書評/五味一男「視聴率男の発想術」
4点/5点
日本テレビにて「クイズ世界はショーバイショーバイ」「マジカル頭脳パワー」「投稿!特ホウ王国」「速報歌の大テン!」「エンタの神様」などをヒットさせてきた方の著作。
そんな高視聴率番組の高率ヒットメーカーが最初に述べるヒットを生み出すための肝心な要素は「 まずは、世の中でいちばん多い、いわゆる普通の人のことをよく理解しておく」 (p55)こと。
そして奇をてらうのではなく「 どこまでも理詰めで考えたヒット番組づくりの理論を自分に持っているからこそ、多くのヒット番組を生み出す結果につながった 」(p58)と述べている。つまり「はずさない」ことを意識しているのだ。
その五味氏なりに考えた理論についてこの本で述べているのだが、実践にはかなりの「努力」がいるということ。
「TV界でも出来ている人は少ないのではないか」と五味氏は指摘する。
根性論を否定 し、努力家から程遠い私ですが、少しの意識変化にて五味氏に少しだけ近づけそうなのは次のような事でしょうか。
マニアックな自分自身というものをそこに温存しながらも、この「普通の人」の人格を作っていくことが重要なのである。
それをマーケット的な文脈で言うのならば、流行のものも好き嫌いなく受け入れられる自分を形成することだと思う。 (p87)
例えば世の中ではやっていれば「ルイ・ヴィトンっていいじゃん」と思えたり、キムタクの良さが分かる自分を素直に作っていくことが大事。
さて、私が最も気になるったのは「論理」やその「方法論」よりももっと根本にある話。
私は映画監督や作家と違って、テレビを使って自分自身の考え方などを表現しようと思ったことなど1度もない。私はテレビというサービス業のプロとして幅広い人々に楽しんでもらおうと思っているだけだ。 (p66)
つまり「自分の好きなことをやれば必ずヒットするというのは間違い」というのが私の基本姿勢だ。 (p106)
自分の好き嫌いや個人的な趣味・嗜好は別として━考えていくのが私のやるべきことであり (p139)
これらの考え方に共通するのは「徹底的なお客様目線」なのだと思います。
きっと90%以上の仕事はこのようなスタンスでやらないといけない。
残り10%の「自分の好きなこと」をかなり優先できる(可能性のある)職業は「芸術家」「学者」などかなり限られた世界だと思います。
特にTVや興業などは「お客様が楽しんでくれるかどうか(良いと思ってくれるかどうか)」を特に重視しないといけません。
私は野球を見ません。
しかし以前、新庄選手がかなりそのパフォーマンスから野球ファンから人気を得ていました。
新庄選手の成績が野球史に輝く程立派なものなのかは私には分かりませんが、ファンを大いに喜ばせたという意味ではプロとしての仕事をしていたのでしょう。
元選手にはそのパフォーマンスに疑問を呈していた方がいたのですがそれはどうでしょうか?
野球本体(の成績?)からかけ離れているように見えてその人には許せなかったのかもしれませんが、プロ野球は別に自己満足のためにある訳ではない事を考えないといけないと思います。
要は他人さまからお金や時間をとって商業として成り立っている訳で、自己実現の場でも社会的道徳を実行する場でもありません。
限度問題もあるでしょうけど(昔のボクシング・亀田兄弟はやりすぎでしょうけど)、基本的には人々が喜んでくれるかどうかが基本となります。
新庄選手を批判する人は新庄選手を応援している人たちを批判していることになります。
それは「俺は本格料理を作っているのにうちの店はガラガラだ。隣の店の料理は邪道なのにいつも満席だ。客はおかしい」と言っているのと同じです。お客様にしたら「そんなお前の想いは知らん」という話です。
野村監督のつぶやきもかなりの意味でファンサービスでしょう。野村監督が敵視(ネタの部分が多分にあるのでしょうが)している長嶋監督もかなりファンが喜ぶかどうかを野村監督とは違う視点でしょうが意識していたように見えます。
こういう意識を持てるかどうかが「プロフェッショナル」か否かを分けるポイントの1つなのでしょう。
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