再出発日記

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2013年11月24日
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テーマ: 本日の1冊(3795)




死の10日前に教え子に出した手紙には「私の惨めな失敗は、まだまだ慢心という気分が残っていたため」と深く反省して書いている。
9月17日から19日までは、花巻の氏神の祭りで、この年は津波はあったが大変な豊作で、天気も良かったので町には山車も沢山通っていた。最後の祭りの晩には、賢治も門の前に出て御輿の渡御をおがみ、その後で肥料の相談にきた農家の人と長く話しこんでいたが、そのためか次の日はひどい熱が出たのである。
あまり苦しそうなので、私はその晩二階の兄のそばで寝むことにしたのだが「こんやの電燈は暗いなあ」と言ったり、「この原稿はみなおまえにやるから、もし小さな本屋からでも出したいところがあったら発表してもいい」と言ったり、悲しいことを話したのであった。
翌日の21日の昼ちかく、二階で「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」という高い兄の声がするので、家中の人たちが驚いて二階に集まると、喀血して顔は青ざめていたが合掌して御題目をとなえていた。
父は「遺言することはないか」と言い、賢治は方言で「国訳妙法蓮華経を一千部おつくりください。表紙は朱色、校正は北向氏、お経のうしろには「私の生涯の仕事はこの経をあなたのお手もとに届け、そしてその中にある仏意にふれて、あなたが無上道に入られますことを」ということを書いて知己の方々にあげてください」と言った。
父はその通りに紙に書いてそれを読んで聞かせてから「おまえも大した偉いものだ。あとはなにも言うことはないか」と聞き、兄は「あとはまた起きてから書きます」と言ってから、私どもの方をむいて「おれもとうとうお父さんにほめられた」とうれしそうに笑ったのであった。
それからすこし水を呑み、からだ中を自分でオキシフルをつけた脱脂綿でふいて、その綿をぽろっと落としたときには、息をひきとっていた。9月21日午後1時30分であった。(初出1969「宮澤賢治全集」別巻)


ふと賢治の今際の際の言葉が気になって、久しぶりに弟さんの「兄のトランク」を紐解いてみた。私の生涯に大きな影響を与えた小学校の時のクリスマスプレゼント「伝記宮沢賢治」では、最期の時にお父さんに法華経を配ることを頼んだあとに「ほかに無いか」と聞かれて「(原稿については)あれは私の迷いの産物ですから、処分はお任せします」と述べたことになっていた。そのことを思い出したのである。私がいますぐに死ぬとしたなら、おそらく書物にしたならどんなに頑張っても1000ページは超えるであろう、このブログの中味を「私の迷いの産物ですからちゃっちゃと消してください」と言えるだろうか。と考えたのである。賢治の作品群は、そうは言っても幾つかは出版を考えたモノがたくさん残っていた。客観的には日本文学の宝物であるが、賢治の主観的にも思い入れのあるモノであったことは間違いないのである。それであるにも関わらず、賢治は死ぬ間際に「捨ててくれ」と言ったのだ。と、私はずっと信じていた。

ところが、この本を読むと清六さんに遠慮がちながら、出版を頼んでいたのである。私が伝記を読んだのは1970年ごろ。この略伝のホントの初出は1964年とある。その後1979年版は加筆したそうだから、最初の時には違うように書いていたかもしれない。しかし、ちょっとホッとした。

でも、このブログの中味、放って置いたら消されるのは明らかであるが、果たしてそれでいいのかは一度考えなければならない。客観的には「迷いの産物ですから」になるのは明らかである。

賢治の最期は、しかし「大した偉いもの」だった。こういう死に方を、私もしたい。

久しぶりに清六さんの文章を読んだ。文章は決して大気圏を飛び出さない。地に足のついたかっちりとした文を書く。1990年代の初め、岩手県を旅した時に、私は賢治の生家の玄関を写真に撮っていた。その時にちょうど玄関に現れて一言ふた言交わしたのが、清六さんだった。岡山から来たのだ、と言うと玄関の写真を撮ることを許してくれた。それ以上は緊張して何も喋れなかった。背が真っ直ぐで大きな男性だった。その後数年後に亡くなったのである。思えば、あの玄関先に9月19日賢治が病を押して御輿を観に出たのだ。家の前に小川が流れていた。

この本で、清六さんはイギリス海岸に想いを馳せていろいろ書いている。200万年前の新第三紀の泥岩層で、賢治の頃には100万年以前には絶対人類はいなかったと信じられていたし、恐竜の証拠もなかった。しかし賢治は詩の中で「尖れるくるみ 巨獣のあの痕/磐うちわたるわが影を」などと描いていたらしい。そのあと、巨獣「ハナイズミモリウシ」や「ワカトクナガ象」や「キンリュウ大角鹿」などの化石が見つかったのだという。「どうして今後、イギリス海岸付近からも先行人類や巨獣の骨が見つからないと断言できようか」と清六さんは書いていた。まさに「あまちゃん」で出て来たように、恐竜の化石はその近くから出て来たのである。今後賢治や清六さんの予言通り、人類の骨が出て来ても決しておかしくはない。実際、清六さんはイギリス海岸でくるみの化石を50個も見つけたらしい。その時代の人類はパラントロプスだったらしい。清六さんは菜食の人類だったと考えている。そしてやがて、オーストラロピテクスという肉食人類に追われた、と考えている。まるで賢治のように。
2013年11月13日読了





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最終更新日  2013年11月24日 13時22分44秒
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