中高年の生涯学習

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2017.04.09
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有名な本だけど、読まれてない本の典型だろう。ヘンリー・デイヴィッド・ソローの 「森の生活 」。読み続けることがむずかしい本である。第1章のタイトルは「経済」である。文学なのか経済書なのか、この第1章が延々と続く。第1章の半分くらいで、多くの人はギブアップである。有名な、というのは日本では、この本は 何種類も翻訳 があるのだ。図書館の文献一覧で調べてみると、

水島耕一郎訳「森林生活」文成社
佐渡谷重信訳「森の生活ウォールデン」講談社学術文庫
飯田実訳「森の生活ウォールデン」(上下)岩波文庫
真崎義弘訳「森の生活」宝島社
酒本雅之訳「ウォールデン」ちくま学芸文庫
今泉吉晴訳「ウォールデン森の生活」(上下)小学館文庫

一番入手しやすいのは 岩波文庫の飯田訳 であろう。お気づきだろうがタイトルが微妙に違う。原題は「Walden;or Life in the Woods]
である。主タイトルが「ウォールデン」、副タイトルが「森の生活」である。ちくま学芸文庫の酒本訳では副タイトルは「森で生きる」になっている。酒本は「あとがき」で、この問題を指摘している。「従来の邦訳ではほとんど「森の生活」という訳題が定着している。つまり副題のほうがなぜか選ばれてしまっているというわけだが、この作品が自然愛好者のいささか風変りな自然生活の記録として、少なくともわが国では読まれる傾きがあるのも、訳題のこのありようが微妙にかかわっているからではあるまいか」。読者は キャンプ生活のノウハウ を書いた本と勘違いして、この本を買ってしまう。読んでみて、ちっとも面白くない、むしろ思想書ではないか、と気づいて、先を読み続ける根気のある人と積ん読本にしてしまうかの分かれ目になってしまう。

NHKカルチャーラジオ「文学の世界」で「はじめてのソロー」と題して今年1月から、ソローの世界が紹介された。講師は伊藤詔子(しょうこ)さん(広島大学名誉教授)。ソローは1817年生まれなので、今年は 生誕200年 に当たる。つまり200年前のアメリカ文学になるのだ。ソローは1960年代の若者の反戦運動の中で「市民の不服従」が復活、ここでソローが再発見された。ソローは建国まもないアメリカのマサチューセッツのコンコードで生まれた。コンコードは東海岸のボストンの近くである。イギリスからピリグリム・ファーザーの上陸したプリマスは地図で見ると、ボストンの下に見える。1775年東部13のイギリス植民地が、本国からの課税、自治の禁止などから独立を求め 独立戦争 が起こる。イギリス軍を民兵が迎え撃ち、コンコードでイギリス軍を破り、戦端が開かれた。各地で激戦となったが、13の植民地はフィラデルフィアでの会議で統一、 1776年7月4日の独立宣言 で「連合せる13の州はアメリカとなる」という独立宣言でユナイテッド ステイツ オブ アメリカが生まれた。この独立宣言の思想がソローに反骨の人生を歩ませる。ソローはハーバード大学に進学。ハーバードから帰京後、志望していた教師の仕事は見つからず、土地測量、大工仕事などの日雇いで生活を立てた。家業の鉛筆製造を父から引き継ぎ、改良工夫して、上質の「ソロー鉛筆」を作り出した。建築ラッシュだった当時、この鉛筆は高く評価され需要は多かった。

1938年10月にコンコード・ライシーアムの書記になる。 ライシーアムは公民館活動に類する啓蒙団体 で、講演することが主な仕事で、この講演草稿が作品となっていった。作家として仕事を始めたのは、1849年の「コンコード川とメリマック川」という長編を出版した。

1845年の春、ウォールデン湖畔に3メートル四方の家を建て始めた。

ここでの思索と生活が「森の生活」という作品になった。1854年ボストンの出版社によって出された。経済の章には次のような文章がある。「たいていのひとは、比較的自由なこの国に住みながら、単なる無知と誤解から、しなくてもいい心配や余計な重労働にわずらわされて、 人生のすばらしい果実 を摘み取ることができないでいる」。第二次産業革命により、機械化されたアメリカの生活は豊かになっていたが、コンコードのような田園地帯では借金をしたり、田畑の維持のために耕運機を購入したりであくせくした生活を送っていた。こういう生活を見直す必要をソローは説き始める。まるで 牧師の説教のような講演内容 だった。「贅沢な生活からは贅沢という果実しか生まれはしない。哲学者は、生活の外観においても時代に先んじているものである。ひとは哲学者でありながら、他人よりもすぐれた方法で生命の熱を維持できないなどということがあり得ようか?」。衣服、家、家を建てる、建築、パン、というテーマで、これでいいのかと問いかけ、あるべき経済について論じていく。

ウォールデン湖畔での自然観察、そこでの孤独の意味、読書について、一人暮らしの意味、湖畔に訪れる動物との交流とテーマは次々と広がっていく。じっくり読んでいくと 考察に裏付けられた警句 が散りばめられているのに気づく。「より高い法則」という章には、次のような文章がある。「私が自然と親交を結ぶようになったのも、おそらく子供のころ、釣りや狩りをしたからであろう。(略)漁夫や猟師やきこりなど、野や森で一生を送るひとびとは、特殊な意味からいえば彼ら自身「自然」の一部だから、期待感をもって「自然」に接する哲学者や、さらには詩人などよりも、仕事の合間には「自然」を観察するのにふさわしい気分になっているのだ。「自然」のほうでも、そういうひとたちには恐れることなく自分をさらけ出す。(略)単に旅をしているだけの人間は、 ものごとを間接的に生かじりに学ぶだけで、ほんとうの権威者にはなれない
旅をしてちらっと自然に触れるだけでは、自然はわからない、という意味だろう。これは一般法則だろう。物事にズボッとはまるぐらいに打ち込まなければ、そのものの本質はわからない、ということだろう。 真の生活とは何かが ソローの表現したいテーマだ。学者によって、この作品はネイチャーライティングというジャンル名が付けられている。岩波文庫の翻訳者の飯田実は、この作品はネイチャーライティングという枠組みのなかでは捉えられない複雑多岐な内容をもっていると書いている。日本のネイチャーライティングには鴨長明の「方丈記」がある。方丈は3メートル四方で、ソローの家と同じ大きさである。思想も非常に似ている。簡素な生活、贅沢の愚を主張する。

この本は読むのは大変であるが、人生を作っていく上に血肉を与えてくれる一文に出会う可能性が高い。適当なところを開いて時間のある限り読んでみるというスタンスでいい。初めから順に読む必要はない。気になる一文にぶつかったら、自分の場合はどうかと考えてみる。生活、自然、環境、周囲の人々との付き合い、多様な内容なので、初めからすべてを理解しようと思わないことだ。






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最終更新日  2020.06.03 10:31:33
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