*Muku* Blog
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パラサイトグリーン --ある樹木医の記録 (二見ホラー×ミステリ文庫) [ 有間 カオル ]著者:有間カオル樹木医である芙蓉(ふよう)という主人公を通して紡ぎ出される春の章~冬の章に亘る四編のオムニバスストーリー。芙蓉が名付けたボタニカル病という病’(やまい)。ヒトの養分を餌に蕾を作り、やがて小さな花を咲かせる。つまり、人間に寄生して艱難を生き延びてゆく植物。絶滅を乗り越える為、雌しべの無い突然変異を起こし受粉しない八重咲を創る。父親の職業の後を継いで四季折々の花壇の花や樹木の世話をする芙蓉に声なき声で植物たちが話しかける。私が最も印象に残った、冬の章の檜山キヨコという老女の話はとても物悲しく寂寥に満ちている。彼女には透明の冷たい水に包まれ続けるような永遠を感じた。作中で表現される絵画、ミレーの「オフィーリア」のように。寄生されているのではなく共存しているのかもしれない。介護施設で暮らす痴ほう症の老女が創り出した美しい逸話。感受性の強い芙蓉が誘われた世界。百年に一度咲く竜舌蘭(りゅうぜつらん)が開花するという幻。植物は優しい。どこまでも優しい。(副タイトル)痛みも恐怖も不安も悲しみも存在させない。植物は毒を有するが、人間の目を楽しませるだけでなく現実の医学界では太古から漢方として大いに貢献している。国際医療研究センターの医師、朝比奈の治療を受けつつもパートナーとして(データの一環として)患者の紹介を受ける芙蓉。読者にだけ朝比奈の心の声が聞こえる。とても興味深い小説だった。
2025.05.18