<Windows 7の立ち上がりは好調>
新聞によればマイクロソフトがこの10月に投入したパソコン用基幹ソフト(以下OS)のWindows 7の立ち上がりはかなり好調のようです。どの程度好調かといえば「以前に売り出した他のOS(Windows Vista(以下Vista)は当然のこととしても、Windows XP(以下XP)なども含む)と比較して2倍のペースで売れている」ということのようです。
Windows 7は当然のことながらVistaの後継です。Vistaが鳴り物入りで2007年1月30日にリテール版が登場した割には、リリース直後にバグが出たり、 動作するアプリケーションが限られたりと芳しくなく、またそもそも厳しくしたセキュリティー機能のおかげで不評な割には、求められるハード・ウェア・ス ペックが高いなどの理由から普及促進に当初から赤信号が灯り、普及が進まなかったOSの後継ということになります。Vista登場からわずか3年足らずで 次世代が投入されたことになります。
事実、周りを見回してみて、法人でVistaを使っている企業は少ないままであり、多くの企業の主力OSはXPというのが実情でしょう。小ネタに なりますが、デジタル・ネイティブを地でいくような中学3年生の愚息も「Vistaは最低、周りのお友達も皆XPの方が好きだよ」とのことで、折角発売当 初からVista搭載のPCを作ってあげたにもかかわらず、感謝するどころかブツブツとずっと文句を言っています。その大きな理由はフリーソフトの互換性 問題に起因するからなのですが、すなわち、それだけ法人でも個人でもVistaの普及は遅れていたということになります。
だからこそ、今回のWindows 7は立ち上がりが好調であるともいえます。XPから見れば、リリース(2001年11月16日)後、なんと8年ぶりの大更改ということになり、流石にハー ドウェアのスペック的にも、かなり厳しい時期に重なったという面もあります。普通の家電品でさえ、8年間も使えば…。
<パソコンを買い替えるか? アップ・グレードするか?>
Windows 7を利用できるようにする方策としては二つあります。一番簡単なのは、Windows 7を搭載したパソコンを買ってくるなり、私のように組み立ててしまえば良いのですが、マイクロソフトは既存パソコンのOSの「アップ・グレード」という方 法も推奨しています。ただ前述のように、Windows 7はVistaの後継OSであり、Windows開発チームからもWindows 7はVistaを基に改良したカーネルが使用されていると発表されているのでVistaユーザーにはアップ・グレードも可能かもしれませんが、大多数の XPユーザーにとっては、ハードウェアのスペック的に相当ハードルは高いものになると思われます。そもそもOSのアップ・グレードというのは簡単なようで いろんな設定が変わってトラブルの原因にもなりますから、普通はあまりしたくないですよね。だからこそ、パソコン自体のリプレイス需要があります。
<Windows 7、確かに早くなった気がします>
前回記したとおり、私の場合はパソコンを組み替えました。MPU(Core 2 Duo⇒Core i7)はもとより、マザーボードもハード・ディスク・ドライブ(以下HDD)も取り換えましたし、メモリーも載せ替えましたので、OSを換えたことによる だけの効用なのか特定できませんが、少なくともVistaマシンの時よりは総てにわたって軽く、早くなった気がします。
HDDに関しては、今までシーゲートの320GBのHDDの4台でRAID5を組んでいたのですが、容量1.5TBのHDDが1万円以下で買える 時代にそれもナンセンスと考え、バックアップはNASに従来通りにすることにして、パソコンのメインHDDは1台にしました。ただデータ移行を容易にする ためもあり、サブとして500GBのHITACHI製HDDは一緒に組み込んであります。メモリーは従来3GB載せていましたが、マザーボード交換に伴い DDR2からDDR3に移行、値段も安いこともあり4GBにしました。グラフィック・ボードはファン・レス(ファンが付いていないので静かです)であるこ とが気に入っているので、引き続きNVIDIA GeForce 7600 GSを使っています。
<32bitから64bitへ>
メモリーを4GB載せた、というところで気がつかれた方もいるかもしれませんが、今回のWindows 7ではついに64bitに移行してみました。Vistaの時にも64bit化については散々悩んだのですが、当時は64bit仕様にすると使えなくなるア プリケーションやデバイスがたくさんあるとのことで見送り、今回はその問題はクリアしてきたということなので初トライです。
64bit化の最大のメリットと言われているのは、使用できるメモリー搭載容量が増える点です。32ビット版では理論的には4GBまで、実際には 最大3GB前後までしかメモリーを利用出来ませんので、これだけDRAM価格が安くなってきたとはいえ、3GB以上に増設することは意味がありません。こ れに対して、64ビット版では128GB(最大容量はエディションによって異なる)まで認識して利用することができます。
メモリーの搭載容量を増やすと何が良いかといえば、基本的にはたくさんのアプリケーションを同時に立ち上げて、複数の処理を一緒にする時のストレ スが軽減されます。たとえばiPod用の動画変換などを裏側でしながら、レポートを書いたり、講演会資料を作ったりするような機会が多い身としては、とて も助かるものです。ハンディカムが5,6万円で買えるようになった現在、特にダウンロードを積極的にするような世代でなくても、動画をちょっとだけ編集し たり、iPod用に変化したりするニーズは高まっているように思います。DRAM価格の低下を享受できる環境がここでも整ってきました。
<起動時間はそんなに早くならなかった>
前段とは矛盾する話に聞えるかも知れませんが、立ち上げてから操作する段階での体感は軽く、早くなったような気が確かにしますが、パソコンのス イッチを入れてからの起動時間は「なるほど!」と膝を叩くほどにはVistaに比べて早くなったとは思えません。たぶんこれは普通にHDDを起動ディスク のCドライブとして利用しているからで、逆にいえば、HDDというハードウェアの物理的限界なのかも知れないと思っています。
なぜなら同時によく感じるのが、HDDへの読み書き、取り分け書き込み時間が最もボトルネックになっているように思うことがしばしばあるからで す。今回の取り換えたマザーボードに採用されているチップセットはインテル製のP55と呼ばれるもので、以前ご紹介したようなノースブリッジとサウスブ リッジという2チップ体制の物ではなく、従来で言うならばサウスブリッジと呼ばれる方しかありません。MPUとメモリーとの接続などを司っていたノースブ リッジは、MPU側に吸収され、より高速化を果たしました。逆にみると、HDDだけが取り残されたともいえます。
ひとつの解決策として始まっている流れが、起動ディスクとなるCドライブをHDDではなく、フラッシュ・メモリーを利用したFlash SSD (フラッシュエスエスディー、Flash Solid State Drive、Flash Solid State Disk)と呼ばれる半導体のものにしてしまうというやり方です。ノート・パソコンなどで、消費電力や耐衝撃性、或いは省スペースなどに配慮してSSDを 使う流れはすでに始まっていますが、デスクトップ・パソコンの世界でも起動時間を早めるためというニーズでこの流れが始まっています。現在64GB程度の SSDを2万円弱で買うことができますが、半導体の新しいニーズとしては充分に期待できるものと言えます。
<ニーズをまとめると…>
冒頭引用したマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOの言を借りるまでもなく、現状知りうる限りにおいてはWindows 7の立ち上がりは好調であり、パソコン全体のリプレイス需要も株式市場がナーバスになって危惧する以上には確かなものがあるように思われます。その背景を ひとことで言うならば、ハードウェアの技術進化は日進月歩であるにもかかわらず、OSの世代交代がVistaで失敗したがゆえに、8年間もの長きに亘り、 先々代のXP搭載パソコンが延命されてきたということです。
そして、今般のWindows 7から64bit化が進みそうであり、これにより自ずとメモリーの搭載容量は増える環境が整ったということです。またチップセットなどMPU周りの技術進 化がHDDの性能の遅れを浮き彫りにし、HDDかフラッシュ・メモリーかという二者択一的な議論ではなく、起動ディスクはSSDでデータ・ストレージは HDDという棲み分けが始まりそうだということです。故に、世界の主要半導体メーカー65社が加盟する世界半導体市場統計(WSTS)が発表した2011 年の世界半導体出荷額の予想は、過去最高だった2007年を上回り、過去最高になる見通しだというような流れができつつあるということです。
今回の視点は、今注目の「クラウド・コンピューティング」というような流れとは全く切り離して考えてみました。あくまでもWindows 7が登場し、それに合わせて新規にパソコンを組み換えた上でのファンドマネジャーとしての目線だけで考えてみました。すなわち、もう一歩踏み込んで「クラ ウド・コンピューティング」と組み合わせれば、もっと面白い話が拡がるということです。やはり注目はこの辺の世界にありそうだと思う今日この頃です。
==========================================================
CEO兼最高運用責任者 大島和隆
(楽天マネーニュース[株・投資]第63号 2009年11月27日発行より) ==========================================================