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May 21, 2006
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カテゴリ: 美術
fujitafujita

挿絵画家に、 ピカソ ダリ といった当時(いや、今でも)一流の画家達を起用した、とんでもない聖書があると聞いたことがあります。
この超有名な画家達に交じって、「フジタ」という、どうも日本人らしい人物がいるのを知ったのが、「フジタ」の名前を覚えたきっかけでした。
(今回拙稿を書くにあたって調べたのですが、『ヨハネ黙示録展』のことなのかしら…見つけられませんでした。)

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しかし、美術展に行っても、ピカソやダリに出会うことはあれど、フジタの作品を観る事は稀で、かといって、作品集を買うほどの情熱はなく、なんとなくイメージの掴み所のない作家だなぁ、と。

今回の展覧会で、ようやくちゃんと作品を見る機会を得、その作品の多様性とエネルギー、そしてその生き様に圧倒されました。

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学生時代は 黒田清輝 先生についたものの、肌が合わなかったようです。

教科書通りに上手な絵。
彼は最初からパリ行きを熱望していたそうです。

そして、念願のパリの自由な雰囲気と、ハイレベルな友との切磋琢磨がフジタの才能を開花させるのです。

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裸婦 のシリーズ。

どこまでも深い乳白色の女性の肌。
それを引き立たせる繊細な墨の描線。

赤瀬川原平 さんが、 雪舟 の『 慧可断臂図

ずっと見ていて飽きない白。

抜けるような、違うな、陶磁器のような、いや、艶かしい(なまめかしい)、ともちょっと違って、官能的というよりは、息づいているような白。
思わず、花の色で例えたくなるような、活きている白。

それに息吹を与える繊細な黒の描線は、墨と面相筆という和画材によるものでした。

圧到的なオリジナリティ。



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フジタといえば 、でもあります。
裸婦と並んで、あるいは自画像の影に、そして時には主役も演じる、小生意意な猫達。

猫の本



あわせて動物絵画も。
擬人化された、キツネや猫たち。
彼ら彼女らは動物絵画の延長線上に、普通に存在します。
単に可愛い存在とは見ていない、フジタのニヒルな視点が透けて見えるようです。

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さて、今回の目玉の一つは、彼の運命を変えたとも言える、 戦争画 の出品。

「戦争画」の責任を一手に背負い、「日本画壇」と決別したことが、「戦後」において、彼の「評価」を下げた理由となりました。
(才能に対する嫉妬や、自己責任の回避と押し付けなど、ドロッとした「画壇」-自分も含めた日本人、いや人間の精神構造の貧しさにゾッとしますが。)

それにしても、とんでもない戦争画です。

それまでの作風と打って変わり、巨大で緻密、沈んだ色調の画面の中に折り重なる群像。

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『戦友』という軍歌があります。
これが「軍歌」とされていながら、とんでもなく反戦的なのですよ。

銃弾に倒れた友に、軍律を無視して駆け寄る私。
友はお国のために遅れてくれるな、と涙を流します。
戦いすんで日が暮れて、生きていてくれと思いながら友を探す私。

戦争の虚しさを、赤い夕日と広大な大地を背景に描いていて、よくもまぁ、検閲とか通ったなぁ、と思うのですが…。
フジタの作品も同じ「際どさ」を感じます。

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例えば、『 神兵の救出至る 』という作品。
荒らされた豪邸に、猿轡の黒人メイド。
そこに銃を持って現れる日本兵。
いや、このキャプションがなければ、どう見えるのだろうと。

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これが戦争協力画? 戦意高揚?

私にはそう見えません。
戦争という理不尽に対する怒りと哀しみ、虚しさと皮肉を私は感じます。
それは私にとって都合の良い見方なのかもしれません。
しかし、少なくとも、今の時代の文脈にこれらの作品を置いた時、勇壮さより、悲壮さが溢れる作品になっていることは事実だと思うのです。

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戦後、フジタは再びパリに渡り、フランス国籍を取得、キリスト教徒の洗礼を受けます。

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晩年に描かれた「子供たち」について。

同じ顔に描かれる空想の子供たちを見て、一瞬、 奈良美智 先生を思い浮かべたのですが、いや、違うな、と。

どこかで見たことがある、と思って、私の中で浮かんだ名前は、 ヘンリー・ダーガー でした。

どこが似ているのか、と聞かれると困るのですけど、テクニックとか、モチーフとか、そんなのではもちろんなくて、うーん、恐らくは色遣いの関係で、裸婦とか動物とかの作品に見られる「屈託のなさ」みたいなものが、子供を描いたシリーズには欠けているのですね。
その「屈託のなさ」の代わりに、空間に忍び込んでいる「何か」が ヘンリー・ダーガー の持っている「何か」と似ている気がするのです。

平たく言って、実は、私には、ちょっと怖い。
その怖さの質が似ている気がします。

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最後は 宗教画

ヨハネ黙示録を描いた『 黙示録 』3品は、静謐な狂気を宿す地獄絵図、といった趣き。

悪夢のような情景は中段より下に描かれ、凄惨なイメージは重く沈みこみ、天の世界の軽やかさが引き立てられてます。
全体の色調は優しく、不快な感じはしません。

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私が大学を卒業する時、当時の総長 蓮實重彦 先生はこう言われました。
「こちらから微笑みかけないと、世界は微笑みかけてくれない。」

日本から飛び出し、世界を舞台に名作を生み出していったフジタ。
その作品のオリジナリティの高さもさることながら、世界に微笑みかけられた彼の生き様には、見習うべきものがたくさんあります。

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『藤田嗣治展』

東京国立近代美術館

[会期]2006.03/28(火)~05/21(日)

作者:藤田嗣治(Leonard Foujita;1886-1968)

★★★★☆

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5/30(火)~7/23(日)
京都国立近代美術館 にて開催中です♪





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Last updated  June 5, 2006 11:23:27 PM
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RonaldBus@ Transforming your landscape with gorgeous blue stone slabs. Understanding the Benefits of Choosing …
mrtk@jp @ Re[1]:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) >そらねこさん コメントありがとうござ…
そらねこ@ Re:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) はじめまして。本の題名につられてお邪魔…
浅葱斑@ 心のハレっていいですよね? こんにちは。 誕生日の暦から今の自分、未…
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