サイゴンから来た妻

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2024.06.08
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カテゴリ: 思ったこと
唐突ですが、私は文書を書くのが苦手です。
正確に言いますと、文書の手書きが苦手です。
(唐突と言いつつ過去に書いたような気がしますが)

それは字が絶望的に汚いからです。自分で書いた文字を見て嫌になるほどです。
丁寧に書こうとしないからだと小学生の頃からよく言われました。
しかし丁寧に書こうとしても、紙に現れるのはミミズののたくったような文字。
習字教室に通わされましたが、効果はありませんでした。

習字で金賞を取ったこともあります。
しかしそれは字がきれいになったからではありません。


普段の手書き文字には全く反映されませんでした。
せめて他人が読める文字を書こうとすると、それだけでも時間がかかるし、書き直しにも時間を取られます。
ということで、高校生くらいまでは文書を書くことが嫌いでした。
当然年賀状を書くこともどんどん少なくなりました。
友人などは年齢相応に文字が上手くなっていくのに、私は全く上達しませんから、手書き文字をさらすことが恥ずかしくなったのです。

学生時代のノートも、他人のを貸してもらうことがあっても、貸すことは滅多にありませんでした。
本人でも解読できない殴り書きだからです。
小学生、中学生の頃はノートの提出がありましたが、先生達がどのような感想を持ったのかは、小学生時代の通知表でわかります。

”字を丁寧に書きましょう”

というような意味合いの言葉がいつも書かれていました。
いや、丁寧に書いても同じようなものだから。


進路選択にも影響しました。
私はどうやら文系に向いていると感じていました。
しかし高校受験時には使っていた、難しい漢字はひらがなで書くという技が、大学入試では不利になります。
全部マークシートなら良かったのですが。
となると、難しい漢字を覚えるのは良いのですが、書くと暗号になりますので時間をかけてせめて読めるようにしなくてはなりません。


それならば理系です。
数式の羅列は漢字の羅列よりも読みやすく書くことができます。
そして、理系の中でも工学部なら最も就職に有利。
機械工学科なら潰しが効く。
理系一択の選択となりました。

そしてめでたく志望校の工学部機械工学科に入学することができました。
(一浪したのですが、当時は一浪当たり前だったのですという言い訳。でも予備校に入るにも試験があった時代なのです。)

その後は下手くそな字を使いつつも、順調に単位を取得していきました。
専門課程が徐々に入ってきましたが、それも数式の世界なので、読める文字を書けました。
それでもレポートという強敵はありました。
しかし長大な文章を要求されるものではなく、辟易しながらも読める文字を書いてこなしていくことが出来ました。

つまり順調な大学生活でした。
余裕で卒業と思っていました。
ですがそこに登場したのが製図。

そう、 ​”製図”​ ​​​ ​​

です。私にとってはラスボスの登場でした。

斜めに傾いた机に縦横の定規みたいなのがついた、アレを使って設計する実習です。
(製図で検索すれば、いくらでも出てきます)
ちなみにこれの単位を取得しないと、卒業できません。
(機械工学科なので当たり前ですが)

私は絵心も壊滅的なのですが、それでも独創性を必要としない課題の図面は描くことができました。
ところが、創意工夫して設計しろという課題が与えられたとき、文字の汚さと絵心の無さが炸裂してしまいました。
思いついたことが図面にならない、記入した寸法などの数字が読みにくい。
描きなおしの連続でしたが、消しゴムで消したら汚れて真っ黒。

深夜までかかって提出した図面でした。
結局は優良可の中の良。
良ならまあまあと思う方がいるかもしれませんが、とにかく完成させて提出すれば単位を貰える中で、良というのは他の講義だったら可です。

とにかく字を書くと読めないし、絵も描けない。
何で機械工学科を選択したのか、今なら恐ろしくてできません。
微分積分と行列式主体の座学中心だった、当時のカリキュラムのおかげで卒業できました。

ということで結局設計に関する才能のなさを痛感して、私が卒業研究に選んだのはコンピュータを使用した構造解析の分野となりました。

この卒業研究では、存分に大学の研究というものを楽しめることができました。
深夜12時まで研究室にいることが常態となりました。
別にブラック研究室というわけではありません。
翌朝12時に研究室に行っていましたので。

研究が楽しくて、研究室にいることが生活の中心でした。
そして研究の成果は全てワープロで報告。
手書きの必要がありませんでした。
手書き文書から解放されたこの一年間。
それまでの人生で一番のパフォーマンスを発揮できた気がします。

という一年間でしたが、それも終わりを迎えました。
卒業、そして就職です。
就職先はコンピュータメーカー。
思っていた通り、仕事で作成する文書はすでに手書きが無くなっていました。
ただしこれまで慣れ親しんだ一太郎ではなく、OASYSというコアファンが多くても特殊なソフトを使っていましたが。

まあそれでも手書きをする必要が無かったのは嬉しかったです。
私の5年先輩のレポートが手書きだったのには恐怖しましたが、それも過去の話です。

さて、就職してから手書きをする機会はホワイトボードとなりました。
これは会議で必須でしたので仕方がありません。
それでもホワイトボードに各文字はかつての習字のようなものでしたから、何とか読める文字を書けました。
決して上手なものではありませんでしたが。

そして過ぎた年月幾星霜(使い方合っていますかね)。
会議はオンラインばかりとなっています。
手書き文字の必要はありません。
どうやら私の時代がやってきたようです。

定年が見えてきてしまいましたが。

それはともかく、ここまで一度も触れてこなかった話題が一つあります。
それはその人の書く字を見ればひととなりが分かるというものです。
私は悪筆で人生半世紀悩んできました。
直そうと思っても直りませんでした。
私の字を見た人は、私は教養が無く極悪非道でもしかしたら犯罪者かも、と判断してしまうかもしれません。
しかしそのようなことはありません。少なくとも私は。多分。きっと。

今の時代、ほとんどの日本人は義務教育を受けています。
習字もあります。
その中でどうしても字がきれいに書けない人に対し、偏見を持って欲しくないと思います。

以上、頭に来るほど絵心があり、その上教室を開けそうなくらい達筆な実父についてむかつく息子からでした。



あと、今回の話とはあまり関係のない補足というか蛇足になりますが、今ならCADだから余裕じゃんという意見も出てくると思います。
確かに手書きが苦手だった私にとって、CADは福音です。
しかし、それで機械設計が出来ると思うのは甘い話。

様々な計算をした結果に基づいて表現されるのが図面です。
絵心がある方もそこはきちんと勉強してください。
余程の天才でない限り、俺の感覚ではこういう設計になる、とはならないです。



更に蛇足

二次元の表現が全く駄目な私ですが、何故か三次元だと人並を上回ることができました。
小学生の頃には図工の樹下で自分の生首を粘土で作る課題があったのですが、市の展示会にまで行きました。
中学生の頃は美術の成績は10段階評価で大体4でしたが(ペーパーテストでカバーした挙句です)、三次元の物を作るときだけ、それが9となりました。

そう言えば、小学生時の家庭科でも、縫物や刺繍は割と得意でした。
それらが2次元では全く発揮できません。

才能が全てじゃない、人間努力が必要だとよく言われます。
しかし才能の壁は厳しいものだと、自分自身は感じてきました。
結局は自分にどのような才能があるのかを見つけて伸ばすことが出来るような教育が、今の日本にはとても必要だと思います。
才能があり努力がすぐに結果に結びつくような事柄であれば、人間寝食を忘れるくらい集中できますので。



更に蛇足の蛇足

何でこんなに字が下手すぎるのか。絵が描けないのか。
父親は達筆かつ優秀な設計技師、母親も普通。
弟二人は下手だけどまあ読める。
私一人に下手くそ遺伝子が集中してしまったようです。

そのように歪な欠陥のある私ですが、何とか大過なく(休職はありましたが)サラリーマン生活を送ることができています。
いわゆる真面目に仕事をすることというのが、周囲(上下左右)からの信頼を獲得するためには重要。
残りそう長くないサラリーマン生活において心がけようと思っています。



更に更に更に蛇足

営業ノウハウで手書き文書の誠実さということが、ベストセラー本に書かれているようですが、そもそもそれが出来ない人から見ると、まるで役に立ちません。
私の手書き文書だと、お前舐めているだろう印象間違いなし。
というか、普通レベルの人でもそのような特別好意的な印象を持たれるのは難しいのではないでしょうか。
達筆な才能のある方の自慢話にしか思えません。
もちろん悪筆な私の僻みです。
そして妻が書く日本語の方が奇麗なのも、さらに私の僻みポイントを押し上げています。
最近妻は1万円近く使って、日本の漢字フラッシュカードを購入しました。
一級レベルまで頑張るつもりのようです。
もう妻に手書きの清書を全部お願いすることにします。





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Last updated  2024.06.09 07:34:40
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