24階のミミック

24階のミミック

2012.02.25
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 うちの泰くん、もう4月から4年生というのに、さっぱり頼れるかんじがしない。

 土地の名前や道の名前もよく覚えていて、父もよく兄を頼りにして二人で地図をみて話し合ったりしている姿の印象が強かったので、男の子って自然とそうなるものかと思っていた。

 しかしうちの子はそうではないらしい。
 とくに、泰くんはまったくそういうことに興味がない。のほほーんと車にのって座席にひっくり返り、お菓子を食べたり颯ちゃんをかまったりしているだけで、何回教えてもちっとも道の名前を覚えない。せめて自分ちの近くの幹線道路くらい覚えりゃいいのに、話にならない。

 そんなわけで、3年生にもなって、お友達の家を聞いても地名がわからないから出かけていけず、地図を見せても覚えてられず、勝手にでかけりゃ迷子になって半泣きで帰ってくる。電車もバスもまったく乗れない、歩けない、下手すりゃ自分の住んでる町の名前もよくわかってない。

 これは、まずいよ。まずい。本当にやばい。

 いくらなんでも、ひどすぎる。3年生ってみんなこのレベルなの? うちの兄が特別だったの? と思ったら、全然そうじゃないらしい。
 すごい子なんか、幼稚園のときに、バスに乗ったり自分ちの車に乗って外を見ているだけで道を覚えてしまい、車で20分かかる道のりを一人で1時間以上かけて歩いて帰ってきちゃったツワモノがいる。まあ、そこまですごくなくても、大概の三年生はきちんと幹線道路くらいは覚えていて、自分で自転車に乗って駅に行ったり、友達に会いにいったりするくらいはできるわけよ。



 それで、泰を鍛えるため、今回、デパートのある大きな町へ行くのに、普段車でいくところをわざわざ電車で買い物に行くことにし、それに泰をつきあわせることにした。

 ママと二人でおでかけ、というのはあまりないことなので、うきうきする泰くん。
 こういうところはかわいいヤツよ。
 しかし、今回は試練なのだ! ママ、出かける前に泰くんに宣言しました。

 今回は、泰くんのおつかい練習だからね。まず、自転車で駅までいくよ。道は一度で覚えてね。それから、切符を自分で買って、電車に乗ります。行き先は言うけど、自分で乗る電車をみつけて、ママを連れて行ってください。
 それから、お店の名前も言うので、そこへ行って、買い物をします。
 途中、もしかしたらママがふっといなくなるかもしれないよ。
 もし、いなくなって10分以上帰ってこなかったら、自力で電車にのって帰りなさい。これ、帰りの切符のお金‥。

 それを聞いたときの泰くんの不安そうな顔。
 本当に、子どものこういう顔、かわいいのだけど、今回は心を鬼にして。これは修行なのよ。これしきの顔でママが過保護にするから何もできない子になっちゃうのよ~!



 電車の切符の買い方も教えました。たくさんの人が次々に切符を買って通り過ぎていく自販機の前で、不安げに立ちすくんで路線図を見上げる泰くん。いつまでも動かない。見ているこっちは、限りなく、不安。
 自分で情報を取りに行くことを知らない。教えてもらうばかりで、どこから情報をとっていいかもわからない子ども。本当に、これは危険なのです。

 10分くらいかけて、ようやくわが町の名前を探し当て、行き先を見つけるものの、値段がどこにあるかわからないらしい。想像力も、欠如している。はあ‥。

 もっと、小さい時から訓練するべきだったのよね。自然に、身につくように。やってみたいと思えるように。
 子どもを育てていると、自分でやったほうが100倍早いからと、ついつい自分でやってしまい、子どもに何もさせないできてしまうことが多々ある。これも、それだ。たくさんの人が使うし、並ぶし、もたもたしてたら迷惑だから‥。人のせいにして、子どもに生活力をつけさせることをしなかった。いま、9歳にもなって何もできないわが子を眺めて、大反省。まだ、間に合うわ。だから今、こうやって訓練してるのよ。18になるまで切符の買い方を知らないですむなんて、そんな身分じゃないのだから。うちは。



 結局、あまりに時間が経過してしまうので一度は教えて、ようやく改札の中へ。次は、乗る電車の選択と、ホームの選択。
 これも大変。さりげなくそっちにむくようにまた誘導し、なんとかホームへ。

 乗り込むと、次は降りる駅の名前をつげ、何番目か路線図を見て探させる。
 しかし、このあたりまでくると、泰も初めて体験の刺激が面白くなってきたのか、少し顔が明るくなって、「そうか、こうなってるのか」「あ、○○て言ってる」などと、目や耳をフルに使って情報をとりはじめた。
 そう、発見は楽しいのだ。

 目的地の駅についたら、次はお店へ。有名な店だから、駅にはどの方向に出るか書いてある。誘導にしたがって、デパートに到着。

 ふう、ここまではよかった。
 そこでトイレに行く。本当に行きたかったのだけど、ママが出てきたら泰が超不安そうな顔で、女子トイレの前にはりついていた。
 「ママがいなくなっちゃうかと思って、僕、見張ってた」

 という。かわいい~。‥いやいや、ここでまたぐっと心を引き締めて。
 ここではとりあえず、退職日に配るお菓子を購入。用事をさっさと済ませたら、帰宅の途につくのだが。
 たまたま、颯ちゃんの七五三のときに来た神社が近くにあるのを思い出し、ちょっと歩いてそっちの方向に出て、泰にその神社を見せて聞いてみた。
「あれ、七五三できた神社だけどなんてところかわかる?」
 わからない、というので、じゃ、名前みてきて。といったら何も考えずにぱっと走り出した。後ろも見ずにどんどん道を走っていく。人ごみに、紛れ、見えなくなる。

 そこで、とおりの反対側に渡って様子をみていた。
 数分後、泰が走って帰ってくる。あれ、ママがいない‥。不安そうに走り回る。
 そのときは、本当にいなくなる気がなかったので、しばらくして出て行ったら、泰がほっとした顔をした。
 しかし、聞いてみると「名前、わからなかった」というので、「なんだそりゃ、一度来たところなんだからしっかり見てきて」というと、また走り出す。
 また、後ろもみずに。疑いもせず。
 その素直でおばかさんで、すぐにだまされちゃうかわいいわが子の後姿をみて、切なく、またいとおしく感じながら、そっと、そばにあった遊歩道の階段を上った。さっき二人がいたところの真上で、その場所が見下ろせるところ。ちょっと上をみたらすぐ見つかるところ。

 しばらくして、泰が帰ってきた。ママが、またいない。
 うろうろ、探し回る。不安げな顔。実験台のマウスみたいに、おろおろと無駄に走り回ってる。少しも、あたりを見回して上をみようとか思わないらしい。
 ママが、すぐそばで見下ろしているのに、気づかず、5分ほど探し回った後、座り込む。
 泣いているようだ。

 今すぐにも出て行きたい。こっちも泣きたいと思った。でも、これは試練なのだ。ここで出たらまたもとの木阿弥だよ。でも、なんでこんなことしてるんだろう? 悲しくなる。

 8分後、泰が立ち上がる。もう一度探し回って、下をむき、思い立ったようにこっちに向かって走り出した。階段は上らず、遊歩道の下を走っていく。駅のほうに行くようだ。

 そりゃ、大変! あわててママも上からおいかける。遊歩道は駅まで、地上の道路と2階部分と平行して敷設されているので、このままいけばすぐ駅だ。2階の改札でつかまるよう、上り口が見える位置にたって待った。このあたりまでくると、もう下が全然見えないので、泰を完全に見失ってしまった。すごい不安。

 しかし、3分たっても4分たっても泰が現れない。ものすごい不安が膨らみ始める。どうしよう、本当にいなくなったら! パパ、どうしよう! 電話も持ってない。誰かに聞いたりできる能があるだろうか、ママの電話は覚えているけど、電話してこれるだろうか。
 不安で、死にそう。

 こっちが今度は走り回って泰を探し始めた。駅の上下、入り口、下の遊歩道をたどった。
 いない。どこにも見当たらない。

 ああ、ほんとうにはぐれてしまった!!!

 ものすごい後悔がわいてでてくる。本当に、泰が大事な子なんだと涙が出そうになる。

 もう、電車に乗ったのかもしれない。わかれてとっくに10分以上はたっている。戻ってる?
 どうする? 戻るか?

 ‥‥。もう一度、さっき別れた場所に戻って、いなかったら帰ったのだと思って私も電車にのろう、そう思ってうえから探しながら元の場所に戻ってみた。

 すると、いた!!!
 さっき別れた場所の、木の下に途方にくれたように、疲れきった様子で泰が座り込んでいた。ぼんやりと、行きかう人をみている。頬は、涙でぬれているようだ。

 ママが近づこうと急いで歩いていると、泰が突然立ち上がった。かばんをひっつかみ、こっちへ向かって走ってくる。そこで、ママも正面にくるように歩いていった。

 泰は走ってくる。あれ、気づかないのか?
 ママがこっちにいると思わなかったようで、あやうくすれ違っちゃうところだった。

 ようやく、ママにあえた泰、何もいわずにすっとママに抱きついてきた。
 本当に、まだまだ泰はチビちゃんなんだ。9歳なんてでかいようで、まだまだお子ちゃま。
 ママも泣きそうだった。あえてよかった。いなくならなくてよかった。
 練習で、本当は帰りは一人で帰らせる予定だったけど、やっぱりできないや。

 もうママがいなくならないよう、泰がしっかりとママの手を握り、ママももういなくならないよ、といいながら駅へ二人で向かいました。

 聞けば、最後に走り出したときはさすがの泰ももうママが帰っちゃったんだと思い、駅に向かうところだったらしい。
 それでは、と帰りは泰くんにつれて帰ってもらうよ、と言ったのだが。

 やはり‥。あやうく、反対方向にいっちゃうところでした。本当なら付き合って終点まで乗るべきだったのかもしれないけど、さすがに時間がなかったので、そこは勘弁(^^;)

 いい修行になりました。
 ママにもね。泰くんとより絆が深まった気がします。やっぱり、こんな小さな試練でもやってみるもの。この、お互いの怖さを克服してこそ、また絆が深まるのかな、なんて思ったりして。

 また、やろうね、と言ったら目をそらした泰くんでした。
 そして





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Last updated  2012.03.20 03:34:18


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