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2013年11月23日
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テーマ: 本日の1冊(3687)

「獣の奏者外伝 刹那」上橋菜穂子 講談社文庫

恋をしたとかなんとかは親の身勝手にすぎない。生まれてくる子の幸せを考えるなら、エリンのような立場にある者は、親になどになってはいけないのだ、と。
皿の底に残った透明な汁をすくいながら、わたしは小さくため息をついた。
(そう考える人には‥‥)
エリンの気持ちはけっしてわかるまい。
あの子はよしとしなかったのだ。ー飼われた王獣のように、去勢された生を生きることを。国政に押しつぶされ、生き物としてあたりまえに生きることをあきらめる‥‥そういうことを、よしとしなかったのだ。
それでも、心を支えているのがそういう「思想」だけだったなら、彼女は子を産もうとは思わなかっただろう。ー惨い仕打ちを受ける母を見なければならないことが、子どもにとってどんなことか、彼女は誰よりもよく知っているのだから。
それでもなお、エリンが子どもを産む気になったのは、彼女の心のもっと深いところで、これまでの暮らしを幸せだったと感じているからなのだ。
‥‥生まれてきて、よかった。
ジェシに乳をやりながら、エリンがそうつぶやいたことがある。(274p)


上橋菜穂子の作品を読んでいると、架空の物語の中の話というよりも、人類史の中で女性の思ってきた想いを代弁しているという気が時々する。共同体の中で、産むということに制限をかけられた無数の女性たちの、それでも産むことを決意する女性たちの代弁者である。(単なるストーリーテラーとしてではなく)女性の産むという行為を根源の処で描こうとするのは、彼女の出身が人類学者だったことと無関係ではないだろう。

「獣の奏者」本伝は、「人類は自然への介入をどこまで為すことができるのか」という壮大なテーマを扱って見事に完結した。その一方で外伝は、女性の人生と性を扱ってブレがなかった。

そのとき、父が言った言葉は、いまも胸に深く刻まれている。
ー雌雄が交わって実を結び、次代を育む花もあれば、自身が養分をしっかり蓄えて根を伸ばし、その根から芽を伸ばして、また美しい花を咲かせる植物もあるのだ。(364p)


若い時の恋を封印し一生独身を通したエサル師を、著者はそのように励ます。それもまた、人類史的な励ましである。そしてまた、私をも励ましてくれた。

2013年11月10日読了





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最終更新日  2013年11月23日 10時23分30秒
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