って見せた。ぜひみんなも続いておくれ」という意味なのだろう。「人は実現可能なことしか想像することはできない」と言ったのはマルクスだったか。

だから私は想像してみる。

早季はなにを変えようとしていたのか。
早季の世界では、日本はわずかに9つの小さな村しか残っていなかった。彼女はこの村通しの交流組織を作ろうとしていた。そしてその足かせになる遺伝子レベルまでに組み込んだ攻撃抑制と愧死機構(同属の人間を殺す気持ちも起こさないし、もし間違って殺してしまうと自分も死んでしまうという究極の殺人抑止機能)を捨てるという決断をしようとしていた。その結果、この1000年の間に起きた超能力者通しの支配関係と戦争の時代がまた起きるかもしれないということを覚悟しつつも、だ。小説を読んでいない人にはわかりにくいが、結局人間は自分たちの「生」に「鎖」をつけて生きていただけなのである。それはあらゆるところで矛盾を起こしていた。それが結局は、この小説の内容だった。

これを捨てることは非常に危険な賭けだ。しかし捨てることで、人類はどこへでもいける「自由」を持つことが出来る。つまらない「地球の支配」などには目もくれず、もしかしたら「宇宙開発」にやっと本格的に進出するかもしれない。

早季と覚はこのような言葉を交わす。
「ときどき、呪力は、人間に何の恩恵も与えなかったんじゃないかって、思うことがあるわ。サイコ・バスター入りの十字架を作った人間が書いていたみたいに、悪魔からの贈り物だったのかもしれないって」
「僕は、そうは思わない」
覚はきっぱりと首を振った。
「呪力は、宇宙の根源に迫る神の力なんだよ。人間は、長い進化を経た末に、ようやく、この高みに達したんだ。最初は、確かに身の丈にそぐわない力だったかもしれない。でも、最近になって、やっと、この力と共存できるようになってきたんだ」


この二人の会話は象徴的である。



この「力」は、きちんとコントロールさえすれば、たった一人で全地球を賄うくらいのエネルギーが出るので、エネルギー問題は解決だ、しかし、原発の安全神話が嘘っぱちだったように、「この高みに達した」かどうかはよっぽど疑ってかからねばならない。いや、「指輪物語」のように、それを棄てる「知恵」も持たなくてはならないのかもしれない。その覚悟を持つことが、が3.11以降の「人類の義務」だと思う。

わたしたちは、はたして変わることができたのだろうか。今から千年後に、あなたが、これを読んでいるとしたら、その答を知っていることだろう。
願わくば、その答えがイエスでありますように。





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最終更新日  2011年09月21日 22時11分36秒
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