個人的今年のベスト3に入るアルバムです。 Jens Lekman「Songs For Other People’s Weddings」。 これをタワレコの試聴機で聴いた瞬間、突然目の奥がじわっと熱くなり、本気で狼狽えました。そして思い出しました、私は彼の新譜を初めて聴くと、たいてい、泣きそうになってたことを。
冒頭の「The First Love Song」~「A Tuxedo Sewn For Two」の流れはここ数年聴いたアルバムの中でも最も美しくパーフェクト。決してスポットライトの当たることがないウェディング・シンガーという立場へのちょっとだけビターな思いをにじませながらも、「愛は暴力的なまでにシンプルだ」と呟く。多くのセレモニーに立ち会ってきた経験から言える言葉です。
「A Tuxedo Sewn For Two」がね、本当にスウィートで涙が出そうになるんです。腕が二つ、脚が三つのどでかいタキシードを二人で着て一人になってる新郎と新郎のお話。キテレツな装いなんだけど、トイレで四苦八苦する彼らに遭遇したJが、彼らを温かく見守るっていう、そんな話です。
「With You I Can Hear My Own Voice」が泣きそうになるほど切なくて甘くてどうしようもないです。ストリングスが入るのでドラマティックな展開に拍車がかかるんですが、もちろんそれ以上にメロディが良すぎる。絶対に甘いだけじゃない、どこかにキュッとするような切なさとか痛みが顔を覗かせてる。でも、きみとなら自分の心に向き合える、心の声を聞くことができると歌い上げるJがたまらなくいい男です。
ただ、歌詞を拾い読みできる範囲で読んでいくと、「I Want To Want You Again」のあたりから、JとVの間にはだんだんとひんやりとした空気が漂い始めます。たぶんVはアメリカにいて、Jはスウェーデンが母国で、各国を飛び回るウェディング・シンガー。一緒にいられないことへのフラストレーションがVの方でどんどん溜まっていって、JはJで彼女を想う気持ちはあるのに、ウェディング・シンガーをやめれば自分の創作活動もできなくなるとわかっているので、そばにいてあげられない。すれ違うことしかできない二人が曲の中でも曲間でも想像できるので、胸が痛くなってきます。 そして「Increasinly Obsolete」で、かつての自分たちがずっとあのころに置いてけぼりで、ver1.0から何も変わっていないと悲しげに歌うJ。メロディが美しいがゆえに余計に辛く感じるんですよ。 Jensの声ってすごく低いところから驚くほど高いとこまで、音域が広くて。私は甘く高い声も好きですが、彼の真骨頂は低く朗々と響かせる声だと思っているので、この曲の出だしの低い声は、ツボです。
「One A Pier, On The Hudson」で、二人の間には何か決定的な亀裂が生じます。 「愛してるって言って欲しい、人生にはやっぱりきみが必要だって言ってくれ」って思っているのに、最後に彼らの胸に浮かんだのは「きみと前に進むことはできない、きみに言えるのはもうそれだけ」。 それから、VのJへのメッセージソング「You Have One New Message」の痛切な響きに、胸が痛みます。「留守電だからちゃんと言える、もう私たちは続けられないの。折り返しはして来ないでね、もうこの電話番号は使えなくなってるから」と。Vの気持ちは女性シンガーが歌っているんですが、途切れ途切れのか細い歌声が、辛すぎる。美しいがゆえに辛さが倍増です。
「Just For One Moment」は、1曲目の「The First Love Song」と同じイントロなんですが、まったく別の物悲しさを感じさせる始まりです。 スウェーデンに戻ったJが、ある日パブで友達と飲んでいるときに流れた曲を聴いて、「これめっちゃ好きだよ」と言うと、友達が笑って「これ、お前の曲だろ」と。そんなこともわからないほど、長くその存在を忘れていた彼ですが、お客さんがその曲に感動して抱き合うさまを見ていて、「俺、めちゃくちゃ天才だったのか…?」と少し嬉しくなります。Vとの別離でずっと重苦しいものを胸に抱えていた彼が、ようやく顔を挙げられた瞬間だったのかな。 とはいえ、Jは自分の歌に感動しているお客さんたちを羨ましく思います。なぜなら、シンガーソングライター自身はそんな経験ができないから。歌を聴いて感動するという経験は、聴き手にしか味わえない。結局、そうした経験はフェンスの向こう側にあるようなものだけれど…と思いながら、彼はふとVのことを思い出します。 人間にとっての呪いは、他人が自分をどう思っているのか決して知ることが叶わないということ。この間たまたま目にした(たぶんSNS?)Vは、髪型もジャケットも変えて、でも幸せそうに笑っていた。自分は彼女の中に何かを残せたのだろうか?もしそれが一瞬だけでも愛と呼べるものであったなら、もうそれだけで十分だ、と。